コロナ時代のUXとは? PARCO×ナディアに学ぶこれからのUX
新型コロナウイルスの影響により、企業と顧客との関係が大きく変化しつつある中で、企業は次のエクスペリエンスデザインをどう描くべきなのか? SHIFT主催のオンラインセミナーでは、UXへの取り組みが豊富な有識者を招き、コロナ時代のUXについてディスカッションが行われた。
登壇者は、PARCOをはじめとするショッピングセンターや小売企業のデジタルマーケティングを推進している唐笠氏と、ナディアでさまざまなクリエイティブ、コンテンツ制作を手がけている弓庭氏と小川氏。司会はSHIFTの黒田氏が務めた。
IT投資は、前年比15.8%増
アフターデジタルという言葉に象徴されるように、多くの消費者はオンラインとオフラインの境界線なく生活をしている。特にコロナ禍において多くの企業でデジタル活用は、最重要事項になっている。
それを裏付ける※データとして、上場企業と資本金1億円以上の有力企業948社を対象に行った日本経済新聞社の調査で、IT投資額は前年比15.8%に増加の見通しで、DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資は衰えを知らない状況だ。
※2020年8月10日 日本経済新聞朝刊 より
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO6248270Z00C20A8MM8000/
しかし、問題となるのは「投資対効果はどうか?」の一点に尽きるのではないだろうか。
当たり前だが、投資をしただけでは価値は生まれない。デジタル投資をするだけでなく、お客様に利用してもらうために、「どんなUI(ユーザーインターフェース)、どんなUX(ユーザー体験)を提供するべきか」を真剣に考える必要がある。
手応えのあった事例:アプリ「PARCO WALKING COIN」で、お客様に楽しんでもらう
登壇者したPARCOをはじめとするショッピングセンターや小売企業のデジタルマーケティングを担当する唐笠氏は、まず手応えのあった事例として、PARCOの公式アプリ「POCKET PARCO」内にある「PARCO WALKING COIN」の機能について説明した。
これはPARCO館内でアプリを起動、チェックインした後、500歩を達成するとコインが獲得できるという仕組みだ。この機能の参加者は非常に多く、顧客目線の取り組みとして成功を収めている。重要なのは「楽しんでもらうこと」と唐笠氏は述べた。
500歩で500コイン獲得できるという仕組みで、インセンティブとしては、そんなに大きなものではありません。「達成する」だったり「収集する」だったり……クエストクリアのような感覚を、アプリ内に盛り込むことで、お客様がアプリを使いたくなる。そんなUXをしっかりとアプリの設計段階から組み込むことが大事だと思います(唐笠氏)
唐笠氏にとって、この機能は「お客様にショップやサービス、商品に思いがけず出会っていただく機会を増やすことが、デベロッパーとしての役割である」ということを再認識するきっかけになったという。
学びのあった事例:触って動くタッチパネル式? 触れても動かないディスプレイ? UIって難しい…
次に唐笠氏が事例として挙げたのは、名古屋店のレストランフロアにおいたデジタルサイネージ(案内版)だ。次の画像をみて、「タッチパネル式のディスプレイ」か「触っても動かないデジタルサイネージ」か、どちらかお分かりになるだろうか?
答えとしては、後者の「触っても動かないデジタルサイネージ」である。時間ごとにメニューやレストランの情報を表示したり、動画が流れたりといった動きはあっても、これ自体は触れるものではない。ただ筐体の形状やデザインを含め、思わず勘違いした人もたくさんおり、指紋の跡が絶えなかったという。このデジタルサイネージの施策について、唐笠氏は以下のように語った。
ゆくゆくはタッチパネル式に置き換える可能性もあります。UI体験の設計はやはり難しい。店舗に置いてみて初めてわかることがあったり、お客様も実際に体験してみて慣れていったりする部分があると思います。また、触ってほしいタッチパネル式のサイネージを、壁に大きく置いてみても、意外と触ってくれないこともある。どこに何をどんな風に設置するか、ブラッシュアップをしていく必要があると思います(唐笠氏)
これに対し、司会の黒田氏が時代や顧客に合わせたUIについて触れた。
ユーザーもラーニングしているということですよね。新しいものにどんどん慣れていって、「こういうものであればこうやって使うんだろう」みたいな想像が、コンテキストとして出てくる。だから、提供する側としても、時代の流れやお客様の感じ方に合わせたUIを出していかないといけませんね(黒田氏)
デジタル活用浸透には地道な努力が欠かせない
最後に唐笠氏は、デジタル活用浸透に欠かせない、テナントに知ってもらうための活動について言及した。
ショッピングセンターからすると、実際に店舗に来店し、購入してくれるお客様はもちろん、出店してくれるテナントも顧客にあたる。アプリ・Web・ECなどのプラットフォームを用意して、販売活動やリテール活動を後押しするにあたって、PARCOでは何度も講習会を開いたという。
2012年~2016年頃に特に頻繁に講習会を開催し、店長・副店長・一般のスタッフとさまざまなテナントスタッフに参加してもらった。読まれるブログ記事の書き方や、SEOのテクニック、写真の撮り方や加工の仕方、ブログと連携したECのやり方など、きちんとカリキュラムを組んでレクチャーした。そういった地道な活動が功を奏し、テナントスタッフがデジタルをうまく活用する流れに繋がっていった、と唐笠氏は述べた。
UXより見た目や機能優先のオーダーがきたら? ナディアの考えるUX
次に、Web制作などクリエイティブ面から多くの企業のデジタル化を支援するナディアの小川氏と弓庭氏に対し、司会の黒田氏は「UXより見た目や機能優先のオーダーがきたらどうする?」という質問を投げかけた。
これに対し小川氏は、たとえば「WebARや3Dで商品を見せたい」といった最新技術を取り入れていきたいという要望を受けることはあるが、「なぜWebARや3Dを使うのか、その技術を使うことが本当に目的達成につながるのか、という部分が明確になっていないことは多い」と指摘する。
前述のとおり投資対効果を念頭に置いて、デジタル投資するのであれば、「誰の、どんな課題を解決するのか」を組織内で共有し、カスタマージャーニーなどを設計した上で、最適な手法を選択することが大切(弓庭氏)
重要なのは、依頼されたものが顧客にとっての本質的な課題解決に繋がっているのかという視点だ。
その点PARCOは、アプリ・PARCO CUBE・サイネージなど、色んなことに手を出しているように見えて、ブランドの持っている目的と取り組みがフィットしていると小川氏は言う。
イタリア語で公園を意味するPARCO。その名前からもわかるように、PARCOはさまざまなエンタテイメントやデジタル上のサービスを提供しているが、本来の軸である「人々が集い、時間と空間を共有し、楽しんだりくつろいだりする場」というのはブレておらず、ブランドの軸とフィットしていますよね(小川氏)
顧客視点の組織とは?
最後に、今後デジタルが中心となっていく中で、顧客体験を高めていけるような組織形態について語られた。
さまざまな企業の支援をしてきたナディアの弓庭氏は、「部門間のつながりがスムーズで、プロジェクトの旗振り役が明確な企業は強い」と述べる。DXが迫られる中、マーケティングの方には「システム部門に聞いてください」と言われ、システム部門の方には「マーケティング部門に聞いてください」と言われ、たらい回しにされるようでは、スピード感のある変革は難しい。
そういったケースでは、各部門のコンセンサスをとるために、ナディアがワークショップを開くようなこともあるという。反対に、密なコミュニケーションがとれ、本質的な話ができる組織は、時代の変化についていけるだろう。
「実際に組織が変わってきていたり、顧客目線になってきていたりという感覚はありますか?」という黒田氏の質問に対しては、弓庭氏は「難しいところ」と答えている。
肌感としては、組織としてDXへの動きは見られるんですが、実際は各部署から集まってきた担当制になっているので、みんなで一つの方向を向き切れているかというと、まだそうではないような気がしますね(弓庭氏)
一方、このコロナがOMOやDXを加速させていることは間違いないと唐笠氏は述べる。
たとえばDtoCのようなビジネスの形だと、店舗がないというイメージが強いが、実際にはポップアップストアが置かれることもある。店頭の役割が大きく変わり、「店舗で売り上げを作る」「店舗を増やすことで事業を拡大していく」といった考え方が古いものとなっていく。そういう意味では顧客視点になってきているのではないか、と唐笠氏は指摘する。
コロナ後の世界において、デジタルはより一層重要性を増している。ブランドとしての一貫性を持ちながら、消費者の変化についていくスピード感が、顧客視点を実現するカギになるのではないだろうか。
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