アフターコロナの世界を生き抜く。アフターデジタルとニューノーマルにおける組織変革

めぐるましく変わり続けるコロナ後の世界。これからの企業が生き残っていくために、ブランドと顧客はどのような関係を築くべきか。目指すべき組織のあり方とは、どういったものなのだろうか。アドビ主催の「EXPERIENCE MAKERS LIVE」セミナーレポート
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めぐるましく変わり続けるコロナ後の世界。これからの企業が生き残っていくために、ブランドと顧客はどのような関係を築くべきか。目指すべき組織のあり方とは、どういったものなのだろうか。

アドビ主催のオンラインカンファレンス「EXPERIENCE MAKERS LIVE」そのなかから、アドビの石井龍夫氏と『アフターデジタル』著者のビービットの藤井保文氏が登壇した基調講演の様子をお届けする。

アドビ株式会社エグゼクティブフェロー 石井龍夫氏(左)と株式会社ビービットエクスペリエンスデザイナー 藤井保文氏(右)

これからの日本企業、危機とチャンス

初めに石井氏は、テレビの広告費をデジタルが追い抜いたことを取り上げた。2019年度の電通の発表によると、日本の広告費の30.3%をデジタル広告費が占めている。

2019年度 日本の広告費(電通発表)

しかしここには、日本企業における「二つの大きな危機」が潜んでいると石井氏は指摘する。

一番目の危機:プラットフォーマーへのデータ集中

  • 圧倒的な顧客視点でデータを収集・活用するプラットフォーマー
  • データ活用の透明性と利用の制限
  • パーソナルデータの取得、利用のコントロール

プラットフォーマーと呼ばれる企業群は、検索、地図、ソーシャルメディアなど、さまざまな形で顧客との接点を図っている。しかしそこから得た行動データが、広告主に対し全て提供されているわけではない。

「ウォールドガーデン」という言葉があるように、データを囲い込んで「自分たちの事業に有利に働くように活用しているのではないか」という懸念も存在しています。個人情報保護の問題を考えても、私たちがサードパーティーデータに頼ってお客様を理解することに、一抹の不安があるような状況です(石井)

一方で、そこにはチャンスもある。

一番目のチャンス:オンライン化による顧客との新たな接点創出

長期的に顧客と関係作りを目指すオールウェイズ・オンの時代だからこそ、企業自身が自分たちで顧客とのさまざまな接点をつくっていくことにチャンスがあると石井氏は述べる。

そこで重要になってくるのが、「モーメント」である。

たとえば、昔ながらのマーケターに「紙おむつのターゲットは誰ですか」と聞くと、おそらく「赤ちゃんを持つ人(お父さん、お母さん)」と答えるでしょう。しかし、会社にいるときは一人のビジネスパーソンのモードであり、家に帰って、子どもと向き合ったときは親のモードになる。つまり、おむつのことを考えているのは、「親モード」になっているときです(石井氏)

行動データを捉えることによって、「顧客が今どのモーメントにあるのかということ」を理解し、最適なコミュニケーションを最適なタイミングで行うことができる。

サードパーティーに頼るのではなく、企業として必要なファーストパーティーデータを自分たちの手で作ることで、顧客とブランドとの顧客体験を最適化する。これこそが重要なチャンスであると石井氏は述べる。

二番目の危機:ポストコロナへの対応

  • 非接触エコノミーへの対応とOMOの実現
  • 部門毎の散発的DXと市場変化
  • 生活者の意識・行動変化とオールドのせめぎ合い

現在、顧客にとって、リアルな接点はなかなか享受しにくい状況である。石井氏は、「今までの『接触型エコノミー』に対して、『非接触エコノミー』に取り組まなければならない」と指摘する。

そこで大事なのが、OMOという言葉です。Online Merges with Offline、つまり、オフラインで提供している顧客体験と同レベルのものをオンラインでも提供できるようになっていかなくてはならないということ(石井氏)

日本企業の問題点は、部門ごとにデジタルトランスフォーメーションが行われていることであると石井氏は言う。企業としての全体的なデジタルトランスフォーメーション、あるいはそれ推進をするための執行体制ができあがっていないと、オンラインとオフラインに一貫した顧客体験を作り出すことは難しいということだ。

二番目のチャンス:ニューノーマルに対応した新たな価値を提案

オンラインとオフラインが切れ目なくシームレスにつながっていくような顧客体験を実現するためには、ごく一部ではなく、企業全体として進めるデジタルトランスフォーメーションが必要だ。それによって、提供できる価値をよりリッチに、より濃厚にしていくことが可能になると石井氏は述べている。

事業全体、会社の経営全体を、「デジタル」を軸に見直していかないと、企業は生き残れない(石井氏)

アフターデジタルとニューノーマル

続いて登壇した藤井氏は、昨年3月に発売されてから8.5万部を売り上げている『アフターデジタル オフラインのない世界に生き残る』の著者である。今年7月には、2冊目の著作となる『アフターデジタル2 UXと自由』も発売された。

アフターデジタルの世界観を捉える

まず前提となるのは、今がデジタル浸透社会であるということ。今までオフライン行動だったものがデジタルデータ化し、個人のIDに紐づいて、膨大な行動データが出てくる時代だ。そんな中で、「アフターデジタル」の社会認識こそが、企業の生き残りをかけた分水嶺になってくると藤井氏は述べている。

捉えるべきはアフターデジタルの世界観

従来の日本企業は、「リアルを軸足に置きながらデジタルを付加価値のように活用する」という考え方が主流であった。しかしニューノーマルにおいては、「デジタルがすべてを包含する」ような状況に変わっていく。

たとえばお客様との接し方においても、「いつもリアルで来店してくださるお客様がたまにアプリやウェブを使ってくれる」という形ではなくなる。これからは、「デジタルでお客さんと接していることが当たり前で、たまにリアルで来てくれる」となる。これがアフターデジタルの考え方です(藤井)

ビジネスにおいては「属性データ→行動データの時代」へ

行動データの時代、体験全体での価値提供へ

今までの「属性データの時代」には、属性ABCに商品ABCを割り当てるというような「属性ターゲティング」が行われていた。これは「モノを売る」ことをゴールにしている。

しかしこれからは、膨大な行動データによって個人個人のモーメントを把握することで、「最適なタイミング」に「最適なコンテンツ」を提供できるようになる。価値提供の仕方がもっと細かくなっていくだろう、と藤井氏は指摘する。

アフターデジタルに対応するということは、ユーザーのモーメントに合わせて、その人が抱えている課題や実現したいイメージといったものに対し、何かしらのソリューションを提供すること。そしてそのソリューションがなるべく高頻度に、ずっと寄り添うような形で提供されることであると言えます(藤井氏)

このように、今後企業競争の焦点は「ただ商品を売ること」ではなくなる。行動データが膨大に出てくる時代とは、企業競争の焦点が「製品販売型」から「体験提供型」に変わる時代であるとも言えるだろう。

エクスペリエンスがすべての先に立つ

しかし、ただ行動データを得ることだけに躍起になってはいけないと藤井氏は述べている。

エクスペリエンスがすべての先に立つ

たとえば、「アプリをダウンロードしたけど、あんまりよくなかったからもう使わない」と思われてしまったら、行動データは溜まらない。「体験がよい」とか「自分にベネフィットがある」といったインセンティブがあって初めて、人に使われるようになる。使われるようになるからこそ行動データが生まれ、それをエクスペリエンスに還元できるというループが生まれる。

藤井氏は、「データ取得や保持が先立つのではなく、目的はあくまで顧客と新たな関係を構築することである」と述べたうえで、デジタルトランスフォーメーション(DX)についてこうまとめている。

もちろん、得られたデータを活用するということももちろん後には生まれてくる。ただDXの目的として一番先立つことは、「お客様に新たなUXを提供すること」「お客様と新たな関係を構築すること」ということではないでしょうか(藤井氏)

特別対談 企業が直面する「見えない壁」をどう超えていくか

最後のセッションは、藤井氏と石井氏の対談形式で行われた。

冒頭、石井氏は昔と今のマーケティングの捉え方の違いについて指摘した。マーケティングとはもともと、「認知して最終購買に至る、マーケティングのゴールが購買である」という考え方が主流だった。しかし現在では、購買がゴールではなく、お客様とより長く関係を構築していくことが重視されている。

また、ビービット藤井氏は『アフターデジタル2』を上梓したばかりだ。2冊目の本を書いた背景には、二つの理由があった。

  • 変化の早い今の時代、常にアップデートが必要
  • 勘違いや落とし穴を持った人が多いので、それを自分の言葉できちんと補正したい

「アフターデジタル」という新しい視点が広まるのと同時に、データに対する人々の理解の浅さに気づいた、と藤井氏は述べる。「データとはどこでも共有できる万能なものだ」「アフターデジタルの世界は、ディストピア的な管理社会に行きつくんじゃないか」そういった誤解や勘違いを正すため筆を執ったというのが、大きな理由だ。

アフターデジタルで重要な視点は、データのエコサイクル

データで得られたものをプロダクトとUXに還元することが大事

顧客はデータをとられることを決して喜んでいるわけではない、と石井氏は指摘する。価値のある顧客体験があって初めて、顧客はその対価としてデータを差し出してくれる。

そこで重要なのは、ユーザーとの取引関係や信頼関係の構築だ。顧客からの信用として預かったデータを、いかにエクスペリエンスで返すか、プロダクトの良さで返すか。そのループがユーザーに対する誠意であり、より便利で質の高いサービスに繋がっていく。これはアフターデジタル世界において必要な視点である、と藤井氏は述べている。

サービスとデータの関係性

また石井氏は、「サービスは共創される価値である」と語った。お客様の「嬉しい、ありがとう」があるからこそ、サービスはサービスとして成立する。商品やサービスを一方的に押し付けるのではなく、顧客と共に価値を作っていくという共創の意識こそ、これからのDXにおいて必要な認識であると言える。

これからの時代、組織が変わっていくために

めぐるましく変わりゆくニューノーマルの時代。どの会社も事業全体を見直す必要に迫られ、組織の変革が声高に叫ばれている。それはすでに顧客にとって「オンラインとオフラインの境界線」がなくなっているためだ。

たとえばアレクサに、「冷蔵庫の中の牛乳の本数を数えて、いつもより足りなかったら買っといて」って言う。これはもはや、オンラインなのかオフラインなのか、デジタルなのかリアルなのか分からないし、逆にユーザーにとってはそんなことどうでもよかったりする(藤井氏)

企業構造ではどうしても、オンラインとオフラインを分けて考えがちだ。しかし、その変化に対応しなければ、企業が生き残る未来はない。

必要なのは、マーケティングの中にデジタルがすべて、きちんと入り込むこと。いわゆるマーケティングのデジタル化、デジタルを活用してマーケティングが革新しレベルアップしていくことが大事です。しかし残念ながら、大手の企業の中でなかなかこれが実現できない(石井氏)

実現の難しい組織変革を、一体どうやって乗り越えていくべきか。藤井氏は以下のように指摘する。

組織変革において、役員層や経営層など上層部の意識がなかなか変わっていっていないというケースはよくあると思います。ただこれは仕方がないことです。たとえば「中国ではこんなことが起きています」「日本の別の業界ではこんなことが起きています」と伝えたところで、「それは別の国じゃん、別業界じゃん」となってしまう。そこで一番強い武器となるのは、やっぱりクイックな成功事例だと思っています(藤井氏)

一つでも二つでもいいので、小さな成功を積み上げること。今回の話でいうと、ユーザー視点のエクスペリエンスをちゃんと作っていくような成功事例を成果として出して、有用性を証明すること。これが一番のキーポイントになる、と藤井氏は述べる。

加えて石井氏は、お客様が「接点ごとのブレ」を感じてしまうことの理由のひとつとして、「一貫した顧客体験を作っていくには、会社の縦割りでお客様の顧客体験を阻害してはいけない」と指摘する。つまり、営業部門が持っているデータと、マーケ部門が持っているデータとでは持っているデータの形態が違うということ、そのつなぎ合わせが上手くできていないということだ。

そのような中では、やはり現場の責任者のような方たちが、細路の壁を破ってデータを繋げていくことが必要です。共同しながら何らかの形で、小さくてもいいから成果を出していく。それをトップマネジメントに見せていくということが大事(石井氏)

組織変革には、「上から落とし込むこと」「下から成果を上げること」「横から対話すること」の全部が必要だと思っています。その中でも、「横から」のところが今のお話とつながるかなと思います(藤井氏)

横からの対話の際に非常に強い武器として、藤井氏は「ユーザーの声」を取り上げた。具体的には、可視化された行動データやヒアリングビデオなどを、他部門でも共有してみる。そうすると、「自分がユーザーだったらそんなものは使いたくない」ということで、全員が一斉に動くようになる。ユーザーに対して提供している価値を全員が横一列で理解することで、組織全体にスピード感が出るのだ。

最後に藤井氏は、「アフターデジタルにしろ、OMOにしろ、エクスペリエンスメーカーズにしろ、あらゆる言葉が同じ方向をむき出している」と語った。

今企業は、ユーザーにとっての価値や体験といったものを基軸に、すべてを作り直していこう、考え直していこうという転換点にある。大きな変化を恐れず、各企業が視点を合わせ、ニューノーマルを生き抜いていきたいとの前向きな思いで、藤井氏は対談を締めくくった。

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