もっとシニアを知るため、アンケートやユーザーテストを実施してみよう(全6回の6)
シニアのネット利用を把握する際、注意しないといけないのは、「バラつき」と「予想外の行動」が多いことです。そのため、さまざまな調査を行う必要があります。
本連載の最終回である今回は、シニアの実態を調査する代表的な手法として、
- アンケート
- 対面型ユーザーテスト
- リモートユーザーテスト
の3つをとりあげ、どの調査手法を使うべきか、どんな点に気を付けるべきかをご紹介します。調査においては「シニアならでは」の対応や考慮が必要とされる場面もありますので、ぜひ今後の参考にしてください。
アンケート――1万円程度から実施可能
アンケートは、もっとも基本的な調査です。
近年は、一般のインターネットユーザーにモニターとしてあらかじめ登録してもらい、属性に合わせてアンケートを配信し、ユーザー各自のパソコンやスマートフォンから質問に回答してもらう「ネットアンケート」が普及しています。
また、調査企画者自らがアンケート配信システムを直接操作する「セルフ型ネットアンケート」も一般化しました。10問×100人の調査が1万円程度で可能で、2~3日で回収も行えるため、非常に使い勝手がよいのが特徴です。
アンケートの大きな利点は、以下の2つです。
- ターゲットを含む、幅広いユーザーのサイト利用行動全体を俯瞰できる
- 問題点や改善ヒントについて、数値的な裏付けを取ることが可能
この2つの利点は、後述の「ユーザーテスト」が苦手とする部分でもあります。アンケートとユーザーテストの、両手法を組み合わせて用いることがお勧めです。
シニアのモニターは少なめだが回答率が高い
登録モニターの年代別比率を見ると、現在、多くのアンケート調査会社のモニター構成において、50代が全体の10%前後、60代が5%前後を占めています。
一見すると少ないように見えますが、シニアのアンケート回答率は若い世代と比べて非常に高い傾向があるため、通常の用途であればモニター不足に悩まされることはありません。
ITリテラシの偏りに注意する
総務省の「2014年・通信利用動向調査」によると、一般のインターネットユーザーのなかで「懸賞・アンケートサービス」を利用している人の割合は、50代で17%、60代で10%程度です。
ネットアンケートに回答するには、ある程度のITリテラシが求められますから、ネットアンケートの結果を用いる際には“ITリテラシの偏り”があることを認識しておく必要があります。
ちなみに、国勢調査などの公共系のアンケートでは、こうしたITリテラシの偏りが比較的少ない「留置き型アンケート」(調査員が自宅に訪問し、あとで回収に来る方式)で行われる場合も少なくありません。ただし、留置き型アンケートは、調査員を動員する分だけコストが高くなってしまうので、気軽なサイト評価には向かないでしょう。
回答と行動は、必ずしも一致しない
アンケートで得られる数値の力は非常に強いものですが、それをそのまま鵜呑みにしてしまうのは危険です。
書籍『無敵のマーケティング 最強の戦略』(ジャック・トラウト著、阪急コミュニケーションズ発行)では、アンケート質問への回答とその後の行動が一致しない象徴的な事例が次のように紹介されています。
何年か前、デュポンはスーパーの入り口で買い物客の女性5000人に、何を買うつもりかを聞く調査を委託した。
(中略)
スーパーの出口でおなじ女性に尋ねたところ、買うつもりだと言ったブランドのうち、実際に買ったのは10のうち3しかなかった。他の7つは別のブランドを買っていたのだ。
また、アンケートには“言語化の壁”と“記憶の壁”があるとも言われています。キーボード入力が苦手で記憶力が落ちているシニア世代を対象とするのであれば、やはりアンケートだけに頼るのではなく、次項の「ユーザーテスト」や「ヒアリング」などを併用することで、できるだけ“生の行動”を把握する意識を持ったほうがよいでしょう。
対面型ユーザーテスト――1人1万円程度、外注すれば5名で数十万円
「ユーザーテスト」は、“ユーザーに特定のタスクを与えてサイトを操作してもらい、分析者がその様子を観察することで問題点や改善のヒントを見出す”という手法です。
現在、ユーザーテストには大きく2つのやり方があります。そのうちの1つが、「対面型ユーザーテスト」です。対面型ユーザーテストでは、パソコンやカメラなどの機材を備えた会場を用意し、そこにユーザーに来てもらい、モデレーター(進行役)の案内によりテストを進めていきます。
「対面型ユーザーテスト」の最大の強みは、“生の行動”を直接把握できることです。
特にシニア世代を対象とした調査では、アンケートやアクセス解析では発見しにくい「できなかったこと」「困ったこと」がたくさん観察できます。
さらにヒアリングによる深掘りを組み合わせれば、原因となった理由や心理状況まであきらかにできるので、改善施策の精度向上につながるでしょう。
「誰を呼ぶか?」がとても重要
ユーザーテストを計画する際、「誰を呼ぶか?(リクルーティング)」はとても重要です。
前回記事「え? そうなの?! 意外と知らないシニアの情報行動――統計データで見えてくる5つの対策」で解説したように、シニア市場は「バラつき」が非常に大きいため、必ずしも、自分の身近にいるシニア世代がターゲットと近いとは限りません。
調査企画者とシニア世代との接点がほとんどない場合もあるでしょうから、できれば専門のリクルーティング会社を通して集めるほうがよいでしょう。ユーザーテスト用途であれば、1人1万円前後の予算があれば十分です。
またスクリーニング(事前アンケートによる対象者の選抜)を行う際には、より客観的な判断ができる質問をすることを心がけましょう。たとえば、
ゴルフに興味がありますか?
ではなく、
1年以内にゴルフに出かけたことがありますか?
と聞くほうが、主観が入り込む余地がなく、精度が上がります。
時間とスペースに余裕を持たせ、メガネも忘れずに!
シニア世代を対象とした対面型ユーザーテストを、実際の現場で円滑に進めるためには、いくつかのコツが必要です。主なものとしては、以下の3つです。
タイムテーブルに余裕を持たせておくこと
シニア世代の場合、ユーザーテストやヒアリングの途中で話が脱線してしまい、思わぬ時間をとられることがあります。また、一度操作につまずくと、そこから先に進まないというケースも多めです。
テストとテストの間は1時間ほど空けておくと安心でしょう。
調査会場以外の「待合いスペース」を確保しておくこと
テストの開始時刻から、極端に早く到着したり、遅く到着したりする人が出てきます。準備や片付けなどで調査会場に入れない場合に備えて、1部屋を余分に確保しておくことをお勧めします。
- 自分の老眼鏡を、かならず持ってきてもらうこと
シニア世代は、多くの人が老眼を患っています。自分に合ったメガネがないと、サイトの操作に思わぬ影響が出てしまいますので注意しておきましょう。
コストが高いので使いどころに注意
対面型ユーザーテストは、設計・実査・分析を自ら行う場合でも、基本費用以外に「リクルーティング費用」「謝礼」「会場および機材費用」が必要となります。調査会社にすべてを依頼した場合、5名のテストで数十万円程度かかるのが相場です。ですので、一定量のデータが必要な調査には向いていないとも言えます。
たくさんの人数が必要だったり、短期間に何度も実施する必要があったりする場合には、「アンケート」や「リモートユーザーテスト」も併用するとよいでしょう。
リモートユーザーテスト――1人数千円程度より、ただしモニター確保が課題か
もう1つのユーザーテストの手法が、「リモートユーザーテスト」です。これはあらかじめトレーニングを受けた登録モニターに、自宅でサイトを操作してもらい、その録画ファイルを回収する方法です。ここ2~3年で実施環境が整ってきたことで、かなり普及し始めています。
リモートユーザーテストは、1人数千円程度から実施可能で、会場や機材を用意する必要がなく、また経験豊富なモデレーター(進行役)も必要としないため、従来の対面型ユーザーテストに比べて手軽に実施できます。
費用対効果の高さから、最近ではそれほど予算規模が大きくないプロジェクトでも、リモートユーザーテストを実施するケースが増えてきました。
- 参考:やってみました! リモートユーザーテスト(Web担当者Forum記事)
登録モニターにシニアの数が少ない点に注意
リモートユーザーテストの登録モニターは、現時点では数百人~数千人程度とそれほど多くはありません。さらにこのモニター登録にあたっては、「パソコンやスマートフォンを操作する様子を録画してアップロードする」ことが可能なレベルのITリテラシが求められるため、どうしても50代以上の登録数が少ないのが現状です。
このため、
- スクリーニングの条件によっては適当な人が見つかりにくい点
- せっかく見つかったシニアモニターも、かなりの“IT通”である可能性が高い点
は、注意しておきたいところです。
複雑なテスト内容はミスする恐れがある
リモートユーザーテストは、基本的に自宅にて自分1人で操作を進めます。そのため、指示されているタスクや質問の意味を取り違えてしまっていても、だれも正してくれません。また、途中で何かアクシデントや不具合が起きたとしても、こちらから手を差し伸べてあげることもできません。
特にサイトの利用経験が少ないシニアは、ちょっとした表現の違いによってタスクや質問の内容がよく理解できないまま進めてしまうことが多々あります。
こうしたリスクを回避するためには、テスト実施人数を想定より1~2名多めに指定しておき、一部にミスがあっても分析に影響がないように設計するとよいでしょう。
連載6回の全まとめ
シニアは十分“配慮”すべき対象だが、“特化”するものではない
本連載では、「最近シニア世代からの受注や問い合わせが増えているけれど、そこまで急ぎではないし、具体的に何から対策をしてよいのやら……」という悩みを抱えたWeb担当者を想定し、全6回にわたって「SFO=Senior Friendly Optimization」という視点について解説してきました。
個人的な考えとしては、現時点ではシニアは十分“配慮”すべき対象ではありますが、“特化”するものではありません。
「サイトのシニア対策」と聞くと、「退屈でおもしろくないデザインになってしまうのでは?」と心配する人も多いのではないかと思います。しかし、この連載でご紹介した具体的な施策や調査手法を振り返ってみると、若い人との間で利害の相反する部分はごくわずかで、むしろどの年代に対しても効果が期待できるものばかりと感じられたのではないでしょうか?
これを機に意識を改めてほしいのは、シニアは何も遠い存在ではなく、あくまで自分たちの延長線上にあるということです。相手のことを理解し適切な対策を立てるというアプローチは何も変わりません。
本連載が皆さんの「シニア“も”使える」サイト制作の一助となれば幸いです。
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