コンテンツマーケティングでWeb予約を10倍にした矯正歯科のサイト運営ノウハウを公開
競合が多い東京駅界隈。ドクター1名でやっている矯正歯科が医院の強みを活かしたコンテンツマーケティングを行った結果、1年半でPV数30倍、Web予約数10倍を達成。その際に行ったコンテンツ作成ノウハウを公開します。
矯正歯科の背景
本事例は、競合が多い東京駅から徒歩3分にある、矯正歯科専門の歯医者さんです。通常の虫歯の治療は行わずに、矯正歯科を専門に行っています。2012年に開業し、来院のほとんどが口コミや一般歯科からの紹介で、開業と同時にWebサイトもオープンしていましたが、アクセスは少なく、Webサイト経由での予約は月に数件のわずかなものでした。
口コミや一般歯科医に紹介されて来院する方の満足度は非常に高く、また他院で行っている治療に満足がいかずセカンドオピニオンとして来られる方もいました。高い技術や診察眼を買っている人は多かったのですが、開業してまだ数年で、その知名度を広める術がありませんでした。
また、広告を展開するにも競合他社が多いエリアなのでドクター1人の医院では、予算面で太刀打ちできませんでした。
院長が自覚している課題は次のような内容でした。
- 広告予算が少ない
- Webサイトへのアクセスが増えない
- 東京駅近隣からの予約が増えない
そこで、次の3ステップを実施し、広告予算を極力かけないでコンテンツを作り、Webサイトへのアクセスを増やしていきました。その結果、多くの予約獲得につながりました。
- ステップ①患者さん、一般歯科医へのインタビューで顧客理解を深める
- ステップ②インタビューからわかったターゲットユーザーを分類する
- ステップ③ターゲットユーザーごとに戦略を立てる
ステップ①患者さん、一般歯科医へのインタビューで顧客理解を深める
まず顧客理解を深めるために、すでに通院している患者さんにインタビューを行いました。また、患者さんだけでなく、矯正治療が必要な患者さんを紹介してくれる一般歯科医(主に虫歯治療をする歯科医)にもインタビューを行いました。
顧客のニーズがわかれば、そのニーズに応える情報をコンテンツに落とし込むことができます。そうすることで、広告予算をかけずに、自然検索での流入を増やし、矯正を検討している潜在顧客にリーチすることができます。
また、インタビューを行うことで、コンテンツを作るときやSEOを考えるときのキーワード探しにも役立ちます。
患者さんへのインタビューで「選ばれる理由」を探る
すでに通院している患者さんにインタビューすることで、歯科矯正を検討する潜在顧客への理解を深めることができます。院長の話だけでは得ることのできない、新たな気づきや本院が持つ強みを発見できます。
インタビューを行うときは、次の3つを意識して質問を行いました。
①褒め言葉だけでなく、その理由を聞く
インタビュー行った際、「良い先生でした」「優しい対応で良かったです」といったアンケートで解決できるような褒め言葉で良しとしないことです。褒められることは良いことですが、インタビューとしての価値はありません。
- 「なぜ、良い先生だ」と感じたのか
- 「なぜ、優しい対応だ」と感じたのか
それらの理由を聞くように意識します。
②ターニングポイントを聞き出す
実際に矯正治療を行うと100万円近い費用がかかります。こういった高額な出費をする場合、「選んだ決め手」つまり「本院の強み」が隠れています。
「ここに決めよう」と意思決定したターニングポイントを見つけるには「Why(なぜ)」を繰り返し、インタビューしていきます。
③患者さんの本音を聞き出す環境づくり
患者さんが友達や家族に話しているような感覚でインタビューに臨んでもらえる環境を整えるとよいでしょう。本件では女性が多く、自宅や職場の近くのカフェでインタビューを行いました。
もし、店舗や医院でインタビューすると、患者さんが緊張してしまって、うまく話が進まなかったり、関係者がいる場所だとマイナス面を話しにくくなったりして、お愛想インタビューになりがちです。
同様の理由で、インタビュアーは、第三者が行うことをお勧めします。関係者が行うとマイナスのことを話しづらいという意識が働くためです。患者さんの本音を引き出す環境を作ることが大切です。
一般歯科医へのインタビューで技術面の差別化を知る
患者さんだけでなく付き合いのある一般歯科医にもインタビューを行いました。一般歯科の現場で、矯正治療が必要な患者さんに当院を紹介している方です。
専門は多少違えど、歯のプロです。「なぜその先生たちが本事例のデンタルオフィスを紹介するのか」という理由を探ることは、特に技術面での強みや患者さん視点では気づかない細かな対応など、他院との差別化につながる意見を聞き出せます。
インタビューでは、
- なぜ自院の患者さんに本事例のデンタルオフィスを紹介するのか?
- 他の矯正歯科医院と比較してどうなのか?
にフォーカスして聞いていきました。そうすることで、本事例の技術力の高さや、選ばれる真の強みがわかります。
インタビューからわかる「真の価値」
インタビューを行うことは、とてもシンプルな取り組みですが、アクセス解析ではわからない顧客(エンドユーザー)の生の声がわかるので、コンテンツマーケティングに非常に有効な手段です。
顧客理解を深めることで、顧客が矯正歯科を選ぶ「決め手」がわかります。本事例の場合、次のようなことを聞くことができました。
- 他院では矯正前に抜歯しないといけないといわれたが、先生は私のライフスタイルに合わせてメリット・デメリットを含めたうえで複数の治療プランを提案してくれた
- 実は他院にも行ったが、他院よりも価格が高かったけど治療プランが明確で安心できた
これらの「決め手」は、インタビューをしなければわからない本院の「真の価値」、「自社の強み」といい換えることができます。
ステップ②インタビューからわかったターゲットユーザーを分類する
患者さん、一般歯科医院へのインタビューで顧客理解が深まり、顧客のニーズごとに顧客像を大きく3つの層に分けることができました。
- 職場や住環境の近くで矯正歯科を探しているユーザー
- 噛み合わせを改善したいユーザー
- 部分矯正でお得に審美を改善したいユーザー
今回の場合、マーケットの大きさは、③>②>①の順です。
マーケットが大きいということは競合も多いため、ターゲットユーザーに刺さるコンテンツを用意したとしても、自然検索からの流入だけでは、露出に限界があります。中小企業のように広告予算が限られている場合、まずはマーケットの小さい順に戦略を立てて、確実に来院につながりやすい顧客を集中的に攻略していき、Webサイトとしての体力をつけた後に大きいマーケットを狙っていくことが重要です。
攻略する難易度は大きく分けて次の2つの要因で決まります。
- 外部的要因: 競合の過密度合いや市場の状況
- 内部的要因: 医院の優位性
今回は攻略難易度が低い順つまり、マーケットの小さい①→②→③の順に、それぞれのターゲットを確実に攻略できる戦略を立てて行きました。
ステップ③ターゲットユーザーごとに戦略を立てる
コンテンツマーケティングというと、ただ闇雲にブログ記事を書くことでコンテンツを量産してアクセスを集めるという方法もあるようですが、私はお勧めしません。コンテンツを量産するよりも、ターゲットユーザーが求めている情報を網羅するような質の高いコンテンツを作る戦略のほうが省エネで新規開拓ができると考えています。
ターゲットユーザー①を取り込む
職場や住環境の近くで矯正歯科を探しているユーザーに響く施策とは?
医院のサイトを何ページも閲覧しているユーザーでも、西日本方面の方が東京の医院に通うことはめったにありません。当たり前ですが、どんなに豊富な情報を発信していても、物理的に通える距離でなければ来院にはつながりません。
具体的な課題
職場や住環境の近くで矯正歯科を探している層に予約(来院)してもらうために、抱えていた課題は次のようなことです。
- 東京駅周辺という場所柄、競合となる矯正歯科が密集していて、検索エンジン上位には多くの競合がいる
- 「矯正」に関連するリスティング広告費用が1クリック800~1,300円と高騰している
- 医院の住所は中央区八重洲だが、東京駅を挟んだ反対側にある丸の内エリアとは徒歩7分という立地ながら、なかなか人が流れてこない
- ユーザーは職場が近くても、路地一本違うだけで矯正歯科医院があることに気づいていない
具体的な施策
上記の課題に対して、具体的に行った施策は次の3つです。
- アクセスページを増やし、駅からの経路を写真つきで紹介した
定期的な通院が必要な矯正歯科の場合、「勤め先から通える範囲なのか」「駅から何分かかるのか」といったことを気にしているユーザーが多かったため、東京駅からのアクセスはもちろん、近隣エリアの丸の内、日本橋、銀座方面からのアクセス経路を詳しく紹介するコンテンツを作りました。
- エリアを絞ってリスティング広告を行った
少ない広告予算ではありましたが、医院から1キロ圏内に絞って広告を出稿しました。広告のクリック単価は高かったものの、近隣への露出が増えました。
- Google プレイス(マイビジネス)の情報登録を充実させた
医院名、電話番号、住所、ウェブサイトURL、カテゴリなど基本情報をすべて入れることは当たり前ですが、写真や説明もしっかりと入れていきました。
Google プレイス(マイビジネス)は、確実にできることなので、もし未登録であれば登録をお勧めします。また、登録済みの場合も、一度登録内容を見直してみるといいでしょう。記入漏れや改善点が見つかるかもしれません。
結果
施策を行った結果、次のような結果を得ることができました。
- 「矯正歯科 地域キーワード」でサイトの検索順位が向上し、Google検索した際の露出が増えた
- Google マップ内で検索結果の上位(A地点)に表示されるようになった(下図)
- 医院の近隣で「矯正歯科」とGoogle検索した際に、リスティング広告が表示されるようになった
- 新たに丸の内エリアからの新規客獲得にも成功し、来院数が増えた
実店舗があるビジネスにおいては、近隣の方ほど一番の見込み客です。本件では、医院のある八重洲だけでなく、丸の内エリアのユーザーを取り込むことが一つの目的でした。そこでアクセス情報などを充実させることによって、近隣エリアで取り込みたかった丸の内などからの予約を獲得することに成功しました。
ターゲットユーザー②を取り込む
噛み合わせを改善したいユーザーに響くコンテンツとは?
院長へのヒアリング、患者さんや一般歯科医へのインタビューにより「噛み合わせ治療」が本院の強みであり他院より特に優れていること、また他院では噛み合わせに関する訴求を、Web上であまり行っていないことがわかりました。
そこで、噛み合わせ治療のニーズを持ったユーザーに対して、しっかり訴求できるようにコンテンツを作りました。
具体的な課題
噛み合わせを改善したい層に予約(来院)してもらうために、抱えていた課題は次のようなことです。
- 歯科医師の勧めや自覚症状により、自分の噛み合わせを改善したいとニーズがすでに顕在化している患者さんの医院選びに役立つコンテンツがなかった
- 噛み合わせ治療において他院との優位性があることは明白だったが、それを訴求するためのコンテンツがなかった
- 他院ではさじを投げられやすい噛み合わせ治療において、「噛み合わせといえば当院」というブランディングを確立したい
具体的な施策
上記課題に対して、作成したコンテンツは次のようなものです。
- 噛み合わせに関するWeb上の情報を徹底調査した
他院では治療後の歯並びがきれいになった写真を掲載するだけで、素人が見ても噛み合わせが良いのか悪いのか明確に判断できないケースが多く見かけられました。そこで、本院では素人が見ても一目でわかるよう、見るべきポイントを説明するコンテンツを作成しました。そうすることで技術力の高さやこだわりが伝わるようにしました。
結果
これらのコンテンツを作った結果、次のような成果を得ることができました。
- 「噛み合わせ」「噛み合わせ 矯正」での検索結果で1~2位をキープするようになり、検索エンジンからの流入アクセスが月間で4,000訪問以上増加した
- 今まで歯並びや審美を良くするために来院する患者が多かったが、噛み合わせを良くするために来院する患者が増えた
ターゲットユーザー③を取り込む
部分矯正でお得に審美を改善したいユーザーに響く施策とは?
部分矯正はまさにレッドオーシャンで競合が激しい市場です。競合調査の結果、治療費の安さをウリにして、イメージ戦略的な展開をしている医院が多いことがわかりました。本院では提供する情報の質と量を高め、顧客の信頼につながるコンテンツを作ることにしました。
具体的な課題
部分矯正でお得に審美を改善したい層に予約(来院)してもらうために、抱えていた課題は次の通りです。
- 審美ニーズで矯正歯科を探している人への露出ができていない
- 部分矯正は治療可能な医院が多く、価格競争が激化し、広告費用も高騰している
- 競合医院が価格を下げているため価格面での優位性はなかった
具体的な施策
方針として治療費の値下げ競争からは一歩引くことにして、価格ではない「選ばれる理由」を作り出す施策を行うことにしました。
- SEO施策により、自然検索流入を増した
SEO施策として、まずサイトのコーディング方法の見直しとコンテンツの充実化、スマホサイトの最適化などの内部施策を中心に行いました。また、最初から難易度の高いキーワードを狙うのではなく、競争が比較的ゆるやかなキーワード「プチ矯正」「前歯 矯正」から始め、最終的に「部分矯正」の対策をしました。
- 選ばれる理由として、他院との差別化ポイントを訴求
部分矯正でも、美意識や目的意識が高く、予算も比較的余裕のあるユーザーを対象に、コンテンツを作成していきました。
たとえば他院では、矯正する歯の本数が少なく費用も安いプランを一番に押し出していましたが、本院では、矯正する歯の本数が多く費用が多少上がっても、第一印象が大きく変わったものを掲載しました。
また、他院では、歯が並んでも歯茎まではきれいではないといった矯正後写真のクオリティにバラつきが見られましたが、本院では、矯正後写真のクオリティに留意し、素人が見てもわかりやすいように解説を加えました。
- PCサイトとは異なるモバイルサイトを作った
モバイルサイトではユーザビリティを考え、ランディングページだけで情報が完結するような導線にし、PCサイトとは異なるページ構成にしました。
結果
上記の施策を行った結果、次のような成果を得ることができました。
- 部分矯正ページから流入するアクセスが月間100~200訪問から月間2,000訪問以上に増加した
- 部分矯正ニーズを持った学生やOLの来院が増え、来院数の母数を増やすことができた
まとめ:コンテンツマーケティングで顧客と向き合う
このように、3つのステップで戦略を立て、ターゲットユーザー層に向けて、それぞれのコンテンツマーケティングを行い、1年半で20Pほどコンテンツを作成しました。
その結果、Webサイトへのアクセス数が30倍になり、Webからの予約が10倍になりました。
施策を行うなかで、心がけていたことは次の2つに尽きます。
- 顧客の声に耳を傾け、彼らが悩んでいることや不安を解決する情報をサイトに用意すること
- 顧客が矯正治療の決断をしたときのことを詳しく教えてもらい、顧客が他院と比較して決断できるだけの情報をサイトに用意すること
また、施策を行う前に院長と決めていたことは、「価格競争からは一歩引き、割引での訴求は行わない」ことでした。
インターネットユーザーは、さまざまな情報に触れ、年々賢くなっていきます。他社サイトと比較して、どれをどのように買えば上手に買い物できるのかを調べます。特に価格面はシビアに比較されがちです。
実際、価格を下げるとWeb上での反響を出すのは楽かもしれませんが、その状況を続けることは難しいです。価格以外の付加価値を誰にどのように伝えていくのか、「最安値じゃなかったとしてもあなたのビジネスの商品やサービスを受けたい!」そう思ってもらうことが、コンテンツマーケティングの醍醐味です。
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