Macの壁紙「青い池」で美瑛町の観光客数は増加、一方で宿泊客数は減少。その原因をウェブ解析で探る
本題の前に、まず北海道の美瑛(びえい)町の美しい景色からご覧ください。
美瑛(びえい)町の最大の魅力は、「十勝岳の雄大な自然と人の営みが織り成す美しい丘の農業景観」です。
他にも美瑛町の人気観光スポットの1つ「青い池」があります。この青い池は2012年発売のApple社のMacBook Proの壁紙に採用されたことで広く知られるようになり、2014年の青い池を特集したTV番組によって青い池を訪れる観光客数が急増加しました。
しかし観光客は増加したものの通過型の観光客が増え、経済効果を生み出す宿泊客数が減少してしまったのです。その裏には一体何があったのでしょう。
今回はウェブ解析を用いて、その現状と原因を探ってみました。
「パッチワークの丘」と呼ばれる奇跡の絶景が訪れるものを魅了する
原因を探る前にまず、北海道美瑛町の観光事情から説明します。
前述しましたが、美瑛(びえい)町の最大の魅力は、「十勝岳の雄大な自然と人の営みが織り成す美しい丘の農業景観」です。
風景写真家・前田真三氏の代表作『麦秋鮮烈(ばくしゅうせんれつ)』がきっかけで広く知られるようになった美瑛町ですが、この美しい丘の農業景観に癒やしを求めて、現在では年間160万人以上(平成 29 年度美瑛町町勢要覧P11より)の観光客が訪れる北海道でも代表的な観光地です。
独特な丘陵地に点在する畑で生産される農作物やその花によって生み出される彩が、大地にパッチワーク模様を描きます。さらに、同じ作物を続けて作らない輪作体系により、毎年異なる彩が丘をより魅力的に演出しています。
美瑛町は農家の営みそのものが観光資源となっていることが特徴であり、それに魅力を感じるお客様が多く訪れる場所です。
美瑛町の「青い池」が人気スポットになったものの……
さらに美瑛町の人気を押し上げたのが「青い池」です。
この青い池は2012年発売のApple社のMacBook Proの壁紙に採用されたことで、広く知られるようになりました。その後、ネットメディアや雑誌などで取り上げられ観光客が徐々に増加していましたが、2014年にTV番組に特集されたことで、一気に青い池を訪れる観光客数が急増加しました。
しかし観光客数は増加したものの、宿泊客数は減少してしまいました。
美瑛町はそれまで、丘の農業景観に癒やしをもとめて、中高年層が比較的多く訪れる観光地でした。彼らはゆったりとした美瑛時間のなかで、お気に入りのペンションで滞在し、旬の野菜料理を楽しみ、毎年美瑛町に訪れていました。
ところが青い池のブームによって、青い池の駐車場は常に満車、幹線道路は駐車待ちで渋滞するようになり、経済効果を生んでいた中高年層は美瑛町から離れていってしまったのではないかと考えています。
ウェブ解析を活用して現状を把握
このような状況を改善するために、まず現状把握をすることにしました。
そこで活用したのが、美瑛町の観光情報を発信する観光協会ウェブサイト(以下、協会サイト)のGoogle アナリティクスデータです。
旅行前に観光地の情報を収集するのが一般的ですから、協会サイトのウェブ解析データから何か糸口がつかめるも知れないと考え、アクセスユーザー数とユーザー属性、ページ閲覧数をまず調べました。
ユーザー数
青い池がネット上で話題になって以来、協会サイトのユーザー数はそれ以前と比べて2.6倍に増加しました。
その後もメディアで取り上げられるたびに、協会サイトのユーザー数が増加していき、2014年TV番組の特集で人気に火がつきました。
ユーザー属性
次に、ユーザー属性について調べました。
Google アナリティクスには推測ベースですが、Webサイト利用者の性別や年齢といった基本属性をレポートに表示してくれる機能があります。これを使って、青い池がブームになる前(2014年)と後(2016年)でユーザーの年齢構成を比較すると、若年層が増加しているのに対し、中高年層は減少していることがわかります。
ページ閲覧数
2014年は平均5ページ閲覧していますが、2016年では平均3ページに減少しています。
これは青い池だけを調べて、満足して離脱してしまうユーザーが増えたからではないかと考えられます。
このようにウェブ解析データからも、ブームとなる2014年を境にその違いが見て取れます。
丘の農業景観に癒やしをもとめて訪れていた中高年層は、青い池ブームで観光客が激増し、ゆったりとした時間を過ごすことができなくなった美瑛町の実情に幻滅し、離れていったことがデータから推察できます。
ウェブ解析から観光客数を推計
また現状把握の他にも、ウェブ解析データから、「実際に美瑛町を訪れる観光客数を推計できないか」という取り組みを2011年からスタートさせていて、現在もその精度を高めるためにさまざまな工夫を行っています。
たとえば、定期的に実施する観光客へのアンケート調査や観光スポットに設置した観光客数の計測器機を活用するといったことです。
ここでは、現在もっとも観光客が集まる青い池で一定期間、観光客数を調べた結果に基づき、協会サイトのウェブ解析データから観光客数を推計した一例を紹介します。
協会サイトのモバイルデータから観光客数を推計
観光客数を推計するにあたって注目したのは、協会サイトの人気ページトップ10です。
ページ別訪問数の1位は、青い池ページであることがわかります。
次に、デバイス別に見ると、青い池ページへのアクセスは、モバイルが7割以上を占めていることがわかります。
さまざまなデータと比較しましたが、モバイルユーザー数とカウント値(青い池の観光客数)を比較すると、一定の相関が見られました。
このことから、青い池を訪れる観光客数は、青い池ページのモバイルユーザー数から推計ができることがわかりました。
- 青い池の観光客数 = 青い池のモバイルユーザー × 相関係数A
同様に、協会サイトのモバイルユーザー数に青い池の推計で用いた相関係数を乗算すると、美瑛町全体の観光客数の推計が求められました。
- 美瑛町の観光客数 = 協会サイトのモバイルユーザー数 × 相関係数A
なお、この推計値については、昨年7月に実施した交通量調査から推計した値とほぼ一致していることから、信頼性の高い結果であると考えています。
観光客の行動分析のために、観光スポットなど200か所にQRコードを設置
また、観光客が実際に美瑛町を「どのように観光しているのかを調べるために」、アンケートキャンペーンを使った取り組みを行いました。
観光スポットや宿泊施設、レストランなどの観光客が利用するポイント200か所にユニークなパラメータを付加したQRコードを設置しました。
そのQRコードで読み込まれたデータと協会サイトのデータを比較して観光客の行動を分析しました。
協会サイト閲覧後、約2時間後に観光スポットへ訪れるユーザー行動
ここでは、青い池を例に分析結果を紹介します。
もっとも多くQRコードが読まれている観光スポットは、青い池です。
青い池ページにアクセスするユーザー数の時間別分布とQRコードを読み込んだ時間分布を比較します。
午前中は両者の時間にほとんど差は見られませんが、12時以降は、サイトユーザーのデータを時間軸方向に2時間左にシフトすると、ちょうど傾向が一致します。
これは、午後に青い池を訪れる観光客は、その2時間前に青い池ページにアクセスして、場所の確認や観光スポットの内容を調べてから観光地に行っているのだと考えられます。
このように、ウェブ解析はサイト内の行動だけではなく、
- 観光客の現状把握
- 実際に訪れた観光客の行動も把握
などができる便利なツールといえるでしょう。
今回は、美瑛町で起こっている観光の現状を知るために、ウェブ解析データを活用しました。さらに、そこから観光客数を推計する方法も紹介しました。観光客の実際行動データもちょっとした工夫で、さほどコストをかけずにいろいろなデータを収集できます。
このようにしてデータが得られれば、たとえば、青い池の駐車場の混雑予測などをサイトに出して、幹線道路の渋滞緩和を促すといった具体的な施策につなげられますし、行った施策の効果検証(PDCA)もできます。
必ずしもこのやり方がすべての観光地で通用するとは限りませんが、観光客集客に悩んでいるところではまずできるところからデータ収集してみてください。
※記事初出の時点で、宿泊客数のグラフに誤りがあり訂正しました(10/20)。
この取り組みに関して、10月18日(水)に14:00から札幌で行われる一般社団法人ウェブ解析士協会主催のセミナーで詳しく説明します。
本セミナーでは、地方にドンドン人を呼ぶ「集客」・地域活性に繋ぐ「ユーザーマーケティング」地方で稼ぐ・広める「その極意」などを紹介します。
参加費は、一般4,500円、ウェブ解析士3,500円です。若干の残席があります。お申し込みはお早めにどうぞ。
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