ad:tech tokyo特集

徳力基彦の「はじめてのad:tech tokyo講座」 ~技術ギライの広告マンと、広告ギライの技術マンへ

「“技術”は自分の分野ではない」という広告サイドの人や、「“広告”はキライだ」という技術サイドの人に。
徳力 基彦(アジャイルメディア・ネットワーク) 2011/10/12 9:00 |

デジタルマーケティングをテーマとする世界最大級の専門イベントである「ad:tech(アドテック)」が今年も10月26日~28日に東京で開催されます。

私自身も、東京開催の第1回であるad:tech tokyo 2009から今回で3年連続で参加させていただくことになりますので、ad:techを知らない皆さんに、その魅力をご紹介してみたいと思います。

ad:techのテーマって、広告なの? 技術なの?

ad:techというイベントの説明が難しいのは、「ad(広告)」と「tech(技術)」という、日本では一見すると違う領域だと思われがちな言葉が1つになっている点でしょう。

広告業界の方や宣伝部の方は、「広告」という言葉には反応するものの、「技術」というキーワードを見て「あ、これはシステム部の話だから自分には関係ないかな」と思ってしまうケースがまだまだ多いのではないでしょうか。逆に、テクノロジー系の企業では「技術」という言葉には反応しても「広告」と聞いて興味を失う人も多いでしょうし、エンジニアの中には「広告」という言葉に嫌悪感さえ抱く人も少なくないようです。

しかし、インターネットの普及やテクノロジーの進化により、実はこの「広告」と「技術」の境界線は急速に曖昧になりつつあります。

インターネット以前の、従来のマスメディアの広告枠を中心としたマスマーケティングにおいては、広告において最も重要なのはその広告枠の露出量とクリエイティブでした。その重要性自体は今も変わっていません。しかし、インターネットの登場後は、バナー広告に始まり、検索連動型広告、行動ターゲティング広告、さらには最近のFacebookやツイッターなどのソーシャル広告などが登場するにあたり、広告において技術が占める割合が非常に大きくなってきました。

その象徴は、やはり検索連動型広告でしょう。

一見、単純なテキストの広告であるにもかかわらず、検索キーワードに応じて表示されるという「技術」を活用することで、検索連動型広告は、非常に効率的で効果の高い広告として現在ではインターネットマーケティングにおいて、なくてはならない存在になっています。

広告側は技術に、技術側は広告に、無関心……それでいいの?

とはいうものの、従来のいわゆるマス広告に携わっている方のなかには、次のように考える人もまだまだ多いように感じます。「ネットの『技術』を活用した『広告』というものは、同じ会社のなかでもそういった技術の担当が考える仕事であって、自分たち『広告』の専門家の仕事ではない」

こうした「もう片方の分野には関心をもたない」傾向は、広告側だけに発生しているわけではありません。

モバイル、アドネットワーク、検索、ソーシャルメディア、デジタルサイネージなどなど、インターネットを中心にさまざまな技術が登場してきました。そうした新しい「技術」が出てくるたびに専門の業界や部署ができることで、それぞれの業界や担当の方が、自分の担当領域には詳しいものの、それ以外の領域については興味を示さず、知識も持たないというケースがますます増えています。

当然、個別の広告サービスやソリューションは、それ単独でも意味はありますし、わかりやすい効果が出ているケースも多々あるでしょう。

しかし、そうした縦割りの時代は徐々に変わりつつあるのではないでしょうか。

そんなことを肌で実感できるのが、ad:techなのです。

業界縦割りではなく、全体を俯瞰して把握できる

ad:tech tokyo 2011のカンファレンススケジュールを見ていただくと良くわかると思いますが、ad:techでは、2日間にわたり同時に複数のテーマのセッションが開催され、キーノートとセッションを合わせて40を超えるセッションが展開されます。

さらに、それ以外にも展示エリアもありますし、スポンサーのスペシャルイベントやワークショップなど、多数の講演が実施されます。

扱われるテーマも、ソーシャルメディア、モバイル、サーチなど技術の進化をテーマにしたものから、ビジネスディベロップメントや企業と代理店のあるべき姿を考えるセッションなど、非常に多岐にわたっています。

さらに今年は前日にソーシャルCRMをテーマにしたスペシャルイベントも開催されるなど、3日間にわたり多様な議論が繰り広げられるわけです。

通常こうしたセミナーでは、「モバイル」や「サーチ」というように、ある特定のテーマを軸に業界の企業が集まることが多く、いわゆる縦割りの業界に特化した議論になりがちです。

そのため、そのカテゴリや業界の技術の進化については議論が深まっても、他の業界との組み合わせやビジネスに与える本質的な変化といった俯瞰的な議論にはなかなかなりにくいのが実情でしょう。

しかし、ad:techでは、各業界の専門家や企業の各部署の責任者が一同に介し議論を繰り広げますので、それぞれをつなげて聞くことで、かなり業界や日本企業におこっている変化を俯瞰的に把握できます。

私自身も、ad:techで視野が広がった1人です

正直な話としては、私自身もアジャイルメディア・ネットワークという「ソーシャルメディア」を事業の中心においた会社の社長をやっていますので、ad:techに参加するまでは、ソーシャルメディアだけに特化して、その分野の情報だけを見ていました。

それがこのad:techに参加し、さまざまな企業のセッションの議論を聞き、パーティーや展示エリアで知り合った方々と議論しているうちに、そうやって自分の業界だけを見ていては井の中の蛙になるという危機感を強く感じたことを、よく覚えています。

特に最近は、インターネットの進化やソーシャルメディアやスマートフォンの普及により、「広告と技術の境界線」「業界ごとの境界線」「部署間の壁」といったものが急速にあいまいになり、融合し始めています。

企業においても、媒体ごとや技術ごとに個別に最適化を行うのではなく、「PCとモバイルの組み合わせ」「マスとソーシャルの組み合わせ」「オンラインとオフラインの組み合わせ」など、さまざまな要素を横断的に考えて利用者と対峙することが求められており、1つの媒体の最適化が実は他の要素にとってマイナスになるということが少なくありません。

特に私がいるソーシャルメディア業界は、サービスの栄枯盛衰や技術の変化が激しく、最先端の情報を追いかけてばかりいると、ついそのベースにある本質的な変化や一番大事なことを見失いがちです。

そんななか、1年に1度ad:techに参加して、業界を俯瞰的に把握し、翌年以降の戦略を考えるというのが、ad:techが開催されるようになってからの私の定番サイクルとなりつつあります。

「広告」と「技術」というのは一見まったく異なる専門家がそれぞれ個別に取り組む分野のように見えるかもしれません。しかし、もはや現在の「広告」において、「技術」との組み合わせというのは、なくてはならない存在です。

また、テクノロジーを売りにする企業にとっても、実は広告をどのように考え、自社のサービスに組み込んでいくかというのは、非常に重要な問題です。

日本ではエンジニアの方は広告に嫌悪感を示す方が多いのも事実ですが、一方でそういう方々が「技術」の象徴として捉えているGoogleやFacebookでさえ、収益のほとんどは実は「広告」収入であるという事実は忘れてはいけません。

位置情報のFoursquareや、ARのセカイカメラなどの事業を後ろから支えているのも広告収入ですし、実は革新的な技術を売りにする企業にとっても、広告というものをどう変えていくかというのは、技術とセットで考えなければいけないテーマだと感じています。

そう言う意味で、個人的にはad:techというイベントは、「ad:tech」つまり「広告&技術」というフレーズを聞いて「自分には関係ないな」と思う方にこそ、ぜひとも参加してほしいイベントなのです。

今年のad:tech tokyo 2011にも、「広告」や「技術」の定義を超えたさまざまな業界の濃い方々が多数参加し、さまざまな進化が日本で始まるきっかけになることを個人的にも期待しています。

◇◇◇

なお、私個人も26日(水)のSocial CRM Forumの「新しい企業コミュニケーションが創り出す顧客価値」及び27日(木)の「ソーシャルメディア vs. プライバシー」というテーマのセッションのモデレータを務めさせて頂きます。

会場で見かけたら、ぜひ遠慮なく声をかけて下さい。ad:tech2011の会場で皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。

用語集
AR / Facebook / クリエイティブ / スマートフォン / セッション / ソーシャルメディア / マスメディア / 検索連動型広告 / 行動ターゲティング
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