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コンバージョンに至らなかったものも何らかの効果があるはずだ

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コンバージョンに至らなかったものも何らかの効果があるはずだ

このようにアトリビューション分析は、認知や態度変容も考慮している。しかし、コンバージョンに至った流入経路だけを分析対象にしているのであれば、まだ不十分だと言える。コンバージョンには至らなかったとしても、認知させたり、態度変容を促したりしている可能性はある。だから、広告の効果としては、コンバージョンに至った流入経路とコンバージョンに至らなかった流入経路の両方を分析するほうがよいのである。

実際によくあることだが、広告は非常に効果的に展開されていて、多数の流入をサイトにもたらしているにもかかわらず、コンバージョン数がさほど出ないケースがある。次のような場合だ。

  • サイトのユーザービリティが悪いため、サイトに流入してきた消費者を逃してしまう
  • 商品やサービスが魅力的ではないために、サイトに流入してきた消費者を逃してしまう
  • ブランド力がないために消費者の信用を得られず、コンバージョンに至らない

一般的に、サイトのユーザービリティ、商品・サービスの競争力、そして、ブランドの競争力がコンバージョンに与える影響は大きい。これらの競争力が低いクライアントの場合は、広告出稿を効果的に展開したとしても、コンバージョン数をあまり稼げないという結果に陥りがちだ。このようなケースでは、コンバージョンを得られなかった原因として「広告が悪かった」ということは不当であろう。

アトリビューション分析では、コンバージョンに至った流入経路と至らなかった流入経路の両方を分析対象にできる。使用するデータは、流入経路で得られる範囲に限定されるものの、コンバージョン効果だけではなく、認知や態度変容も考慮して評価できるようになる。つまり、コンバージョンには至らなくても、その流入経路の中に出現する各流入元には何らかの効果があったはずだと考え、そこを分析対象とするのである。

ただし、アトリビューションによる認知や態度変容の評価は、アンケート調査などで測るものとは別である。あくまでも、考慮して評価するということになる。たとえば、「認知率が何パーセントあるか」「クライアントのブランドイメージがどのように変化したか」といったことを、流入経路のデータ分析で把握するのは難しい。そのようなことを把握したい場合、現時点では、やはりアンケート調査などの手法を使った方がよいであろう。

コンバージョンに至らなかった流入経路の分析方法

さて、コンバージョンに至らなかった流入経路を分析対象にする場合、実際にはどのようにして分析をすればよいのだろうか。コンバージョンに至らなかった流入経路とは、たとえば、

流入元A → 流入元B → 流入元C

で終わっていて、コンバージョンは発生していないものである。

アタラでは、コンバージョンを発生させなかった流入経路の分析をする際には、まず、コンバージョンに至ったか至らなかったかにかかわらず、すべての流入経路を履歴数ごとにグルーピングすることから始めている。履歴数とは、この流入経路の中に出現する流入元の数のことだ。たとえば「流入元A → 流入元B → 流入元C」という場合は履歴数が3回となる。グルーピングでは、履歴数が1回のグループ、履歴数が2回のグループ、履歴数が3回のグループ、履歴数が4回のグループのようにと分けていく。測定ツールの設定などによって、取得できる履歴数の上限が決まっている場合は、その上限までグルーピングしていく。グルーピングしたあとに、グループでのユニークユーザー数を分母にコンバージョン数を分子にして、コンバージョンレート(CVR)を算出する。これを各グループでそれぞれ算出していくと、履歴数1回グループのCVR、履歴数2回グループのCVR、履歴数3回グループのCVR、履歴数4回グループのCVRと算出できる。このようにグルーピングしてCVRを算出した場合、どの履歴数のグループがもっとも高いCVRになるのかをみていくのである。

いくつかのクライアントのデータを分析してわかったのだが、クライアントや分析時期によって差はあるが、だいたい履歴数5回ぐらいまではCVRが徐々に上昇していき、そこをピークとして、その後はCVRが低減していく現象がある。つまり、1回、2回、3回と履歴数が増えるにつれて顧客育成が起こり、消費者がコンバージョンしやすい状態に変わっている。態度変容が起こっているといってもよいだろう。そして、5回前後を境にして効果が飽和し、CVRが下がり始めると考えられる。このようなCVRの変化は、コンバージョンのしやすさが変わっているからだと判断できる。1回よりも2回、2回よりも3回の方がコンバージョンしやすくなっているからこそ、CVRが上がっていくのだ。

コンバージョン性向を高めるために

アタラでは、このコンバージョンのしやすさを表すために「コンバージョン性向(Propensity to Convert)」という用語を使っている。

経済学を学んだ人なら馴染みがあるかもしれないが、消費性向(Propensity to Consume)という言葉があり、可処分所得のうちで消費支出にあてられる額が占める率のことを指す。この消費性向は消費意欲を示す指標として使われている。消費性向が高いほど、消費意欲が高いことになる。たとえば、「米国は日本よりも消費性向が高い」などと使われる。この消費性向とのアナロジーで、「コンバージョン性向」という用語を使っているのだ。そもそもコンバージョンとは消費という大きな概念の一形態であるため、このアナロジーもわかりやすいだろう。

「コンバージョン性向」が高いほど、コンバージョン意欲が高い、つまり、コンバージョンしやすいことを示す。この用語は、アタラの造語ではない。欧米のWebマーケティングの資料の中でも使われているので言葉としての新しさはないが、アタラにおいては、この「コンバージョン性向」を確率として捉えて、アトリビューション分析に導入している。

アトリビューション分析→シミュレーション→改善の具体的なフロー(やり方)とは?」の記事で「アタラ・メソッド(ATARA Method)」の基本的な考え方について紹介したなかで、「アトリビューション・スコア」や「アトリビューションCPA」を用いてアトリビューション分析をおこない、シミュレーションを実施していることを書いた。このシミュレーションは、実際に得られたデータを分析し、その結果に基づいて予算配分やクリエイティブなどを変更したり、組み合せを変えたりして効果を高めること目的としている。予算配分の組み合せを変えることによって、より多くのコンバージョンを発生させられないかを模索したり、より多くのコンバージョンを発生させられる状況を作ったり、よりコンバージョンしやすい状態にしたりする方法を探していると言ってもよい。要するに、シミュレーションでは「コンバージョン性向」を高めようとしているのだ。コンバージョンする確率が高くなるように操作しようとしているのである。

コンバージョン性向として数値をはじきだす

さて、履歴数グループごとにCVRが変化するという事実は、それぞれのグループごとにコンバージョンする確率が変化していることを示す。「コンバージョン性向」が変化するといってもよい。そして、すでに発生した過去の事象がわかっていれば、それに基づいてコンバージョンする確率を推定できると考えてよい。

たとえば、履歴数1回グループのCVRが1%、履歴数2回グループのCVRが2%と過去のデータが示していれば、今後も大きく外的状況が変わらない限り同様のCVRになると推定できる。このような推論を展開していくと、コンバージョンが発生しなかった流入経路についても、どのくらいの確率でコンバージョンが発生するのか予測できるのだ。

もう少し例を挙げて説明しよう。

履歴数1回グループにコンバージョンに至らなかった200個の流入経路があったとする。つまり、クライアントのサイトに1回訪問したが、コンバージョンせずに離脱したのが200あったのだ。このうちの50%が2回目の訪問をするとする。この履歴数1回グループのうちで履歴数2回グループに推移する率も過去のデータを分析すればわかることである。この200個のうちの50%が履歴数2回グループに推移すると、履歴数2回グループが200個の50%分だけ増加するので、100個増える。先述のように履歴数2回グループのCVRは過去のデータで2%になっているならば、履歴数2回グループの増加分100個の2%で、2個のコンバージョンを発生する確率になる。

このように、過去のCVRをもとにしてコンバージョンが発生する確率を計算していくと、すべての流入経路に対して「コンバージョン性向」を算出することが可能になるのだ。

ここから先は、アトリビューション・スコアの話に戻る。つまり、コンバージョンが発生しなかった流入経路については、確率を使ってアトリビューション・スコアを割り振っていくのだ。「何個のコンバージョンを発生させる確率がありますよ」ということが分かるので、その確率から試算したコンバージョン数をアトリビューション・スコアとして流入元に割り振っていくのである。

その結果、実際にはコンバージョンに至らなかった流入経路も、どのくらいコンバージョンしやすい状態になっていたかを数字で示すことができる。そして、そのどのくらいコンバージョンしやすいか、つまりは、「コンバージョン性向」をさらに高めるためには、どのように予算配分やクリエイティブなどを変更すればよいかをシミュレーションできるようになる。シミュレーションを通じて、次なる施策をより良いものにしていけるようになるのだ。

従来の手法とあわせて使っていく

今回は、広告の効果として、購買プロセスを前提に解説した。しかし、広告の効果や広告の役割については、さまざまな議論や指標があり、短絡的に論じることは危険であることも承知している。あくまでも、アトリビューションという視点で、流入経路から取得できるデータに限定して、分析をおこなう際の考え方や手法に絞って解説している。

当然のことであるが、アトリビューション分析にプラスして、これまでのアンケート調査などによる認知や態度変容の把握は引き続き重要だ。アタラとしても、予算的に余裕のある広告主に対しては、従来の手法での認知や態度変容の把握も勧めている。

理想を言えば、アトリビューション分析と従来の手法をあわせて、広告の認知や態度変容への影響を測定し、広告プランニングに活用していきたいものである。

アタラ合同会社 COO 有園雄一

アトリくん

アトリくんの視点

コンバージョンに至った流入経路と至らなかった流入経路の両方を分析対象にすることが、アタラの場合は1つのポイントになっています。また、初期の頃から、従来の手法での認知や態度変容の把握も並行して行うことを勧めています。

この記事は、attribution.jpに掲載されたコンテンツをWeb担の読者向けにピックアップ/再編集してお届けしている。この記事のオリジナルはこちら
アトリビューション分析は認知や態度変容も対象にしているのか?(2011年8月1日)

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