「技術ありき」ではなく「顧客ありき」
「技術ありき」ではなく「顧客ありき」
●ジョナサン 私にとって、『グランズウェル』の中で最も印象的だったのは、POSTというアイデアです。POSTとは何か、また実際にそのアイデアを使った企業の事例を話していただけますか?
●ジョシュ 「POST」とは、一言で言うとソーシャルコンピューティング戦略を立てるための方法論ですね。POSTには、ソーシャルテクノロジー戦略を立てるための4つのステップ
・People(人)
・Objectives(目的)
・Strategy(戦略)
・Technology(テクノロジー)
が含まれています。企業は、まずソーシャルコンピューティングについて理解し、ターゲットとしている顧客(People)を調査し、どのような目的(Objectives)に焦点を合わせるかを決め、そして戦略(Strategy)を立てて、最後にどのテクノロジー(Technology)を採用するかを決めるのです。フォレスターでは、『グランズウェル』を出版して以来、ワークショップやセミナーにおいて、企業がこのPOSTメソドロジーを習得するのをサポートしてきました。
たとえば、ある保険会社はフォレスターのワークショップに参加し、POSTメソッドを実践しました。この会社は、保険契約者のグループと保険販売員のグループの2つのグループに焦点を当て、それぞれのコミュニティの目的を設定し、それを達成するためにどのようなコミュニティを構築すればよいのかを見つけることができました。
日本はソーシャルメディアの進んだ国
匿名傾向でもオープン化は進んでいく
●ジョナサン 国によってあなたの本のメッセージに対する反応は異なりますか? たとえば、どの国が一番進んでいると思いますか?
●ジョシュ これまでヨーロッパ、南米、カナダ、そして米国全土に渡って、数多くの講演や企業へのアドバイスを行ってきました。
ヨーロッパでは、企業のソーシャルコンピューティングに対する動きが若干遅いと思います。とはいえ、それでも進んでいる企業もあり、たとえば、BBVAという銀行では、すでにソーシャルコンピューティングの手法をビジネスにうまく取り入れています。
フォレスターのデータによると、アジアの消費者、特に日本、韓国、中国の消費者は、米国の消費者よりもソーシャルテクノロジーを日常生活の中でたくさん使っていることがわかっています。そのため、日本や他のアジア諸国の企業がこういった社会的な動きをどういうふうに利用しているかを見るのに、すごく興味があります。
●ジョナサン 昨年、ジェレマイヤ・オウヤンが来日したとき、日本の消費者がソーシャルネットワークやディスカッションボード、ビデオ共有プラットフォームに積極的に参加している一方で、日本の大企業がソーシャルメディアに参加するのに大変抵抗を感じていることに気づいたようです。それに関してどう思いますか? これらの企業は何かミスしていると思いますか?
●ジョシュ そうですね。お客さまがいる場所にあなたの企業がいなければ、それは大きな失敗を犯していると言っていいでしょう。大切なのはお客さまがどこにいるかなのです。
●ジョナサン フォレスターの最近リリースしたレポート「ソーシャルウェブの未来(The Future Of The Social Web)」では、消費者が複数のソーシャルメディアやWebサイトでIDを共有できるようになることに注目していたかと思いますが、実際どうなのでしょうか? OpenIDは前から存在していると思いますが、なかなか浸透していないように思います。この先、なぜそれが大事になるのですか?
●ジョシュ OpenIDはやっと一般に使われ始めるようになりました。たとえば、大手小売企業Searsがつい最近OpenIDをサポートするようになりました。2009年の後半には、こういった進歩をもっと期待できるでしょう。OpenIDがより認識されるようになれば、消費者はもっと参加するようになっていくはずです。消費者とって、ログインや登録の手続きがなくなることはとてもメリットがあることだからです。
●ジョナサン しかし、日本の消費者は、ソーシャルメディアに匿名で参加するのを強く好みます。匿名を好む日本市場で、OpenIDの普及やそのメリットを消費者に理解してもらうのは難しいのではないでしょうか?
●ジョシュ ポイントは「選べる」ことです。OpenIDを利用して自分のIDを公開していいと思うのであれば、いろいろな障害を取り除くことができます。もし、IDを見せたくないのであれば、それも1つの選択であり、複数のサイトで利用できると思います。
消費者が好むテクノロジーの3要素
●ジョナサン ジョシュさんは14年に渡ってフォレスターで消費者に関わる新ししいビジネスアイデアやテクノロジートレンドをリサーチされてきましたね。1990年代に消費者が社会的に力を持ち始めたことを立証したレポートや、8~9年前に音楽業界を崩壊させた音楽のP2Pシェアリングについてレポートをが印象に残っています。ソーシャルコンピューティングは、この流れの続きでしょうか? それとも、これまでとは異なるものですか?
●ジョシュ 1996年以来、私は消費者データをずっと調査・分析してきましたが、その間に複数のことを学びました。その1つは、「消費者の観点から物事を見てみるとこれからのトレンドが発見できる」ということです。そう考えてみると、ソーシャルコンピューティングはPCが消費者の生活に入って以来の長いトレンドのエンドポイントであると言っていいでしょう。このトレンドの裏側には、消費が好む新しいテクノロジーの姿が見えてきています。具体的には、消費者が好むテクノロジーとは、「他の人と結びつくことを可能にする」「情報をコントロールすることを可能にする」「生活が便利になる」という3つのことを可能にするものです。
●ジョナサン なるほど。では、新しいメディアが古いメディアを殺すことになるのでしょうか? 新聞は将来的に消えてしまうんでしょうか?
●ジョシュ 新聞が消える可能性がないとは言えませんが、ソーシャルメディアが新聞を殺すという言い方は間違っていると思います。新聞を殺すのは、広告や購読が他のメディアに移動していく流れです。ソーシャルというものによってメディアはもっとリッチになりますが、いつの時代においても権威のある信頼できるメディアは必要だと思います。
●ジョナサン 最後の質問ですが、再び本を書く計画があると聞きました。本当に紙の書籍でいいのですか? ソーシャルコンピューティングの動きはすごく早いので、本のような印刷されたメディアはソーシャルメディアの動きに追いつけないのではないでしょうか?
●ジョシュ 本は長期のトレンドのためのもので、重たい意味が含まれています。短期的なことばかりに集中しすぎると、大事なポイントを見落とします。ですので、本はまだ非常に大切な役割を持っていると思いますよ。だから、ブログだけでなく、本も読んでくださいね。
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