カスタマーエクスペリエンスで道は開ける~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論

国内19社のペルソナ利用事例にみる特徴と改善点

日本の企業とデザイン会社の合計18社に取材してわかったペルソナ利用状況を紹介します。
ジョナサン・ブラウン

[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン

フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。

主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。

このコラムを読んでくれているみなさんは、「ペルソナ」という言葉をすでに何度も聞いたことがあるでしょう。新聞記事などで他社のペルソナ事例などをご覧になった人はたくさんいるでしょうし、ウェブデザインのプロジェクトのために実際にペルソナを作ってみようと決めた人もいるでしょう。

しかし、数年前だったら、日本ではペルソナを知らない人が多かったでしょう。確かに、この2~3年の間に、日本市場で多くの企業がペルソナに関心を持つようになってきました。

その理由は何でしょうか? おそらく、

  • 今までのウェブ・デザインやマーケティングでは、どうも顧客を満足させることができていない
  • 定量的なリサーチだけ行うと、お客様を人としてイメージすることが難しい
  • 会社内の各部署でお客様のイメージがばらばらで、共通した顧客像がない

などの問題を感じる人が多くなってきたからでしょう。そして、そういう問題を解決するためのソリューションとしてペルソナが考えられ始めたようです。

私は昨年、日本企業のペルソナの利用状況を把握するために、ペルソナを使っている企業12社とペルソナを作っているデザイン会社6社にインタビューをしました。デザイン会社6社のうち2社は、かなり前からペルソナ作成の経験がありましたが、残りの4社は最近始めたばかりでした。デザイン会社によると、やはりここ最近、ニーズが急増したとのことです。もしかしたら、ペルソナが出てきたおかげで、自社のお客さまの理解に問題があることがわかった企業も多いのかもしれません。

さて、私が行ったインタビューでわかったことをいくつか紹介しましょう。

まず、日本でのペルソナの利用は、バラエティに富んでいることがわかりました。業界も幅広く、製造業、ソフトウェア業界、レジャー産業、政府などさまざまです。用途も、ブランド戦略、ウェブデザイン、社内コミュニケーションなど、多岐に渡ります。

日本におけるペルソナプロジェクト
会社名ペルソナの数ペルソナについて目的コメント
アサヒビール4ビールを飲んでいる30-50代の男性特定のブランドを志向する人と、しない人両方製品戦略
ブランド戦略
目玉商品の製品開発とマーケティング戦略
カルビー1若い女性製品デザイン若い女性向けのミニサイズのポテトスナックを新商品として発売
横浜市3学生
横浜市内で勤務している人
高齢者
Webデザインナビゲーション、コンテンツ、文字の見やすさを改善
市民満足度を向上
CSKホールディングス1社内ポータルを利用する社員ポータルデザイン社員のニーズに応えるために、ナレッジポータルを改善
大和ハウス工業1子供一人の家族製品デザイン
セールス・マーケティング
“Eddy’s House”をデザイン
新しいチャネルを利用し、270棟を販売
JIPDOのグッドデザイン賞を獲得
ダイヤモンド社2教師Webデザイン
コンテンツ作成
同社出版の本を利用している教師をサポートするためのWebサイトとコンテンツを作成
富士通3子供

先生
コンテンツ作成
Webデザイン
富士通のCSRのサイトのための一貫性のある使いやすいコンテンツを開発
はくばく2専業主婦
パートをしている主婦
Webデザインターゲットカスタマーとのエンゲージメントを高め、オフラインセールスを促す
IBM多数多様製品デザイン複数の国で行っている製品デザインのコーディネーション
インプレスR&D1Web担当者(雑誌購読者)Webコンテンツデザイン執筆者がターゲット購読者をすぐに理解できるようにする
コマツ3機械オペレーター製品デザインオペレーションの初心者、経験者、エキスパートをサポートするためのコントロールパネルのインターフェイスをデザイン
南都銀行42人の富裕層。1人はローン申込者
もう1人は普通預金口座利用者
ブランド戦略コミュニケーションと支店のデザイン。ブランド認知度を向上し、お客様に同銀行の魅力を伝える
岡村製作所(家具)3通院患者製品デザイン病院の待合室でのエクスペリエンス改善のため、患者を中心に考えた家具のデザイン
ビジネスソフトウェア企業(匿名)1中小企業の意志決定者社内コミュニケーション顧客に関する共通言語を作り、部門を越えて顧客のイメージを共有
グローバル・ソフトウェア企業(匿名)3中小企業の意志決定者コミュニケーション戦略中小企業において、ディシジョン・メーカーに対してのコミュニケーション戦略
家電メーカー(匿名)2社員人事戦略社内コミュニケーション戦略を開発
レジャー企業(匿名)3社員人事戦略社内コミュニケーション戦略を開発
レジャー企業(匿名)3主要なカスタマー・セグメントセールス・マーケティング時間の制約やペルソナ・コンセプトへの不信感のため、ペルソナを放棄
オンラインバンク(匿名)2投資家Webデザイン新しい投資向けサイトの立ち上げ
立ち上げ後、顧客のクレームはほぼなし
会社名ペルソナの数ペルソナについて目的コメント
ジョナサン氏によるレポート「ペルソナ・プロジェクトを成功させるために越えないければいけない13の課題(Thirteen Obstacles To Persona Success)」より。※印は、今回インタビューした企業

一方、米国では金融業界とソフトウェア業界が先行してペルソナを利用し始め、その後に自動車産業、製造業、BtoB市場、BtoC市場などに広まってきました。金融やソフトウェア、サービス業界では、“Experience is everything(エクスペリエンスがすべて)”であり、それで差別化を図るしかないので、いかにお客さまにいいエクスペリエンスを提供するかを考えるようになったのでしょう。また、用途においては、米国では社内コミュニケーションなどの人事関連にペルソナを使うことはめったになく、この点においては日本のほうが進んでいるようです。

しかし、日本のペルソナの出来が、まだまだ発展途上であることもわかりました。たとえば、ペルソナの記述は、読みやすく心に残るストーリーであるべきですが、ファクトイドが箇条書きになっているだけのものがよく見受けられました。また、写真も顔写真が1枚だけのものが多かったのです。

米国のベストプラクティスと比べて見ますと、その差がわかります。たとえば、クリティカル・マス社がパソコンメーカーのデル社のために作ったペルソナを見てみましょう。

写真を見ると、顔写真が1枚あるだけではなく、リサ・パークスさんの自宅、家族、そしてちょっと古いブラウン管パソコンモニターが表示されているので、見ている人がリサの生活レベル、家族への愛情、そしてパソコン通ではないことを一目で理解できます。

日本のペルソナ利用はまだ歴史が浅く、これからますます利用は増えていくでしょう。今回のインタビューにより明らかになった日本のペルソナ利用の課題を、「ペルソナ・プロジェクトを成功させるために越えないければいけない13の課題(Thirteen Obstacles To Persona Success)」というレポートにまとめましたので、ご関心のあるかたはぜひフォレスター・リサーチまでお問い合わせください。

◇◇◇

突然ですが、私は2009年3月に、フォレスター・リサーチの日本オフィスからロンドンオフィスに移籍しました。

とはいえ、これまでと同様に、日本のカスタマーエクスペリエンスの動向はウォッチし、このコラムも継続していく予定です。今後は、ヨーロッパのマーケティング動向などもお伝えしたいと思っています。また、定期的に日本に出張する予定ですので、ぜひイベントなどでみなさんと再会できることを楽しみにしています。引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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