企業にカスタマー・エクスペリエンスを作り出すトム・ソーヤの説得術
[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン
フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。
主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。
前回とその前のコラムでは、お客様を中心にしたデザインを実現するためのツール、ペルソナについていくつかのご質問に、2回にわたってお答えしました。
※1 「マルチチャンネルにおけるお客様のタッチポイント」とは、お客様がウェブサイトで注文したものを店舗で受け取って、その後コールセンターにサポートをお願いするようなビジネスモデルの場合を指す。
実は、ペルソナは米国では主流なデザインツールになっていて、ウェブデザインを行っている企業はもちろん、マルチチャンネルにおけるお客様のタッチポイント※1をデザインしている企業でも、その利用は増えています。なぜかと言うと、多くの企業が「カスタマー・エクスペリエンスは企業の差別化のために非常に大事である」と、最近ますます認識するようになってきているからです。
今回のコラムは、カスタマー・エクスペリエンスの観点から組織変化について少しお話ししたいと思います。
57%の企業がカスタマー・エクスペリエンスをうまくできていない3つの理由
フォレスター・リサーチが2006年に行った調査では、57%の企業がカスタマー・エクスペリエンスが会社全体でうまくできていないという結果がでました。
カスタマー・エクスペリエンスが重要性であると認識している企業が増えているにもかかわらず、なぜうまくそれができないのかをここでちょっと考えたいと思います。
大きな理由としては、次の3つのものが挙げられるでしょう。
- 企業の中の煙突組織
米国企業の75%が、「組織、部署間の連携」の難しさが、カスタマー・エクスペリエンスの大きな障壁になると回答している。
- 業界の中のトンネルビジョン(視野の狭さ)
お客様が何を求めているかではなく、競合企業が何をやってるかを見て、製品やサービスをデザインしてしまっている。
- 自分を中心にしたデザイン
お客様のためのウェブサイトではなくて、自分のニーズや好みに合わせてデザインしてしまっている。そもそもペルソナを作るのはこれを防ぐため。
増えている「CCEO」
――最高カスタマー・エクスペリエンス責任者
こういった3つの理由を解決するために、最近、多くの米国企業が役員レベルのカスタマー・エクスペリエンス担当責任者として「CCEO(Chief Customer Experience Officer)」を組織の中に入れるようにしています。
実は、日本でも同じような動きをしている企業がありました。つい最近、私がインタビューした食品会社では、カスタマーセンターという小さな組織を作って、その中に通信販売、お客様相談室、広報など、ばらばらだった組織を1つにまとめたようです。そして、今後は、会社のすべての部門がそれぞれの言い分を主張するのではなく、あくまでもお客様の満足度アップができるためのまとまった方向で動くために、カスタマーセンターが各部門の動きの改善に取り組み始めたようです。
2006年にフォレスターが米国で行ったインタビュー調査では、「今後3年間において、カスタマー・エクスペリエンスはあなたの会社の競争力にとってどの程度の役割を果たしますか?」という質問に対し、「絶対不可欠」だと答えた企業は38%、「非常に重要」だと答えた企業は47%という結果がでました。85%の企業が、カスタマー・エクスペリエンスは大事な役割を持つと考えているわけです。
また、2007年の調査では、44%の企業が、カスタマー・エクスペリエンスを担当している役員レベルの人(CCEO)が会社にいると答えました。大企業の中では、CCEOはすでに主流なポジションになっているのです。ちなみに、2006年に同じ質問をしたときは29%でしたので、ここ最近でカスタマー・エクスペリエンスの役割が大きく重視されてきたことがわかります。
CCEOの役割は顧客中心文化の醸成
では、このカスタマー・エクスペリエンスを担当している役員(CCEO)は実際にどういうことをやっているのでしょうか?
まず大事なことは、CCEOの役割は、CCEO自身が行動してお客様の満足度を向上させることではないということです。あくまでも、お客様のことを考えずに仕事をしている社員たちがお客様のために働くように促すことがCCEOの役割なのです。
ある意味では、CCEOの役割は、トム・ソーヤの冒険のあるエピソードで表されるかもしれません。
トムがある日、悪いことをしたため、罰としておばさんの家の周りのフェンスのペンキ塗りをさせられることになりました。
トムは周りの友達に、「大事なおばさんのために仕事をすることがどれだけ楽しいか」を説明しました。
そうすると、みんなは、楽しみながらトムのペンキ塗りを手伝ってくれるようになったのです。
このように、CCEOはさまざまな工夫やテクニックを使って、お客様の重要性やお客様が満足できていない点を組織に説明し、改善の必要性を説くことが必要です。その手法としては、ペルソナだけでなく、VOC(Voice Of the Customer Program、顧客の声プログラム)など、さまざまなテクニックがあります。VOCについては、また別の機会にご紹介したいと思います。
これから日本でもこのCCEOのポジションがもっと見えてくると思います。
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