今日は、アクセシビリティについて。アクセシビリティというと、多くのWeb担当者が「うちの会社は大企業でもないし公共機関でもないので、関係ない」と思うかもしれません。アクセシビリティは「コスト」であるととらえられていることが多いでしょう。しかし、視点を変えれば、そこに「チャンス」もあるのです。
念のために確認しておくと、「Webアクセシビリティ」とは、身体障がい者や高齢者などにとっても使いやすいWebサイトにするための考え方や方法論のことです。一般の言葉でいうと「バリアフリー」や「ユニバーサルデザイン」というとわかりやすいでしょう。
具体的には、視覚に障がいのある人はWebページを読むのに「音声読み上げツール」の類を利用しますが、見出しや図を画像として作っていると、プログラムは画像内のテキストを理解できないので内容を把握できないことになります。そういった場合に画像のalt属性などを利用して読み上げツールでも内容を理解できるようにするのがアクセシビリティです。最近増えてきた「大きな文字で表示する」機能は、高齢者でもページを見やすくするアクセシビリティ機能です。
Web担でも扱っている「Webユーザビリティ」の多くは、健常者にとってのWebサイトの使いやすさの方法論です。しかし、目が見えない人、色の違いを認識しづらい人、マウスをうまく使えない人、小さな文字を判別しづらい人などにとって「使いやすい」ようにするには、また別の配慮が必要になるのです。そういった意味では、アクセシビリティはユーザビリティの一部分だと考えるのがいいでしょう。
さて、2008年3月に厚生労働省が発表した「平成18年身体障害児・者実態調査結果」という調査データによると、Webアクセシビリティに関連する身体障がい者の数は、次のとおりでした。
18歳以上 | 18歳未満 | |
---|---|---|
視覚障がい | 31万人 | 4900人 |
肢体不自由 | 107万4000人 | 4万2100人 |
また、高齢者に目を向けると、65歳以上人口(老年人口)は2567万人(総人口の20.1%)です(2005年の国勢調査による)。
アクセシビリティというと、多くの企業では「手間」「コスト」だと考えられることが多いものです。しかし、アクセシビリティに配慮することで、これだけの数の人とWebを通じてコミュニケーションできると考えてみてはいかがでしょうか。
現状では民間企業の多くはまだまだアクセシビリティへの対応が遅れているのが現状です。そういった状況であなたの会社のサイトがアクセシビリティに対応すれば、「あの会社はわかっている」と、障がいをもつ方がファンになってくれるのではないでしょうか。つまり、アクセシビリティに対応して、そのことを周知することが、「コスト」ではなく「チャンス」になるのです。
前出の「身体障害児・者実態調査結果」から、現状で障がいのある方がどれくらいWebを使っているか見てみましょう。
視覚障がい | 肢体不自由 | |
---|---|---|
一般図書・新聞・雑誌 | 26.9% | 61.8% |
ホームページ・電子メール | 6.6% | 9.1% |
テレビ(一般放送) | 66.0% | 82.6% |
視覚障がい | 肢体不自由 | |
---|---|---|
毎日利用する | 7.4% | 9.1% |
たまに利用する | 5.0% | 7.5% |
ほとんど利用しない | 3.2% | 4.0% |
全く利用しない | 72.6% | 64.9% |
回答なし | 11.9% | 14.5% |
まだまだ利用は少ないのが現状です。逆にいうと、それだけ、障がいのある方には現在のウェブは使いづらい状況だということを示しているともいえます。読売新聞でも、2009年1月に「読み上げソフト 対応まだまだ」という記事で、アクセシビリティへの対応が地方自治体のWebサイトでも遅れている部分があることを指摘しています。
超高齢者社会となった日本で、多くの企業がWebアクセシビリティに対応していくことで、さらにウェブの世界が良くなり、ひいては市場を拡大できるのではないでしょうか。
たとえば、昨年のWeb担オフラインミーティングに参加されたNPO法人ハーモニー・アイさんは、「だれでもが使える情報コミュニケーションを目指して!」をキーワードに、視覚障害者や高齢者がモニターとなってのWebサイトユーザーテストや、アクセシビリティの研修や講習をするいっぽう、高齢者や視覚障がい者向けにパソコン教室を開いています。
また、以前にワールドワイドウェブコンソーシアムが発表したWCAG 2.0のことをお伝えしましたが、日本のJISで制定されているWebアクセシビリティ「JIS X 8341-3」も、WCAG 2.0をほぼそのまま採用する形で2009年秋に改訂される予定です。それに関して、ロクナナワークショップが「JIS X 8341-3」草案を徹底研究するセミナーを2009年2月17日に開催します(インフォアクシアの植木真氏による講演)。
世の中がまだまだアクセシビリティに対応していない現状だからこそ、ふつうにアクセシビリティに対応することが、そのまま企業にとってチャンスになる、と考えてみるのはいかがでしょうか?
- 平成18年身体障害児・者実態調査結果
→ http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/shintai/06/dl/01_0001.pdf - 平成17年国勢調査
→ http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/index.htm - 読み上げソフト 対応まだまだ(読売新聞)
→ http://www.yomiuri.co.jp/iryou/kyousei/saizensen/20090113-OYT8T00539.htm - NPO法人ハーモニー・アイ
→ http://www.harmony-i.org/ - ・植木真のWebアクセシビリティはこう変わる!
~2009年改定 JIS規格「JIS X 8341-3」草案を徹底研究する180分~
→ http://event.67.org/accessibility/
この記事は、メールマガジン「Web担ウィークリー」やINTERNET Watchの「週刊 Web担当者フォーラム通信」に掲載されたコラムをWeb担サイト 上に再掲したものです。
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