初代編集長ブログ―安田英久

笑って読める「仮説ってこういうこと」/書評『笑うマーケティング』

Web担のなかの人

今日は、最近読んでおもしろかった本から『笑うマーケティング』を紹介します。

マーケティング関係の書籍は小難しい、数字やグラフや図説が入ったものが多いのですが、この本は、まったく違う方向で、さらっと読めます。

笑うマーケティング
笑うマーケティング
竹中 雄三 著
NTT出版
1,575円

本書『笑うマーケティング』は、マーケター向けの書籍ですが、筆者の竹中氏が狙っているのは、タイトルどおり、笑って楽しめるマーケティングのエンターテインメント。

マーケティングのメソッドも、消費者調査データも、小難しい理論もありません。全編にわたって、1950年生まれという竹中氏のふだんが想像できる親父ギャグが展開されています。竹中氏のマーケ視点が数ページ完結の形で語られているいので、電車の中で読むのに適切なのですが、思わず吹き出したりニヤリとしたりするという点では、電車向きではないかもしれません。

というと、ただおもしろいだけのネタ本かと思われそうですが、本書を通して竹中氏がおもしろおかしく伝えてくれているのは、「仮説」。

マーケティングの世界でよく言われる消費者視点とは、商品の送り手側から言えば、主観と客観を逆転させる技術なのです。暗闇から不意に襲ってくるエイリアンは人間の眼から見たらそれは恐ろしい存在でしょう。ところが、エイリアンの視点で映画を作ったら、圧倒的に強い自分たちに何も恐いものなどないのだから、地球外生物一家の、のんびりした母子ものの映画になるかもしれません。

どのテーマについても、こういったおもしろい視点で仮説を展開しているのですが、「仮説」というテーマを頭に置いておかなければ、落語家が噺のマクラでしゃべっている小咄かというくらいさらっと読めてしまいます。

とはいえ、筆者は老獪なマーケター。徹底的なジョークのオブラートに包んで、マーケの本質を突いています。個人的に思いっきり頷いてしまったのは、CRMに関するトピックの次の部分。

あなたは真面目ですねと言われると、人間のスケールが小さいですねと言われたような気がしてむっとする場合があるだろう。カレーが好きですね、と言われると鮨が食べたくなる。そのくせ頑固親父の店に通って、今日はこれを食え、食わない奴は客じゃないからとっとと帰れと言われると喜んで食ったりする。どうやら人間が真面目に規則的な行動をするという前提で大量のデータを収集分析するのには限界がありそうだ。

十人十色から一人十色、中には色のない人もいる。人間は謎に満ち矛盾だらけの存在である。少なくとも自分ではそう思っていたい。CRMにおける人間行動の解析が進めば、それすらも計算できるようになるかもしれない。

他のトピックも、「10%君が好き」「気配り絶対音感」「アカンタレ兵衛」「褌(ふんどし)キャリア説」「おばさんは止まらない」「カリスマとカリソメ」など、タイトルのふざけ具合と本文のおちゃらけ具合との対照を楽しませるかのように、マーケ的視点での仮説を考えるフローが紹介されている良書。

本書は、マーケティング担当の人だけでなく、ビジネスに携わるどんな人でも楽しめる内容で、読んでおく価値があるといえるでしょう。

最後のほうになると、筆者の執筆疲れからか、ジョークでまとめるスタイルが少し普通の文章っぽい感じになっているのもご愛敬。お気軽に電車で読んでみてはいかがでしょうか。

この記事は、メールマガジン「Web担ウィークリー」やINTERNET Watchの「週刊 Web担当者フォーラム通信」に掲載されたコラムをWeb担サイト 上に再掲したものです。

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