ライバルには教えたくないキーワード広告の勝ち組戦略
~成果を出すための達人の思考とノウハウ
日本に上陸してからオンライン広告のあり方を大きく変え、検索エンジンからの集客手段として当たり前となった検索連動型広告。多くのマーケティング担当者がその重要性を理解している反面、そのメリットを十分に活かせていないのが現状だ。いま、広告主には変化が求められている。検索連動型広告を運用する上でマーケティング担当者が成すべきこととは何か、改めて探っていこう。
泉 浩人(株式会社ルグラン)
「パーソナライズ」の先にあるもの
今年4月に発表された電通総研の予測(インターネット広告費予測調査結果(2007-2011))によれば、検索連動型広告の市場規模は2010年には2,000億円を超えるとみられている。グーグルやヤフーなどの検索エンジンは、いまや巨大な「広告媒体」となっており、検索エンジンを利用するユーザー(検索ユーザー)をより多く獲得して広告媒体としての価値を高めることは、グーグルやヤフーの業績や株価にも直結する重要な経営課題となっている。
なかでも、検索ユーザーが探し求めるコンテンツを検索結果として適確に表示させることは、検索ユーザーの支持を得るための「王道」であり、そのために検索エンジンは、個々の検索キーワードに対して最適な結果を表示させるためのアルゴリズムを進化させることに心血を注いできた。
今年の7月からは、ヤフーの子会社となったオーバーチュアが提供する検索連動型広告における掲載順位の決定方式が変わり、クリック率が高ければ、クリック単価が低くとも上位に掲載されることが可能となった。これも、多くの検索ユーザーの「支持(=クリック)」を得たキーワード広告を上位に表示させることで、検索エンジンの価値をより高めることができるという考え方にもとづくものである。
こうした検索結果を最適化するための努力の最たるものが、グーグルやヤフーが相次いで導入している「パーソナライズ」検索である。これは、検索キーワードに託された不特定多数の検索ユーザーの意図を最大公約数的に推し量るよりも、個々の検索ユーザーの趣味や嗜好を理解してしまった方が、より簡単に、かつ適切な検索結果を表示できるというものである。
パーソナライズの進化が与える広告価値への影響
では、パーソナライズ検索が普及することによって、検索行動にどのような変化が訪れるのだろうか。
たとえば、「DVD」というキーワードで検索しているユーザーの中には、DVDのタイトルを探している人や、安いDVDプレーヤーを買いたいと思っている人、あるいは家の近くのDVDレンタルショップを探しているもいる。これらの人々を同時に満足させる検索結果を表示することは非常に難しいが、それぞれの人に別々の検索結果を表示させることができれば、こうした問題は簡単に解決できる。
さらに、先ほどまではDVDのタイトルを探していた人が、お目当てのタイトルが見つかったので、今度は近くのレンタルショップを探すというように、同じ検索ユーザーでも、時間の経過と共に検索の意図や目的は刻々と変化する。こうした変化までをとらえようとする試みが「行動ターゲティング」であり、これについても、すでにグーグルやヤフーはサービスの提供を始めている。
こうした検索エンジンの「パーソナライズ」が高度化すればするほど、検索結果には、個々の検索ユーザーの望むサイトやコンテンツが表示されるようになる訳だが、そのとき、検索ユーザーは果たして、同じページに表示されている「広告」に対して、どれだけの注意と関心を払うのだろうか。パーソナライズの技術が進化し、ユーザーが望むコンテンツが検索結果の上位に自然と表示されるようになったとき、検索エンジンは広告媒体としての価値を下げてしまうというジレンマに陥る可能性はないのだろうか。
2010年のグーグルから読み取るユーザー視線の変化
偶然にも、先に挙げた筆者の疑問に真正面から答えるセッションに、8月に米国のサンノゼで開催された検索関連の大規模イベントであるSearch Engine Strategies(SES)で参加することができた。それは、検索ユーザーの視線の分析に基づくユーザビリティ調査(アイトラッキング)で知られるEnquiro Search Solutions社によるもので、SESのホスト役でもあるDanny Sullivan氏やグーグルのプロダクト担当副社長Merissa Mayer氏など業界関係者10人の意見をもとに、パーソナライズが進んだ2010年のグーグルの検索結果のページを予測した(図1)。
- (A)検索連動型広告
- (B)パーソナライズされたアルゴリズム検索
- (C)ローカル(地域)検索
- (D)ショッピングサイトへのリンク
さらに、図1のグーグルの検索結果を被験者に見せたときの視線の動きを検証した結果が報告された(図2)。
この2つの検索結果ページは、「iPhone」という検索キーワードに対する検索結果を想定して作成されているが、検索連動型広告はページの上部に配置されているにもかかわらず、検索ユーザーの視線の獲得率としては10%少々にとどまっている。一方、パーソナライズされたアルゴリズム検索の結果が多くの視線を集めており、ローカル検索と合わせると50%以上の視線を獲得している。
ちなみに、アルゴリズム検索の結果には、iPhoneの購入を検討しているユーザーを想定し、iPhoneを購入したユーザーの評価などが掲載されたサイトが集中的に掲載されており、ローカル検索の結果には、検索ユーザーの所在地近辺でiPhoneを購入できるショップが地図と共に表示されている。
なお、日本のグーグルの検索結果におけるユーザーの視線を分析したものについては、6月にSEM総合研究所がアイトラッキング調査を発表している。
つまり、検索ユーザーの目的や指向にあわせて「パーソナライズ」された検索結果は、ページ上部に表示された検索連動型広告を上回る注目を集める可能性があるという結果となっている。もし、こうした変化が現実となる場合、広告主としては、検索連動型広告の上位掲載を目指すだけでなく、サイト上に購入者のレビュー情報を掲載したり、ローカル検索へのSEOに取り組んだりするなどの対策を講ずることも重要となる。
リッチメディアが多くの視線を獲得
また、検索結果のページにおけるユーザーの視線に変化をもたらすもう1つの変化として、検索結果ページの「リッチメディア化」も挙げられる(図3)。
これは、現在のグーグルで実際にiPhoneを検索したもので、検索結果の一部として写真が表示されている。このとき、写真はページの中段に表示されているにもかかわらず、多くの検索ユーザーの視線を集めており、しかも、そこから視線は下位の広告に向かうという動きを示したため、ページ上位に表示された検索連動型広告は余り視線が向かわなかった。
もちろん、個々の検索結果に画像が含まれるかどうかをあらかじめめ予測することはできず、広告主として対策を立てることは難しい。だが今後、検索エンジンが検索結果のリッチメディア化を進めるにあたり、貴重な収入源である検索連動型広告の表示位置や方法を大きく変えてくる可能性は十分にあり、広告主としては今後起こり得る変化について、アンテナを高く張っておくことが重要である。
広告主が考えておくべきこと
これらの調査はあくまでも「予測」に基づくものであり、実際のところ、3年後の検索エンジンがどのようになっているのかは、そのときになってみないとわからない。しかしながら、広告主としては、「パーソナライズ」技術の進化が、将来のSEO/SEMのあり方にも大きな可能性を与えることは認識しておくべきであろう。
少なくとも、以下のような変化が訪れる可能性があることは認識しておこう。
- 検索結果にも「リッチメディア」化の波が押し寄せる中、検索ユーザーの視線の動きは左上に集中するというこれまで信じられてきた「法則」も大きく変わる可能性がある。
- 検索エンジン側も、検索ユーザーの視線の動きに合わせ、貴重な収入源である検索連動型広告を掲載の場所や方法を大きく変更する可能性がある。
今後、進展が見込まれる「パーソナライズ」検索に適したSEO/SEMの対応を講ずることができるよう、常に最新の情報収集を心がけるようにしたい。
なお、今回ご紹介したEnquiro Search Solutions社の詳しい調査結果(英語)は、同社のホームページからもダウンロードできる。 br>Enquiro Research:Search Engine Results:2010
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