コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の四十弐
ミクシィより少ない参加者
インターネット上の仮想空間「セカンドライフ」が一般のメディアで取り上げられるようになりました。セカンドライフの中で行われた「ダイ・ハード4.0」の試写会を「めざましテレビ」の軽部アナウンサーがアバター(自分のキャラクタ)で取材したり、日本テレビでは番組の収録(汐留島)を始めるといいます。
誰もが仮想3Dの世界で活動することができ、商売も行えることから新たな「世界」と注目されています。
利用者が増えたことで、企業の「広告媒体」としても急浮上しました。しかし、日本人利用者は約2~3%とされ、2007年9月26日現在の利用者970万人からみると最大でも29万人です。
少ない数字ではありませんが、ほぼ国内の利用者で占められるミクシィの1000万人と比べると色褪せて見えます。
疑問符がつき始めた仮想世界
9月17日の日経新聞の記事「セカンドライフ、企業が活動模索」で「利用者は伸びず」という小見出しを見つけました。来店者が増えないのが進出企業の悩みと紹介します。
続々と参入する企業のプレスリリースは何百メートルのビルを建てるといった「ハコモノ」が目立ちますが、客が集まらなければ廃墟物件となるだけです。
失敗するホームページは「集客」という概念がなく、商売でもっとも難しいのが「集客」です。
あまり知られていませんが大企業は集客が苦手で、東京お台場という「媒体」をもつ大企業でも、収録番組の観覧者が集まらずにイベント会社経由でバイトを雇うことがあります。
アメリカという担保
それでは大企業が参入する理由を考えてみます。
CMにタイアップ、雑誌企画といったお金をかけた「見かけ上の成功」と、「失敗は語られない」ことから触れられませんが、大企業のウェブの成功例は多くありません。一方、グーグルのような「独自技術」を持たない中小零細企業が、メルマガにブログ、SNSという「アメリカでの成功」を輸入して成功したという例は珍しくありません。
横目にして歯がみしていた大企業が見つけた「アメリカ」がセカンドライフです。
土地神話は今も不滅
バブル経済が破裂するまで、日本には「土地は下がらない」という「神話」がありました。狭い国土と、戦後地価が上昇し続けたことによります。バブル経済の加速は神話から「将来買えなくなる」という焦燥が煽りました。
企業にとって「土地を買う」ことはわかりやすい経済活動で、セカンドライフでも土地は早い者勝ちで、リアルな土地から較べれば「はした金」で購入できます。
バブルを中途半端に知っている世代にとって「値上がりする前」という耳打ちは殺し文句です。
歴史は螺旋階段を辿る
「アメリカでの成功」といえば、ポータルサイトやショッピングモールがありますが、大成功を収めたのは、ベンチャー時代の「ヤフー」や「楽天市場」で大企業ではありません。ここからも「リベンジ」というキーワードが浮かんできます。
土地神話は「ドメイン名」や「バナー広告」が急騰したときと重なります。ドットコムバブルの象徴「Business.com」(史上最高額で取り引きされたドメイン名)を例に挙げてドメイン名の取得を急がせたり、「バナー広告は今後値上がりするので早めに抑えて」という代理店の話を思い出します。
歴史は螺旋階段のように同じ軌道をぐるぐると廻ります。
「大人買い」という得意技
わかりやすさもヒットの条件です。
ブログやSNSはお金を使っても効果が得られるとは限りません。大企業の炎上ブログという例もあります。
一方、セカンドライフでは「リンデンドル」にモノをいわせることができます。通貨である「リンデンドル」はリアルな米ドルと交換できるので、いわゆる「大人買い」だって思いのままです。RPGの経験値のような独自ルールではなく、マネーパワーで戦える市場はわかりやすいのです。
また「ホームページが失敗する理由」でも触れましたが、オジサン達は動くものが好きです。しかも3D。口の悪い関係者は「社長そっくりのアバターを作って動かせばいちころ」と自慢気に語ります。
不完全な自由を好む国民性
「シムシティ」は自分の街を発展させていくアメリカ生まれのゲームで与えられた目的はありません(シナリオモードは除く)。醍醐味は「自由」に街作りを楽しめるところですが、ゲーム大国日本では知名度はあまり高くなく、説明しても目的がないことが理解しがたいようです。制服が廃止された高校で「標準服」を着る生徒が多いことからも、日本人は「完全な自由」が苦手なのかも知れません。
ミクシィの大ブレイクも、年齢も性別も環境も超えることができるネット空間ではなく、SNSの地続きな「不完全な自由」は日本人向きだったのでしょう。大学生のマイミクを辿ると大学生が続くようにです。
勝手にルールを作っていくアメリカ文化から生まれたセカンドライフの、「何でもできる世界」で目的を持たない日本人は迷子になります。
2.0ぐらいがちょうどよい
セカンドライフの可能性はその自由さであり、日本人が苦手とする分野です。だから「不自由」がブレイクスルーになるかも知れません。たとえば中間管理職の板挟みを体感できるコミュニティ「The係長」や、リンデンドルでのチャリティ……と思ったら、こちらは活発に行われているようです。目的があると日本人の行動は的確で迅速です。
資金も人手もない中小企業の「商売用」としての私の見解は「時期尚早」です。3Dの仮想世界よりもHTMLのホームページに注力する方が簡単に商売に結びつくからです。今はユーザーとして楽しむに留めるべきで、「2.0」ぐらいになってからでも充分間にあいます。
それでは大企業に相談されたら? もちろん「全力買い」を薦めます。「セカンドライフ支社」にWeb担当者を「転勤」させるぐらいの「全力」でと。
すると必ず成功します。ネットでの儲け方の定石に従えばですが。
♪今回のポイント
中小企業ならセカンドライフ2.0ぐらいで丁度良い。
ウェブの歴史は螺旋階段のように繰り返す。
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