PCの前に座っている「セカンドライフ」のユーザーは、オンラインゲームにログインしているのと同じような状態に置かれる。ただし、ゲームのようにストーリーやクリアすべきミッションがあるわけではない。ユーザーが好きな格好をして好きなときに好きなところへ行って好きなことをすればいいという点が、ゲームとは大きく異なる。
ゲームではないにしろ、3D画像の世界を歩き回るというバーチャル世界が、なぜビジネスで利用できるかもしれないという期待を持たれているのか。当初はITリテラシーの高い個人の趣味人のものだったブログやSNSが、今ではさまざまな手法でのマーケティングに利用されているのと同様のことが起こると考えられているからだ。
ユーザーが作り上げていく3D空間はプロモーションに使えるか
環境はオンラインゲームだがストーリーもミッションもない
ゲームと違って何でもできると言っても何ができるのか、まずは基本的なことをおさえておこう。セカンドライフ内の地域のことは「シム」と呼ばれる(シミュレーターの略)。これは、当初は1台のサーバー(シミュレーター)が1つの地域全体を受け持っていたことからきている。ユーザーは「アバター」と呼ばれる自分の分身である3D画像の登場人物となってこのシム上に存在する。アバターの外見は自由に変えられるが、自由に作り出せるのはアバターの外見だけではない。セカンドライフ内では何でも作れるのだ。何かを作る(3Dの作画を行う)場合、「プリム」(プリミティブの略)と呼ばれる立方体や球体、円柱体など基本的な図形を組み合わせる。いくつかのプリムがリンクされたグループを「オブジェクト」と呼ぶ。これに色や絵柄をつけたりスクリプト言語によって動きを与えたりといったことをして、さまざまなものをセカンドライフ上に発現させることが可能なのだ。
参加者は、ゲームで遊ぶのとは違い、自分で好きなものを作り出せる点がセカンドライフの大きな特徴だが、何も作らずにただ見て回る、あるいは出会った他のアバターと会話をするだけという楽しみ方もできる。これは、ブログやSNSで何か書くのが楽しみの人と、もっぱら他の人の文章を読んでまわってそこにコメントをつけるのが楽しみの人がいるのと同様だ。
3Dオブジェクトだからもっとリアルに感じられる
プロモーション用のウェブサイトでカタログを掲示したり動画を配信したりするのと同様に、セカンドライフ内でプロモーション用の3D画像を展示することができそうだというのは、ここまでで想像がつくだろう。何種類かのプリント柄のTシャツを展示して、どれが一番人気があるか調べるといったようなことは、簡単にできる。さらに、セカンドライフ内のオブジェクトはアバターが実際に着てみることや手にとって動かしてみることができる。あるいは、アバター店員に接客させることもできるのだ。
また、ゲームと違ってリンデンラボはルールなどは一切強制せず、場を提供しているだけだ。つまり、サービス提供側とユーザーの間に立場としての上下関係は存在せず、ユーザーの主体的な働きかけによって場が生成されるという意味において、セカンドライフは「ウェブ2.0的である」と言うことができるだろう。それに加えて、文字だけでなくモノをインタラクティブに動作させるなどして、アバターの身振りなどを加えた密度の濃いコミュニケーションができるのが、セカンドライフの世界だ。
ウェブURL | http://secondlife.com/world/jp/ |
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提供している企業 | 米リンデンラボ(リンデンリサーチ社) |
参加の方法 | 高速インターネットとCPU 800MHz以上メモリ256MB以上のPCに高性能グラフィックカードが必要だが、オンラインゲームができる程度の環境だと考えればいい。公式ウェブサイトからユーザー登録をしてセカンドライフのソフトウェアをダウンロードすれば、「ベーシック会員」としてセカンドライフを無料で体験できる。自分の家を持つとか自分の店を持つためにセカンドライフ内に土地を所有する(物理的にはサーバーをレンタルするということ)場合には、「プレミアム会員」になる必要がある。 土地の所有以外に2種類の会員タイプで体験できることの違いはない。また、月1,000円~1,500円程度で土地をレンタルしている業者もあるので、ベーシック会員がそこから借りることも可能だ。 |
必要な費用 | ベーシック会員は無料。プレミアム会員は月額9.95ドル(2007年5月現在)の費用がかかる。プレミアム会員の土地所有権は512m2まで認められているが、それ以上所有したい場合は、面積に応じて課金される。512m2で5ドル、シム全体なら195ドルといった価格帯になっている。 |
ユーザーができること | セカンドライフ内で出会った他のユーザー(のアバター)とチャットやインスタントメッセージで会話できる。 それ以外にも、スキルさえあれば何でもできる。ユーザー自身の分身であるアバターの容姿を変えることも、衣服や乗り物などを作ることも、3Dの作画能力があれば思うまま。作画用ツールは提供されているが、自分で作れなくても、だれかが作ったものを買うこともできる。その際に利用するのは「リンデンドル」というセカンドライフ内の仮想通貨であり、これは現実のお金でリンデンラボ社から購入する。あるいは、セカンドライフ内でイベントをこなして入手する方法もある。 |
著作権 | 通常のオンラインゲームでは、ゲーム内のアイテムやコンテンツの著作権はゲーム提供会社が所有しており、ユーザーが勝手にアイテムを作って著作権を主張したり売買して利益を得たりすることはできない。しかし、セカンドライフでは、個々のユーザーが自分の作品である3Dオブジェクト(衣服や乗り物など何でも)の著作権を所有し、それでビジネスを行うことができる。リンデンラボ社では、それを推奨してもいる。つまり、リンデンドルをリンデンラボ社から購入する以外に、セカンドライフ内でビジネスを行うことにより自分のリンデンドルの所有額を増やすことができるのである。 |
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リアルマネートレード | セカンドライフ内で流通する仮想貨幣リンデンドルは、現実の米ドルに交換可能だ。その交換レートは現実社会の為替レートと同様の変動相場制。日本円への交換についてはまた明確な基準がない。 |
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウ Vol.6』 掲載の記事です。
コメント
煽るのはたいがいにしたらどうですか?
雑誌を売る。Webのページビューを売りたいのはわかりますが、
知らなくても全然大丈夫。だって1年後には「無いから。」
全世界で同時アクセス高々4万人がメディアって言えるのか?
なにかを「リード」したいんだよね。このWebは。
1年後に何を言っているか興味深い。
何を目的にセカンドライフに参入するのか
編集部の安田です。コメントありがとうございます。
続く3つの記事を読んでいただければ、全体として伝えたいことを理解していただけると思いますので、「なんだ、煽りかよ」じゃなく、「ふむふむ」と目を通していただけると、ちょっと違った視点でセカンドライフを見てもらえるのではないかと思います。
とはいえ、この記事が出た時点ではまだ他の3つの記事は公開されていないわけですから、こういったご意見が出るのはもっともだと思います。
編集部としても、オンラインでの記事の出し方をもう少し慎重にして、こういった誤解が起きないようにしていきたいと思います。
>
> だって1年後には「無いから。」
つまり「少なくとも1年間は儲けられるかも」ってことですね。
「1年くらいだろうな」と心得たうえで参入するなら、なかなかいいチャンスでは?
> 全世界で同時アクセス高々4万人がメディアって言えるのか?
この数字がいちいに“低い”とは言えない。メディアとして利用価値があるかは相対的なもので、目的と対象が何かによる。
しかも、“同時”であることを重要視すべきかは、人それぞれ。
ただ、加熱しすぎで辟易する気持ちも、よくわかるけど。