コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の四十壱
「世論」に反映されない人々がいる
ニュースなどで「インターネットによる調査では」と目にすることが多くなりました。調査は「ネット調査(リサーチ)会社」に委託され、登録モニターの回答がネットを通してリアルタイムで集計されます。年齢や性別・職種といった属性毎に絞り込んだ調査を、瞬時に低コストでできるのが魅力です。
しかし、中小企業の「商売用」の立場に立てば、ネット調査には慎重であるべきです。前回の「みんなの意見」で指摘した前提条件による「揺らぎ」があり、利点と欠点を併せ持つ諸刃の剣だからです。
正しく使えばネット調査はビジネスを強力にサポートしてくれます。しかし、メディアが「世論」と紹介するのには首をかしげてしまいます。
ネット調査に含まれる偏差
ネット調査会社のモニターに登録すると、募集中の調査を紹介する電子メールが届き、そこからサイトにアクセスしてウェブ上で回答します。PCからのネット接続で回答することがモニターの条件で、携帯電話から回答できる調査会社もありますが少数派です。次に述べますが、「PC経由」での取りこぼしは見逃せない水域に差し掛かっています。
高齢化社会故の世代分布も見逃せません。厚生労働省は、今年初めて100歳以上の人口が3万人を突破したことを発表しました。80歳以上では700万人を超え、65才以上の「若手」まで含めると人口の21.5%にまで達する中でのインターネット利用者はどれくらいいるのでしょうか。
報道での「世論」では、高齢者は蚊帳の外だとしたら……切ない話です。
「みんなの意見」ならケータイの時代
「SNS、携帯での閲覧拡大」と9月11日の日経新聞が報じました。SNS国内最大手のミクシィでは携帯からのアクセスが、PC利用の8割に相当するとあります。モバオクにモバゲーと携帯サイトを運営するディー・エヌ・エーが7月に純利益を上方修正したのも、携帯アクセス増加によるものです。
どちらもネット利用が携帯電話経由にシフトしていることを表しています。
携帯電話でことが足りてしまう層が、ホームページのターゲットにしている顧客層と重なるならば事態は深刻です。
ホワイトプランの方が気になる
携帯電話は「主婦」の大切なコミュニケーションツールです。お昼前の児童公園に行けば、子供を片目で追いながらメールを打っている姿を見ますし、ティータイムの「ガスト」に行けばパート先の愚痴をこぼしながら届いたメールをチェックしている光景に出会います。
PCの利用頻度を主婦に尋ねると「旦那はやるけど私はやらない」や、勤めている方からは「仕事では使うけど」という声が聞かれます。一方、携帯はほぼ全員が活用していました。
節約好きな私の妹に「PCなら(実質)メールは無料」と教えても、ソフトバンクのホワイトプランのほうが気になるようです。彼女の家には義弟が自作したPCに加えて、常時接続のインターネット環境もあるのですが、「なんとなく(PCは)面倒くさい」と興味がないようです。
ネット調査には反映されない消費者です。
調査結果はいつもイケイケ
この10月からの衣替えに備えて、日経新聞が読者モニターを募集しました。「暮らしについてのさまざまな調査」の為のモニターです。参加資格は「PCからインターネットに接続していること」とあります。
パソコンの電源を入れることが日常生活に組み込まれている人がどれくらいいるでしょうか?
今、若年層で「PC離れ」が起こっているといいます。そして主婦の「面倒くさい」も、ブラウザとメーラーに通信装置も組み込まれた「携帯電話」ですべてを満たすことができるからです。近々、キャッチアップされるかもしれませんが、現時点ではネット調査には「拾われない声」があるのです。
また、商売用で向き合ったときには「ネットの匿名性」は無視できない問題として浮上します。個人情報を登録したモニターの回答でもです。リサーチ好きなコンサルタントの頭を殴りたい衝動に駆られる好著「できない人ほど、データに頼る」に秀逸な一文があったので紹介します。
「生活者は調査には積極的だが、購入には消極的だ」
実社会での立場や責任のない仮想空間では、より顕著となることを覚えておいてください。
モニターというワーキングプア
現在取り上げられている「声」を見てみます。
ある調査会社に登録しているモニターを取材しました。質問が10問あれば約1分で回答し3円(相当のポイントで支給。内容や質問で変わります)の報酬です。時給換算180円ですから、暇つぶし代わりに適当に答えて月に1,000円程度といいます。
回答次第で次の質問が変わっていく「インタラクティブ」なものにはバイアスがかかります。回答数と報酬は比例するものが多いことから「その後の質問が多そうな答え」を選んでいくのです。
調査会社によっては作為的な回答を「無効」として、処分する旨が記載されていますが、取材に答えてくれたモニターは数年間答えを「当てている」と胸を張ります。
便利な道具だからこそ正しい使い方を
ネット調査の価値を棄損するものではありません。質問対象の属性によっては、既存のどんな調査よりも迅速で正確な結果が期待できます。そして商売用のウェブサイトの担当者ならば、揺らぎやバイアスを意識して「結果」を読み解くことで、より実戦的に使えるということです。
IT業界では日常的にPCを使っていますが、21%強の65才以上の世代やケータイに隷属する若者、子育てや愚痴をこぼすのに忙しいママには通じない常識です。ネット調査を鵜呑みすると商売の障害となることがあります。このネット界とリアル社会の温度差は覚えておいてください。
リアルな「客の声」を聞きたいのなら、常連さんやお得意さんから話を聞けばお釣りが来るほど事足ります。この話はまたいずれ。
♪今回のポイント
ネット利用者分布で生まれる「揺らぎ」を忘れずに。
調査結果は参考程度に。客に聞く方が得るものは大きい。
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