あるアーティストがYouTubeから起こした「本物」によるクチコミ
ここ数か月のMarie' Digbyさんの活躍は、音楽ファンにとって興味深いものでした。カリフォルニア出身で祖母は日本人の彼女は、自宅で録音した有名アーティストのカバー曲をYouTubeにアップロードし始めたのです。すると、15曲ほどのカバー曲が200万回視聴されるほどの大ヒットを記録。特にRihannaのヒットナンバー「Umbrella」のカバーが多くの支持を得てラジオでも流れるようになり、今やiTunes Storeからも購入できるようになりました。
無名のアーティストが、自分の歌声を聴いてもらうために行ったプロモーションで見事ブレークし、ラジオ、TV、新聞に登場するようになったシンデレラストーリー……かと思いきや、実は違う模様。彼女は、YouTubeでブレークする1年半前にはハリウッドレコードと契約済みで、2006年末には1stアルバムの収録が終了していたのです(リリースは未定)。
そんな中、ウォールストリートジャーナルに「YouTubeによるプロモーションもレーベルが紹介した」という記事が掲載され、これにDigbyさんが激怒する一幕も。彼女が自身のブログに書いたエントリによると、これはあくまでも自分自身のアイデアであり「レコードレーベルがわざわざ私の家に来てビデオをアップロードするやり方を教えてくれたりしない」とのこと。メジャーレーベルと契約したからといって必ずしも人気が出るわけではなく、すぐに消えていくアーティストも少なくありません。なんとか自分でアクションを起こさなくてはと思って始めたのがYouTubeによるプロモーションだったそうで、リスナーも彼女を支持するコメントを多く残しています。
日本でも有名なLily Allenも、MySpaceで公開した楽曲が700万回以上視聴されてブレークしたアーティストですし、M.I.A.のような若手も、楽曲の発表をどこよりも早くMySpaceで行ったり、YouTubeやMySpaceで作品を公開しているアーティストの作品を頻繁にチェックし、コラボレーションの相手を探したりしています。
従来ならばCMやTVドラマとのタイアップがあれば売れた音楽CDですが、リスナーの生活が多様化してきたことによってTVや雑誌が決定的なリーチになるとは言い難い状態になってきています。メジャーレーベルに契約していようが、インディーズで活動していようが、なかなかリスナーに自分の楽曲が届かなくなってきているのです。日本でも携帯電話の着うたが売れているアーティストも現れてきていて、そこからブレークしたアーティストもいます。携帯電話やネットは、リスナーとの距離感がはるかに近いだけでなく、時間や場所にとらわれることなくコンテンツを提供することが可能です。さらに、最近ではビデオや高音質の楽曲を自分でプロデュースしてネット上にアップロードするのも簡単になり、コンテンツを多くの人に見てもらうための手段も増えてきました。
もちろん、派手な広告やプロモーションを通じて露出する方法は、今でもある程度の効果があります。でも、受け取る側が「これは本物だ」と感じられる質の高いコンテンツを配信していれば、作品がホームメイドであっても口コミで広がる土壌がインターネットにはすでにあります。また、ブログなどを通じて自らリスナーに直接メッセージを伝えることによって会話が生まれ、それが起爆剤になって口コミが広がる可能性もあります。Digbyさんと彼女を取り巻くリスナーがここ数か月で体験したことは、パッケージングがどのようにされているかが重要なのではなく、ユーザーが求めている中身(コンテンツそのもの)を提供できているかどうかが問われていることを示す一例でしょう。そしてこれは、音楽という1つの限られた枠ではなく、これからのプロモーションを考えていくうえで参考になるショーケースだといえるでしょう。
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