よくわかる音楽著作権ビジネス【Web担特別掲載版】

音楽配信と著作権3 ─動画投稿サイト─ ~ケンゾウ君のライブをLINE LIVEで生中継! さて、その権利処理は?

書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編』の第41話[各論編]音楽配信「音楽配信と著作権3(動画投稿サイト)」を特別に公開

この記事は、書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開しているものです。

基礎編 第41話 [各論編]音楽配信
  • YouTube
  • ニコニコ動画
  • LINE LIVE

コンサートの準備も佳境に入った頃、先日の音楽配信の会議がヒントになって一つのアイデアが浮かんだ著作ケンゾウ君。それは、コンサートをLINE LIVEで生中継するというものだ。コンサートに来られない地方のファンのために、これまで応援してくれた恩返しの意味も込めて、ライブ中継をぜひ実現させたい。そんなケンゾウ君の思いに応えようと、さっそく事務所で会議が開かれたのだった。

デジタル・ネットワーク技術の発展は、われわれの予想をはるかに上回るスピードで進んでいる。登場当時は、テキスト・ベースだったインターネットも、今ではライブ映像がストレスなくストリーミングできるようになった。当初、YouTubeやニコニコ動画を目の敵にしていたレコード会社も、今では重要なプロモーション・メディアとして高く評価している。JASRACも配信事業者と次々に包括許諾契約を締結しており、これらのメディアは今後ますます重要性を増すことになるだろう。そこで今回は、これらの配信サービスと音楽著作権の関係について詳しく解説してみよう。

動画配信サービスにおける楽曲の権利処理

前回解説したとおり、音楽配信にかかる権利としては、著作権者が保有する公衆送信権、実演家とレコード製作者が保有する送信可能化権がある。また、同時送信のストリーム型ではなく、インタラクティブ型の音楽配信については、サーバーに音楽を複製することになるので、複製権(実演家については録音権)が働くことになる。したがって、このようなサービス形態の場合は、公衆送信権と複製権が重畳的に働くことになる。

JASRACとNexToneは、YouTubeやニコニコ動画などの動画サイトに対して、包括使用許諾契約を締結してライセンスを与えている。JASRACの使用料は、主として音楽により構成される動画サイトについては情報料・広告料収入の2.8%にJASRACの利用割合を乗じた金額、YouTubeやニコニコ動画のように一般娯楽の動画サイトについては情報料・広告料収入の2%にJASRACの利用割合を乗じた金額としている。ただし、JASRACは個別のサービスに対する料率を公表していないため、実際の料率は使用料規程の数字と異なっている可能性がある。一方、NexToneはインタラクティブ配信の使用料規程に基づいて使用料を徴収しているが、各サイトの利用形態に応じて、使用料規程の枠内で金額を決定している。

利用できる曲は、JASRACでは当分の間、内国曲のみとしており、外国曲を使用することはできないが、個人制作の投稿作品については、外国曲を利用することができる。これは内国曲と外国曲とでは、映像作品への利用に関する取扱いが異なることから生じている。

外国では音楽を映像に利用する場合、シンクロナイゼーション・ライツという特別な権利が働くと考えられており、外国では著作権管理事業者ではなく、著作権を保有する音楽出版社がこの権利を管理している。したがって、日本においても、ヨーロッパ地域の一部の国を除き、外国曲を映像作品に利用する場合(ただし、テレビ放映やカラオケ映像は除く)、楽曲を管理する音楽出版社の許諾を得る必要がある(第22話「外国曲の著作権」を参照)。

映像作品がYouTubeやニコニコ動画などにアップロードされる場合、外国曲については、原則としてシンクロナイゼーション・ライツが働く。そのため、JASRACは個人制作の投稿作品を例外として、一律に許諾を出せない状況にある。なお、管理事業者が「ビデオグラム等への録音」の権利を管理していない場合は、個人制作の投稿作品であっても許諾することができないので、注意されたい。一方、NexToneの管理楽曲であれば、内国曲・外国曲ともに利用することができる。

なお、2010年2月からニコニコ動画への投稿に、エイベックス・グループに所属するアーティストの原盤が利用できるようになった。ニコニコ動画を傘下に持つドワンゴとエイベックスが包括利用許諾契約を締結し、ユーザーがCD等から音源の一部または全部をコピーし、投稿する動画や静止画の背景音楽として利用できるようになったのである。レコード会社もようやく投稿サイトが持つプロモーション機能に気づいたというところだろうか。ただし、プロモーション・ビデオ、ジャケット写真、アーティスト写真を含む動画を投稿することはできないので、注意されたい。

エイベックスに続き、ドワンゴと包括利用許諾契約を締結するレコード会社が増えてきている。現在では、ワーナーミュージック・ジャパン、NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン、ユニバーサルミュージック、ランティス等のメジャー・レーベルがドワンゴとライセンス契約を締結している。したがって、ユーザーはこれらの会社が保有または管理する原盤の内、ライセンスの対象となっている音源をニコニコ動画に投稿する動画やユーザー生放送でのBGMに利用することができる。なお、ドワンゴは許諾原盤検索システムを無料で提供しており、ユーザーはどの原盤がライセンス対象になっているかをインターネット上で調べることができる。

ユーザーはこれらのメジャー・レーベルの原盤を無償で利用できるので、さらにクオリティーの高い動画を投稿することができるようになる。すると、ますますニコニコ動画の人気は高まり、それとともにレコードのプロモーション・ツールとしての価値も上がるだろう。当然、今後、ドワンゴに原盤をライセンスするレーベルはさらに増えると思われる。今後のレーベルの動きに注目していきたい。

コンテンツIDとは

JASRACやNexToneに楽曲の著作権管理を委託せず、自己管理している音楽出版社や原盤の権利者は、配信事業者が動画投稿サイト上で、音楽を配信することに対して、権利行使することができる。ただし、権利者が動画投稿サイト上のすべての動画をチェックするのは不可能である。そのため、YouTubeでは権利者のためにコンテンツIDというシステムを提供している。権利者は このシステムを利用することにより、簡単に YouTube上の自分のコンテンツを特定し、管理することができるのである。では、コンテンツIDとはどのようなシステムなのであろうか。

YouTubeは、コンテンツ所有者から音楽や動画のファイルとコンテンツに関するメタデータを提出してもらう。そして、受け取ったファイルからデジタルフィンガープリントを作成し、データベース化する。ユーザーがYouTubeに動画をアップロードすると、自動的にスキャンされ、コンテンツ所有者が提出したファイルのデータベースと照合される。両者がマッチすると、権利者はその動画に対して、次の選択肢から対応を選択できる。

  1. 閲覧できないよう動画全体をブロックする。

  2. 動画に広告を表示させて動画を収益化し、場合によってはアップロードしたユーザーと収益を分け合う。

  3. その動画の再生に関する統計情報を追跡する。

もちろん、権利者は何の対応もせずに動画を放置しておくこともできる。しかし、多くの場合、自分のコンテンツの使用を許可する代わりに、その動画に広告を表示するという対応を取っているようである。これらの広告は、動画が再生される前、または動画の長さが10分以上の場合は動画の再生中に表示される。YouTubeを見ていると広告が多いことに気づくが、これは動画に広告を表示させて動画を収益化する権利者が多いことに起因している。

JASRACとLINE LIVE

次に、ケンゾウ君のアイデアであるLINE LIVEでコンサートを生中継することについて考えてみよう。LINE LIVEは、LINE株式会社が運営するコミュニケーション・アプリLINEによるライブ配信プラットフォームであり、2015年12月10日にサービスが開始された。スマートフォン・アプリとPCサイトから視聴できるライブ・ストリーミング形式による動画配信サービスである。

LINE株式会社もYouTubeやニコニコ動画と同じように、JASRACおよびNexToneと包括的な使用許諾契約を締結している。したがって、ケンゾウ君は、JASRACとNexToneが管理する楽曲であれば、ライブ演奏をNexToneで生中継することができる。

では、ライブの生中継の際、楽曲に外国曲が含まれていた場合はどうなるのであろうか。この場合、シンクロの権利処理が必要なように思えるが、ライブの生中継では映像と音楽が固定されずに送信されるので、シンクロの権利処理は不要となる。そのため、JASRACとNexToneは、LINE LIVEによるライブの生中継に関して、外国曲も許諾対象としている。したがって、ケンゾウ君は、ビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」をLINE LIVEで生中継することもできるのである。

海外への音楽配信

最後に外国に向けて音楽配信したい場合、JASRACは音楽事業者に対して、どのような対応をしているかについて解説しよう。従前は、著作権管理団体間での合意(バルセロナ合意とサンティアゴ合意)に基づき、外国への音楽配信に対しても利用許諾が出されていたが、現在、これらの合意は失効している。残念ながら、国境をまたがる音楽著作物の利用に関しては、管理方法のルールが存在していないのである。したがって、原則として、音楽配信サービスが受けられる地域毎において著作権管理団体や権利者から利用許諾を得る必要がある。

ただし、JASRACによると、サービス内容によっては、JASRACで海外向け配信を含めた許諾を行うことができるかを検討し、当事国の著作権管理団体と個別に取扱いを定める場合もあるため、ネットワーク課まで相談してほしいとのことである。また、実務上は、日本国内からの音楽配信が外国で受信することができるサービスでも、YouTubeやニコニコ動画のように日本語サイトであれば、利用許諾を出しているそうだ。JASRACの音楽配信サービスに関する管理実務は、随時変更される可能性があるので、外国への音楽配信を考えている利用者は、JASRACのネットワーク課に相談した方がいいだろう。

以上、今回は配信サービスと著作権の関係について詳しく解説した。YouTubeやニコニコ動画、LINE LIVEのような動画配信サービスやFacebookといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は、音楽業界にとってますます重要性を増すメディアになることは間違いない。音楽産業がこのような新しいメディアとどう向き合うか、大いに注目していこう。

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