よくわかる音楽著作権ビジネス【Web担特別掲載版】

サンプリングと著作権 ─裁判例1─ ~アメリカにおけるミュージック・サンプリング事件とは?

書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編』の第29話[各論編]著作権紛争「サンプリングと著作権 ─裁判例1─」を特別に公開

この記事は、書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開しているものです。

実践編 第29話 [各論編]著作権紛争
  • Biz Markie事件
  • Jarvis事件
  • Tuff ‘N' Rumble事件

いよいよ移籍第4弾シングルのレコーディングが始まった著作ケンゾウ君。タイトルはずばり「ホレたぜ! 盆栽」と、まさに盆栽好きのケンゾウ君の生き方を象徴したような名曲である。初期の近藤真彦の曲調を彷彿させる曲の作りだが、スタッフ全員に大ヒット間違いなしの太鼓判を押されて大喜びの彼は、新妻の瞳嬢にラフ・ミックスを聴かせるのだった。しかし、そこには彼女のキッツ〜イお叱りが待っていたのだ。

日本では無断サンプリングが問題となった著作権侵害訴訟はまだ起きていないが、実務上では多くの紛争が発生しており、海外の権利者から多額の使用料を請求されるケースも少なくない。また、レコード会社の法務部も紛争処理や権利処理に慣れているとはいえない状況にある。

一方、アメリカでは1991年のBiz Markie事件以来、多くのサンプリング訴訟が起きているため、訴訟リスクを抱える音楽業界は権利処理の方法をすでに確立している。そこで今回は、アメリカにおけるサンプリングの重要裁判例を紹介し、アメリカの裁判所がこの問題にどのように対応しているのかについて解説してみよう。

ミュージック・サンプリングとは

アメリカの有名な法律辞典であるBlack's Law Dictionaryによると、サンプリングとは「サウンド・レコーディングのごく一部を取って、新しいレコーディングの一部としてその部分をデジタル処理によって利用するプロセス」と定義されている。これを言い換えると、サンプリングとは、「既存のサウンド・レコーディングのごく一部を新しく製作するサウンド・レコーディングのためにデジタル技術を用いて利用する方法」ということになる。現在、ミュージック・サンプリングはヒップホップやクラブ・ミュージックを中心に、あらゆる音楽分野で広範に利用されている。

ミュージック・サンプリングの発祥地は、意外なことに日本やアメリカのようなデジタル技術の先進国ではなく、西インド諸島の国、ジャマイカといわれている。1962年にイギリスから独立したジャマイカは、当時、深刻な経済危機に陥っていたため、ほとんどのジャマイカ人はレコードを購入したり、コンサートやライブを見に行くことができなかった。そこでレコードやコンサートの代わりに音楽の伝播役として一翼を担ったのが、巨大なアンプ(音の増幅器)とスピーカーのセットであるサウンド・システムであった。これを使ってレコードをかける者はセレクター(selector)と呼ばれたが、その名のとおり、サウンド・システムを使って流す曲を選択し、そのタイトルやアーティストをマイクでアナウンスするという役割を担った。その後、アフリカ系アメリカ人のセレクターたちが実験的にスラングを交えた言葉をレコードに合わせて歌い始めるようになった。これが大きな人気を博するようになり、次第に音楽を表現する一つのスタイルとして確立していった。

1960年代には、セレクターに代わってレコードに合わせて歌うようになったディスク・ジョッキー(DJ)が、異なるレコードを組み合わせて一つのサウンドを作るという実験を始めるようになった。この実験に好感触を得たディスク・ジョッキーたちは、組み合わせたサウンドに合わせてボーカルを乗せるという新しい表現方法を発展させていった。1970年代を通じて、アメリカとジャマイカのディスク・ジョッキーたちはこの新しい音楽の表現方法の改良を試み、ラップ・ミュージックの隆盛という結果をもたらした。この成功に後押しされる形で、1980年代初頭にサンプリング機能を持ったシンセサイザーが開発され、多くのミュージシャンやサウンド・エンジニアたちが音楽制作に用いるようになった。サンプリング機能を持ったデジタル機器のことをデジタル・サンプラーまたは単にサンプラーと呼ぶ。

現在ではミュージック・サンプリングというデジタル技術によって、既存のレコードから音の一部を取り出し、これを自由に加工・編集して、新たなサウンド・レコーディング(原盤)の製作のために利用することができる。従来のレコーディングは、録音スタジオでプロのミュージシャンが演奏し、サウンド・エンジニアがそれを録音し、音を調整し、L・Rの2チャンネルに振り分けるという工程から構成されていた。それがデジタル・サンプラーを使って、既存のサウンド・レコーディング中にあるボーカルやベース、ギター、ドラムス、キーボードが奏でるフレーズの一部分を採取し、コンピュータ上でデジタル処理することによって、新たなサウンド・レコーディングを製作することができるようになったのである。

このようにミュージック・サンプリングは、レコーディングのための十分な資金や演奏技術がないミュージシャンだけでなく、既存のサウンド・レコーディングを使って創作活動を展開したいミュージシャンにとっても、画期的な音楽の制作手段となった。現在では、ミュージック・サンプリングはすべての音楽ジャンルで欠かすことのできない重要な制作手法として広く認知されている。

ミュージック・サンプリングはヒップホップやクラブ・ミュージックといった新しい音楽ジャンルを創出し、その成功の一翼を担ったのであるが、その一方で新たな法律問題を引き起こした。オリジナル曲やオリジナル・レコードの著作権者(アメリカでは著作隣接権制度を採用していないため、レコードは著作権の保護対象となる)が、ミュージック・サンプリングを使って新たなサウンド・レコーディングを製作したミュージシャンやレコード会社を著作権侵害で訴え始めたのである。

アメリカにおける最初のサンプリング訴訟はBiz Markie事件である。この訴訟で、無断サンプリングを行ったアーティストやそのレコードを発売したレコード会社は著作権侵害に問われることになった。それ以来、レコード会社はサンプリング・クリアランスのスキームを急いで構築するようになった。しかしながら、サンプリング訴訟における著作権侵害の判断基準が裁判所によって異なるため、サンプリングを巡る法律問題は未だに混沌とした状態にある。

サンプリングに関するアメリカの裁判例

まず、Biz Markie事件を解説しよう。1972年にシンガー・ソング・ライターであるギルバート・オサリバンは「Alone Again(Naturally)」という曲を発表した。この曲は同年6月17日にビルボードHOT100に初登場し、7月29日にはついに1位に輝くことになる。1946年12月1日にアイルランドで生まれたオサリバンは、ベテラン・マネージャーのゴードン・ミルズをプロデューサーに迎えたこの曲でトップ・スターの仲間入りを果たしたのだった。では、この事件について具体的に見てみよう。

Grand Upright Music Ltd. v. Warner Bros. Records. Inc., 780 F. Supp. 182 (S.D.N.Y. 1991)

[事案の概要]

ラップ・アーティストのビズ・マーキーは「Alone Again」という曲を創作、レコーディングし、この曲をアルバム「I Need A Haircut」に収録して、ワーナー・ブラザーズ・レコードが発売した。ビズ・マーキーは「Alone Again」のレコーディングに際して、ギルバート・オサリバンの「Alone Again(Naturally)」から最初の8小節と3語をサンプリングし、これをループさせてバックグラウンドとして使った(譜例1参照)。「Alone Again(Naturally)」の楽曲とサウンド・レコーディングの著作権を保有するGrand Upright Musicはビズ・マーキーとワーナー・ブラザーズ・レコード等に対して著作権侵害を主張し、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。裁判所は以下のように判示して、原告の請求を認容した。

[判示]

被告らは、ビズ・マーキーのアルバム「I Need A Haircut」にラップ・レコーディングの「Alone Again」を収録し、この曲にギルバート・オサリバンが作曲した「Alone Again(Naturally)」中の3語と、オサリバンのレコーディングから一部の音楽フレーズを使用したことを認めている。したがって、唯一の問題は、誰が「Alone Again(Naturally)」という楽曲の著作権を有するか、そして誰がギルバート・オサリバンによって作られたマスター・レコーディングの著作権を有するかであると思われる。

「Alone Again(Naturally)」の著作権が有効であり、原告によって保有されていることに対する最も説得力のある証拠は、被告らの行動や自認によってもたらされるものである。ビズ・マーキーのアルバムが発売される前に、被告らはライセンスを取得する必要性について明らかに協議しているのである。被告らはオサリバンに連絡することに決め、彼のエージェントに曲の入ったテープを同封して送付したのである。

本審理で提出されたすべての証拠を見ると、被告らは原告やほかの者の権利を侵害していることを知っていたことは明らかである。彼らの唯一の目的は、できるだけ多くのレコードを売ることなのである。法と他人の権利に対するこの冷淡で無関心な態度は、仮差止命令だけでなく、厳しい措置にも服されるべきである。本件は、連邦著作権法506条(a)と連邦刑法2319条の下で、被告らの訴追について検討するためにニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の連邦検察官に回付する。

[解説]

本件は、ギルバート・オサリバンの「Alone Again(Naturally)」に関する楽曲の著作権とサウンド・レコーディングの著作権を保有する原告が、被告のサンプリングによる利用によって、これらの著作権が侵害されたと主張した事案である。

ビズ・マーキーの「Alone Again」は、まさにラップ・ミュージックの典型的なサンプリング手法であるループを利用して制作されている。すなわち、オリジナル・レコードのフレーズの一部分、本件ではピアノのフレーズ8小節分をコピーして、それを新しいサウンド・レコーディング中に繰り返し利用しているのである。彼は、このピアノのフレーズにドラム・トラックを乗せ、歌詞をラップ調で歌うことによって、新たなサウンド・レコーディングを作り出した。しかし、彼の行為は、「汝、盗むなかれ(Thou shalt not steal)」という戒律の言葉で始まる判決文によって、裁判所から激しく非難されることになった。

しかし、この判決は侵害認定の判断手法に問題があるとして次のような批判を受けている。それは、裁判所はビズ・マーキーがギルバート・オサリバンの「Alone Again(Naturally)」をサンプリングして使ったことを認定しただけで、両曲の具体的な比較・分析をせずに被告による著作権侵害を認めているという批判である。確かに被告によるコピーが証明されただけでは、原告の著作権が侵害されたとはいえない。両曲に共通する創作的表現が実質的に類似していなければ、被告に対する著作権侵害責任を問うことはできないのである。たとえば、被告がコピーした部分がありふれたフレーズであり、著作権の保護を受けることができない場合は、著作権侵害が否定される。

譜例を見てもらえばわかるとおり、ビズ・マーキーがサンプリングしたピアノのバッキングは比較的シンプルなフレーズであり、この8小節のフレーズにオリジナリティがあるかは見解が分かれると思われる。また、“alone again naturally”というフレーズはありふれたフレーズであり、この3語だけで著作物性を認めることはできないだろう。

一方、サウンド・レコーディングの著作権侵害については、被告が侵害責任を負うことは避けられないだろう。というのも、サンプリングされた録音物の著作物性は否定することができないし、その創作的表現を利用したことは明らかであるからだ。

このように、Biz Markie判決は著作権侵害の判断基準について判示していないため、先例的価値があるかは疑わしいが、2年後の1993年にニュージャージー州地方裁判所がミュージック・サンプリング訴訟における著作権侵害の判断基準を示す機会に恵まれることになる。次にこの訴訟について詳しく見てみよう。

Jarvis v. A&M Records, 827 F.Supp. 282 (D.N.J. 1993)

[事案の概要]

ボイド・ジャービスは「The Music's Got Me」という楽曲を創作し、自らが率いるVisualというグループでこの楽曲をレコーディングし、Prelude Recordsがレコードとして発売した。なお、サウンド・レコーディングの著作権は、Prelude Recordsが権利者として著作権登録されている。1989年にロベルト・クリビリスとデビッド・コールは「Get Dumb!(Free Your Body)」という楽曲を創作し、レコーディングした。レコーディングに際し、二人はボイド・ジャービスの「The Music's Got Me」をサンプリングして利用した(譜例2参照)。この曲はA&M RecordsとVendetta Recordsからレコードとして発売されている。1990年、ボイド・ジャービスはロベルト・クリビリスとデビッド・コール、そしてレコード会社のA&M RecordsとVendetta Recordsに対して著作権侵害を主張し、ニュージャージー州連邦地方裁判所に訴訟を提起した。裁判所は以下のように判示して、原告が主張する楽曲の著作権侵害について認容した(サウンド・レコーディングの著作権侵害については、原告が著作権を保有していることが証明されていないとして請求棄却)。

[判示]

「oohs」「moves」「free your body」という歌詞をこの分野で使い古された典型的なフレーズとみなすのは、正しくない。反対に、これらの歌詞は特定のアレンジ、そして特定のメロディをバックにして一緒に使われているものである。「ooh ooh ooh ooh … move … free your body」という組み合わされたフレーズがアイデアの表現であり、著作権を取得できることには疑いがない。その上、コピーされたキーボードのフレーズは、特徴あるメロディとリズムを表しており、著作権を取得できないありふれたフレーズとはかけ離れたものである。このキーボードのフレーズもアイデアの表現であり、侵害されうるものである。原告によるサウンド・レコーディングの著作権侵害の主張については、著作権登録証明書によるとPrelude Recordsがサウンド・レコーディングの著作者および権利者になっており、原告はそれに対する有効な反証を示していないため、原告の請求を棄却する。

[解説]

本件は、原告がサウンド・レコーディングの著作権者であることを証明できなかったため、オリジナル楽曲の著作権侵害のみが争われた。前頁の譜例2を見てもらえばわかるとおり、問題となったフレーズはキーボードの伴奏である。このフレーズは単調なバッキングのパターンではなく、メロディアスでリズミックなものである。したがって、このフレーズに著作権が認められるとした裁判所の判断は、妥当なものと思われる。

本事案は、裁判所が著作権侵害の判断において、曲全体を比較するのではなく、類似している部分を比較するアプローチを採用したことに特徴がある。ここでは便宜的に、曲全体を比較するアプローチを全体比較アプローチ、類似している部分を比較するアプローチを部分比較アプローチと呼ぶことにしよう。

裁判所は、「曲全体を比較すべきだ」という被告の主張に対し、次の3つの理由を述べてこれを退けている。第一に、リスナーが原告と被告の作品を混同することを著作権侵害の要件とすると、被告作品が原告作品と実質的に異なる聴衆に届けられる限り、被告は著作権侵害責任から免責されてしまうこと。第二に、原告作品から多くの部分または質的に重要な部分を利用したときに被告は侵害責任を負う、という前提を中心に展開した量的・質的分析という判断手法が骨抜きにされてしまうこと。第三に、全体比較アプローチのような厳格なテストは、もう一つの一般原則、すなわち、問題となっている利用部分が被告作品ではなく、原告作品において実質的な部分かどうか、という関連する問題に反すること、である。

また、裁判所は前述のBiz Markie事件を分析・考察し、「2つの曲はまったく似ておらず、完全に異なるマーケットに届けられたものである。確かに2つの曲を混同する者は皆無であったと思われる。ラップ・ソングにオリジナル曲の一部が入っているからという理由で、ラップ・ソングを購入する者はいなかっただろう。それにもかかわらず、Duffy判事は侵害と認定した。その理由は、逐語的類似性の理論に基づいて被告に対する法的責任を認めたことにある。問うべき適切な問題は、コピーが不法な盗用というレベルに達するほどに、被告がオリジナルである作品の構成要素を量的または質的に盗用したかということである。すでに述べたように、問題はオリジナル作品の価値がコピーによって実質的に減じたかということなのである」と判示している。

逐語的類似性(fragmented literal similarity)の法理とは、原告作品と被告作品が全体として似ていなかったとしても、原告作品の創作的表現の一部分が被告作品に含まれていれば、これを著作権侵害とするものである。逐語的類似性には、原告作品と被告作品の間に基本構造や展開が類似していることは要求されない。したがって、まったく関連性のないジャンルの作品、たとえば原告作品がSF小説で被告作品がノンフィクション小説のような場合でも、ある一節が共通していれば、被告は著作権侵害に問われうることになる。ただし、逐語的類似性の法理の下で著作権侵害が成立するためには、そのような複製は実質的なものでなければならない。つまり、一文だけが同一であったというだけでは、通常、著作権侵害は認められないのである。

確かに、裁判所が判示するように、ミュージック・サンプリング訴訟において著作権侵害要件として、リスナーによる原告作品と被告作品の混同を要求すると、ほとんどのケースが混同を引き起こさないので、原告に著しく不利な結果となるだろう。したがって、本件のようなケースにおいては裁判所が採用した部分比較アプローチが適切であると思われる。しかしながら、この判決の4年後にニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は、ミュージック・サンプリング訴訟において、全体比較アプローチを採用したように読める判決を下す。次にこの事件を見ることにしよう。

Tuff ‘N' Rumble Management Inc. v. Profile Records Inc., 42 U.S.P.Q.2d 1398 (S.D.N.Y. 1997)

[事案の概要]

Tuff ‘N' Rumble Management(以下、Tuff)とProfile Recordsは、どちらもラップ・ミュージックのレコードを販売しているレコード会社である。Tuffは「Impeach the President」という曲のサウンド・レコーディングと楽曲の著作権を保有していると主張している。Tuffは、Profile RecordsがリリースしているRun DMCの「Back from Hell」とDana Daneの「Dana Dane with Fame」という曲が「Impeach the President」からドラム・トラックの一部(譜例3参照)を複製して使用しているとして、Profile Recordsに対して著作権侵害を主張し、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。裁判所は以下のように判示して、原告の請求を棄却した。

[判示]

もし原告が被告による原告作品のコピーを立証できたとしても、被告による不当な盗用を証明することはできなかっただろう。第2巡回区連邦控訴裁判所が判示するように、実際のコピーが立証されても、次に原告は保護される部分に対して、2つの作品間で実質的類似性が存在していることを立証して、そのコピーが不当な盗用であることを示さなければならないのである。

著作権侵害を立証するには実質的類似性を示すことが要求されるが、これは本件の原告の主張にも当てはまる。実質的類似性を判断するためのテストは、平均的な観察者から見て、問題となっている部分が原告作品から盗用されたものとして認識するかというものである。

実質的類似性の判断において、裁判所は作品を構成要素や特徴に分けて考察するのではなく、問題となっている作品の全体を見る。問題となっている3つの音楽作品を注意深く分析した結果、当裁判所は「Back from Hell」と「Dana Dane with Fame」のどちらも「Impeach the President」と実質的に類似していないと結論づける。

[解説]

本件は、原告作品のドラム・トラックの一部が被告作品に無断で利用されたとして、原告が訴訟を提起したものだが、原告が楽曲およびサウンド・レコーディングの著作権を保有していることの証明責任が果たされていないとして、請求は棄却されている。したがって、その意味では実質的類似性の判断を行う必要はなかった事案といえるが、裁判所は原告が著作権保有とコピーの証明責任を果たしたと想定して、実質的類似性の判断を行っている。

原告作品と被告作品のドラム・トラックを聴き比べてみると、確かにリズム・パターンは似ている。しかし、このリズム・フレーズ自体はありふれたものであり、多くのポピュラー音楽で使われている。したがって、このリズム・フレーズにオリジナリティを認めることは難しいだろう。一方で、レコードの著作権侵害責任については、被告によるコピーを立証した上で、音の同一性が証明できれば、部分比較アプローチの下では被告の侵害責任を問うことは可能であったように思われる。

本件の判決は全体比較アプローチを採用しているように読める。そうなると、オリジナル・レコードの一部分を採取して、加工・編集して自分のサウンド・レコーディングに利用するというサンプリングでは、原告作品と被告作品が全体として実質的に類似しているケースは想定し難く、原告の請求が認められる可能性はほとんどないということになってしまう。ただし、本判決は全体比較アプローチを採用としたと明言していないため、実際のサンプリング実務にはそれほど大きな影響を与えていないように思われる。

以上のように、アメリカにおけるミュージック・サンプリングの裁判例は混迷を極めている。その一方で、ヒップホップ系やクラブ系のミュージシャンは、サンプリングを利用した音楽を次々と世に送り出している。まさにミュージック・サンプリングは、音楽ビジネスにとっても、裁判所にとっても、悩みの種となってしまった感がある。それを象徴する事件が次話で解説するNewton事件とBridgeport事件である。アメリカの裁判実務に興味がある人は、引き続き読んでみてほしい。

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