よくわかる音楽著作権ビジネス【Web担特別掲載版】

サンプリングと著作権─裁判例2─ ~元ネタがわからないようなサンプリングでも違法なの?

書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス 実践編』の第30話[各論編]著作権紛争「サンプリングと著作権 ─裁判例2─」を特別に公開

この記事は、書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開しているものです。

実践編 第30話 [各論編]著作権紛争
  • Newton事件
  • Bridgeport事件
  • VMG Salsoul事件

新妻の瞳嬢に無断サンプリングを叱られ、反省しきりの著作ケンゾウ君。まだまだケンゾウ君の修行の旅は終わらないようである。そんなある日、友人のミュージシャンから相談があると言われて、近所のカフェに呼び出された。知識が不足しているわりには人望が厚いケンゾウ君は、なぜか頼られる兄貴なのである。ここが彼の悩みの種であるが、今回も何やら難しそうな気配が……。

ケンゾウ君の友人のケースのように、インターネット上で無断サンプリングや盗作の指摘をするユーザーが増えている。的外れな指摘も少なくないが、アーティストに与える影響が大きいのも確かである。今回のように、無断サンプリングを指摘されるとその真偽にかかわらず、アーティストのイメージや評判が傷つくおそれがある。

それでは、元ネタを教えない限り、誰にもわからないようなサンプリングについても、権利者から許諾を得る必要があるのだろうか。実はこの問題を扱った裁判例がアメリカには存在する。そこで、前回に引き続き、今回もアメリカにおけるミュージック・サンプリングの重要裁判例を解説することにしよう。

今回取り上げるNewton事件とBridgeport事件、VMG Salsoul事件は、アメリカの音楽業界に大きな影響を与えた事件である。特にBridgeport判決には批判が多く、その妥当性については大きな疑問が投げかけられている。今回は、この3つの重要裁判例を詳しく解説し、アメリカが直面しているサンプリング紛争の問題点を明らかにしてみたい。

Newton事件とは

Newton v. Diamond, 349 F.3d 591 (9th Cir. 2003)

[事案の概要]

音楽グループのビースティ・ボーイズは「Pass the Mic」というラップ・ソングを創作するために、ECMレコードというレコード会社から著名なジャズ・ミュージシャンであるジェームズ・ニュートンのフルート演奏が収録された「Choir」という楽曲のサウンド・レコーディングの一部を使用するためのライセンスを使用料1,000ドルで取得した。しかし、楽曲の著作権者であるニュートンからは楽曲の使用許諾を得ていなかった。

ビースティ・ボーイズが使用したサンプリング部分は、3音(C-D♭- C)から構成される6秒のフレーズだった(次頁譜例1参照)。オリジナルの「Choir」は4分30秒の楽曲であり、サンプリング部分は全体の2%であった。ビースティ・ボーイズは「Pass the Mic」の中でこのフレーズを40回繰り返し使用した(トータルの使用時間は4分)。ジェームズ・ニュートンはビースティ・ボーイズとレコード会社に対して著作権侵害を主張し、カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。

一審ではビースティ・ボーイズが使用したサンプリング部分には創作性がないとして著作権の保護を否定したため、ジェームズ・ニュートンが控訴。第9巡回区連邦控訴裁判所は、以下のように判示して、原告の請求を棄却した。

[判示]

ニュートンの楽曲全体との関係で見ると、サンプリング部分は量的にも質的にも重要なものではない。量的には、サンプリング部分である3音のフレーズは、ニュートンの楽曲で1回しか現れない。この楽譜は180 ~ 270秒のアドリブ演奏を要求しているため、このフレーズと楽曲全体の正確な関係を評価することは困難であるが、この楽曲を演奏するとサンプリング部分の演奏時間は6秒であり、これは4分30秒(270秒)の約2%に該当する。

質的には、ニュートンの楽曲におけるサンプリングのフレーズは、ほかのフレーズと同じように重要ではない。「Choir」の譜面に記載された部分全体は、2音を除けば、その隣の音から1音半離れた音から構成されている。楽曲の残りの部分は90 ~ 180秒に及ぶアドリブ演奏である。サンプリング部分は楽曲の譜面に記載された部分を代表するものであるかも知れないが、ニュートンは楽曲全体におけるこのフレーズの特別な重要性に関する証拠を提示していない。それよりむしろ、彼のために証言した専門家たちは、ビースティ・ボーイズが適切にライセンスを受けたユニークな要素であるニュートンの演奏の重要性を強調しているのである。

ビースティ・ボーイズは権利者からサウンド・レコーディングの使用許諾を得ているため、ニュートンによる著作権侵害訴訟の唯一の根拠は、「Choir」という楽曲の著作権である。当裁判所は、ビースティ・ボーイズによるこの曲の短い部分の使用が著作権侵害の主張を維持するのに十分ではないと判示する。当裁判所は、ビースティ・ボーイズによる楽曲の使用がde minimisであり、請求を成立させるには十分ではないという理由でサマリー・ジャッジメントを認めた地裁の判決を維持する。

[解説]

本件では、被告のビースティ・ボーイズがサウンド・レコーディングの著作権者からサンプリングの使用許諾を得ていたため、訴訟の争点は、ビースティ・ボーイズによるサンプリングが原告の保有する楽曲の著作権を侵害するか否かであった。原告のニュートンは作曲家であるとともに、有名なジャズ・フルート奏者であり、ビースティ・ボーイズが利用したレコードにも彼の演奏が収録されている。ビースティ・ボーイズが利用したフレーズは、フルートでCの音を吹きながら、同時にC-D♭-Cを歌うという、ユニークな演奏方法によるものであり、自分たちでは再現することが困難なサウンドであったという事情がある。

このように、本件では楽曲の著作権侵害の成否のみが問われることになった。一審ではビースティ・ボーイズが使用したサンプリング部分には創作性が認められないとして著作権の保護を否定した。一方、控訴審では当該サンプリング部分には創作性が認められるとしたが、ビースティ・ボーイズによる楽曲の使用はde minimis であるとして、原告の請求を棄却した。サンプリング部分の創作性について、一審と控訴審で判断が分かれる結果となったが、どちらが妥当な判断であろうか。

この判決を分析するためには、de minimis 法理を説明しなくてはならない。de minimis 法理とは、形式的には侵害行為に該当するようなものであっても、裁判という形式を踏んで解決するに値しないような些細な問題は取り上げないという法理であり、アメリカではすべての法分野で適用されている。これは「法は些事に関せず」(de minimis non curat lex )という法諺に由来しているもので、著作権侵害訴訟において些細過ぎるコピーはde minimis とされ、著作権侵害責任に問わないこととしている。控訴審はde minimis 法理に基づき、ビースティ・ボーイズが使用したサンプリングが些細過ぎるコピーであるとして、著作権侵害を否定したのである。

では、ビースティ・ボーイズがサンプリングしたフレーズには創作性が認められるだろうか。楽曲の創作性については、次のように考えるべきである。すなわち、楽曲はメロディ、ハーモニー、リズムをその構成要素とするが、各要素に創作性が認められるならば、独立して保護を受けることができると考えるべきである。3つの構成要素の内、メロディは多様なバリエーションがあるため、音の選択の幅が広いが、ハーモニーとリズムはバリエーションが少なく、音の選択の幅が狭いため、他曲と似たようなものになりやすい。特にロックやポップス、リズム&ブルース等のポピュラー音楽は、その傾向が強い。したがって、ハーモニーとリズムの保護範囲は、新たな創作活動の支障とならないように、デッド・コピーとまではいかなくとも、かなり狭いものにするべきだろう。

それでは、本件のようなジャズ音楽のメロディの3音からなる短いフレーズについては、どのように考えればよいのであろうか。確かに、前述したようにメロディにはハーモニーやリズムに比べて、理論上の制約が少なく、音の選択の幅は広い。しかしながら、このような短いフレーズに創作性を認めると、後続の創作活動に大きな支障を来す可能性が高い。しかも、3音の内、構成音はCとD♭の2音であり、このようなフレーズはありふれたものと言わざるを得ない。演奏方法がユニークなため、特徴のある音楽に聴こえるかもしれないが、ピアノやギター等のほかの楽器で演奏すれば、それほど特徴のあるフレーズには聴こえないだろう。したがって、サンプリング部分には創作性がないとして著作権の保護を否定した一審の判断が正しいと思われる。

このようにNewton事件は楽曲の著作権侵害が問題となった事案であったが、その後、サウンド・レコーディングの著作権侵害が問題となったBridgeport事件の判決が下される。この事件はケンゾウ君の友人がまさに直面したケースである。つまり、元ネタを教えなければ誰にもわからないようなサンプリングを行った被告が権利者から著作権侵害で訴えられたという事件である。それではBridgeport事件について詳しく解説してみよう。

Bridgeport事件とは

Bridgeport Music v. Dimension Films, 410 F.3d 792 (6th Cir. 2005)

[事案の概要]

1998年5月、被告のDimension Filmは映画「I Got the Hook Up」を公開した。この映画のサウンド・トラックには「100 Miles and Runnin'」という曲が収録されていた。この曲には、「Get Off Your Ass and Jam」(演奏はGeorge Clinton, Jr. and the Funkadelics)という曲の一部がサンプリングによって利用されていた。具体的には、イントロのソロギターの3音から成るリフ(4秒)の部分(次頁譜例2)を2秒間、音を低くしてループし、16ビートに伸ばして5箇所に使っている。原告のBridgeport Musicはサンプリングの使用許諾料として、「100 Miles and Runnin'」の著作権使用料の25%を取得している。Dimension Filmは、「100 Miles and Runnin'」をサウンド・トラックに使用するために、この曲の著作権者から許諾をもらっていたが、サンプリング部分のサウンド・レコーディングの著作権者であるWestboundからはライセンスを得ていなかった。

原告のBridgeport MusicとWestboundはDimension Filmに対し、「Get Off Your Ass and Jam」のサウンド・レコーディングの一部を無断で映画に使用したと主張し、テネシー州中部地区連邦地方裁判所に訴訟を提起した。一審は、楽曲の使用については、Dimension Filmは適法なライセンスを得ているとしてBridgeport Musicの請求を棄却。サウンド・レコーディングの使用については、コピーされたフレーズ、サンプリング、そして双方の曲を聴いて、合理的な陪審員は、たとえGeorge Clintonの作品に精通している者であっても、その元ネタを教えられなければサンプリングの出所を認識することができないとし、本件サンプリングは法的に認識できる不正使用のレベルにまで達していないとして、Westboundの請求を棄却したため、原告らが控訴。第6巡回区連邦控訴裁判所は、以下のように判示して、サウンド・レコーディングの使用について、一審の判決を一部差し戻した。

[判示]

著作権法114条(b)は「サウンド・レコーディングの著作権者の第106条(2)に基づく排他的権利は、サウンド・レコーディングに固定されている実際の音を再整理し、再調整しまたは順序もしくは音質を変更した二次的著作物を作成する権利に限定される」と規定する。さらに、サウンド・レコーディングの著作権者の第106条(1)および(2)に基づく権利は、「著作権のあるサウンド・レコーディングの音を模倣したものであっても、すべてほかの音を独自に固定したものから成るほかのサウンド・レコーディングの作成または複製には及ばない」。1976年著作権法がこの条文に「すべて」という文言を追加したという事実が、この条文の重要性を強調しているのである。言い換えれば、サウンド・レコーディングの著作権者は、自分のレコーディングをサンプリングする排他的権利を保有しているのだ。当裁判所はこのような解釈を推奨するものである。

第一に、執行が容易である。「ライセンスを受けよ、さもなくばサンプリングするな」である。当裁判所は、このことを重要な意味合いにおいて、創造性を抑圧するものと見ることはしない。アーティストが自分のレコーディングに他人の作品のリフを取り入れたいのであれば、スタジオでそのリフの音を再現することは自由であるということを忘れてはならない。第二に、市場はライセンス料をコントロールし、それは度を超えないものになるであろう。サウンド・レコーディングの著作権者は、新しいサウンド・レコーディングを製作する過程でサンプリング部分を再現するためにかかるコスト以上の金額をライセンス料として、ライセンシーに要求することはできないからである。第三に、サンプリングは決して偶然に起こるものではない。作曲者の頭の中にメロディがあって、それが実は以前に聴いた他人の曲であることに気づかないというようなケースではないのだ。サウンド・レコーディングをサンプリングするときは、他人の作品の成果を奪っているということを知っているのである。

確かに、この分析の下では、なぜ音楽作品から3音を利用することが侵害とはならず、可能であるのに、サウンド・レコーディングから3音をサンプリングすることはできないのかという疑問が提起されるだろう。なぜそのような利用がde minimis にならないのか、なぜ実質的類似性が適用されないのか。当裁判所のこの問題に対する最初の回答は、すでに示したとおりである。この結果は、適用される法によって決定づけられていると当裁判所は考えている。2番目の理由として、サウンド・レコーディングのわずかな部分をサンプリングしたときでも、取り出された部分には多少の価値がある。レコード製作者またはアーティストが①コストを削減するため、②新しいレコーディングに何かを加えるため、または③その両方、のいずれかの理由で、意図的にサンプリングしたという事実以上の証明は必要ない。サウンド・レコーディングの著作権者にとって、彼が選択した媒体に固定されているものは歌ではなく、音なのである。これらの音がサンプリングされるとき、音は直接固定された媒体から取られているのである。これは観念的な取得ではなく、物理的な取得である。

以上の結論により、Westboundによる著作権侵害の主張に対するNoLimit Filmsの主張を支持するサマリー・ジャッジメントを破棄する。地裁は著作権侵害を認めなかったため、積極的抗弁であるフェア・ユースを考慮する必要がなかった。差戻審では、事実審裁判官はこの抗弁について自由に考慮することができるものであり、本件事実に対するフェア・ユースの適用性については何の意見も表明しないものである。

[解説]

前述のNewton事件は楽曲の著作権が問題になった訴訟であるが、本件はサウンド・レコーディングの著作権が問題となった訴訟である。前話で説明したとおり、著作隣接権制度を持たないアメリカ著作権法の下では、サウンド・レコーディングは著作隣接権ではなく、著作権の保護対象となる。サウンド・レコーディングはほかの著作物と同じように、オリジナリティと固定性という2つの要件を満たせば、著作権の保護を受けることができるのである。そのため、アメリカではサウンド・レコーディングの著作権侵害訴訟において、実質的類似性が権利侵害の判断基準として用いられてきた。

しかしながら、第6巡回区連邦控訴裁判所は以上のように判示して、サンプリング訴訟における新しい判断基準を提示した。すなわち、サウンド・レコーディングのサンプリングによる侵害訴訟においては、実質的類似性やde minimis 法理による分析は不要であり、他人のサウンド・レコーディングを使用したか否かというbright-line test によって判断するというものである。この判決は、これまでの法律解釈を覆すものとして、大きな議論を巻き起こすこととなった。

まず、裁判所がサンプリングによる利用行為を物理的な取得と認定したことに対しては、以下のような批判がされている。「法廷助言者が主張するように、デジタル・サンプリングはコピーを作成するものであり、オリジナル・サウンドを差し押さえるものではない。本の複写がオリジナルを壊すことなくコピーを作成するものであるように、デジタル・サンプリングはオリジナルのサウンド・レコーディングをそのまま残すものである。デジタル・サンプリングを物理的な取得と分類することが、サウンド・レコーディングがより強い著作権保護に値するという意味のある根拠を作り出しているとは思えない。デジタル・サンプリングを物理的な取得として合理的には解釈することができないので、第6巡回区連邦控訴裁判所が下した結論は支持することができない」(注1)。

次に創作活動の萎縮効果に関しては、次のような批判がなされている。「Bridgeport判決で示された基準は、多くの異なる音楽ジャンルに属するミュージシャンに多大な負担を強いることとなり、十分な資力を持たないミュージシャンによる新しい作品の創作行為を萎縮させるだろう。第6巡回区連邦控訴裁判所は、市場がライセンス料を制限内に押さえると断言しているが、Bridgeport判決の前でさえ、特にメジャーなレコード・レーベルと契約していないミュージシャンの大多数にとって、ライセンス料は法外な値段であった。Bridgeport判決の基準は、現在の音楽において創作の担い手の多数を構成すると言われている独立系のミュージシャンにもっとも厳しい影響を与えるという事実は、本判決の妥当性について、再考を促すものである」(注2)。

興味深いことに、この判決には全米レコード協会(RIAA)が次のような反対意見を表明している。「10年以上にわたって、音楽業界はサンプリングについて、適切に適用できるときに、de minimis やフェア・ユース法理に頼りつつ、現行のライセンス・ルールに従ってきた。裁判所による突然の飛躍的な法律の変化は、従前のルールに適切に従った人々に遡及的な法的責任を負わせるものである」。読者の中には「なぜサウンド・レコーディングの権利者たるレコード会社の団体である全米レコード協会がこの判決に反対するのだろう?」と疑問に思う人もいるかもしれない。しかし、レコード会社はサウンド・レコーディングの権利者であると同時に、サンプリングの使用者でもある。したがって、サウンド・レコーディングの音を少しでも使えば著作権侵害になるという判決は、全米レコード協会といえども容認できるものではなかったということであろう。

本判決の理由づけとして、裁判所はサンプリングされた部分には多少の価値があることを挙げている。確かに、サンプリングを利用して新しいサウンド・レコーディングを製作する者は、サンプリング部分に一定の価値を見出すからこそ、当該部分を利用するのであろう。しかしながら、裁判所が採用する「利用された部分に価値があると権利侵害になる」という理由づけは妥当ではない。

アメリカ著作権法では、「価値ある部分の利用=著作権侵害」としていない。たとえば、あなたが学問的に大きな価値を持つある歴史的な大発見をしたとしよう。これを第三者が無断で利用したとしても、著作権侵害にはならない。なぜなら、著作権法は事実を保護対象としていないからである。同じように、第三者が他人のサウンド・レコーディングの一部を無断利用し、それが経済的価値を持つものであったとしても、それだけで権利侵害とはならない。著作権法は権利侵害の成立要件として実質的類似性を要求しており、利用された部分に価値があるか否かは侵害の成否とまったく関係がないのである。

裁判所が採用した「利用された部分に価値があると権利侵害になる」という法理は、ニューヨーク大学のドレフュス教授がif value, then righttheory(価値があれば権利になるという理論)として批判するものである。ハーバード大学のレッシグ教授も、この理論が知的財産権の法理になったことはなく、アメリカ法に根付いたこともないと批判している。確かに、世の中には価値がある無体物が溢れているが、経済的価値は市場で決定されるものであるため一定ではなく、また裁判所の判断に馴染むものとは思えない。また、前述したように、この法理論は著作権法の枠組みから逸脱しており、解釈の限界を超えているので、採用し得ないものである。

VMG Salsoul事件

このように、第6巡回区連邦控訴裁判所のBridgeport判決に対する批判が続出する中、第9巡回区連邦控訴裁判所はVMG Salsoul, LLC v. Ciccone, 824 F.3d 871(9th Cir. 2016)において、bright-line test を採用せず、実質的類似性やde minimis 法理による分析を行い、請求を棄却した。この事件は、Madonnaの「Vogue」という楽曲にVMG Salsoulが権利を保有する楽曲「Love Break」(楽曲「Chicago Bus Stop」をリミックスした作品)の一部が使用されているとして、VMG SalsoulがMadonnaとサウンドプロデューサー等に対して著作権侵害を主張して、訴訟を提起したというものである。被告がサンプリングしたとされる部分は管楽器の3音である(譜例3)。

第9巡回区連邦控訴裁判所は、楽曲とサウンド・レコーディングの著作権侵害については、サンプリングされた部分はオリジナリティの要件を満たしていないため、著作権法による保護を受けることができないとした。注目すべきは、サンプリングされたサウンド・レコーディングがオリジナリティの要件を満たし、著作権法による保護を受けたとしても、de minimis 法理によって、請求は棄却されると判示したことである。そして、第6巡回区連邦控訴裁判所が定立したbright-line test は採用し得ないものとした。

「当裁判所は、連邦議会がサウンド・レコーディングの著作権に対しても、de minimis 法理を適用することを意図していたと結論づけるため、当裁判所の判決と対立する第6巡回区連邦控訴裁判所のBridgeport判決に反対することによって、連邦控訴裁判所間で見解が分かれるサーキット・スプリットを創り出すという稀有な対策を講じることにする。」

このように第9巡回区連邦控訴裁判所が第6巡回区連邦控訴裁判所の判決に反旗を翻したことは、称賛に値する。エンターテインメント業界の中心であるカリフォルニア州を擁する第9巡回区連邦控訴裁判所は、ニューヨーク州を擁する第2巡回区連邦控訴裁判所と並び、最も重要な裁判所と言われている。したがって、この判決が与える影響は計り知れない。ほかの裁判所がこの判決に追随するかどうかは予断を許さないが、Bridgeport判決の再考が促されることは間違いないだろう。

なお、ここで注意すべきは、日本の著作権法ではレコードは著作隣接権で保護されるため、著作権侵害の要件である類似性は問題とならないということである。また、レコードの成立要件として創作性は必要とされていないので、レコードのほんのわずかな音をサンプリングによって使用したとしても、理論的には複製権侵害となるおそれがある。「ほんのわずかとはいえ、他人が投資をして製作したレコードを無断で利用する行為は侵害とされるべきだ」と考える人もいるだろうし、「元ネタがわからないような利用方法であれば、オリジナルのレコード製作者に損害が発生しないんだから、侵害とするべきではない」と思う人もいるだろう。また、「サンプリング技術は文化の発展に寄与するものなんだから、このような方法にまで禁止権を行使させるのは著作権法の趣旨に鑑みると適当ではない」と捉える人もいるかもしれない。読者のみなさんもいろいろな観点からこの問題を考えてみてほしい。

以上、アメリカにおけるミュージック・サンプリング訴訟の裁判例を解説してみたが、いかがだったであろうか。ミュージック・サンプリングは、著作権法が急速な発展を続けるデジタル技術とどのように向き合うべきかという問題を提示している。著作権法は文化の発展に寄与するための法律として機能しているのか、実際には文化の発展を妨げているのではないか、われわれは真剣に議論すべき時に来ていると感じる今日この頃である。

(注1)Steven D. Kim, Taking De Minimis Out of the Mix: The Sixth Circuit Threatens to Pull the Plug on Digital Sampling in Bridgeport Music, Inc. v. Dimension Films, 13 Vill. Sports & Ent. L. J. 103, 125(2006).

(注2)Jeremy Scott Sykes, Copyright – The De Minimis Defense in Copyright Infringement Actions Involving Music Sampling, 36 U. Mem . L. Rev . 749, 778(2006).

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