よくわかる音楽著作権ビジネス【Web担特別掲載版】

ゲーム音楽と著作権 ~ケンゾウ君にゲーム音楽の依頼が。でも契約は?

書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス 基礎編』の第32話[各論編]エンターテインメント・ビジネス「ゲーム音楽と著作権」を特別に公開

この記事は、書籍『よくわかる音楽著作権ビジネス』の一部をWeb担向けに特別にオンラインで公開しているものです。

基礎編 第32話 [各論編]エンターテインメント・ビジネス
  • 基本使用料
  • 複製使用料
  • 配信使用料

ファースト・アルバム「津軽から来たあいつ」の大ヒットに続き、初めて書き下ろした映画音楽も大好評の著作ケンゾウ君。レコード業界の不況を尻目に快進撃を続けるケンゾウ君のもとに、またもや新たなオファーが来た。今度は、新しいゲームソフトの主題歌とBGMを書き下ろしてほしいというものである。いつかはゲーム音楽を手がけてみたいと思っていたケンゾウ君にとって、これは願ってもないオファーである。

ご存じのとおり、日本は世界に誇るゲーム王国である。日本のゲームとマンガ、アニメーションが世界一高い水準をもったエンターテインメント産業であるのは、異論のないところだろう。しかし、産業構造上の事情からか、ゲーム産業と音楽産業は十分なシナジー効果が得られていないように思われる。今回は、ゲーム音楽の著作権とその権利処理の実務について詳しく解説しよう。

ゲーム音楽の歴史

まず、ゲーム音楽の歴史について簡単に説明しよう。ファミコン(1983)やセガサターン(1994)、プレイステーション(1994)、NINTENDO64(1996)といった家庭用ビデオゲーム機が次々に販売された当時、JASRACにはゲームソフトのための使用料規程がなかった。そのため、JASRACでは音楽をゲームソフトに利用する場合の著作権使用料について、ビデオグラムの使用料規程を準用していた。しかしながら、JASRACが準用したビデオグラムの使用料はゲーム会社にとってあまりに高すぎたために、JASRACの管理楽曲を利用することができなかった(複製使用料は1分7円であった)。

このような事情により、ゲーム会社はJASRACに対して著作権使用料を払うのを避けるために、社内のクリエイターにゲーム音楽を創作させるか、あるいはJASRACに入会していない作詞家・作曲家(以下、ノン・メンバーという)にゲーム音楽の創作を委嘱し、委託料を支払い、著作権を譲り受けるというビジネス・スキームを使って、ゲーム音楽を調達してきた。

破竹の勢いで急成長を遂げるゲーム産業で、ゲーム音楽にJASRACの管理楽曲がほとんど利用されないという事態は、JASRACやその会員にとって何とももったいない話であった。JASRACや音楽出版社はもう少し柔軟な態度で、ゲーム業界との交渉に臨んでもよかったように思われる。

このように、ゲーム会社は長い間、ノン・メンバーにゲーム音楽を依頼してきたのだが、そのうちにJASRACの会員も秘かにゲーム音楽を創作するようになる。「秘かに」というのは、JASRACに気づかれないようにJASRACに届けていないペンネームを使って仕事をするということである。その後、JASRACの会員も堂々とゲーム音楽を創作するようになる。というのも、その頃にはすでに、ゲーム会社と作家との間で直接、著作権使用料に関する契約が締結されていれば、JASRACは関知しないという業界慣行が確立してしまったからである。

このようにJASRAC不在で実務が進んでしまったため、JASRACとゲーム会社間で行われたゲーム音楽の著作権使用料に関する協議は難航した。結局、1996年8月30日に一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)とJASRACとの間で暫定合意が成立し、JASRACは同年10月1日から1年間の時限規程として、ゲームソフトの使用料規程を新設した。この規程では、ゲームソフトにおける著作物1曲の使用料は、基本使用料と複製使用料を合わせて算出することにし、基本使用料はゲームソフトの個数にかかわらず1分まで毎に800円、複製使用料は1個につき1分まで毎に3円とした。この時限規程は、期限後も延長して適用されることとされた。ただし、現在ではこの時限規程は失効しており、次のような新しいルールが適用されている。

現在のゲームソフトの権利処理ルール

まず、ゲームソフトをパッケージで販売する場合について見てみよう。現在、JASRACの著作権信託契約約款は、「ゲームに供する目的で行う複製」については、権利者が使用料を定めることとしている。つまり、権利者の指し値ということである。したがって、JASRACの使用料規程には、ゲームに供する目的で行う複製に関する規定がない。では、権利者はゲームソフトへの録音について、どのように使用料を定めているのであろうか。

実務上、権利者は、ゲームソフトの著作権使用料について、基本使用料と複製使用料の二本立てで使用料を設定している。基本使用料は著作物の固定に係る使用料のことで、複製使用料とはその固定物の増製に係る使用料のことである。通常、基本使用料はロイヤリティではなく、10万円というように一定の金額が設定される。一方、複製使用料はロイヤリティとなるため、1枚あたりの印税が設定される。なお、ロイヤリティは、小売価格の5%というようにパーセンテージで決めてもよいし、1分7円というように1分単価での算出方法でもよい。JASRACは、当事者間で決められた使用料をゲーム会社から徴収し、手数料を控除した金額を権利者に分配する。

なお、アーケード・ゲームのような業務用ゲームについては、権利者は個人用ゲームよりも著作権使用料を高く設定するのが一般的である。基本使用料は30万円、高めで50 ~ 60万円くらいが相場だろう。複製使用料は1曲100 ~ 200円が平均的なロイヤリティである。なお、パチンコやパチスロはゲームソフトではないが、ゲームソフトと同一の権利処理手続が採用されている。これらの利用はギャンブル性が高いので、個人用ゲームよりは相場が高くなる。

次にオンライン・ゲームの使用料について見てみよう。前述したように、JASRACの著作権信託契約約款では、「ゲームに供する目的で行う複製」という利用形態については、権利者が使用料を定めることとしている。したがって、オンライン・ゲームの基本使用料は、パッケージ・ゲームと同様に、権利者とゲーム会社との協議によって決められる。たとえば、基本使用料を10万円と設定してもいいし、ゼロとしてもいい。ただし、配信使用料については、JASRACが以下のように使用料規程を定めているため、指し値ではなく、これに従うことになる。

オンライン・ゲームの配信使用料(JASRAC)
配信形式使用料
ダウンロード形式配信価格の6.2%または6.2 円のいずれか多い額
ストリーム形式月間の情報料および広告料等収入の2.8%

なお、JASRACは特定ゲーム配信の利用について特別な措置を講じている。特定ゲーム配信とは、多曲利用を前提としたいわゆる音楽ゲームで、ユーザーがプレイするごとに任意に楽曲を選択、差し替えても、ゲームそのものの目的が変わらないゲームソフトのことで、具体的には「太鼓の達人」のようなゲームを指す。特定ゲーム配信で内国作品を利用する場合、パッケージ・ゲームやオンライン・ゲームと異なり、JASRACはインタラクティブ配信の使用料規程を準用して、ゲーム会社に許諾を出している。つまり、権利者の事前の許諾を不要としている。ただし、洋楽曲を利用する場合は、権利者(通常は音楽出版社)の許諾を得る必要があり、基本使用料も指し値となる。

委嘱作品の管理方法について

従来、ゲーム音楽の委嘱作品については、JASRACに管理委託をすると使用料免除が受けられないため、ゲーム音楽の著作権を管理する音楽出版社は、「ゲームに供する目的で行う複製」と「インタラクティブ配信」をJASRACの管理委託範囲から除外して、ゲーム音楽の著作権を自己管理するケースが多かった。このような状況を受けて、JASRACは著作権信託契約約款に以下の条項を追加し、ゲーム用委嘱作品を対象として、一定の範囲の利用について、委託者が管理を留保・制限できるようにした。

著作権信託契約約款(著作権の信託及び管理に関する経過措置)

1. 委託者(音楽出版者を除く。)は、第11条第1項の規定にかかわらず、当分の間、信託著作権の管理範囲について、あらかじめ受託者の承諾を得て、次の各号に掲げる留保又は制限をすることができる。

(4)委託者が、依頼により著作するゲーム用著作物について、当該依頼者であるゲーム製作者に対し、その依頼目的として掲げられた一定の範囲の使用を認めること。

JASRACの使用料免除を受けるためには、委託者はJASRACに提出する作品届の備考欄に、委託者名(ゲーム製作者名)、ゲームソフト名、ゲーム発売日、免除とする旨の記載を行わなければならない。この手続により、JASRACはゲームソフトへの録音、ゲームソフトの配信、ゲームソフトの告知用CMなど、ゲーム製作者が行うすべての利用について、使用料を免除する。ゲーム用委嘱作品に関する使用料免除の範囲は、ゲーム製作者が行うすべての利用とかなり広い。したがって、今後はJASRACに対してゲーム用委嘱作品として登録し、使用料免除を受けるケースが急増するだろう。

NexToneの管理方法

最後にNexToneの管理方法について簡単に説明しよう。NexToneでは、権利者がゲーム録音とインタラクティブ配信の使用料を定めることとしている。したがって、ゲーム録音とインタラクティブ配信の使用料は、権利者とゲーム会社との協議によって決められる。ただし、特定ゲームのインタラクティブ配信に係る使用料については、以下のように使用料規程を定めているため、指し値ではなく、これに従うことになる。

オンラインゲームの配信使用料(NexTone)
利用形式収入の有無使用料
ダウンロード情報料または広告収入あり配信価格の6.2%または6.2円のいずれか多い額
情報料または広告収入なし1 曲 1 リクエスト当たり 6.2円
ストリーム情報料または広告収入あり月間の情報料および広告料等収入の2.625% に、著作物利用比率を乗じた額
情報料または広告収入なし5,000 円に、著作物利用比率を乗じた額
サブスクリプション著作物 1 曲 1 利用者あたり、月間の情報料の 0.62%または 0.62 円のいずれか多い額

なお、NexToneにゲーム用委嘱作品を管理委託する場合、ゲームソフトに同梱されるCDとDVDに対して、使用料の免除または減額措置を受けることができる。また、ゲーム会社が発売するCDに対して、関係権利者全員の同意があれば、使用料の免除または減額措置を受けることができる。インタラクティブ配信については、特定ゲーム以外は権利者の指し値になるので、使用料をゼロにすれば、使用料免除と同じ効果が得られる。特定ゲームについては、ゲーム用委嘱作品だけでなく、ゲーム会社の資本関連会社(親会社や子会社)が保有する楽曲についても、使用料の免除または減額措置を受けることができる。

以上、今回はゲーム音楽の著作権とその権利処理の実務について詳しく解説した。「音楽著作権の実務は複雑でわかりにくい」という声がゲーム会社からよく聞かれる。確かに、本話を読んだ読者の中には同じような感想を持つ人も少なくないだろう。今後は、ユーザー・権利者にとって理解が容易で、かつ、合理的な使用料規程の構築が課題となる。関係者の努力に大いに期待したい。

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