[コラム]長谷川恭久のCGM海原と共に

ある愛の破局にみるCGMの本質

一見、男女の別れ話にみえた会話がどんどん奇妙なものへと変わっていく動画。広告者と顧客の関係を男女にみたてて作られた「別離」というショートフィルムがおもしろい。
CGM海原と共に

愛を取り戻すことはできるのか?
~あるキャンペーン動画にみるCGMの本質

(女性) 話を聞いてくれないと不満を投げかける。

(男性) 常に自分の見た目や印象を気にして相手の話を聞かない。

(女性) 言うことにただ従うのではなく会話がしたいと思う。

(男性) 機嫌が悪いのは付加価値が足りないと勘違いをし、さまざまなプレゼントをふりかける。

(女性) 自分のことなんて何もわかってないと問いつめる。

(男性) 君は28~34歳の女性でオンラインショッピングでは映画と音楽に興味をもっていると応える。

これはある動画に出て来たやりとりの一部を抜き取ったものです。

一見、男女の別れ話にみえた会話がどんどん奇妙なものへと変わっていきます。実はこれ、広告者と顧客の関係を男女にみたてて作られた「別離(The Break Up)」というショートフィルム。Openhereというベルギーの広告代理店とMicrosoft Digital Advertising Solutionsのコラボレーションによって生まれたこの企画。マイクロソフトのマーケティングマネージャを務めるGeert Desagerは愛を取り戻せ(Bring the Love Back)というブログも立ち上げて、現在でも情報を更新しています。

The Break Up
件の動画は、YouTubeよりも若干画質が良いDailyMotion.comで見ることができます。他の動画共有サイトと同様に、コードをコピーして貼り付ければ、自分のサイトにもビデオを貼り付けられます。
Bring the Love Back
ブログでは今回の作品だけでなく、今後の展開も含めて情報が公開されています。

ブログ名からもわかるように、いかに(顧客からの)愛を取り戻すのかがこのプロジェクトのテーマになっています。動画が公開されてからわずか2週間で7万人以上の人に視聴され、口コミでどんどんその数を伸ばしています。ビデオはオンラインで観覧したり、ブログから.mov形式でダウンロードしたりできるだけでなく、自分のウェブサイトに貼り付けることもでき、また、このキャンペーンができるまでの経緯を説明するPowerPointスライドもダウンロードできます。

この動画のインスピレーションになったのがBusiness WeekでブロガーをしているDavid Armano氏のエントリー「これぞカンバセーション・エコノミーなんだよ、愚か者め(It's the Conversation Economy, Stupid)」。この記事で筆者は、意味のある対話を求めている今日の消費者に対して、いつまでも同じような形で接触はできないと指摘しています。従来の一方通行の情報発信だけでなく、対話のように双方向もしくは多方向に情報が行き来できる環境作りが重要になっているのではないか。こうした問題提示を擬人化して表したのがこの動画だというわけです。

今回の話題はCGMと直接関係したものではありません。しかし、多くの人に参加してもらうムーブメントを模索する必要のあるCGMにおいて、従来の広告における顧客との付き合い方と同じやり方は適していないのはすでに明らかでしょう。今回のビデオはあくまでもメタファーではありますが、似たような“別れ話”を顧客からされる可能性は十分ありますし、それがストレートな形で帰って来るのもCGMだからこそではないでしょうか。

動画では問題提示がなされているだけのように見えますが、結局のところ人間関係と同じで、お互いの理解と尊重が必要だというメッセージが伝わってきます。CGMでは、不特定多数で顔がない顧客ではなく、人としての付き合いが特に大事になってきます。トレンドや知識を身につけるのも大事ですが、こういった動画を見ることによる気付きも多いことでしょう。

なお、今回のキャストとストーリーを使った続編はないそうですが、同じような題材でシリーズとして作っていく計画があるそうなので、気になる方はこれからもブログをチェックしていくといいでしょう。

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