全国200校の大学サイトに学ぶユーザビリティ改善&向上のススメ
『全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007』
ハイライト
日経BPコンサルティングは、全国の大学200校のウェブサイトにおけるユーザビリティ調査報告書『全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007』を発表した。
調査は6カテゴリ全61項目にわたって行われ、各項目ごとに問題点がないか、詳細に評価がなされており、ウェブサイトのユーザビリティを考える上で非常に参考になる点が多い。本記事では、いくつかの調査内容について触れているので、ケーススタディとしてぜひ参考にしてもらいたい。
TEXT:編集部
協力:日経BPコンサルティング
- ●調査方法
- 米国Giga Information Groupが開発した「ウェブサイト・スコアカード」をベースに、日経BPコンサルティング独自の調査基準を作成し、調査員が実際に大学サイトを閲覧しながら調査した。調査対象は、全国の国公立大学100校と私立大学100校の合計200校。審査対象ページは、トップページとトップページにリンクのあるページとした。
- ●調査時期
- 2006年9月20日~11月28日
2005年に比べスコアが上昇し
ユーザービリティ改善が見られる
今回で3回目となる大学のユーザビリティ調査だが、総合スコアについて、スコア分布がどのように変化しているか、2005年のデータと比較した。
今回と2005年では調査項目が若干異なるが、最も大きな変化を見せたのが、総合スコア30未満のサイトで、2005年は18.6%であったのが7.0%まで減少している。加えて、総合スコア40以上50未満のサイトが2005年の29.1%から40.0%に増加していることから、各大学のユーザビリティは改善されて、ユーザビリティの悪いサイトが減少したことがわかる。
スコアは、各項目について問題がなければ1点、問題がある場合は0点として100点満点で総合スコア化をしている。詳細項目ごとにスコアリングすることで、ユーザビリティに優れている点や改良するべき点が明らかにされている。
では、実際にユーザビリティに優れたサイトは、どのような施策を行っているのか、ケーススタディとして次項から順を追って見ていこう。
順位 | 大学名 | スコア | 大学種類 |
---|---|---|---|
1 | 中央大学 | 64.60 | 私立 |
2 | 神戸市外国語大学 | 64.45 | 公立 |
3 | 大阪教育大学 | 63.11 | 国立 |
4 | 武庫川女子大学 | 62.41 | 私立 |
5 | 明治学院大学 | 62.02 | 私立 |
6 | 工学院大学 | 61.46 | 私立 |
7 | 沖縄国際大学 | 58.27 | 私立 |
8 | 一橋大学 | 57.67 | 国立 |
9 | 奈良大学 | 57.16 | 私立 |
10 | 京都府立大学 | 56.53 | 公立 |
30未満 | 30以上 40未満 | 40以上 50未満 | 50以上 60未満 | 60以上 | |
---|---|---|---|---|---|
2005 | 18.6% | 36.4% | 29.1% | 13.2% | 2.7% |
2006/2007 | 7.0% | 37.5% | 40.0% | 12.5% | 3.0% |
1 トップページユーザビリティ調査
ターゲット別のナビゲーションや正確なリンク名が必要
トップページは、サイト全体の入り口となるナビゲーションの要だ。サイトの主要ターゲットを見極め、それぞれのターゲットに対応した入り口や、コンテンツへのリンクを適切に配置し、サイトで何ができるのかを明確に示して、訪問者が迷わずに目的を達成できることを考える必要がある。
トップページの調査では、大学サイトの主要ターゲットを「受験生」「在学生」「卒業生」と想定し、それぞれのターゲットに対応したページへのリンクやコーナーがあるか、リンク先の内容が推測できない名前を使っていないか、トップページにサイトマップへのリンクがあるかなどの調査が行われた。
結果として、トップページにターゲット別のリンクを設置する大学は2005年に比べ11%増の86.5%であり、改善の傾向が見られた。その一方で、リニューアルしたにもかかわらず、見た目の派手さが優先されているケースもあり、重要性の低いリンクバナーを多数設置しているために、必要なリンクが埋もれているケースもあった。また、依然としてリンク名からリンク先ページの内容が推測できない例も多く見られた。
トップページにサイトマップへのリンクがあるサイトは、80%から90.5%に向上し、大学サイトのサポート意識が高まっていることがわかる。しかし、調査した大学の中には、わかりにくい名前を使っているケースもあった。たとえば、サイトマップへのリンクを「総合案内」としている大学があったが、「総合案内」を見て大学概要を思い浮かべた人も多いのではないだろうか。このような場合では、訪問者が想像していたコンテンツの内容と異なり、戸惑いが生じるので注意が必要だ。サイトマップのリンク名は、「サイトマップ」や「コンテンツ一覧」など、わかりやすい名前付けを心がけよう。
これらの要素は、大学に限らずどんなウェブサイトでも考えなくてはならないことだ。企業であれば、自社のターゲットとする顧客を想定してその分析を行い、訪れたユーザーが目的を達成できるようにサポートしてあげることが必要だ。
それは商品かもしれないし、問い合わせ先かもしれないが、重要なのは訪れるユーザーの立場に立って考えることなのだ。
2 サイトユーザビリティ調査
サイト全体のユーザービリティに関する意識は低い
サイト全体のユーザビリティ(使いやすさ)を良くするために必要な要素は多数あるが、この調査では、グローバルナビゲーションバー、ナビゲーションガイドなど、13の調査がなされた。
グローバルナビゲーションバーは、訪問者を主要コンテンツへと導くためのメニューである。サイト内の全ページに配置し、訪問者がどのページからでも主要コンテンツに移動しやすいよう手助けする役割を担っている。ところが、トップページからリンクを張ったページのみを審査対象に調査したところ、メニューの「構成・形・位置」を一定にしたグローバルナビゲーションバーを備えているサイトはわずか11サイト(5.5%)で、2005年の4.1%からほとんど変化していない。また、パンくずリストなどのナビゲーションガイドを設置しているサイトも、200サイト中わずか8サイト(4%)であり、2005年の3.2%からほとんど変化が見らない。
依然として、こうしたナビゲーションの必要性を意識しているサイトは少ないようだ。
3 メインコンテンツへのアクセス調査
わかりやすいリンク名で必要とするコンテンツに誘導
大学サイトがターゲットとする訪問者は幅広く、訪問者によって目的もさまざまだ。訪問者が目的とするコンテンツにすばやたどり着けるかどうかは、ウェブサイトのユーザビリティを計る上で重要な指標になる。
ここでは、大学サイトの最重要ターゲットである「(学部)受験生」「卒業生」「(大学で学びたい)一般・地域の人」向けのコンテンツ、さらにターゲットに関係なく重要なコンテンツについて、トップページから探しやすいかを調査した。受験生では、「入試方法ごとの募集人員/入試日程」「各学部の概要」「シラバス」など。卒業生では「各種証明書の申請方法」、ターゲットに関係なく重要なコンテンツなら、「学生数と教職員数」などが項目に該当する。
例として受験生の場合を考えてみよう。まず受験生が真っ先に求める情報としては、「入試方法ごとの募集人員/入試日程」があげられる。大学にとっても、新たな学生を獲得するために積極的に公開していきたい情報だろう。ところが、調査結果から、トップページからスムーズに情報にたどり着けるサイトは、2005年の56.8%から53.0%へと悪化していることがわかった。国公立大学によく見られるケースだが、依然として情報をPDFでしか提供していないサイトが多いという。PDFの閲覧にはプラグインが必要で、音声読み上げブラウザにも対応していないので、PDFだけでなくHTMLでも情報を提供するべきである。
最後に、具体的な例として実際にスコアの高かった東洋英和女学院大学を見てみよう(図3)。受験生向けのページでは、受験生に必要なメニューを過不足なく配置しているのがわかる。また、共通のナビゲーションバーに配置されているメニューであっても、受験生に必要な情報ならば中央メニューにも配置して情報を探しやすくしているのがポイントだ。
4 アクセシビリティ調査
構造と視覚要素を使い分け、誰もが利用できるサイトを提供
ウェブサイトのアクセシビリティとは、視覚・聴覚・四肢・知覚に障害のある人や高齢者などを含めて、あらゆるユーザーがウェブサイトの情報にアクセスできるようにすることだ。2004年6月の情報アクセシビリティに関するJIS、ウェブコンテンツJISの制定もありウェブサイトのアクセシビリティ対応は必須といわれている。
この調査では、これらの要素をふまえ、画像のALT属性の適切さ、リンクやフォントカラーが見やすいか、テキストサイズをブラウザで変更可能かなど、サイトの構造に問題がないか10項目にわたり調査が行われた。
ALT属性は、画像が表示されなかったり表示が遅かったりした場合に、画像の説明をする代替テキストである。音声読み上げブラウザは画像に設定したALT属性を読み上げるため、視覚障害者がサイトを利用する際に重要な役割を担う。
たとえば、画像を使ったリンクメニューには、リンク先の情報がわかるようなALT属性が必要だ。しかし、リンクを張った画像に適切なALT属性を付けているサイトは、13.5%(27サイト)で、2005年の17.7%はもとより、2004年の15.0%と比べても悪化していた。
近年は画像を多用して、ビジュアル化しているサイトが多く見られるが、自身のサイトにALT属性が適切に付けられているか、ぜひ一度、ブラウザの画像表示をオフにして確認してもらいたい。
リンクやフォントカラーの見やすさについても、残念ながら悪化する結果となった。ウェブページはディスプレイの問題もあり、印刷物に比べると視認性に劣ってしまう。最近は、配色パターンをテストできる無料のウェブサービスやソフトもあるので、サイトを作る際には、視覚障害者や高齢者はもちろん、健常者に対しても見やすいように、背景色や画像などとのバランスを考えてほしい。
6 インタラクティブ調査
重要な情報はトップページに配置してユーザーの要求を実現
大学にとって、ウェブサイトは一方的なコンテンツ提供だけでなく、双方向の情報交換の役割も担っている。
キャンパス情報を例に考えてみよう。第一に必要となるのは、キャンパスの訪問に必要な交通手段に関する情報だ。大学への入学を考える受験生であれば、実際にキャンパスに行って、建物や学生の様子を見学してみたいと思うだろう。こういったニーズに応えるために、各キャンパスへの交通手段を掲載したページを設けて、トップページからわかりやすいリンク名で誘導することが必要になる。
近年、大学側もオープンキャンパスや進学相談会など、受験生に足を運んでもらうためのイベントを積極的に開催している。こうした現状を反映してか、「キャンパスの交通アクセスに関する情報を掲載したページがあり、トップページからわかりやすいリンク名で誘導している」サイトは、89.5%であった。
6 プライバシーポリシー調査
収集した個人情報の保護方針を明確にすることが重要
最近では、入試の資料請求申し込みがウェブサイト上で完結できるサイトがほとんどだが、これは利用者にとって利便性が高く、大学側にとっても事務作業を合理化できるメリットがあるためだ。ただし、これはウェブサイトを通して収集する個人情報が増えることを意味する。
個人情報保護法の成立を契機に、ユーザーの個人情報保護への関心は非常に高まっており、サイト運営者は、サイト内で収集した個人情報をどのような考え方で保護・管理しているか、ユーザーに示すことが不可欠になってきている。各大学では一体どういった取り組みがされているのだろうか。
プライバシーポリシーのアクセス状況について調査を行ったところ、個人情報保護方針を示したページを設けており、トップページに「プライバシーポリシー」や「個人情報の保護」といったわかりやすいリンク名を配置しているのは、99サイト(49.5%)であり、2005年の30.5%から大幅に上昇している。
さらに、99サイト中、「サイト内で収集した個人情報の保護についての扱い」を明確に示しているケースは32サイト(32.3%)であった。2005年の26.9%からは増えているものの、大学(法人)としての個人情報保護方針を示しているだけで、それをウェブ上で収集した個人情報の保護にどのように適用するのかを示していないサイトが多くあった。
またプライバシーポリシーをトップページに配置していないケースもあったが、個人情報は厳重に扱わなければならず、扱う者の責任としてその方針を明確に、わかりやすく示す必要があるだろう。
『全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007』
本記事は、2006年12月19日に日経BPコンサルティングが発行した『全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007』の調査内容をもとに、同社の協力を得て作成したものである。
記事で紹介した調査結果は、6カテゴリ全61項目の調査結果のごく一部である。調査内容は、全国の大学サイトを対象としたものだが、ユーザビリティに関する取り組みは大学に限定されたものではなく、企業ウェブサイトはもちろん、すべてのウェブサイトに共通するものであり、参考となるだろう。各大学のユーザビリティに関するスコアと比較することで、自身のウェブサイトに足りない要素、改善すべき点をつかみ、ぜひユーザビリティの向上に取り組んでみてほしい。
『全国大学サイト・ユーザビリティ調査2006/2007』
http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/sales/uni/2006/
販売価格
調査報告書のみ:52,500円
調査報告書+CD-ROMセット:84,000円
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウvol.4』 掲載の記事です。
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