
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の十六
「みんなの意見」の先駆者の終焉

「フォーラム@nifty」がこの3月31日をもってサービスを終了しました。かつて「ニフティ・サーブ」と呼ばれていたものです。
「パソコン通信(パソ通)」や「草の根BBS」というと20代の方には馴染みのない方もいるでしょうが、ニフティ・サーブは一時代を築いたネットコミュニティでした。
ニフティ・サーブのフォーラム(以下、フォーラム・会議室も含めて「ニフティ」と略す)では、専門家や街角の研究者の議論や情報交換が活発で、みんなの意見による「知の集結」が注目を集めたものです。
ネットトラブルの先駆者という不名誉
ニフティはパソ通からインターネットへと移り変わる時代に最盛期を迎え、ネットトラブルの先駆者でもあります。
mixiなどのSNSで頻発する名誉毀損、個人情報の流出、また、某巨大掲示板の管理人への監督義務違反など、今につながるネットトラブルのほとんどすべてがニフティでは起こっています。興味のある方は「ニフティ裁判」で検索してみてください。
十人十色の感性や思想が集まれば摩擦が起きるのは、リアルな社会でもネット社会でも同じで、人間的接触がないネットは過剰に針が振れることがわかりました。また、参加者の増加がモラルを引き下げることも当時から言われていたことです。
CGMという言葉なんかなかった時代
トラブルがある一方、「みんなの意見」という知の集積は、便所の落書きと揶揄したネット否定派への反論として使われました。仮想空間でのセッションから生まれる情報を伝達する「媒体」としてのネットの可能性を示したのです。
CGM(消費者生成メディア)という言葉がない時代から「みんなの意見」が生み出すパワーがネット参加者の心をつかんでいたことは、ニフティが最盛期に200万人を超えるコミュニティだったことが証明しているのではないでしょうか。
しかし、ニフティの栄枯盛衰を鑑みると「これからはCGMだ!」という参加者任せを声高に叫ぶことに一抹の不安を覚えます。
消費者だけではないクチコミ
ブログも一段落して、CGMの代名詞として「クチコミ」が流通するようになり、地域のクチコミを紹介するサイトがNHKニュース「おはよう日本」でも紹介されていました。NHKはネットの外側の認知状況を計るバロメーターです。
「クチコミ」はニッチな地域市場でのキラーコンテンツとなりますが、自由な意見を言えるはずの完全匿名の「クチコミ」は諸刃の剣です。
私の妻が同窓会に出かけました。会場は、東武伊勢崎線竹の塚駅周辺のクチコミを紹介するという触れ込みのサイトに「地元の人なら誰もが通うパスタ屋」とあった店です。
妻は竹の塚駅前の商店街にある八百屋の娘。聞いたことがない店でしたが、知らないだけかもと実家から徒歩2分のパスタ屋に行きました。
味は可もなく不可もなく、店は汚く、ラッシュタイムの客はまばらです。帰り際、店の片隅にインターネットにつながったパソコンを見つけました。クチコミサイトに訪れるのは「客」だけではありません。
クチコミ収集コストという発想
私の運営する「足立生活どっとこむ」では、登録者のクチコミに応じて商品券を提供しています。角川グループが運営する「足立区ウォーカー」は、本格的な運営開始前に地域情報を集めるパート募集のチラシを足立区内で配布していました。
情報の価値を知っていれば当然の話です。完全匿名で自由に書き込みができれば、自分の店の宣伝の「クチコミ」ばかりになるのは火を見るよりも明らか。サイトの価値も運営会社の評価も下げてしまいます。
店の宣伝ではない「クチコミ」を集めるには応分のコストが必要なのです。地域サイトにとってのクチコミ(=情報)は、商売でいうところの仕入れに相当します。
ロングテールが成り立つ前提
「ロングテールとは?」と問われたときに「塵も積もれば」と超訳します。そして多くの塵を集めることが成否を分けると加えます。長い尻尾の恐竜を探すより、塵の方がわかりやすいので。
地域サイトの成功例が多くないのをご存じでしょうか。クチコミ情報を集めても収益に結びつかないことが多いのです。
最近はライオンズマンションの大京が、地域サイトに対して高額アフェリエイトを提供していますが、マンションは大根と違いますので毎日買うものではありません。そこで店舗掲載料か検索連動型広告やアフェリエイトがサイトの収益源というケースが多いのですが、これがまた厳しいのです。
地域情報を見るのは地域住民ですから「パイ=市場(利用者)」が小さく、塵も少なければ尻尾も短いので、儲かるというレベルになかなか到達しないのです。
やっていることはほとんど同じでも「マイミクマップ」や「はてなマップ」などは「全国」が市場です。
CGM依存の旨味と恐怖
ニフティは会員数が激増した頃よりトラブルが頻発し、陳腐化を感じたトレンドリーダー達が離れていきました。
新しいものにトレンドリーダーは飛びつきますが、移ろいやすいのもこの属性の特徴です。ビジネスとして成り立つにはサイトの魅力を挙げつつパイの拡大を目指すのですが、参加者が多くなるとトレンドリーダー達が離れていき魅力が減るという矛盾を抱えているのです。
最盛期に会員数200万人を突破し巨大なパイを手にいれたニフティ。同時期の総務省発表のインターネット利用者数は1,155万人とありますので、約17.3%が利用していた巨大コミュニティは時代の変化に淘汰されてしまいました。
CGMという可能性を証明しネットサービスの矛盾も示唆したニフティ。参加者依存は一度火が火をつくと濡れ手に粟という旨味と同時に、火が消えかけてから施す手段がないことを教えてくれつつ歴史の中に消えていきます。
隔世の感を覚え、気がつくと柏原芳恵の「春なのに」を口ずさんでしまいます。
♪今回のポイント
参加者依存も匿名クチコミも諸刃の剣!
CGMは長期的成功につながらないのではないかという仮説。
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