コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の九
日本の食文化を変えたUSP
「30分以内にお届けできなければ代金はいただきません※1」
「ドミノ・ピザ」が日本に上陸した際に実践していたもので、当時の「宅配(デリバリー)市場」に衝撃を与えました。催促電話に対して「もう出ました」と答えることから、「そば屋の出前」という揶揄があるように、当時の宅配市場はそば、ラーメン、寿司がほとんどで、「出前は遅い、時間がわからない」というのが当たり前だったからです。
※1:現在では、宅配ドライバーの安全運転のため無料となる制度はないが、30分を超えてしまった場合には無料ドリンク券などがサービスとして提供されることがある。
今は「ピザーラ」が宅配ピザの首位となっていますが、ドミノ・ピザの「30分以内」がなければ、ここまで早く日本にピザ食文化は定着しなかったことでしょう。
自社の特色を端的に表す言葉を、マーケティング用語で「USP(Unique Selling Proposition)」と言いますが、日本の食にピザを浸透させた「30分以内」は伝説的な成功例です。
宅配ピザの営業戦略。商売の大敵は人件費
「お届け時間30分以上で無料」というUSPは、しっかりとした「営業戦略」に基づくものでした。
宅配ピザは、電話注文を受けてから6~7分で焼き上げることができます。箱詰め、積み込みから客先での移動時間などを含めて最短で10分必要だとすると、残るは20分です。
2006年の警察庁の発表によると、都内主要道路の平均移動速度は時速18.10キロメートルですから、約6キロメートルまでは配達できることになります(実際には地域により異なりますが都内の宅配可能エリアは半径2~3キロメートルで設定されています)。
しかし、あまり遠くに配達していては儲かりません。宅配ピザの粗利率は約7割と高いのですが、片道20分の場合、往復で40分の「デリバリースタッフ」の人件費が発生し粗利を食い潰します。
つまり、できるだけ近いところだけ配達するほうが儲かる構造となっており、最大でも30分以内で届けられる客だけを相手にする「営業戦略」があってこそのUSPだったのです。
誰が相手か戦うべき市場を見定める
ホームページの話から逸れていますが、実は営業戦略の重要性を理解するためにドミノ・ピザの例はわかりやすいのです。「SEO」というと技術論が先行しがちですが、中小企業の「商売用」という視点に立ったとき、営業戦略を立ててUSPを明らかにしてからSEOに取り組まないと、枝葉末節に捕われてしまい、本末転倒となりかねないのです。
営業戦略を考えるときは、「勝ち易きに勝つ」を中心に据えてください。
ドミノ・ピザ(日本国内は株式会社ヒガ・インダストリーズ)がサービスを開始したのが1985年で、すでにファミリーレストランが庶民の生活に浸透しており、洋食業界への参入は容易ではありませんでした。しかし、ドミノは「ピザ」という洋食を提供しつつも、競争相手に選んだのは街のそば屋やラーメン屋だったのです。そして、ファミリーレストランも創生期の競争相手はレストランではなく、街の定食屋や食堂といった家族経営を競争相手に選び勝利を収めたのです。
「戦場はどこか?」は、勝ちパターンを作る上でとても重要です。
「風呂釜洗浄」でリフォーム市場に参入
やむなく競合の多い世界に参入を迫られることもあります。しかしこれも「切り口」を変えるだけで、戦える環境を作り出すことができます。拙著『楽天市場がなくなる日』で紹介している株式会社ライフトータルサービスの「風呂釜洗浄」は、リフォーム需要を「風呂釜」という切り口からアプローチして問い合わせへとつなげました。激戦区の「リフォーム」や「建築」ではなく、生活していく上で必ず使う「風呂」を切り口にしたのです。取り組んだ当初はヤフーでも「風呂釜洗浄」で上位をキープし(2007年2月13日現在5位)、グーグルでは今でも首位に表示されます(2007年2月13日現在1位)。
「風呂釜洗浄」も競争が激化してきたので、今は別の「勝ちやすい市場」に移りました。そしてこの「切り口」から捉えるやり方なら、外部SEOは重要ではなく、営業戦略の変更と共に安価に方向転換できることも魅力です。
脱税指南の税理士に期待される需要
切り口はどんな商売にもあります。たとえば「税理士業界」では、「情報起業家」のノウハウがネットの世界では溢れかえり競争が激化しています。
しかし、「脱税 税理士」ならどうでしょうか? 「脱税指南」は法律違反ですが、こんな切り口です。
「脱税で摘発される税理士が後を絶たない。脱税による国庫の損害は甚大で、税のプロフェッショナルである税理士として看過できない。一方、脱税を夢見る経営者は実に多い。税理士としてあえて言う。『脱税』は割に合わない犯罪だと。そして脱税ではなく節税をしっかりサポートする税理士を見つけるべきだと」
内部SEOのテクニックとして「脱税」と「税理士」を繰り返し織り込み、合法的な「節税」がありますよという「切り口」です。2007年2月14日現在、「脱税 税理士」で検索した結果の上位は「脱税した税理士の逮捕」を伝えるコンテンツしかありませんでした。
「営業戦略付きホームページ」というのもこの発想
営業戦略からのSEOで、重要となるのが「客を選ぶという意識」です。
ドミノ・ピザは「宅配エリア」で客を選別しました。「税理士」の場合は「できれば脱税をしたい人」を選び、脱税は逮捕されるけど節税なら塀の外側だよと伝えます。
「税金を払いたい人」が「脱税」で探すことはありません。つまり、営業戦略から考えたSEOを施すことにより、「税金を抑えたい」という価値観の人しかやってこないのです。
弊社の「営業戦略付きホームページ」も同じです。ホームページ制作業者を「下請け」としか見ず、注文通りにやれと「命令」する客はいりません。「営業戦略」を共に考え歩いていけるパートナーだけが弊社のお客さんという考えです。
営業戦略からのSEOを考えると、必然的に価値観を共有できる「良いお客さん」ばかりが集まるようになるのです。
最期に、これは信じられないかも知れませんが「税金を納めるのが好き」という人は実在します。私の義父で「足立区の八百屋で1、2を争う納税額」と悦に浸り、数年に一度やってくる税務署のリクエスト通りに「修正申告」しています。
♪今回のポイント
SEOは客を選ぶ気持ちで!
営業戦略はお題目ではなく実利を絡めることが大切。
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