カスタマーエクスペリエンスで道は開ける~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論

エモーショナルエクスペリエンスデザイン - Webサイトは「使いやすい」だけじゃダメ

いまや、Webサイトは、使う人の感情も含めてデザインする時代なのです。
ジョナサン・ブラウン

[コラム]カスタマーエクスペリエンスで
道は開ける
~フォレスター・リサーチのWebサイト方法論
by ジョナサン・ブラウン

フォレスター・リサーチのシニア・アナリストであるジョナサン・ブラウン氏によるウェブコラム。

主にカスタマーエクスペリエンスとマーケティングの側面から企業のビジネスをサポートしているジョナサン氏が、企業サイトにおけるユーザー志向の考え方や方法論をさまざまな切り口で解説します。

お客さまがWebサイトで抱く「感情」

みなさんは日常の生活の中で、いろいろな企業とやり取りをしていると思いますが、ちょっと最近の企業とのやり取りを思い出してください。そして、そのときに抱いた感情を思い出してみてください。

フォレスター・リサーチでは先日、この質問を複数のお客さまに尋ねました。そうすると、

最近、お店で買い物をしていたら、店員の対応が悪くて懲りました。
休暇で滞在したホテルのフロントに、空港までの移動の手配をお願いしたら、コンシェルジェが非常に気を使ってくれて、期待以上の手配をしてくれました。私は大切なお客さんとして扱ってもらっていると感じました。

など、さまざまな答えが返ってきました。

考えてみると、我々は顧客として企業と接しているとき、何かしらの感情(エモーション)を感じますよね。感情は場合によって、喜び、ショック、不満、混乱、落胆、または安心などさまざまです。さて、オンラインチャネルをデザインしているとき、こういった感情について考えられているでしょうか? ほとんどの場合、このようなお客さまの感情については考えずにデザインしているのではないでしょうか。多くのWebサイトでは、まずユーザビリティの問題を解決しようとしていて、感情について考えるのはまだ先のことと考えられているようです。

しかし、感情的な部分は今やサイトにとって、とても重要です。それはなぜかというと2つのポイントがあります。

  • お客さまが初めて企業と交流する場所がWebサイトになることがあるから。米国の小売店ベストバイ社のシニアバイスプレジデント、ジョン・トンプソン氏は次のように言っています。

    何年か前までは、我々のブランドにお客さまが最初に触れるタッチポイントは、お店にいるブルーのシャツを着た店員でした。しかし、今は会社のWebサイトです。お客さまはインターネット上で我々のブランドと最初に接するのです。

  • RIA(リッチインターネットアプリケーション)などを使い、Webサイトにおいて優れた経験をお客さまに提供している企業が増えてきていて、それらを経験したお客さまのサイトへの期待がますます高まっているから。

つまり、もはやユーザビリティだけでは差別化を図ることはできないということです。もちろん使いやすさを追求することは大事ですが、それだけでは他と差別化できないという意味です。ですから、将来新しいWebサイトを作るときには、そのサイトの「使いやすさ」だけでなくて、「どうやって感情的なコミュニケーションをしていくのか」を考えることが必要になってきているのです。

エモーショナルエクスペリエンスデザインという新しいアプローチ

フォレスター・リサーチでは、エモーショナルエクスペリエンスデザイン(Emotional Experience Design)という新しいリサーチを始めました。エモーショナルエクスペリエンスデザインとは何かというと「特定の感情的なレスポンスを引き出すインタラクションを作ること」です。

では、Webサイトをデザインしているときに、お客さまの感情を引き出すのに何が必要なのでしょうか? まず、ユーザーの深いニーズ(ユーザーが発見できないニーズ)を見つけること、そして、自分のブランドをきちんと定義して、そのブランドの価値、属性が何かをはっきり理解すること、が必要です。属性などがきちんと定義されると、それにつながる感情が何かを答えられるようになると思います。

フォレスターがさまざまな業種の企業に「どういう感情をお客さまから引き出したいか」と聞くと、次のような回答が得られました。

  • 「我々がフレンドリーなエキスパートであると、お客さまに感じてほしい」(コンピュータ販売会社)
  • 「金融破綻などが最近多かったので、この銀行と取引しているときに安心できるとお客さまに思ってもらえるようにしたい」(銀行)

エモーショナルエクスペリエンスデザインの事例

すでにエモーショナルエクスペリエンスデザインをうまく活用している企業は、次のようなことを行っています。

  • ナイキは「お客様がスポーツをやりたくなったり、フィットネスに行く気を起したりしてほしい」と考えています。

    ナイキのNike+では、友達同士で「最近何キロ走ったのか」「自分のフィットネスゴールにどれくらい近づいたのか」といった情報交換ができる機能が付いています。自分のエクササイズの過程が見えるだけでなく、友達と交流できることがやる気を起してくれるようです。それに魅力を感じてNike+に参加している人が多いと言います。

    Nike+
  • 米国の金融サービス会社ミントは、複数の口座を1つの画面で管理できるサービスを提供しています。このサービスはとても魅力的なのですが、サービスを利用するためには、自分が持っているすべてのネットバンキング口座のパスワードなどをミント社に教えなければいけないので、抵抗を感じる人もいるでしょう。

    その不安を解消するために、ミントでは社長自らがビデオでミントがどれくらい、そしてどうやって、セキュリティを確保しているのかを説明し「安心してご利用ください」と呼びかけています。単に文章で情報保護について説明するより、社長の生の声で説明するほうがぐっと信頼性が高くなりますよね。人間的だというか、うまい使い方だと思います。

    ミント
  • 高級ブランドのグッチでは、オンラインで買い物をしている人に対し、「パーソナルアドバイザーとチャットをしませんか」という提案のメッセージを送っています。パーソナルアドバイザーだなんて、高級ブランド感がしますよね。

  • 旅行業界のインサイドトリップでは、お客さまが期待する基本的な情報よりもずいぶんと豊かな情報を提供しています。たとえば、サイトで検索されたフライト情報を豊かな機能でフィルタリングすることができます。フィルタリングのカテゴリは、「スピード」「快適さ」「容易さ」に分かれています。たとえば、スピードについては、通常どの旅行会社のサイトでも提供されている搭乗時間や乗換え回数だけではなく、出発時間の正確さやセキュリティを通る時間なども考慮して、自分にとってベストなフライトを選べるようになっています。

    インサイドトリップ

いくつかの事例をご紹介してきましたが、フォレスターが考えているエモーショナルエクスペリエンスデザインには、次の4つのポイントがあります。

  1. お客さまがどのような感情を感じているかにフォーカスする
  2. お客さまの期待を超える魅力的な価値を与える
  3. 複数の五感にアピールをする
  4. そのエクスペリエンスをWebからマルチチャネルに拡張する(Webで終わるのではなく、お客さまが店舗でも同じエクスペリエンスを経験できるようにする)

みなさんはどう思われますか?フォレスターでは、引続きこのテーマについてリサーチを行っているので、何がエモーショナルエクスペリエンスデザインと思われるか、みなさんのご意見をぜひお伺いしたいです。コメントをお待ちしています。

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