AI時代到来! デジタルマーケティングの将来性は? 共存のための活用事例
ChatGPTが登場してから、急速に広がるAI市場。さまざまな企業や自治体などでAIが活用されはじめており、それはマーケティング領域においても例外ではない。これからAIはどのように進化し、マーケターの仕事に影響を及ぼすのだろうか。
そこで“AIの民主化”をビジョンに掲げ、AI×マーケティング事業をグローバルに展開するAppier(エイピア)の共同創業者であり、CEOのチハン・ユー氏を取材。20年以上もAIの研究に携わってきたチハン氏に、AI業界の未来予測と今マーケターがやるべきことについて伺った。
AI×マーケティングの歴史
チハン氏は、アメリカのスタンフォード大学のAI研究室で修士号を取得後、ハーバード大学で人工知能の博士号も取得した。Appierを創業したのは、今から10年以上前となる2012年だ。チハン氏は、次のように当時を振り返る。
マーケティング領域なら、AIに必要な大量のデータを扱うことができると考えました。当時はまだマーケティングの領域でAIを活用している企業は多くなかったと記憶しています(チハン氏)
創業から数年経った2016年には、AIブームが起きる。Googleが開発した『AlphaGo』 という囲碁のAIプログラムが、人間の世界チャンピオンに勝利したことで、AIに対する注目度が高まったのだ。
AIは人間よりも優れた意思決定をすると人々が思うようになってきました(チハン氏)
そして現在、OpenAIが開発した生成AI「ChatGPT」の登場により、再びAIブームが巻き起こっている。「この波によってAIのデジタルマーケティングにおける適用範囲が広がっています」とチハン氏は言う。
では、具体的にデジタルマーケティングにおけるAI活用とは、どのようなものか。Appier社の製品を事例にあげながら紹介する。
デジタルマーケティングにおけるAI活用の事例
広告の予算超過を防止、適切なキーワードを自動生成
「AIXPERT」は、Apple Search Ads、Google、Facebook、Twitter、TikTokなどに配信する広告を一括で管理・分析・展開するオールインワンプラットフォーム。より良いパフォーマンスを発揮するセグメントの予測や適切な予算配分、入札戦略などをすべてAIで自動化する。CPI目標の調整や予算超過抑止機能も備えているため、予算の使い過ぎを回避できる。またキーワードの自動生成も行う。
人間が生成できるキーワードには限界があります。マーケターがサーチエンジンマーケティングを実施する場合、どんなキーワードが効果的かを考えなければなりません。
たとえば『コンピューター』を売るとしたら、どんな人が買おうとしているか、また、どんなブランドやキーボードを探しているか、中には引っ越し先で新しくコンピューターを購入しようとしている人もいるかもしれません。人間が脳内で考えて生成するキーワードは、先の例のように、その事柄に関連性のあるものしか出て来ないため、限界があります。
しかし、2018年から提供しているAppier自社開発の自動生成AIでは、ユーザーのサイト内行動などから、どのようなキーワードが効果的で人々を引きつけたかといったデータを蓄積していますので、人間の直観力では追い付けないようなキーワードを生成することができます(チハン氏)
LTVの高いユーザーセグメントに広告を配信
「CrossX」は、予測型広告プラットフォーム。ファーストパーティデータを使い、機械学習とディープランニングにより、ユーザーのLTV(顧客生涯価値)をリアルタイムに予測し、最も価値が高いユーザーセグメントに広告を配信できる仕組み。
最適なメッセージを自動生成
「AIQUA」は、顧客にカスタマイズされたメッセージを、最適なタイミングで自動送信できるソリューション。Web、アプリ、プッシュ通知、Eメール、SMS、ソーシャルメッセージなど、複数横断でも利用でき、ユーザーにとって最適なメッセージをAIが自動生成する。人間の担当者が行うよりも約2割コンバージョンが高くなった事例もあるという。
ユーザー行動に基づき、投資判断を下す前にリターンを予測する
「AIRIS」は、AI搭載の次世代CDP(顧客データプラットフォーム)。ファーストパーティデータを活用し、次のようなデータからインサイトを瞬時に捉え、投資判断を下す前に、事前にリターン(利益)を予測する:
- ユーザーの属性
- 購入履歴
- キャンペーンへの接触
- オフラインの行動
- オンライン上での動き
- デバイス情報 など
それにより、個々の顧客に適したおすすめ商品やクーポンなどを展開できる。また多くの外部プラットフォームや、オフラインとオンラインのデータ統合連携なども可能。
AI時代のマーケターに求められるもの
Appierではフルファネルで、AIを基盤としたマーケティングのソリューションを展開しており、紹介した事例は一部だという。では、今後はどのような方向へとAIは進化していくのだろうか。
これまでは『予測』や『最適化』などにAIが活用されてきましたが、今後はアイデアを生み出したり、広告コピーや画像などを作りだしたりと『生成』に、AIが活躍できると思っています。
以前ならAIが生成したクリエイティブには抵抗感がありましたが、ChatGPTの登場以降、その傾向が変わりつつあると感じています。弊社でも生成AIを利用した製品を展開していますが、今後もラインナップを拡充していく予定です。
ルーティンな業務はAIに任せ、人間は重要な意思決定に専念できるようになるでしょう(チハン氏)
「日本のデジタルマーケティングは欧米に比べて10年遅れている」という意見もあるが、AIを活用したマーケティングでも遅れているのだろうか? チハン氏に聞くと、その答えは「No」だという。
日本の大手企業にもAppierのプロダクトを提供していますし、日本のデジタルマーケティング担当者は、AIを受け入れている印象です。加えて、欧米やアジアで優れたマーケティングソリューションを提供している企業も日本に進出してきています。なので、日本が遅れを取っているとは思いません。とはいえ、日本ではマーケティング領域よりも自動運転技術やロボットの開発などに集中してきた傾向はあると言えるでしょう(チハン氏)
一方で、どの国にも共通の問題があるという。それは「AIサイエンティスト」の不足だ。AIに関する知識を持ち、新しいAIのアルゴリズムを生み出すスキルを持つ人は世界中で不足しているという。そうしたなかで、今マーケターが取り組むべきこととして、チハン氏は次の3つを挙げた。
取り組むべきコト1 AIの価値を理解する姿勢を持つ
これまでもコンピューターや携帯電話などの技術革新が起きたとき、変革を受け止める人と拒絶する人で分かれたことだろう。しかしマーケターであるならば、価値を知ろうという姿勢を持ち、AIとどのように付き合っていくのかを考えることが重要である。
取り組むべきコト2 AIの基礎知識を身につける
予測AIや生成AIの違い、AIのアルゴリズムなどの基礎知識を持ち、AIの長所や短所を理解する。
取り組むべきコト3 適切なツールの選定
昨今、さまざまなAIツールが登場しているため、そのAIが本当に使えるものかを見極めなくてはならない。適切なツールを選び、組織に導入する能力が将来のマーケターやリーダーには求められる。
そして最後に「今後のマーケターは、2つの部下を持つことになる」とチハン氏は話す。
1つは人です。部下のパフォーマンスをあげていくには、どのように教えていけばいいのか指導方法を考えていかなければなりません。そして、もう1つはAIです。AIには大量のデータを読み込ませ、精度を上げていく必要があります。今後のマーケターは、このように異なる2つの部下を持ち、それぞれどのように教育していくかが重要になるでしょう(チハン氏)
AI時代の到来により「AIに仕事が奪われるのでは?」と不安を抱く人も多い。しかしAIを拒絶するのではなく、まずは理解しようとする。マーケター自身が変化に対応する姿勢を持つことが大事なようだ。
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