【レポート】デジタルマーケターズサミット2022 Summer

消費行動から読み解く、Z世代に刺さるコンテンツの作り方

注目を集めるZ世代について、調査結果をもとに、その特性や刺さるコンテンツのつくり方を、イー・クオーレの代表である犬飼氏が解説する。

これからの消費の担い手として注目されているZ世代。この先のマーケティングにおける中心的な存在であるが、この世代はそれ以前の世代とは異なる価値観を持ち、消費行動や情報収集の仕方も異なるため、今から正しい理解を形成しておくことが大切だ。

デジタルマーケターズサミット 2022 Summer」では、Z世代の消費行動にまつわる価値観や情報収集の仕方、そして広告に対する見方や評価について、イー・クオーレの犬飼江梨子氏が解説した。マーケティングリサーチ会社として高い実績を持つ同社がZ世代に実施した調査結果をもとに、Z世代のリアルを読み解いていった。

株式会社イー・クオーレ 代表取締役 犬飼 江梨子 氏

Z世代が重視する「多様性の尊重」と「自分らしさ」

イー・クオーレは、心理学や脳科学に基づき、インタビューによる消費者の心理や消費行動の調査・分析を手がけるマーケティングリサーチ会社で、17年間で2万人を超える消費者にインタビューを実施してきた。

調査対象となるZ世代に関しては明確な定義が決まっていないが、同社ではZ世代を1996年~2012年生まれで現在11~25歳と定義していると犬飼氏。

今回の調査では、全国の15~24歳の男女10名を対象に、オンラインデプスインタビューを実施。定量調査については、他世代との比較が得られやすいようY世代(1981年~1995年生まれの26~41歳)も含めた全国の15~40歳の男女676名を対象に行った調査結果をもとにZ世代のリアルを解説していった。

「Z世代」をテーマにイー・クオーレが実施した調査の概要

そして、その結果から見えてきたのは、Z世代を紐解くための4つのキーワードだった。

キーワード①なぜ「多様性」を尊重するのか

Z世代は、さまざまな価値観やライフスタイルなど「多様性」を尊重する傾向にあると言われる。それはどうしてなのか? その理由に犬飼氏は「学校教育の影響が大きい」と指摘する。

ひとつは、ICTの普及によって、授業のデジタル化や先生・生徒との双方向コミュニケーションが進んだこと。そして、多くの学校に導入されているSDGsの授業では、社会と自分がつながっていることへの自覚が促され、高い倫理観が養われるようになった。さらには、「探求授業」としてネットでの情報収集が行われ、一つの物事に対して多様な考え方や意見を知る機会が多いことがポイントである。

あとは、プログラミング授業で解決方法が1つではないことを知ったり、グループディスカッションによって他者との意見交換を行ったり、それらを通じて得た情報を整理・分析し、自分の意見として発信する機会が増えたことも、多様性が築かれる背景にあると考えられる。

実際、多様性に対する価値観を比べると、Y世代と差があり、Z世代では他者の意見や多様性を尊重することを“当たり前”と考える傾向がうかがえる。他にも、平等意識や社会貢献欲が高いこと、自分の価値観を大切にし、表現することに長けていることなどが特徴として見られる。自らを中性的と考える人もY世代に比べ1割ほど多く、ジェンダーレスな考え方も浸透しつつあると言えるだろう。

こうしたZ世代の価値観は、それ以前とは異なる教育を受けてきたことの影響が大きい。ただそれも押し付けではなく、無意識に自然とそういう価値観・行動になっていることを認識すべき(犬飼氏)

Y世代と比べて、Z世代ではより多様性を尊重する傾向が見られる

キーワード②Z世代は、好きがすべての原動力

Z世代の行動は、「好きか嫌いか」という主観的判断をする傾向が高いこともわかっている。その理由・背景を紐解くために、犬飼氏は「Z世代が育った時代背景」について紹介した。

Z世代とY世代の時代背景を比べると、その違いが大きいことがうかがえる

Z世代は生まれて物心が付く前に、Yahoo!の日本語版が開始され、2004年にmixi、2007年にYouTube、その後もiPhoneやFacebook、Twitter、LINE、Instagramと主要なメディアが立ち上がり、普及している。

2000年には4割に満たなかったネット普及率も、2008年頃には8割に迫り、スマートフォンの普及率も飛躍的に上昇した。メディアに接し始める思春期において、Y世代ではまだマス媒体が主流だったのに対して、Z世代ではスマートフォンからいつでもすぐに膨大な情報源にアクセスできる環境にあったのだ。

思春期をどう過ごしたかによって、形成される価値観は変わってくるので、この時代背景というのは重要なポイント。Y世代が思春期を過ごした時代はマス媒体がメインで、ネット上の情報はまだ少なく選択肢が少なかった。そのため、好みが一極化して“ミリオンセラー”なども普通だった。だがZ世代は、多くの選択肢の中から自分の好きなものを選んでいく。メガヒットがない代わりに『自分にハマるコンテンツ』を選ぶことができる環境こそ、Z世代の好きの原動力の背景になっている(犬飼氏)

さらに、レコメンドによって個人にカスタマイズされた最適な情報が集まることも、好きを促進しているポイントだと分析した。

Z世代のコミュニケーションに欠かせない「推し」への理解

好きが原動力になっていることは、Z世代のSNS利用状況にもあらわれている。ここでのポイントは、「推し」という概念だ。「推し」とは、一般的にアニメやゲームのキャラクター、アイドル、ミュージシャンなど、Z世代が好きなものの呼び名として使われている。

Z世代の利用目的として、「推し」を見るが上位に入っているのが特徴

Instagram:友達と推しをみるツール

犬飼氏は、Instagramのキーワードとしてこの「推し」を挙げ、「友人の近況を知る・コミュニケーションを取る」「興味があることを調べる」に次いで、3位に「推しを見る」が入っていることに着目。気になることを能動的に調べることもあるが、基本的にはストーリーなどで「友達と推しを見る」ツールとなっていることを紹介した。

Twitter:情報を知るためのツール

Twitterに関しては、6割が「興味があることを調べる」に使用していると回答。ここでも「推しを見る」が2位になっているが、基本的には、興味関心やトレンド、時事ネタなど「情報を知るためのツール」として使われていると考えられる。

TikTok:暇つぶしのツール

そして、TikTokについては「推しを見る」「暇つぶし」と答える人が多く、始めたきっかけも「推しが始めたから」という人が多い。また、特に高校生の利用率が高く、今回の対象者ではほとんどが利用している。他の調査でも約45%が1週間に1回は閲覧するという結果が得られているという。

またおもしろいことに、「メイクなど同年代の投稿が多く参考になる。Instagramはやや年齢が高くて自分向きではない」という高校生のコメントもいくつかあったようで、Z世代でも閲覧メディアが微妙に異なることを指摘。さらに回答者の多くが複数のSNSを活用していることを挙げ犬飼氏は、「活用方法が異なり、情報も異なることから、複数利用が普通になっている」と説明した。

Z世代の好きなものに対するコメントでは、推しに対する熱量が感じられる。

実際に今回の調査で、Z世代の興味や関心事が何かを聞いたところ、7割が「推し」がいると回答しており、その他次のような傾向がうかがえると犬飼氏は話す。

  • 豊富な選択肢の中から、自分の価値観に合うものや好きなものを見つける力に長けている。
  • 好きなモノが見つかったらSNSでとことん深掘りする。
  • アカウントを複数持ち、「推し用」「メイク用」というように情報が混ざらないように整理している。

アカウントについては、平均4~5アカウント、多い人では10以上も使い分け、利用目的も興味関心ごとに加えて、「仲のいい人」「それ以外も含めて」というようにコミュニティ管理のために使い分けていることも明らかとなった。

さらに、犬飼氏は「好き」についてのインタビューから、「活力の源」「素の自分でいられる」と推しについて熱く語っているZ世代のコメントをピックアップして紹介した。

“推し”は自分を肯定してくれる存在であり、自分が自分であるための心の拠り所になっている。Z世代とのコミュニケーションにおいて“推しの大きさ”を認識すべき(犬飼氏)

キーワード③Z世代は、ルーティンを大事にしている

Z世代のネット以外の日常の過ごし方として、インタビューで目立つのは、「自分らしい時間の過ごし方」を好む傾向だ。人と一緒にいる時間も楽しんではいるが、一人でいる時間を大切にしていることがうかがえる。当然、推し活もその一つといえるだろう。

日常の過ごし方として、Z世代は一人の時間を大切にしている傾向が出ている

Y世代では十代の若者といえば、外に出て活動的なイメージがあったかもしれないが、意外なほど一人の時間を大切にしている。今は外に行かなくても、家の中でもさまざまなコンテンツが楽しめ、刺激がある。そうした環境変化を反映しているのかもしれない(犬飼氏)

アンケートの集計結果からも、「一人の時間を大切にしている」「穏やかな生活を送りたい」と答える人が8割に上り、家にいる時間、リセット・リフレッシュを大切にしていることがうかがえる。ただし、これにはY世代との差はあまり見られず、10年間の家計調査で家にかける支出が上がっていることや、コロナ禍による家時間を充実させる傾向もあいまって、今の時代のトレンドになっている可能性もある。犬飼氏は「Z世代はルーティンを大事にし、若いうちから自分の機嫌を上手に取る。自律が得意と言っていい」とコメントした。

日常の過ごし方に関する調査データ。自律が得意なことがZ世代の特徴といえる

キーワード④リスクはなるべく回避する

「失敗をしたくない」「安全志向」もまた、Z世代の特徴と一般的に言われる傾向だ。買い物をする際の価値観・行動にもそんな気質が見て取れる。たとえば、Y世代と比較して「失敗したくないという気持ちが強い」「ランキング1位など、皆が良かれと言っているサービスに惹かれる」「決断する時は他人のアドバイスがほしい」などの傾向が強く、「一人で買い物をするのは好きではない」という人の割合もY世代より多い。

買い物をする際の価値観にも、Z世代ならではの特徴がうかがえる

犬飼氏は、「ネットに多くの情報があり、いわば“正解”もあると知っている。そのため、積極的に正解を探しに行く、他者のアドバイスを聞く、人と一緒に買い物をするという“失敗をしないための行動”が目立つのではないか」と分析。インタビューでも「失敗したくないからきちんと調べる」などの慎重な声が多かったという。

SNSでの広告は効果的ながら、不安感も

さらに、Z世代の広告接触状況についても見てみると、SNSの広告を通じての購入経験者は約15%であり、さらに「公式HPを見に行った」「商品サイトを見に行った」など何らかのアクションを取った人を含めると、約6割に上った。また、広告の接触はYouTubeが6割弱、Twitter、Instagramが4割強で、他の媒体と比べて高い数値が出ている。

Z世代のSNS広告接触状況について
 
広告接触に関しても、Z世代はリスクを回避しようと考える傾向が見られた

なお、SNS広告に対する印象について、「SNSの広告はなんとなく怖いのでタップしない」と、ここでもリスクを回避しようとする習性がみられた。広告に対して漠然とした不安感を覚えているようで、犬飼氏も「これは意外なポイント。広告を提供する人も認識しておく必要がある」と語った。他にも「推しが出ている商品・サービスに興味を持つ」についてはY世代に大きく差をつけ48.8%が肯定するなど、ここでも「推し」の影響が色濃く出ている結果となった。

SNS広告に関してのポイントとして、広告に対して漠然とした不信感を抱いているため、それを払拭できるだけの信頼性の根拠が明確であることが求められる。たとえば、広告で気になる商品を発見しても、即購入という直接的な消費行動を引き起こしにくく、その間にチェックする工程が入るのがZ世代の特徴。Instagramの広告はフォロワー数を見たり、知っているアカウントがフォローしているかなど、フォロー状況を確認したり、その商品を誰が応援しているかが安心感の醸成に重要なことなので、「広告の信頼性の醸成は意識すべきポイント」と犬飼氏は強調した。

Z世代に刺さるコンテンツは「自分ゴト化」がカギ

調査結果からZ世代の特性や特徴が掴めたところで、犬飼氏はZ世代に刺さるコンテンツに関しても言及した。具体的には、次のようなポイントが考えられると解説する。

Z世代向けコンテンツのポイント①
多様性が当たり前に表現されていること

「多様性を表現すること」は、これからのコンテンツ制作において重要な考え方になるだろう。これは、付加価値のためにやるのではなく、「やって当たり前」のスタンスでないと、むしろマイナスに働く可能性もある。特に化粧品やファッションにおいてはその影響が顕著にあらわれる。なお、多様性を表現したクリエイティブに対して、Y世代は「自分と同じでないと合わない感じがする」とネガティブに取る人も少なくないが、Z世代については「誰でも合いそうだから自分にも合いそう」とポジティブに受け止める傾向がみられる。

Z世代向けコンテンツのポイント②
好きを起点に「自分らしさ」を深められること

Z世代は、好きを深められる、自分らしさを表現できるコンテンツに惹かれる傾向がある。たとえば、ゲーム感覚で選べるパーソナライズ診断によって、自分におすすめのメイクパレットが提供されたり、味や色、ラベルの文字などのカスタマイズで「推し活」をアピールできる飲料など、こうした事例が最近成功している。自分だけの自己表現、オリジナリティを出せるものに楽しさを感じるようだ。なお、「推し活」は自分の趣味嗜好をアピールするツールとしても活用されている。

Z世代向けコンテンツのポイント③
自分を癒す「ルーティン」にまつわること

自宅で快適に過ごすためのライフハック、1日を快適にはじめる・終わるためのコンテンツも重視されるようになっている。リラックスする、ストレスを解消するというコンテンツやモノに対して一定のニーズがある。ここ数年で流行った「ルーティン」動画なども、こうした傾向のあらわれと思われる。

Z世代向けコンテンツのポイント④
「自分の価値観に合う」と思ってもらうこと

特に広告においては、「見るか見ないか秒で判断」されるので、まずは興味を惹き、感情に訴求することが必須であると同時に、不安を払拭し、信頼性を高める工夫をすることが大切になる。犬飼氏は、広告のポイントとして、「メリットが秒で伝わる」「推しが訴求」「興味を引くビジュアル」に加え、そのメディアや「自分たちの投稿に馴染んで異質感がないこと」を挙げた。そして、信頼を担保しつつ“自分ゴト化”するために、理想や願望を実現するイメージや動画、嘘偽りのない使用後の感想、コメントでの正直な感想などが有効だという。

Z世代にコンテンツを自分ゴト化してもらうためのステップ

犬飼氏は「秒で興味を引き、感情に訴求し、不安感を解消するというステップが、コンテンツを“自分ゴト化”をしてもらうことのコツ」と改めて強調し、セッションを終えた。

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