セーフ? アウト? 著作権や肖像権についてWeb担当者が知っておくべきこと【弁護士が解説】
マーケティングにおけるWebサイトやSNSの活用が増えるとともに、コンテンツについての疑問、表現の重なりや引用、写真での人物や建物の映り込みなどの「著作権」「肖像権」に関する線引きに悩むマーケターは多いだろう。
「デジタルマーケターズサミット 2022 Summer」に、暁の法律事務所 弁護士の木村 充里 氏が登壇。Web担当者Forumにて漫画『僕と彼女と著作権』を掲載中の木村氏が著作権、肖像権のポイントについて話した。
著作権の対象となる「著作物」って何?
木村氏は、そもそも著作権で保護される対象となる「著作物」とは何か、というところから解説をはじめた。著作物とは「人が思想や感情を(頭の中でいろいろ考えたことを)創作的に表現したもの」と定義される。
たとえば小説や写真、音楽、Webサイトや絵画・イラスト、漫画、ダンスの振り付けや映画、建築物、彫刻などがイメージされるが、もっと広く、およそ人間の考えが創作的に表現されたものが著作物になる。
要件について詳しく掘り下げていくと、まず、「人間の考え」が表現されたもの、ということが必要である。事実や単なるデータ、自然の物(山、花など)は著作物にならない。逆に、人間の考えが表現されているという意味では「4歳児の描いた絵」などでも著作物になるとのことである。
次に、「創作性(オリジナリティ)」に関しては、「ありふれた表現」つまり「誰が表現してもそうなるしかないもの」は著作物にならない。たとえば、単なる事実の伝達に過ぎない新聞の記事、「用法・用量を守って正しくお使いください」という定型の言葉などである。
データベースについては、個々のデータは著作物ではなくても、データの選び方や体系・構成に創作性があれば著作物として保護される、という。
そして、「永続的なものである必要はないが、表現(アウトプット)されたものであることが必要」というポイントも押さえる必要がある。たとえば「砂に描いた絵」「黒板アートのような絵」「即興で踊った振り付け」はいずれも著作物だが、頭の中で考えているだけのアイデアは著作物とはならない。
HTMLのコードは著作物になるのか?
木村氏は、さらに詳しく「著作物にあたるもの/あたらないもの」について例示した。たとえば、「キャラクター」については、概念上の抽象的なキャラクター自体はアイデアと同様に扱われる(著作物ではない)が、漫画やイラストになっているものについては著作物となる。また、自然の風景は著作物ではないが、それを撮影した写真は著作物だ。
一方、HTMLのコードは著作物かという議論がなされたことがある。木村氏は「一般的にこういう表現をしようとすれば、ある程度同じような記述、書き方になる」ことからオリジナリティのある表現にはなりにくい点でHTMLは著作物にはあたらない場合が多いとした。
その観点で考えると「取扱説明書の文章」や「スポーツなどのルールの説明書の文章」なども著作物にはあたらないことがあるという。
アウトプットした瞬間に、著作物に対して著作権が発生する
次に、著作権とは何かについて触れる。著作権とは「著作物の利用をコントロールする権利」のことだ。一口にコントロールといっても、実態は後述するようなさまざまな「利用コントロール権」が合わさっており、著作権は別名「権利の束」とも呼ばれる。
これらはまず大きく、著作権者(権利者)の経済的側面を保護する「著作権」と、権利者の精神面をケアする「著作者人格権」の2つに分かれている。
木村氏は「著作権は、著作物をアウトプットした瞬間に発生するもので、届出や申請は必要ない」と言う。
また、著作権及び著作者人格権は制作を行ったものに帰属する。そのうち、著作権は他人へ譲渡することができる。たとえば、契約により、著作権が、クリエイターから発注者へ譲渡されるケースなどが考えられる。
そして、会社で制作したもの(会社の名義で発表するもの)は、要件を満たせば従業員ではなく、会社に帰属することになる。(著作権法上の「職務著作」という制度)
著作権にはさまざまな権利が含まれている
権利の束と呼ばれる著作権を詳しく見ていくと、まず「著作権」には次のようなものがある。
- 複製権
- 翻案権(改変する権利)
- 公衆へ見せたり聞かせたりする権利(上演・演奏・上映・口述・展示)
- インターネットで公開・アップロードする権利(公衆送信・送信可能化)
- 複製物の譲渡・貸与に関する権利
- 二次著作物に関する権利など
こうした行為に対して主に経済的な対価によって権利者を保護しようというものだ。続いて、「著作者人格権」には次のようなものがある。
- 公表権
- 氏名表示権
- 同一性保持権など
どこまで似ていたらアウト(著作権侵害)になる?
著作権侵害のパターンとしては、盗作や無断利用などがあるが「自分が著作権者側として、権利を侵害されるケースもあるし、自分が権利侵害をしてしまうケースがあるかもしれない」と木村氏は述べる。
では、実際に著作権侵害のケースというのはどういうものがあるだろうか。どこまで似ていたらアウト(著作権侵害)になるかの参考として「スイカ写真事件」を紹介。東京高裁平成13年6月21日判決の判例で、スイカを被写体にした写真を巡る著作権について争われた裁判のことだ。
被告が撮影した右側の写真が、原告の写真(左側)の著作権を侵害しているかの是非が問われた。木村氏は「一審と二審の裁判で裁判官の判断も分かれた」としたうえで、侵害の要件となる依拠性(行為者側が見たことあるか)や類似性(元の著作物を直接思い起こさせるか)は、オリジナリティの高さや類似点の数でアウト(著作権侵害)と判断された。
著作権侵害は「当該著作物の性質」「侵害の態様」「侵害を認めた場合に他の者の創作が制約されるかどうか」「度合い(残された表現の幅の余地)」も考慮されているのだ。
自社の別媒体への転載はOKか?
続いて木村氏は、実務としてよく相談を受ける代表的なケースを紹介。Web制作やマーケティングを行う立場(主に発注者側)で直面しやすいケースとしては、「二次利用・改変」がある。
たとえば、ホームページに掲載する文章や記事・写真(外注したもの)について、「自社の別媒体への転載はOKか?」「外部メディアへの転載は?」「ホームページの改訂時に文章を大幅に改変したいが、可能か?」といった問題だ。
木村氏は「契約や許諾がなければ法的にはアウト」とし、契約時に著作権が譲渡されていなければ許諾が必要だという。また、自社が発注者側の立場の場合は「契約時に著作権が自社へ譲渡されているか、著作者人格権はどうなっているか」を確認することが望ましいと述べる。
フリーの写真素材はそのまま使用して問題ない?
写真やイラストなどのいわゆるフリー素材については、とくに許諾などが必要ないと考え、そのまま使えると認識している人が多い。木村氏は「フリー素材にも色々なものがある。適法に提供されているものは勿論問題がないが、フリーと謳われていても、権利侵害のおそれがあるものもある」と言う。
たとえば極端な例では「他人の撮った写真を、誰かが勝手にフリー素材にしていた」というケースも考えられる。利用時には必ず、使用する過程で合理的な範囲で確認・記録を残しておくことがリスク軽減には重要だ。また、自分が権利者だという人から問い合わせがあれば、削除や経緯の説明など誠実に対応することが望ましい場合が多いだろう。
なお「写真は素材提供者が撮影したものだが、人物が顔を含めて映っているもので、被写体からは肖像利用の許諾を受けていなかった」という場合もありうる。これは後述する肖像権に関わる問題だ。
木村氏はリスクを低減するためにも「人物写真については、フリーでも有償でも、特に利用条件をきちんと確認しよう」と提言した。
肖像権侵害になる線引きとは?
木村氏は、肖像権について「人の氏名や肖像(顔や姿)などは個人の人格の象徴である」とし、「肖像権は法律で定められた権利ではない。しかし、裁判例では、個人の人格権の一側面として、みだりに使用されない権利がある、と考えられている」と説明した。
実務上は、一般的にキャラクターなどで有名人を起用する場合は、肖像権に関するライセンス契約(使用許諾)を結ぶことが多く、あまり問題になることはない。
とはいえ、何をすれば肖像権侵害といえるのかはわかりにくいのも事実だ。木村氏は、「みだりに利用してはいけない」とはどういうことか説明した。
退職した社員のインタビュー記事はそのまま掲載してOK?
「みだりに」とは、一般には「これといった理由もなくやたらに」という意味で使われる。
とはいえ、単にこれといった理由がなく肖像が使われたら、ただちに肖像権侵害として違法になるわけでもない、とのことであった。木村氏によると、裁判所が権利の侵害になると判断するのは、「これといった理由なくやたらに利用された場合で、その態様や結果も総合的に考え、人格的な利益が損なわれるようなとき」、ひらたく言えば「むちゃくちゃな利用がされた場合」であるとのことであった。
この点、肖像権侵害かどうか難しい例として「社員のインタビュー記事を実名と写真入りでホームページに掲載したが、その社員が退職した場合、そのまま残しておいて大丈夫か?」といったケースが取り上げられた。
木村氏は「法的には一応セーフになりそう(一発アウトといえないものはセーフと考える)」とする。「いったん合意の上で掲載を開始した経緯からすると、退職時の約束が曖昧であったとしても、ただちに違法な使用とまではいえない」と木村氏は述べる。
しかし、「経緯によっては、退職の際に削除することが前提になっているかもしれない点があるため、確認したほうがよい」ということだ。また、当該社員の意に沿わない文脈で名前や写真を使用することや、退職後に削除を求められているなどの事情がある場合には注意が必要となる。
著作権や肖像権に関する相談を誰にするか
ここまで説明した木村氏は、最後に「著作権や肖像権に関する相談を誰にするか」についても言及した。たとえば、部署の中で経験のある人がいるならそうした人に相談することや、法務部などの専門部署に相談することが大事だ。
一方、「著作権や肖像権は社内の法務部であってもなかなか実務経験がある人が少ない」のも事実であり、誰に聞いたらわからないということが多いのも著作権、肖像権問題の特徴だ。
「著作権でどうしたらよいかわからない、クリアにしたいと思う事例に出会ったら、まずインターネットなどの公開情報を調べてほしい。次にWeb担当者Forumで掲載中の『僕と彼女と著作権』を読んでほしい。それでもわからないときはぜひ、木村までメールでよいので相談してほしい」と木村氏はセミナーを締めくくった。
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