リアルなビジュアルをフル活用! ワークマンのアンバサダーマーケティングに学ぶECコンテンツ充実術
ブランディングやマーケティングには欠かせない写真や動画。顧客接点が多様化する中、デジタルアセットをあらゆるチャネルで活用するには、誰もが使えるビジュアルマーケディングプラットフォームが求められる。
「デジタルマーケターズサミット 2022 Summer」に登壇したvisumo(ビジュモ)の井上氏は、ワークマンが展開する「アンバサダーマーケティング」の事例を踏まえながら、Instagramの画像やYouTubeの動画などを活用し、ECサイトのコンテンツを充実させるために有効な方法を解説した。
画像・動画の共有・活用を支援するプラットフォーム「visumo」
企業や商品のブランディングやマーケティングの施策において、写真や動画などのビジュアルは以前から大きな役割を果たしてきた。しかしながら、いまだ特定の部門によってクリエイティブが作成され、その活用も限定されるなど、自社のデジタルアセットを十分に活用できていない企業も多い。そんな課題を解消すべく、誰もが簡単にさまざまなチャネルに活用できるSaaS型プラットフォームとして誕生したのが「visumo(ビジュモ)」だ。
visumoは「誰でも簡単にデジタル活用ができる世界を創る」をビジョンに掲げ、500社を超える企業のECやデジタルマーケティングを支援してきた。同社の取締役を務める井上氏は、「デジタル人材の採用や教育が難しくなりつつある中で、visumoは誰もが簡単にコンテンツをデジタルマーケティングに活用できる環境を整えていく」と意気込みを語る。
Webサイトのコンテンツを充実させるために、ビジュアルマーケティングプラットフォームとしてvisumoが提供する機能をまとめてみよう。
- visumo social:Instagramの公式および、インフルエンサーや店舗のアカウント、UGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)などの写真や動画を管理画面でピックアップし、公式サイトやオウンドメディアに活用・分析ができる
- visumo vidio:YouTube、Instagram、TikTokなどの動画アセットを管理し、ECサイトやオウンドメディアなど会社全体で活用・分析ができる
- visumo snap / visumo comment:店舗や宣伝広報部門などスタッフのスマートフォンからアップされた写真や動画、コメントを、ECサイトやオウンドメディアなどに活用できる(snap)/専門知識は不要、ノーコードでWebサイトを制作可能(comment)
ネット上の情報収集はテキストからビジュアルへ
visumoが誕生した背景には、ECやマーティング、プロモーションなどさまざまな企業活動において、より多くのビジュアルが求められていることが挙げられる。
たとえば、Googleの調査※では、ネットショッピングユーザーの50%が「意思決定にビジュアル情報が役に立つ」と答えており、検索結果画面にもビジュアルが多数掲載されるようになっている。広告枠やショッピングタグ、画像検索などにはもちろん、公式サイトの画像も抽出されて表示され、検索結果画面は画像・動画が多数掲出されるようになっている。
井上氏は「まだまだインターネットの利用時間が増えており、読むのに負担がかかるテキストよりも、直感的に情報が得られる画像や動画を好み、そこから興味関心を持ったものを深掘りする傾向にある」と分析した。
「ググる」と「タグる」の使い分けと「発見タブ」の浸透
そんな中で「ググる」より「タグる」と呼ばれる検索スタイルで、ユーザーを獲得しているのがInstagramだ。日本のInstagram利用者がハッシュタグで検索する回数は、グローバル平均に対して5倍という調査※もあるほど、日本人の情報検索はInstagramに頼っている傾向が強い。
フィルターのかかっていないユーザーのコンテンツも含めて、数秒前に投稿されたものもすぐに検索できるという利点があるためと考えられる。ただしメーカーや流通の公式サイトを見たいときには「ググる」方がアクセスしやすく、ニーズに合わせて「ググる」と「タグる」を使い分けているわけだ。しかしながら、井上氏は「即効性のあるビジュアルなら何でも効果があると考えるのは早計。必要なのはビジュアルの多様化で、顧客ごとに異なる琴線にアプローチすることだ」と語る。
たとえば、Instagramの「発見タブ」は、その人の興味・関心に基づいてリコメンドされたコンテンツが表示される仕組みであるため、30代前半・女性・都内在住など同じ属性であっても、興味関心が異なれば、画面は全く異なる写真になる。ユーザーにとってパーソナライズされた世界観となっており、興味のないものが表示されにくい状況に慣れてきているというわけだ。
この「発見タブ」は、Instagramで最も使われている機能であり、能動的に検索するというより、リコメンドされた情報の中から気になるものを閲覧する人が増えていることが伺える。
それはIstagramだけでなく、YouTubeやTikTok、Twitterなど主要なSNSにも同様の機能が搭載されており、ライフスタイルなどでリコメンドされたビジュアルの中から気になったものを閲覧し、そこから興味関心を広げていくという行動が一般化しているといっても過言ではないだろう。
こうしたSNSの影響力はますます大きくなっており、「ファンとなった企業・ブランドを知ったきっかけ」としてテレビCMに次いで2番目という報告もなされている※。いわばメディアとしても、ユーザーの支持を集めているというわけだ。
SNSで認知、公式サイトで購入の意思決定
それでは、どのようにしてSNSへの発信を行っていけばいいのか。井上氏は「SNSの運用に力を入れているだけでは十分ではない」と語る。購入の意志決定には公式サイトの影響力が高まっており、特にコロナ禍において「購入の意思決定に影響力が強まった」とする人が5人に1人と答えており、それは2年前の約2倍にも上るという※。多くの人がSNSで情報に触れ、その後公式サイトやオウンドメディアを閲覧してから購入に至るという行動が見えてくる。
加えて、デジタル体験と対面の体験のどちらが重要かという割合が、年代で若干の差があるとはいえほぼ同じとなっている。もはやデジタル体験は対面体験と同程度、場合によってはリアルを上回るほど重要となりつつあるというわけだ。
SNSでリーチを取っていけばいいというものではなく、公式サイトやオウンドメディアなどのデジタル、対面も含めたリアルでも、接客力向上が求められている。あらゆる接点において、どのようなビジュアル、コンテンツを作るべきなのか、見せていくべきなのかを一気通貫して考える必要が生じている。そのためにもSNSでのビジュアルなどを活用し、サイトの魅力をアップする必要がある(井上氏)
ユーザー発信のビジュアルを活用したワークマンの「公式アンバサダープログラム」
画像や動画などコンテンツが重要とはいえ、それを全て内製するにはリソースやコスト的にもハードルが高い。そこで活用したいのが、アンバサダーやユーザーなどのコンテンツ、UGCだ。
その成功事例として、井上氏はワークマンの「公式アンバサダープログラム」を紹介。Webサイトで募集をかけ、常時40名ほどが登録し、キャンプブロガーや漁師、ファッションアナリストなどさまざまな「その道のプロフェッショナル」をアサインしていることが特徴だ。そこが単にフォロワーが多いインフルエンサーを活用したインフルエンサーマーケティングと大きく異なっている。
アンバサダーマーケティングを強化するきっかけとなったのが、金属の溶接時に飛ぶ火花を避けるために職人が使う「綿素材のヤッケ」だという(現在は販売終了)。
年間2,000~3,000枚だった売り上げ枚数が、キャンプブロガーのサリーさんがブログで「焚き火に最適」と紹介したことで2倍以上になった。さらに2020年にはサリーさんと商品を共同開発・アップデートし、10万枚を販売する大ヒット商品になった。これは、「ワークマンプラス」や「ワークマン女子」といったワークウェアからの拡大の波に乗ったことも大きい。
アンバサダーマーケティングのメリット①
広告色の少ない情報発信が可能に
このアンバサダープログラムには2つの特徴がある。
①インハウスでキャスティングしていること
代理店やパートナーに丸投げというケースも少なくない中で、ワークマンでは自らエゴサーチを行って、実際に愛用者に声がけをして公式アンバサダーの依頼をしている。
②金銭的なインセンティブがないこと
金銭のやりとりが介在すると、アンバサダーも第三者ではなく発信する情報にも宣伝色が出てしまう。有償で宣伝するというインフルエンサーではなく、ワークマンを愛用している人が発信することで情報に説得力が生まれる。
インハウスおよび無償であることが、公式アンバサダーの存在価値を高めることにつながり、「ワークマンの公式アンバサダーになる方法」という記事が出るくらい希望者が増えているという。
もちろん、アンバサダーになることによるインセンティブは魅力的なのは間違いない。愛着あるワークマンの公式アンバサダーとしての名誉、製品の共同開発で世の中に役に立つ商品が生まれること、その商品をリリース前に体験し、情報・商品提供できること、そして20万人いるブランドフォロワーともつながる機会があり、露出機会が増えることなどがある。
アンバサダーマーケティングのメリット②
売り上げに直結する的確な商品開発、商品紹介のアイディアの獲得
井上氏は、アンバサダーの影響力として、ワークマンの土屋専務の「1,000人から意見を聞くよりも1人、2人のアンバサダーから聞く方が的確なアイデアが出る」という言葉を紹介。実際にA/Bテストをしてみても、社員が出したアイデアよりも売れることがわかったという。なお2021年にはアンバサダーと140アイテムを共同開発し、商品として販売している。
また、単なるマーケティング施策でないポイントとして、デジタル接客力を高めるという意図が大きい。たとえば、レインジャケットの場合、モーターサイクルジャーナリストは「バックパックを背負ったまま着用できる」という点に着目し、ファッションアナリストの場合は「どうコーディネートすればおしゃれか?」と着こなしのヒントを語る。つまり、同じ商品を紹介する場合でも、属性ごとに異なる視点で語られ、それが同じ属性の人たちに参考になるというわけだ。
そうした商品を多角的な視点でとらえるスタイルは、ビジュアルの活用においてもしっかりと反映されている。たとえば、あるダウンジャケットの販売ページでは、カタログ写真だけでなく、女性が釣りをしているときに着用する様子、キャンプ時にカップルお揃いで着用する様子、というように「消費者のライフスタイルの中から生まれる固有のビジュアル」が多数活用されている。
パッと見て、機能や使用シーンなどさまざまな情報を得られるのがビジュアルの強み。しかしながら、企業がそうした写真をシーン別に撮影するのは大変なこと。アンバサダーはもちろん、ユーザーの体験・経験値を借りることでコンテンツを充実していける(井上氏)
アンバサダーマーケティングのメリット③
受け手に刺さる客観的で説得力のあるビジュアル
ECサイトの中にある「workmanフォト」では、Instagramの「発見タブ」のように、ユーザーやアンバサダーの“映える”写真が多数掲載されている。第三者として発信しているので情報が客観的で説得力があり、さまざまな視点で紹介されていることから、受け手に刺さる物が多い。さらに、それらの写真には製品が紐付いており、「いいな」と思った写真から、購入画面に飛ぶことも容易だ。
井上氏は「Instagramにあがっている写真は、自発的に投稿されたものなので、客観的でビジュアライズされた魅力的なレビューともいえる。テキストによるレビューとカタログ情報との間に配置することで、大変有用なコンテンツとなっている。今後、ワークマンが店舗受け取りを強化するに当たり、ものを見ずに決済させるためには商品詳細ページをリッチにしていく必要がある。そこに応えた施策であることは間違いない」と評した。
アンバサダーマーケティングのメリット④
動画の活用でさらにコンバージョンをアップ
そしてもう1つ、ワークマンでは動画の活用も積極的に行っている。たとえばテントなど、アウトドアグッズの展示は一部の店舗のみに限られるため、ECサイトで購入し店舗で受け取る形式が基本となる。
そこで、商品詳細ページではサイズや中の広さ、設営方法などが伝わる動画を提供しており、購入前に確認することができる。その中に、アンバサダーが提供している動画も掲載されており、Instagramの画像経由でのコンバージョンでは通常の約2倍だったが、それを上回る約3倍に達する勢いがあるという。
アンバサダーマーケティングの位置づけについて、井上氏は図式で整理してみせた。ユーザーがシェアしだしたら「インフルエンサー」となるが、その中で一般ユーザーからマイクロインフルエンサー、メガインフルエンサーと影響力を増していく。
アンバサダーはインフルエンサーを横串にして、エゴサーチにより発掘・採用し、商品提供や商品開発によって関係性を深めていく。そこから生まれたコンテンツを真似て、アンバサダーをフォローするユーザーが発信するUGCを自社サイトにも掲載し、それらを通じてまたファンが拡大していくという流れだ。
こうしたことが可能だったのは、ワークマンはビギナー商材を取り扱っていて、SNSサーチが多いという前提がある。しかしながら、ユーザーのコンテンツを活用した例として大変参考になるだろう。
井上氏は「リアルとデジタルによる顧客コミュニケーションが複雑化する中で、顧客体験の向上において、Webサイトはデジタル上の重要なタッチポイントの1つであり、商品を知るための重要な場所であるという位置付けは変わらない。そのためコンテンツの情報を充実させるのは非常に大切なこと」と語る。
また、それを特定の部門で行うのではなく、ツールを活用することで、店舗スタッフやユーザーも含めてコンテンツをつくることが可能になる。「そうして皆で集めたビジュアルデータをワンタグでサイトなどのコンテンツとし、スマホや店舗などにも簡単に有効活用できるのがvisumoの強み。ぜひ興味のある方は問い合わせてほしい」と訴え、セッションを終えた。
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