UGCからはじめるファンマーケティング、「ブランド愛」を購買や商品開発にまで活用した2つの事例
インターネットを利用するユーザーの意思決定に、写真や動画が大きな影響を与えている。コロナ禍によって生活者の生活様式が変わる中で、企業と顧客のタッチポイントも変容し、デジタルチャネルの持つ重要性が高まっている。
「Web担当者Forumミーティング 2022 春」に、visumo(ビジュモ) の井上氏が登壇し、ワークマンやトヨタなど、UGC(User Generated Contents:ユーザー生成コンテンツ)を中軸にブランドが消費者とつながることに成功した“ファンマーケティング”について解説した。
ビジュアル活用が多様化し、画像や動画が意思決定の中心に
「ネットでショッピングをする人の50%が、意思決定にビジュアル情報が役立つ※」と回答しており、ユーザーの意思決定に動画や写真が占める役割は大きくなっている。
たとえば、Googleで「[ブランド名] スニーカー」とキーワード検索すると、ひと昔前はリスティング広告などのテキストが検索結果として表示されていた。しかし昨今は、ビジュアル情報が増えており、検索したブランドのスニーカー写真が掲載されたショッピング広告や関連動画が表示されるケースが増えている。
検索は「ググる」から「タグる」へ
ユーザーの検索行動からも、ビジュアル要素の重要性は増しつつあることがわかる。かつて、「検索する」といえば“ググる”(Googleを使って検索する)であったが、近年は“タグる”(SNSを中心としたハッシュタグで検索する)へと変化しているという。
「ググる」は、検索サイトでSEOにより最適化されたコンテンツにたどり着けるのに対し、「タグる」は、Instagramでハッシュタグをつけて投稿された最新のものが表示され、写真画像と共にリアルタイム性がある検索結果が表示される。
また、ECサイトのコンテンツの在り方も変革期にあるという。ECサイトの構成要素は大きく変化していないものの、Instagramなどの“映える”写真をコンテンツとして活用するケースが増えてきている。商品画像の他に、商品の使用感などがわかるコンテンツを一緒に見せることで、ユーザーの視線を集め、PVや回遊を増やすようなコンテンツの使い方が増えてきているという。
「何かないか?」と、ウィンドウショッピングを楽しんでいるときは、視覚から入るビジュアル要素を中心に見て、「よし、購入しよう」というタイミングでは、テキスト情報でサイズやレビューなど詳細を見ていく。つまり、意思決定までのタイミングによって、テキストとビジュアルの役割の棲み分けが明確になってきているのだ。
伝達速度に勝るビジュアルによる検索
たとえば、ECサイトであれば、「この商品は女性が着られるのか」「ユニセックスなのか」といった情報は、テキスト情報で記載していても、なかなかユーザーに見てもらうことが難しいと井上氏は述べる。その点、女性がジャケットを着用している写真を掲載すれば、写真1枚で情報を伝えることができる。
さらに、キャンプや釣り、バイクなどのライフスタイルに直結したシーンの写真を掲載することで、見ている人に視覚的に伝わりやすく、訴求力も高まるというのだ。
ビジュアルデータの活用を支援するプラットフォーム「visumo」
visumoは写真や動画を有効活用できるビジュアルマーケディングプラットフォーム「visumo」を提供している。SaaS型のマーケティングツールで、導入社数は500社を超える。
主な機能をまとめてみよう。
- visumo social:Instagramを中心にSNS上の写真や動画の投稿を自社サイトに活用し、関連する商品、サービス、ページを紐付けられる
- visumo video:オフラインでのタッチポイント強化にYouTube動画などを活用することが可能
- visumo snap / comment:アパレルなど店舗スタッフのコーディネートコンテンツ制作が行える(snap)/専門知識不要、ノーコードでWebサイトを制作可能(comment)
UGC活用事例①
「ファンマーケティング」を仕掛けるワークマン
井上氏はvisumoを活用したUGCマーケティングの事例として、ワークマンの取り組みを紹介した。同社は「#ワークマン」「#ワークマン女子」「#ワークマンプラス」など、SNSを活用したUGCマーケティングに力を入れていることで知られる。
同社のECサイトの写真や動画素材は公式アカウントの素材だけでなく、ユーザーやその商品・サービスの熱心なファンである「アンバサダー」の投稿を活用している。また、商品ページだけでなく、「釣り」「バイク」といった用途に応じた特集ページなどでもしっかりとビジュアル訴求している。
常設コンテンツのよくある課題は「新しい企画にリソースを割かなければならない中での、既存ページの更新が大変」というものだ。その点、ユーザーやアンバサダーの写真であれば、常に最新の写真がアップされているため、アップデートが自動的にかかっている状態となる。リピーターにとっても新しい来訪者にとっても、鮮度の高い写真で訴求することが可能になるわけだ。
ユーザーを巻き込んだECサイトのコンテンツ作りのプロセスは、以下の流れを踏む。
- 投稿された写真や動画の使用の許諾を得る
- 商品の着用サイズなどの情報をヒアリング
- 情報を追加してサイトに掲載
井上氏は「お客様からはポジティブな反応が多く、メッセージのやり取りが成立することが多い」と話す。企業側は、パンデミック以降、オフラインの接点が減ってきており、SNSを1つのデジタルチャネルの顧客接点として有効活用しようという認識に変わってきた。
そして、ユーザーである顧客側は、好きなブランドからのコンタクトであるため、ポジティブに反応するという。このように、デジタル上でOne to Oneのコミュニケーションが企業と顧客で発生しており、そこから得られた情報をマーケティング情報として次の施策に生かしていく流れが構築されているのだ。
「真のアンバサダー」を育成し、マーケティングや商品開発に活かす
また、ワークマンでは、育成したアンバサダーを「公式アンバサダー」と位置づけ、その声を商品開発にまで活用する取り組みを行っている。アンバサダーとは、一般消費者やマイクロインフルエンサー、また、KOL(Key Opinion Leader)などの中からブランドを代表して情報発信してくれる「選ばれた人」のことで、この中には店舗スタッフも含まれる。
ワークマンでは、エゴサーチを行い、こうしたアンバサダーを定期的に発掘・採用している。また、活動には商品提供以外に金銭のやり取りは発生しないことを公言している。井上氏は「アンバサダーは、アカウントのフォロワーの多さでなく『その道のプロ』をアサインしている」と話した。これは、「社員1人ひとりのアイデアよりも、商品に関するその道のプロであるアンバサダーから聞くほうがより正解なアイデアが出る」という考えに基づくものだ。
ワークマンでは「山ガール」「キャンパー」「バイク乗り」といった商品カテゴリーごとにアンバサダーを選定しており、商品詳細ページにUGCの写真や動画などのビジュアルを活用するほか、アンバサダーのアイデアを商品開発に活用している。
また、アンバサダーの中には熱狂的なファンがいるYouTuberもいる。「彼らが投稿したUGC動画をワークマンのWebサイトのコンテンツとしても活用することで、比較的長尺の動画も視聴してもらいやすくなった」と井上氏は述べる。
アンバサダーは、SNSへの発信を無償で行い、それをフォローしている一般消費者が「やってみた」などのコンテンツで拡散、そして、ブランドはそれらのコンテンツを自社メディアに集めて二次利用していく。
さらに商品開発に至るまで、アンバサダーマーケティング施策を強化する一連の流れが構築されているのだ。
UGC活用事例②
ファンの熱量が好循環を生む「みんなのトヨタグラム」
続いての取り組みは、トヨタ自動車によるUGC活用事例である「みんなのトヨタグラム」だ。「お客様がカーライフを彩り創るコンテンツ」として、自分の車のワンシーンを切り取った写真をアップロードしたものから、ピックアップし掲載しているものだ。
また、単に写真を並べるだけでなく、写真から車種紹介や試乗予約などのコンバージョンを促す導線が設計されているのも特長だ。
トヨタ自動車のInstagramの公式アカウントはフォロワーが50万人を超えた。そして「#トヨタグラム」のハッシュタグが付された投稿は、累計で40万件を超えている(2022年5月18日現在)。井上氏は「2017年当時は8,000件程度だったので、大きく増えている」と話す。
仮に月間約2万件のハッシュタグ投稿が、1アカウントあたり平均30人のフォロワーに見られたとすると、60万ユーザーにリーチしたのに相当する数字だ。さらに、Instagramのアルゴリズムにより、投稿は世界観を共有する人に拡散する。「従来の広告で接するオーディエンスとは異なる層にリーチできる施策ではないか」と井上氏は話す。
ハイクオリティな投稿が質の高い投稿を増やす「好循環」
こうした成長は「トヨタという、知名度の高いブランドがあるからではないかと思われがちだが、それだけではない」と井上氏は述べる。というのも、「#トヨタグラム」というハッシュタグは、それを知っているユーザーでないとなかなか使われないものだからだ。
すなわち、もともとのブランド力に加え、ユーザーを巻き込む仕掛けがあることが成功の要因としてあるのだ。
「みんなのトヨタグラム」コンテンツはInstagramのほか、Twitter、LINEにも開設されており、「スポットの特集企画ではなく、ユーザー自身のタイミングで発信できるよう」に常設化されている。
ユーザーのタイミングで投稿してもらうことで、リアルなカーライフがビジュアル化され、さらにそれをトヨタがピックアップして公式アカウントに掲載しているのだ。
車のオーナーとしては、ページに掲載されたいと考える。そこで世界観を踏襲した写真を撮ろうとする動きが生まれ、コンテンツのクオリティがどんどん高まっていく(井上氏)
そして、ハイクオリティな投稿に触れた他のユーザーの感度が高まり、「さらにクオリティの高いコンテンツの投稿が増える」好循環が生まれているというのだ。
井上氏は、今の時代だからこそ、ユーザーとつながるデジタルチャネルは大事だと話す。1日のネット利用時間は168.4分、ソーシャルメディアの利用時間は44.2分と長くなってきている中、マスやインターネットなどの従来の広告だけはなく、SNSを通じた展開も1つの施策として検討していただきたい――と井上氏は締めくくった。
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