アドベリフィケーション入門

ブロックリスト、セーフリストを作ればデジタル広告のアドベリ対策は安心は間違い!? リスト対策の落とし穴とは

「アドベリ入門」第2回は、ブロックリストとセーフリストの落とし穴について、図解を交えてわかりやすく解説。デジタル広告担当者は必見です!

デジタル広告の不正問題にまつわる、さまざまな疑問や現場で直面する悩みを抱えるマーケターの末広告美さんが、アドベリフィケーションの専門家・山口さんに解説してもらう連載。
第2回は、「ブロックリスト、セーフリストを作れば安心!?」です。

末広

上司にアドベリを説明したら「うちは前からブロックリスト、セーフリストを作ってるから大丈夫!」って。え、リスト作成もアドベリなの?

山口

良いご質問です。お答えしましょう!

末広

あ、山口さん!
あの〜「リスト作成」ってブランド保護とかにも効果があるんでしょうか?

山口

リスト対策は昔からある手法ですが、効果は非常に限定的です。まず、リストとは何かからご説明しましょう。

ブロックリスト、セーフリストとは?

「アドベリ対策、やっていますよ」と言う広告主や代理店の方にお話を伺ってみると、それはブロックリスト、セーフリスト作成だったと言うケースが多々あります。

「ブロックリスト」とは、インプレッションを購入したくない、つまり広告配信をしたくないサイトをリスト化したものです。広告主のブランドの評判を損なう可能性があるような危険なコンテンツを含むサイト、低品質なインプレッションで広告費を浪費するだけの非効率なサイトをブロックリストに登録して、それを元に広告配信を停止します。除外するという意味でイクスクルージョンリスト、かつてはブラックリストと呼ばれていたこともあります。

反対に「セーフリスト」は、広告表示をしたい安全なサイト、高品質なインプレッションを提供するパフォーマンスの高いサイトをリスト化したもので、リストに含まれたドメイン、URLのみを対象に広告配信を行うために使われます。インクルージョンリストや、かつてはホワイトリストの名前で呼ばれていたものです。

デジタル広告配信におけるリスト対策は、アドフラウド対策をメインに昔から行われており、全く効果が無いわけではありません。しかし、コンテンツが日々膨大に生成される現代においては、期待できる効果はより小さく、非常に限定的になっています。また、リスト対策が逆に広告配信のパフォーマンスを悪化させていることもあります。

※アドフラウド=金銭搾取目的の不正なクリックや、ボットなどによって水増しされたトラフィックなどの不正インプレッション、詐欺的な行為のこと
末広

ブロックリスト、セーフリストを使うことで、
広告配信のパフォーマンスが悪化……?! た、大変!!

山口

リスト対策には、大きく3つの落とし穴があるんですよ。

リストによる対策の、三大落とし穴

膨大なコンテンツが生成される中での的確なリスト作成は非現実

第一に、リアルタイムに生成され続ける膨大なコンテンツに対応するのが不可能、だということです。

ブロックリスト、セーフリストに基づいて、ブランド毀損やアドフラウドを防ぐためには、当然ながらリストを「常に最新の状態」に保つ必要があります。しかし、広告キャンペーンごとにブロックリストやセーフリストを作成して適用するのは、非常に時間と労力がかかりますし、毎日膨大な量のサイトやUGC (User Generated Contents, 消費者生成コンテンツ)が生成されるなかで、それらをすべてチェックして、リストに登録し続けるのは現実的ではありません。

広告主の中には、ブロックリストが肥大し何万行にもなっているケースや、逆にセーフリストを絞り込みすぎてインプレッション単価が高くなったり、リーチの規模が確保できなかったりするケースもあります。

 ドメイン偽装サイトの前では無力

また、リストを使った対策は、不正業者が仕掛けるドメイン偽装の前には無力です。

末広

ど、ドメイン偽装?!
何ですか、それ……

山口

ドメイン・スプーフィングとも言われ、偽サイトがドメインを偽装して優良なサイトに成りすますことを言います。

ドメインを偽装して優良なサイトに成りすます偽サイト

上の図を見てみてください。この偽サイトの配信ドメインは「safe.com」に見えますが、実際には「unsafe.com」のドメインに配信、リダイレクトされます。そのため、いくら「safe.com」をブロックリストに登録しても防ぐことができず、広告が配信されてしまいます。

このように、不正業者が本当は偽サイトのドメインを偽り、質の低い広告在庫を、あたかも高品質な優良サイトのものとして取引するアドフラウドの一種が「ドメイン・スプーフィング」です。

いくら強力にブロックリストを作成しても、ドメイン偽装されてしまえば、簡単にリストをすり抜けられてしまいます。また、セーフリスト登録しているドメインが、実は偽サイトにリダイレクトされるものというケースも多い状況です。

実際にあった事例で、広告主が作成したセーフリストのドメイン登録数が1,500だったのに対して、実際に配信されていたドメインは10,000を超えていたケースがあります。これは、セーフリストの登録ドメインのなかにドメイン・スプーフィングが含まれ、さまざまな悪質サイトにリダイレクトされていたことを意味します。

末広

簡単にドメインを変えられたら、リスト作成の意味がないじゃないですか!! 頭がクラクラしてきました……

山口

ちなみに、このような偽装を行う偽サイトにはいくつか種類があります。

偽サイトの種類と特徴

本物らしく見せかけた偽サイト

不正業者が優良なメディアを模倣し、広告枠を備えたサイトを作成します。他のサイトからコンテンツを盗用して中身も本物らしく見せたうえに、優良な企業ドメインに成りすますことで、実際には不正行為だらけの偽サイトであるにもかかわらず「プレミアムなサイトに広告が配信されている」と信じ込まされてしまうのです。サイトにアクセスする人間と、それによって発生するインプレッションは本物ですが、広告在庫の質を実際よりも高く見せかけるので、取引価格が引き上げられ、広告主は実際の価値よりもずっと高いコストを支払う羽目になります。

広告だけで構成された偽サイト

広告枠を並べただけの、一切コンテンツのない偽サイトです。ボットによるインプレッション稼ぎを目的にしているので、人目や関心を引くコンテンツをわざわざ準備する必要はなく、広告枠だけが雑多に羅列されています。

本性を偽った偽サイト

また、ドメイン・スプーフィングは、危険性のあるサイトの本性を覆い隠すためにも利用されます。たとえば、トラフィックを集めやすい扇動的なサイトや映画、漫画などの著作権侵害サイトを立ち上げ、身元を隠すことで広告を表示させて、サイトを収益化しようとするのです。

このように、不正業者が詐欺行為による儲けを最大化しようと絶え間なく仕掛けてくるなかで、ブロックリスト、セーフリストを使って防御できるのはかなり限られた範囲になってしまいます。

「見られる状態にない」広告枠への配信につながる

また、リストでの対策が「パフォーマンスの悪化」を招くことがあります。

リスト対策導入の弊害として、特に頻発しているのは広告の「ビューアビリティの悪化」です。ビューアビリティというのは、自分の広告が「見られる状態にあったか」を知る指標で、アドベリ3指標の中でも、最も基礎的な指標になります。

屋外広告で考えてみるとわかりやすいと思います。たとえば、人の通らない裏通りにポスターを貼っても、誰にも見られませんので、何の価値も生みません。デジタル広告では、残念ながら同様に「見られる状態にない」広告枠が多数存在します。そういった広告枠に配信しても、何の価値も生まないため、高いビューアビリティの広告枠に対して広告配信をすることは大変重要です。

しかし、ブロックリスト、セーフリストを使って配信先を絞り込むことが、逆にビューアビリティの低い広告枠に広告配信を寄せてしまう要因になることがあります。

たとえば、広告運用の目標値としてCPM(Cost Per Mille:広告表示1,000回あたりにかかるコスト)を使い、CPMを100円で設定し、広告が8サイトに配信されていたとします。この場合、すべてのサイトが一律「CPM 100円」による表示ではなく、100円以上のものもあれば、100円以下もあり、平均した時にCPMが100円になるように配信してくのが、「CPM 100円」の運用です。

この時、必ずしも、安価なサイトがブランド毀損やアドフラウドに繋がるわけではないものの、大抵の場合は、何らかの問題があるサイトが安価で取引されていることが多くあります。

「CPM 100円」の運用例

このサイトをブロックリストに登録をすると、ドメインごとに排除されるので、広告は配信されなくなります。それ自体は良いことですが、その結果、残ったドメインだけに配信を続けていくと、安価だったサイトが無いため、必然的にCPMが100円から134円などに金額が上がってしまいます。そのなかで、やはり引き続き「CPM 100円」の目標で運用し続けていくと、同じドメイン内でも、単価の安い広告枠、たとえば、サイトの下部に位置して、あまり人にみられない広告枠に配信が集中することになります。 

配信先を絞り込んだ結果、ビューアビリティの低い枠に配信された

これが、ブロックリスト適用によってブランド毀損は改善できた一方で、多くの広告が見られない場所に配信され、逆にキャンペーン成果が悪化する現象の要因です。

不正業者に「テクノロジー」で対処するのがアドベリフィケーション

今この瞬間も、悪事を企てる側がさまざまな技術を使って悪質なコンテンツ、偽装ドメインを次々生成するなかで、手動のリスト作成でブランド毀損やアドフラウドに対応しようとすれば、どうしても他にしわ寄せが来てしまいます。

末広

どうすれば……

山口

相手がテクノロジーを使うなら、こちらもテクノロジーで戦っていきましょう!

それが、AI(人工知能)を使ったアドベリフィケーションのテクノロジーです。

アドベリフィケーションのテクノロジーを活用すると、そもそもブロックリストを作る目的であった、ブランドに悪影響をもたらす危険なサイトや偽サイトへの広告配信を排除できます。さらにセーフリストを使う目的であった、積極的に広告配信を行いたい安全で優良なサイトへの広告配信を行えます。

例えば、不正なサイトへの広告配信を防止する機能には、リスクのあるページでの広告配信を停止する「ブロッキング」や、そもそも事前に入札から除外する「入札前ターゲティング」があります。

そして、ブロックするだけでなく、好ましいサイトに絞って安心して広告配信するためには、ページの文章・文脈からターゲティングができる「コンテクスト・ターゲティング」の技術が、威力を発揮します。

AIを使ったアドベリフィケーションのテクノロジーの例

いずれも、広告配信時に、偽ドメインではなく真のドメインのコンテンツを確認し、そのページの内容をAIが瞬時に解析し、それが読み手にもたらす感情までを分析して、広告配信をすべきかを判断する技術が土台になっています。

広告配信時に、その都度AIがコンテンツをチェックするので、コンテンツが何千何億と生成されようと、たった今作られたばかりで広告主が把握していないサイトでも、危険があれば広告表示を防げるのです。また、常にサイトの中身を確認するので、ドメイン・スプーフィングに騙されません。


リスト対策に時間と手間をかけるのであれば、不正をリアルタイムに排除する高い分析力と精度を備えた、利用可能なテクノロジーを味方に、効率よく広告費を守り、確かな効果を追求していきましょう!

山口

それでは、また次回!

用語集
CPM / UGC / アドフラウド / インプレッション / キャンペーン / スプーフィング / ビューアビリティ / ボット
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