インタビュー

「LOHACO」が音声プラットフォーム「Voicy」で商品の魅力をバイヤー自ら発信! “声”が持つ意外な効果とは

アスクルの「LOHACO」は2022年4月より音声プラットフォーム「Voicy(ボイシー)」で公式チャンネルを開設し、平日毎日更新しています。企業の音声メディア運用を聞きました。

パーソナリティの話が聞ける音声プラットフォーム「Voicy(ボイシー)」。VoicyBizは、ブランドが発信する「音声のオウンドメディア」とも言えるチャンネルです。アスクルのB2C向けのECサイトである「LOHACO」のチャンネル「ネット通販★中の人ラジオ」もその一つ。LOHACOは、2022年4月より公式チャネルを開設、現在は平日毎日更新しています。Voicyを担当するアスクル 花澤明希子氏、Voicy 長谷部祐樹氏に、企業の音声メディア運用についてお話をうかがいました。

(左から)アスクル株式会社 LOHACOマーチャンダイジング カテゴリー広告販促 マネージャー 花澤明希子氏、株式会社Voicy 事業開発責任者 長谷部祐樹氏

始まりはリスナーから。音声メディアだからできることにチャレンジしたい

――花澤さんは、LOHACOの飲料・食品カテゴリーの広告販促のマネージャーということですが、なぜ広報でもSNS担当でもない花澤さんがパーソナリティになったのでしょうか。

花澤氏: 上司が毎朝通勤中にVoicyを聞いていて、あるパーソナリティについて「花澤さんも好きだと思うよ!」とお勧めされたのをきっかけに聞き始めたところ、見事に二人で沼にハマってしまいました。次第に「ここでLOHACOも発信したい!」と思うようになり、「ネット通販★中の人ラジオ」を立ち上げました。

――立ち上げの背景を教えてください。

花澤氏: その背景には、LOHACOの取り扱い商品に対して、価格競争以外のバリューをお客様に示しにくいという課題がありました。LOHACOで買ってもらう理由づくりに試行錯誤していたんです。

LOHACOでは、カテゴリごとに専任のバイヤーがいて販売する商品を選んでいます。バイヤーは目利きで、さまざまな商品の中から選りすぐりの商品を仕入れているので、その過程や想いをお客様に届けられれば、購入のきっかけになるのではないかという仮説がありました。音声メディアは、声から親近感を覚えてもらえますし、バイヤーのこだわりを発信するのに向いているのではと考えました。短い期間で立ち上げることになったため、私がパーソナリティを担当することになったんです。

――音声メディアに着目した理由を教えてください。

花澤氏: ECサイトのメリットは、短時間で購入できることです。ECサイト内で商品に関する情報発信はしていましたが、「情報を得たいと思って見るサイト」と「買い物をしようと思って見るECサイト」では、使われ方が異なります。音声なら「ながら聞き」ができるので、お客様の買い物体験を阻害することがありません。「画面を見る」時間を奪わずに情報を提供できる点に着目しました。

情報発信の手段として、TwitterInstagramを運用しています。テキストで伝わりやすい商品、画像で伝わりやすい商品は違うように、音声で伝わりやすい情報もあると考えました。

――音声のオウンドメディア作りという新しい取り組みに対して、会社からはどのように受け止められましたか。すぐに承認されましたか?

花澤氏: 二階層上の上司に、Voicyの提案をしたところ、「お客様に価値提供ができるなら、やってみよう」とポジティブに応援してくれました。

――運用にかかる工数などについては、どのように試算したのでしょうか。

花澤氏: 初期段階では、工数がどれくらいかかるのか見えませんでした。そこで最初はトライアルとして、私一人がパーソナリティをやり、スキームを確立させて他の人にも横展開する運用にしました。頻度については現在は平日毎日配信となっていますが、当初は月・水・金の週3配信の予定でした。初回配信のあと、上司から「毎日配信にしよう」と提案されて、平日毎日放送になりました。

収録は台本なしの一発録り!

――現在、どんな音声コンテンツを配信しているのでしょうか。

花澤氏: 「ネット通販★中の人ラジオ」で放送しているコンテンツは大きく2つあります。一つは「社内メンバーをゲストに迎えて話を聞くもの」、もうひとつは「私の独り言」です。現在は、ゲストコンテンツのほうをメインに運用しています。

アスクル株式会社 LOHACOマーチャンダイジング カテゴリー広告販促 マネージャー 花澤明希子氏
――出演依頼から収録までの具体的な流れを教えてもらえますか。

花澤氏: まず出演交渉をしてOKをもらったら取材シートを渡して、話してもらう内容を記載してもらいます。取材シートの内容は「推しの商品」「なぜ推しなのか」「どんな人に届けたいのか」についてです。

収録当日、取材シートを元に15分くらい事前に打ち合わせをします。自己紹介からスタートすること、取材シートに沿って話を聞くこと、深掘りする箇所などを話してそのままぶっつけ本番で収録します。

依頼から収録までにかかる時間は1時間くらい。収録は15~30分くらいです。これくらい省力化しないと毎日配信できないですし、相手の工数をとらせないようにしています。

――台本は作成せずに、事前ヒアリング用の取材シートのみで収録するのですか。

花澤氏: 台本はありません。「社内ミーティングの会話をお客様に伝える」というコンセプトがありまして、ライブ感があるやり取りを聞いてもらいたいからです。たまに、台本のように細かく取材シートを書いてくれる人がいますが、そっと取材シートを裏返しにして、フラットに収録に臨んでもらっています。

長谷部氏: Voicyでも、台本なしを推奨しています。「話しているのを聞く」のと「読んでいるのを聞く」のでは、届くものが全然違うんです。台本があると読んでしまうので、リスナーは聞かされているように感じます。

ただ、ポイントとなる「話の構成」「間違えてはいけない数字」や「固有名詞」などはメモを用意したほうが安心です。一言一句、セリフを決めてしまうと、話す方も間違えてはいけないと固くなります。むしろ、噛んでもらったほうがいいくらいで、上手に話すことよりも、気持ちよく話すほうが、聞いているほうも楽しめます。

花澤氏: 「噛んでも気にしなくてOK」「間違えても一発録りです」と出演者に伝えています。収録時間は決めていません。バイヤーが話したいことを好きなように話すことで、お店の中の人感が出ますし、親近感を醸成できるからです。

――そうなんですね。会社によっては炎上リスクを心配して、あらかじめ話す内容を決めておきたかったり、内容を承認してから出したかったり、ということもあるのではないでしょうか。

花澤氏: 社内に広告表示審査部門があり、情報の正確性に厳しい会社です。しかし、Voicyは台本なしなので事前チェックは難しいところがあります。しっかりと取材をし、それでも情報の正確性が心配なときは担当部署へ相談をするようにしています。また、万一誤った情報を配信した場合の対応方法として、「謝罪と訂正の配信」などの対応をすることにしています

長谷部氏: 他の企業さんからも炎上リスクはどうなんですか? と聞かれることは多いです。Voicyの録音機能では、あえて編集機能をつけていないので、間違ったり噛んだりしても継ぎ接ぎができず、一発録りとなっています。継ぎ接ぎすると、言葉の勢いや抑揚が変わってしまって、リスナー体験として良くないからです。

完璧な情報を伝えるよりも、何か間違えた時に謝る、そしてそれが受け入れられやすいのが音声というメディアです。リスクを恐れて完璧できれいな情報を出すよりも、何かあった時に理解してもらう、許してもらう関係をリスナーと作れるほうが価値があると思います。質問に答えを用意しておいて、すっと答えられるよりも、答えるまでに間ができたり、戸惑いがあったりするほうが、伝わることもあると思います。

株式会社Voicy 事業開発責任者 長谷部祐樹氏

円の中心にいる人が楽しそうだと人が集まる

――社内のゲスト出演者に依頼すると、快く引き受けてくれますか。

花澤氏: 最近は、「出たい」と言ってくれる人が増えてきました。依頼するとすぐに承諾してもらえています。ただ、VoicyからLOHACOへの送客という点ではまだまだなので、出てくれるバイヤーは売上を伸ばすという理由からではなく、出演した人が「好きな商品や自分の仕事についてたくさん話せて楽しかった!」と周囲の人に伝えてくれて、それが広まって「出たい」という人が増えているように感じます。また、女性取締役として長年活躍されてきた木村美代子が出演してくれたことも追い風になっていると思います。

――取締役クラスが出演すると会社としての取り組みとして認知されますよね。他の会社では、メイン担当者以外の方の出演はどうですか?

長谷部氏: 私達としては、いろいろな人達を巻き込みながら担当者一人に負荷がかからないように運用していくことをおすすめしています。

しかし会社によっては、他の人の協力を得るのが難しいというケースがあります。ひとつ法則があって、それは担当者が楽しそうじゃないと周りを巻き込めないということです。上司から言われて、わからないまま台本を読みながらやっていたりすると、数字が伸びなかった時に心が折れてしまうんですね。

パーソナリティが音声発信を楽しみ、前のめりに取り組んでいると、そこに人が集まってきます。円の中心にいる人が楽しそうというのが巻き込みの絶対条件ですね。花澤さんはどうですか?

花澤氏: 私は……楽しみながら毎日配信しています。楽しくやれていることには自信があります(笑)。

長谷部氏: 私も花澤さんは楽しんで取り組まれていると思います。配信を通じて伝わってきますので(笑)。

――参加したゲストはどんな効果を感じていますか?

花澤氏: 出演したバイヤーを見ていると、話すことの効果を感じます。これまで「なんとなく、この商品はいいな」と思っていたところ、商品の情報を整理して、なぜその商品が良いのかを自分の言葉で伝えることで、より商品を好きになるようです。

長谷部氏: 私自身、便利なECサイトのLOHACOというイメージでしたが、チャネルを聞いてから裏側にストーリーがあることがわかり、LOHACOで商品を選ぶのが楽しくなりました。

花澤氏: ありがとうございます。長谷部さんのようなお客様がどんどん増えていってほしいです。「なぜ、その商品が良いのかバイヤーが直接紹介する」ことの良さをVoicyを通じて感じたので、ECサイトにも、「バイヤー入魂の一品」というバイヤー参加型の連載企画を作りました。Voicyの声を聞けたり、YouTubeで使い方を見たり、自分の言葉で紹介してもらったりと、それぞれのやり方で推しの商品を紹介してもらっています。

新規リスナー獲得施策は、ハッシュタグに合わせた独り言

――もう一つのコンテンツ、「独り言」はどういうコンテンツですか?

花澤氏: Voicyには新しい出会いを促すための「トークテーマ特集」があり、毎週公式からお題のハッシュタグが提案されます。タイムリーにそのハッシュタグに関するテーマについて話をする必要があり、ゲストと一緒に放送をするのはハードルが高いので、独り言のコンテンツを始めました。トークテーマに合わせてトピックを10分程度で考えて、簡単に構成を整えて、10分程度で話す感じですね。

「トークテーマ特集」のお題となるハッシュタグ(PC画面のキャプチャ)

始めて1か月くらいのころ、再生回数、フォロワー数が伸びなくて悩むことがあり、Voicyのカスタマーサクセス担当者に相談しました。独り言のコンテンツはこの時提案されたもので、新しい人と出会うためにやってみようと始めました。中長期的な視点での取り組みを提案されて、もやもやが晴れましたね。

――カスタマーサクセス担当者さんはどんなフォローをしてくれるのですか?

長谷部氏: VoicyBizという法人向けサービスをご利用の企業さまのコンサルティングをしています。月に1回ミーティングをやって、運用の改善などをアドバイスしています。

トークテーマ特集は、Voicyから「このテーマで話しませんか」と呼びかけて、トークテーマにまつわるハッシュタグがついた放送を集めてトップページに掲載します。そのタグからコンテンツを見つけた人が新しいリスナーになるので、新規リスナー獲得施策としておすすめしました。

――運用上のKPIはありますか?

花澤氏: 3年後に1配信あたりのリスナー数の目標を立てています。その数字は、「VoicyからECサイトへの流入をこれぐらいにしたい」という仮説から決めました。まだ始めて3か月半ですが、ゲストを呼ぶ回については想定通りですし、再生完了率が高いので一定基準は達成できています。

――コンテンツの改善でやってみたこと、効果があったことはありますか?

花澤氏: 以前は本編のトーク部分を複数チャプターに分けていたことがあったのですが、チャプターの切り替わりで離脱があることに気づきました。そこで今は「始まりの挨拶」「本編」「締めの挨拶」の3構成にしています。

長谷部氏: チャプターが区切られてもリスナーは特に操作なく順番に再生されますが、それでも離脱が発生するので細かく区切ることはおすすめしていません。

――話す時間の長さは、どれくらいがいいというような目安はあるのですか?

花澤氏: 再生完了率は見ていますが、時間が長くなると完了率が下がるということもないので、時間はあまり気にしていないですね。バイヤーが用意してきてくれた話は全部しゃべってもらうようにして、冗長になった場合でもそれはその人の個性だからよし、としています。

長谷部氏: Voicyは最後まで聞く文化があります。WebのコンテンツやYouTubeの場合、タイトルやサムネイルによって閲覧数が大きく変わりますが、Voicyはあまり影響がありません。好きなパーソナリティであれば、育児の話でも、料理の話でも、それこそ道にあった石の話でも聞かれるんですね。

Voicyの話を書き起こしたら1万字以上になるものがザラです。記事だったら1万字以上の記事は読まれにくいので、情報の取捨選択をすると思います。しかし、ながら聞きができる音声なら、1万字以上の内容でも聞かれるんですね。

長谷部祐樹氏

社員同士の関係強化になるインターナルマーケティングの効果

――これまでで反響が大きかったコンテンツは?

花澤氏: 元取締役の木村美代子が出演した回です。30年にわたって女性管理職として活躍してきて、配信当日が退任の日でした。女性管理職として注目されてきた方なので、どういうことを意識して働いてきたのか、こだわりなどを聞きました。社内からも「こんな素敵な人と働けていたなんて」という反響がありましたし、社外の人からは「御社が素敵な理由がわかりました」と言われました。これまで伝えられていなかったことを発信できたと思います。

花澤明希子氏

――Voicyの活用メリット、デメリットをどこに感じますか?

花澤氏: 現在アスクルではテレワーク主体なので、直接顔を合わせる機会が減り、隣の人がどういう仕事をしているのかわからないという状況がありますが、Voicyを通して他の人の仕事や考えを知る機会を作れていて、インターナルマーケティングの効果があるようにも感じます。部長陣からも、コミュニケーションのきっかけになると言われています。

デメリットは今のところ感じていませんが、リスナーからのコメントがもっとほしいですね。コメントやリアクションが増えて相互コミュニケーションが成立するようになれば、他のECサイトと差別化できると思います。今は、試行錯誤のフェーズということもあって、いろいろなやり方を試してノウハウを貯めているところです。

――他のメディアと比べて音声メディアの強みはどんなところだと思いますか?

花澤氏:ながら聞きができること」と、「パーソナリティの個性を出せること」です。テキストや画像、動画はいくらでも編集できますが、Voicyの音声は編集していません。ラジオに生番組が多いのは、届けたい情報の質が他のメディアと違うからではないかと思います。声で中の人の個性を伝えることで、親近感を持ってもらえますし、同じ商品でもここで買いたいと思ってもらうきっかけになると思います。それに動画、画像は顔が出るから嫌がる人もいますが、音声なら出てもいいよという人もいます。

――VoicyとしてLOHACOの運用をどのように評価していますか?

長谷部氏: 楽しんでやっているのが放送から伝わってきます。花澤さんはもちろん、上司の方も楽しんでいるのが良いと思いますし、ゲストの方のお話からも自分の会社、サービスが好きなことが伝わってきます。取引する前のイメージとガラッと変わりましたね。中の人がサービスや商品に愛情やこだわりをもっていることが多くの人に伝われば、本業にも貢献できると思います。

――今後の展望はどうですか?

花澤氏: メーカーの担当者もLOHACOのことが好きだと言ってくださる方がたくさんいらっしゃいます。今度はメーカーの方をゲストに呼んでお話を聞いてみたいですね。あと、これは私と上司の野望なんですが、Voicyにはまるきっかけとなったパーソナリティさんと相互配信のような企画にいつかチャレンジしたいですね。

――相互配信ができると良いですね。ありがとうございました。

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