インタビュー

「動画といえばテレビCMって発想、もうやめません?」Kaizenが描くWeb動画広告の新しい形とは

「大事なのはその場に合った広告をすること」Web動画広告に求められる考え方をKaizen Platformの須藤氏、栄井氏、瀧野氏に聞いた。
左からKaizen Platform 瀧野諭吾氏、代表取締役 須藤憲司氏、栄井徹トニー氏
左からKaizen Platform 瀧野諭吾氏、代表取締役 須藤憲司氏、栄井徹トニー氏

A/Bテストを中心としたサイトの改善事業を手がけるKaizen Platform(改善プラットフォーム、以下Kaizen)が、2017年6月に「Kaizen Ad(カイゼン アド)」という動画広告作成サービスをスタートした。そして12月には事業推進のために約5.3億円の資金調達と電通グループとの資金業務提携も行った

Kaizenが取り組む動画広告はどのようなものなのか? Kaizenの須藤憲司氏は次のように語る。

大事なのは「その場に合った広告」を出すこと。FacebookならFacebook、インスタグラムならインスタグラム。見る環境に合わせて動画のタイプを選ぶことが重要です。

それなのに、動画というと「テレビCMのWeb版」みたいに考えるお客様が意外と多い(須藤氏)

Kaizenの須藤憲司氏、栄井徹トニー氏、瀧野諭吾氏に詳しく話を聞いた。

動画を作るのは大変。「じゃあ、気軽に作れるサービスを作ろう」

――まずは「Kaizen Ad」を始めた経緯など聞かせてもらえますか?

須藤憲司氏(以下、須藤)われわれは創業から4年たち、サイト改善事業で順調に成長しています。動画広告の改善サービスは、2017年の6月くらいから本格的に立ち上げようと動いていたもので、12月の資金調達もその一環です。

動画広告はいろんな種類があります。テレビCMのようなインプレッションによる認知やブランディングを目的にしたものもありますし、Facebookのタイムラインの中だと、PowerPointのスライドショーのようにパラパラと動くライトな動画で、ランディングページへの誘導を目的にしたものもあります。その中でわれわれが特に注力しているのは、「ボトムファネル」といわれる刈り取り部分の動画広告です。

栄井徹トニー氏(以下、栄井)今、世の中には動画サービスがたくさんありますが、広告主は「テレビCMを作ってきた流れでWeb動画広告を作る」という考えが根強いです。グーグルが動画について「Hero」「Hub」「Help」の3つに分けて考える「HHH戦略」を提唱していますが、それでいうと、従来のテレビCMに相当するHero動画を作れるプレイヤーはたくさんいます。

グーグルが提唱するHHH戦略
  • Hero(ヒーロー)コンテンツ: 認知拡大を目的に「面白い」「感動」などの感情を動かす動画
  • Hub(ハブ)コンテンツ: ユーザーの興味・関心に合わせた訴求でファンとしての関係を作る動画
  • Help(ヘルプ)コンテンツ: 具体的な購買意欲・ニーズに対する回答を提供する動画

しかし、動画広告の配信先であるグーグルやFacebookなどのプラットフォームでは、情報が流れ去るのが早い。だから、テレビCMと同じ感覚でHero動画を作ってもユーザーに見てもらえません。「最高のものをじっくり作る」ではなく「早いタイミングでクリエイティブを回していく」ほうが動画広告には向いているという側面があるんです。

――確かに、テレビCMをテレビで見る分にはいいですよね。でもTwitter上にテレビCMが流れて30秒手を止めるかというと、止めません。

須藤だからわれわれが大事にしているのは、コンテキスト(状況)場に合った広告を作ることです。広告のクリエイティブをFacebookならFacebookに合わせ、インスタグラムならインスタグラムに合わせるということです。でも、動画を作るのって大変じゃないですか。テレビCM用とかFacebook用とかいちいちコストをかけて作ってられません。気軽にできないので、「じゃあ気軽にできるようなサービスを作ろう」ということで「Kaizen Ad」が生まれました。

瀧野氏、須藤氏、栄井氏

元になる動画があってもなくても、動画広告は作れる

――そんなに気軽に動画が作れるものなのですか?

栄井動画の制作会社ならば、撮影なども含めて制作を行うところが多いですが、われわれは基本的に「素材をいただいてポストプロダクションで編集していく」というスタイルなんです。テレビCMの動画を素材として、Webのプラットフォームに合わせて編集することもあります。電通さんはきれいな動画を作るのが得意なので、そういう意味でも彼らとはビジネスがしやすいですね。

――元になる動画があるという点で、電通と組むことにメリットがあると。

栄井はい。ただ最近では、静止画の素材を元にして動画を作るというやり方でも、かなり動画らしく見せられるようになってきています。

静止画素材の例
元の静止画素材の例。この素材から……(下の画像に続く)
静止画素材から作成した動画広告の例
簡単な動画広告を制作できる。1枚絵のJPEG形式なら画像が登場するアニメーションを追加でき(上3枚)、パーツ別の情報が保存されているPSD(Photoshop)形式ならパーツごとにアニメーションを設定できる(下3枚)

――Hero動画をすでに持っている人はそれを活用できるし、持ってない人も画像素材などから始められる?

栄井そうです。動画の要素を大きく分けると「訴求」「表現」「構成」「コピー」などがあるんですが、動画を丸ごと1本作るのは、それらを一度にやってしまうということなんですね。これってたとえるならば、資産運用で一発当てるのを狙って新興株に資金を注ぎ込むような感覚なんです。

それに対して、持っている画像にコピーを入れたり、ちょっと構成を変えてみたりというのは、安定的な株でリターンを得るようなものです。投資にたとえるのが合っているかはわかりませんが(笑)。

「元になる動画があってもなくても、動画広告は作れます」と栄井氏
「元になる動画があってもなくても、動画広告は作れます」と栄井氏

――たとえばテレビCMの動画があったとして、少しいじっただけでWebに適した形になるんでしょうか?

栄井結構、なるものですよ。

企業が通常作っているようなブランド目的のHero動画は、長くしっかり作られているものや、商品説明がしっかりされているものが多いと思います。

でも、Facebookとかで動画を流すとなると、早い段階でつかみが必要です。だから元の動画の構成から練り直して、「つかみ」が最初に来るように編集します。HubやHelpなど、動画の種類によって「短い中でユーザーの目を引きつけるパターン」があるので、コピーや尺の入れ替え、画面の切り替えなどを調整するといった具合です。

あとから編集できない動画だと、改善もできない

――目的や流すプラットフォームに合わせて動画を作るのが重要なんですね。

栄井そうです。最近は動画の種類もたくさんありますが、多くのお客様と接しているなかで感じるのは、「どんな種類の動画を作ればいいのかを詰め切れていない」ということです。

動画にすると決めたら、いきなり「アニメーションを作ろう」とか「キャストをアサインしよう」という思考になる。本当にテレビのCMの考え方になってしまうお客様が多いんです。

――確かに「動画広告」というとテレビCMを思い浮かべる人は多そうです。

栄井でもそういう動画って、コストがどうしても高くなりますよね。しかも、あとから何度も編集することを前提に作られていないので、権利が発生したりして十分に編集できないこともあります。だから、それを広告プロモーションに使うとなると、どうしても「当たるか当たらないか」の一発勝負になります。当たればいいですが、当たらないと高いコストが無駄になってしまいますよね。

そういうリスクをとるよりは、「動画の中でこの種類のものを作ろう」「あとから編集できるように作ろう」ときちんと事前に決めておいて、当たらなければ少しずつ改善して試行錯誤を重ねるというやり方のほうが効率がいい思います。広告ならば特に、PDCAを回す必要があるので。

われわれは、そういう「改善」ができるタイプの動画を提供しています。

一発勝負ではなく、回数をたくさん試して運用していくことが大事

――広告主は「動画といえばテレビCM」という発想をいったん捨てたほうがいい?

須藤われわれとしてはそれを啓発したいと思っています。けど、そういう前提で始めても、形になった動画を見るとお客様はこだわりたくなっちゃうんです(笑)。

――「もっとかっこよく!」とか?

瀧野諭吾氏(以下、瀧野)そうです。つい、普段見ているテレビCMと比較したくなっちゃうんです。でも、プラットフォームに最適化しながら運用していく動画広告だと、実際に比較するべきなのはバナーとかリスティング広告ですよね。こだわりすぎると結局お金や時間のコストばかりかさんで、回数を試せなくなります。それで「やってはみたけど、動画ダメだね」という結論になってしまうんです。

栄井動画に関するお客様の声は、やっぱり「値段が高い」が多いですね。テレビCM並にこだわるからそうなってしまうんですが、その意識を変えるのがなかなか難しい。

瀧野Kaizen Platformは、グロースハッカーと呼ばれるクリエイターがコンペ形式で案を出し合うのが特徴です。Kaizen Adは、7,000人のグロースハッカーがそれぞれのアイデアを持ち寄ってクリエイティブを作っています。だから一発勝負じゃなくて、いろんな切り口や見せ方をたくさん試して、何が当たって何が当たらないのかを見極めながら運用していくのに向いているんです。

「7,000人のグロースハッカーがアイデアを持ち寄って作っている」と瀧野氏
「7,000人のグロースハッカーがアイデアを持ち寄って作っています」と瀧野氏

電通も「P動CA」を「Kaizen Ad」のOEMでサービスとして提供

――Kaizen Adについてはよくわかりました。業務提携している電通でも「P動CA」というサービスを提供していますが、これと「Kaizen Ad」は、どういう関係なのでしょうか?

須藤電通さんがFacebookの動画広告を改善する「P動CA」という商品を持っていて、それをわれわれがOEMで提供しているんです。広告主から見たら「電通さんに頼めばワンストップでやれる」ような仕組みになっています。

――「P動CA」の中身は「Kaizen Ad」?

須藤はい、基本的には同じものです。ただし、「P動CA」ではクリエイティブを作成するクリエイターを電通さん向けに最適化しています。電通さんだと権利がからむものやブランドなどを扱うことが多く、制約がありますが、そういう複雑なコミュニケーションがある場合でもフレキシブルに対応できるような体制を整えています。

――もともとKaizen Platformで作っているランディングページでも「動画広告を使って何かしたいな」となった場合、Kaizen Adと組み合わせる形になるんでしょうか。

須藤ランディングページ制作と動画広告制作は、今はまだサービスを分けています。現状の「Kaizen Ad」はグーグルやFacebookに特化しているので、そこに広告を出したいと思ったらぜひ使ってみてください。もしかしたら、のちのちはサービスが組み合わさっていくのかもしれませんが。

――なるほど。動画広告のイメージが、これからがらりと変わりそうですね。本日はありがとうございました!

須藤氏、瀧野氏、栄井氏
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