稲富滋のWebマスター探訪記 稲富滋のWebマスター探訪記

1.4億PV/月の日本郵便のWebサイトが大切にする、意外だけど納得のコトとは? 

約2万5千ページ、月間平均1億4千万PV、ユニークユーザー数1千万人超えという日本郵便のサイト。日本郵便の木村理沙さんに話を聞いた。
左: 日本郵便株式会社 経営企画部 広報室 課長 木村理沙氏 右: 稲富滋氏 (両名が手に持つのは、くまのぬいぐるみの郵便屋さん「ぽすくま」)

全国に2万4千店舗以上ある郵便局により、リアルでのサービスは充実していますが、デジタルはまだまだです。Webサイトは、まず来た人がその目的(郵便に関する検索)を達成するための受け皿となることが大切だと思っています。リアルにも負けない安心感をWebサイトでもお届けしていきたいです。

そう話すのは、日本郵便広報室の木村課長。

日本郵便株式会社のサイトは日本郵政グループ内のサイトの1つですが、郵政グループ全体の「情報ポータルサイト」としての大きな役割も担っています。ページ数は約2万5千ページ、月間1億4千万PV、ユニークユーザー数1千万人超え、他の大企業サイトを圧倒する規模のサイトです。2017年も対前年5%以上アクセスを増やしています。

「この集客力を生かして、ゆうちょ銀行やかんぽ生命保険などグループ各社のサービス、郵便局のネットショップなどへ利用者をつないでいくのも、このサイトの使命です」と語る木村さんにサイトの役割や仕事の進め方などを聞きました。

相手がどんなメッセージを受け取ったか。目指したのは「嫌われない」デザイン

木村さんがWebサイトの担当になった当時のサイトは、「バナーやテキストが盛り沢山でどこから見ればいいのかもわからないほど、ぎっしり詰め込まれていた」そうです。

郵便局窓口では対面でご案内ができますが、Webサイトはそうではありません。そこでは、「Webサイトの利用者がどんなメッセージを受け取ったか」がすべてなのです。

企業として何を言うかではなく、相手が何を受け取ったのか。このことを考えなければなりません。ですから、内容をできるだけ絞って、シンプルに。伝えたいことがひと目でわかるサイトを目指しています(木村さん)。

そういう目的から2016年10月にサイトリニューアルを実施しました。以来、以前のサイトを知る利用者からの評判は上々のようです。

日本郵便のWebサイト
http://www.post.japanpost.jp/index.html

また、サイトデザインにも次のようなテーマを設けたそうです。

万人に好まれるデザインを考えるのは難しいです。そこで、発想を変えて私たちは「嫌われないサイト」を考えることにしました(木村さん)。

不器用でも何かお役に立ちたい

「嫌われないサイト」を目指す理由は他にもあります。それは木村さん自身の郵便局への強い思いです。民営化直前の郵政公社時代に雑誌編集者から転職してきた木村さん。

郵政事業に携わってきた局員や社員は、皆さん真面目で一生懸命です。特に郵便局窓口では利用者への「思いやり」や「不器用かもしれないが何かお役に立ちたい」という思いの人が多いと感じています。

当社のWebサイトは派手さもないし、すごい技術が使われているわけではありません。ただ、郵便局窓口と同じようにWebサイトでも「何か役に立てないか」を常に考えています。

利用者の皆さんには「意外と使える! 意外と便利!」と感じてもらえるとうれしいです(木村さん)。

稲富レクチャー

「嫌われないデザイン」を目指していますと言うWeb担当者の方にお会いしたことは初めてです。

150年近い歴史と国民生活になくてはならない郵便事業。民営化されてからまだ10年。大きく変わらなければならないこともあるでしょうが、やはり基盤となるのは郵便事業とその窓口になる郵便局。この大切な「真面目さ」「一生懸命さ」と言うリアルの資産をWebにも継承するために「斬新なデザインより嫌われないデザインを目指す」という表現なのでしょう。

「意外と使える、便利」というCustomer Experienceの蓄積が今後日本郵便のデジタルビジネス戦略の基礎となることは間違いないことです。

わかりやすく、正確に、早くサイトに出すことが大事

「全国をカバーする郵便局ネットワークにより、リアルでのサービス提供は充実していますが、デジタルはまだこれから」だそうです。「リアルもデジタルも併せた充実」を目指して2017年の4月には20人規模の「デジタルビジネス戦略部」が設置されています。

デジタルはまだまだとはいえ、約2万5千ページ、月間平均1億4千万PV、ユニークユーザー数1千万人超えの巨大サイトです。サイト全体への利用機器別アクセスではPCが7割を占めています。アクセスの半分近くを占めるのが「郵便番号検索」です。次いで、ゆうパックや郵便物の「料金を計算する」や「お届け日数を調べる」といったツール関係ページが続きます。

スマートフォンでの郵便番号検索に限っていえばこの1年で20%増だとか。その理由を聞いたところ、「アドレス帳で管理しておく人が減ったり、通販やフリマアプリでの個人間取引などで検索する人が増えたりしているから」とのこと。

写真
木村理沙さん  (ぽすくまもインタビューに参加してくれました)

甚大な災害発生があるたびアクセスが急増するのも生活サポート・インフラゆえのこと。2017年も7月の九州北部豪雨をはじめ、たて続けにやって来た台風による被害が多くありましたが、アクセスが一気に増えました。「被災地に荷物を送りたいが届くかどうかを調べるニーズが高まったのだと思います」と木村さん。

新商品や記念切手発行のお知らせでアクセスが増えることもありますが、「私たちのWebサイトは生活サポート・インフラとしても期待されているんだ」と、改めて役割の重さを認識しています(木村さん)。

アクセス数もサイト運営上の指標ではありますが、アクセス数を増やすためのアクションを考えるだけでなく、まずは「必要な情報を、わかりやすく、正確に、早くサイトに掲載することが何よりも求められている」と木村さんは言います。

生活インフラとしての役割がある一方で、来ていただいたお客様に新しい便利なサービスを知ってもらったり、郵便局をより身近に感じてもらったりするためのコンテンツも用意されています。ここで2つ紹介します。

ゆうびんきょくキッズサイト

ゆうびんきょくキッズサイト
http://www.post.japanpost.jp/kids/

このサイトの想定利用者は「小学校2年生」。手紙の書き方や郵便にまつわるクイズを楽しく学んでいただくだけでなく、郵便局見学の際の副教材になることも想定して作成されています。

このサイト立ち上げに携わった木村さん、ご自身の幼少期の経験が大いに関係しています。「小学生の時に社会科見学で郵便局へ行って以来、郵便局がとても身近な場所に感じられるようになりました。切手や郵便も好き。旅行先でも地域の郵便局に立ち寄り、ご当地の切手やポストカードを集めている」そう。

なぜ小学校2年生向けなのか聞いたところ、「小学校に入学して1年目は漢字を学び、2年目に入ると漢字を使って手紙を書くことや、町にある赤いポストの役割を学校で教わります。そのときに、郵便にもっと親しみを感じてもらえたらと思い、作りました」とのこと。

サイト開設当初は直帰率が高かったものの、トップページにポップアップされるグルグル回せる「3Dぽすくま」(下図)が登場してからは大幅に改善されました。この「ぽすくま」は、日本郵便のキャラクターで、2016年の「ゆるキャラグランプリ」企業・その他ゆるキャラ部門では第一位を獲得。今では関連グッズの販売やぽすくまをイベントに呼びたいという全国の郵便局から声がかかる人気者になりました。

3Dぽすくま

オリジナル フレーム切手ページ

オリジナル フレーム切手ページ
http://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/frame/

「オリジナル フレーム切手」とは、切手の内側部分にお気に入りの写真等を印刷できる「フレーム切手」を用いたオリジナルの切手商品です。日本郵便では、地域限定のご当地切手が、毎日のように日本のどこかで発売されています。

以前は、発行されるたびに各支社のプレスリリースとしてWebサイトへ掲載したそうですが、切手愛好家のために県別やキーワードで検索できるご当地切手ページを作りました。

本サイトのおかげで昨年は切手カテゴリーへのアクセスは20%増えたそうです。

稲富レクチャー

毎年発行される種類は500種類(オリジナル フレーム切手を除く)10億枚を超えるそうです。切手の種類と数の多さには驚くばかりです。

木村さん流、円滑なコミュニケーションのための勉強方法

木村さんは民営化直前の日本郵政公社に入社。公社から民営化へ、「新しい日本郵政グループ」の立ち上げに伴うコミュニケーション戦略やイメージ刷新のためのブランド戦略を担当しました。

2007年10月の民営化後は、「郵便局」(サービスブランド)の販促企画や宣伝、広報を担当。2012年10月からは民営化後の不動産開発企画で「最初にして最大の物件」JPタワーや商業施設「KITTE」のブランド・広報担当などを歴任。2015年4月からは、経営企画部広報室でWebサイトの企画・運営のほか、コーポレートロゴの管理や新しい商標使用に関する手続き、社内報の発行なども担当しています。

日本郵便は、グループ企業のゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の商品サービスを郵便局で取り扱っており、入社後、金融サービスも不動産事業も「自分にとって新しいことばかり、勉強しかない」状況でした。業務の専門性を高めるために、各種保険募集人やフィナンシャル・プランナーなどの資格を取得。さらにWebを担当するようになってからは、情報セキュリティマネジメントと基本情報技術者試験も受験したそうです。

Webやシステム関係では、専門用語がたくさん出てきます。日々の運営業務などはパートナー企業の皆さん共に進めていますが、判断をするのは私たちです。そんな時に皆さんと共通の専門用語を理解して使うことで、意図が正確に伝わり、話がスムーズに進みます。

専門的スキルを持っている人にその実力を十分に発揮してもらうには、相手への理解と感謝が必要です。こちらの意図を伝えるためにも、相手を理解するためにも、勉強は必要なことなんです。

私はWebのプロではありませんが、一緒に働く人が働きやすいかどうか、一歩引いた目線でいつも自分を見るように心がけています(木村さん)。

平常心で仕事に向かう

木村さんは、普段の生活の中でも、誤植などのエラーを起こさないようにすることに「身も心も捧げています」と話します。「身も心も捧げる」とは大げさですが、ご本人ばかりでなく、いつもバランスよく平常心で仕事ができるようにWeb関連業務委託をお願いしている皆さんにも災害時など特別な場合を除いて18時には「きっちり業務を終了していただいています」とのこと。

確かに年賀はがきのお年玉くじの当選番号など間違えたら大変ですからね。

今後の課題

今後の課題を木村さんに聞きました。

2万5千ページものコンテンツがありますので、いくらでもやることがあります。気がついたところ、影響の大きいところから手を加えて行くつもりです。特に今年はFAQのコンテンツをもっとわかりやすいものにして、Webサイトの受け皿としての力を強化したいと考えています。

幅広い商品・サービスを持ち、企業情報の発表から人材募集まで含めて、このサイトはいろいろな役割を背負っていますが、それぞれどう切り分けて期待に応えていくのかも大きな課題と考えています。

Webもリアルの窓口に負けないほどの充実感をお届けして、お役に立てることをどんどんやっていきたいです(木村さん)。

稲富レクチャー

「誤植」発生防止に「身も心も捧げる」ほどのプレッシャーを受けながら巨大な「トータル生活サポート企業」情報ポータルサイトの責任者としてグループの期待を背負う社員は、木村さん含めわずか2名。大変なはずなのに、それほど大変そうには見えません(できる人は往往にしてそういうものですが)。

持ち前の明るさとバランスの良さ(「彼女ほどバランスのとれた人はいません」と同僚からの声)、現場とパートナー企業の専門家を大切にする気持ち、優れたコミュニケーション能力、何よりも「郵便局や郵便業務が好き」な気持ち。これだけそろえばきっとうまくいくでしょう。

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