「適当に取材して一丁あがり!」なんて考えてないよな? オウンドメディアの取材記事は事前準備が9割【前編】
オウンドメディアで独自の取材記事を作るのは効果的だ。しかし、なかにはろくに準備もせずに雑な取材をしているメディアもある。
それが原因で「オウンドメディアの取材は質が低いから」と取材を受けたがらない企業もあるという。オウンドメディアに限らず、低品質の取材が続くと企業側も「取材を受けるのはやめておこう」となってしまうかもしれない。
そんな状況に危機感を覚える「経営ハッカー」編集長の中山氏と、フリーランス編集者の鈴木(アミケン)氏が、自身の失敗談を交えながら取材のノウハウについて対談した。
前編である本記事では、取材前の準備と、当日取材に入る前の心構えをテーマにお伝えする。
そもそも、企画がないインタビューは失敗する
中山取材慣れしたライターさんや編集者さんには「そんなの常識だろう」かもしれませんが、経験のない人には「マジで?」という驚きが山ほどあるのが取材ですよね。取材されたことはあっても、したことがない人が大半でしょうから。
鈴木私は「アミケン編集塾」を主宰していて、編集者を目指している人に向けてのノウハウを教えています。そこでも「そういう手順でやるんですね」って驚かれることがあります。
中山取材って「準備」「当日」「取材後」の3つに分かれると思っています。一番大事なのが「準備」です。
鈴木私は、取材準備はアポを取る前から始まると思っています。よくある失敗例だと、「〇〇さんをインタビューする」ということだけが決まっていて「何を聞くか」が決まっていないパターン。
インタビューはコンテンツ制作の1つの手法にすぎません。そもそも「どんなテーマなのか」「読者のどんな課題を解消したいのか」「何を伝えたいのか」が定まっているべきなのですが、順番がズレていることがありますね。
中山「とりあえず有名人つかまえてきたから、あとはよろしく」みたいなパターンは困る。
鈴木「で、何を聞くの?」「さあ? いい感じでお願い」みたいな。もうこれは失敗パターンです。本来は逆で、まずは企画ありきです。
「インタビューはコンテンツ制作の1つの手法にすぎません」
事前準備で成否が9割決まる。メインの質問は3つまで
中山僕は事前準備に9割のエネルギーを投下します。ちゃんと準備できていれば当日は気持ちよく、スムーズに進む。下調べした内容は、Evernoteにどんどんメモしていきます。紙だと膨大になっちゃうし、取材現場が散らかってみっともないので。
鈴木私はPocketをよく使います。タグを付けてまとめることが多い。使い慣れているツールなら何でもいいですね。
中山メモがあると、取材が連続するときとかに、それぞれの出身大学名がわからなくなったときに助かります。早稲田、慶應、東大、京大……と有名大学が並ぶと、僕の中ではみんなエリートという感じでごっちゃになっちゃうので(笑)。
鈴木質問の数って決めていますか?
中山絶対に聞きたい質問は3つ以内に絞っておきます。「あれもこれも盛り込んでほしい」ってリクエストを受けることもありますが、広く浅くはカバーできても核心に迫れなかったってことになりやすい。たぶん、「質問をたくさん手元に持っておかないと途中で弾切れするんじゃないか」っていう不安があると思うんですが。
鈴木質問リストはインタビュイー(取材を受ける人)に事前に共有しますか?
中山もちろんします。たくさん送られると先方も大変でしょうから、大事なポイントは3つまでに意図して絞ります。
鈴木私も質問は3つかな……多くて5つぐらいまで。
中山そこは記事内容によるでしょうね。僕はなるべく狭く深く掘り下げたい派。話が盛り上がって脱線するのはウェルカムです。ただし「太い道はこれです」ということを共有できていると、途中で「本筋に戻しましょうか」とお互いに気付けます。
鈴木脱線は意図的にした方がいいですよね。話に幅が出るので。
「大事なポイントは3つまでに意図して絞ります」
失敗する取材の3要素は「準備不足」「準備させ不足」「根回し不足」
中山事前に質問を共有するのは、当日になって「今日は何の取材だったっけ?」というパターンを防ぐためでもあります。忙しい方だと、「何の取材か聞かされてないんだけど」ってノープランで来ることもある。その説明で10分とか消費するのはもったいない。
鈴木失敗する取材の3要素だと思っているのは、「準備不足」「準備させ不足」「根回し不足」ですね。
中山最初の2つはわかるけど、「根回し不足」というのは?
鈴木準備不足は「企画テーマがそもそもあいまい」「リサーチ不足」「編集者とライター間の認識のズレ」です。準備させ不足は、相手方に「今日はこれを聞きます」という心構えをさせておかないこと。
根回し不足は、本人はしっかり語ってくれたけれど、後で広報チェックに引っかかって散々修正が入るようなパターンです。外資系企業だと「本国の親会社がNG出しているので」って根底からひっくり返されるパターンもよくあります。
中山せっかく取材したのに、ボツ記事になったら残念すぎる。
鈴木「こういうお話を伺うので、広報さんにもお伝えくださいね」というところまでやっておけば、ちゃぶ台返しは未然に防ぎやすくなりますね。
中山広報さんに同席してもらったりしますか?
鈴木場合によってはします。広報さんの名刺をもらっておくと後々楽ですよね。初稿を書いてメールで確認してもらうときに広報さんにもCCを入れておくことで、すれ違い予防にもなります。
「広報さんの名刺をもらっておくと後々楽ですよね」
当日は45分前に到着。編集者と顔を合わせて流れを確認する
中山事前準備はこれくらいで、取材当日の話をしましょう。僕は当日は大体45分前に現場に到着します。
鈴木45分前って早くないですか?
中山取材前に、編集者と最終確認しておきたいんです。メールやチャットだけでもある程度はできますが、「完成イメージってこれで合ってる?」とか「あのことは聞く? 聞かない?」とか、実際に顔を合わせて確認したい。30分前だとちょっと不安。10分遅刻する人も必ずいるので。
鈴木私はライターさんと10~15分前に合流していますね。
中山たまにインタビュイーの方から、「前の会議が早めに終わったから、前倒しで取材始めます?」って言われることもあるんです。
鈴木呼ばれたら、行っちゃうんですね。
中山先方を待たせたくないので、「ではすぐに行きます」と言っちゃう派です。そんなもあろうかと、開始1時間前に近くのカフェで仕事しながら待つこともあります。取材の流れをチェックしたり、カメラマンがいればどんなカットを撮るかを確認したり。
ボイスレコーダーは2台持っていく。書き起こしは専門家に頼むべし
中山ところで、取材時はメモとボイスレコーダーどちらを使います? 僕はずっとメモ派だったのが、2年ぐらい前にボイスレコーダー派になりました。相手の顔を見て、話しながらメモを書くのに限界を感じて。
鈴木私はボイスレコーダー派です。
中山近しい間柄だと、「ごめん、あの話ってこういうことだっけ?」って後から聞けますけど、普通は一発勝負ですもんね。
鈴木私は最近、書き起こし作業は専門の業者さんに手伝ってもらっています。個人でやっている方にお願いしていて、その方はたまにインタビュー内容について感想も送ってくれるんですよ。
中山すごい。後で紹介してください。信頼できる人が書き起こしてくれると助かります。クラウドでお願いすると、「前回誰に頼んだっけ」とか「あの人にまた頼みたいけど誰だったっけ」ってなりませんか?
鈴木そうそう。誰かわからないと「また頼みたい」「もう二度と頼まない!」という選択肢もなくなってしまいますよね。自分で60分のテープを起こすと、下手したら丸1日それに費やされちゃうので、それを思うと外注した方が絶対にコスパがいいです。
中山iPhoneで録音してると、途中で止まっていることってありません? 途中で電話がかかってきたりすると、一時停止になってたりすることがあって。1時間のはずが冒頭の10分で録音が終わっていて冷や汗をかいたことがあって、それからはICレコーダーを使っています。
鈴木取材の場で気付かず、帰宅後に録音データを再生しようと思ったら途中で切れていた……みたいな? ゾッとしますね。
「1時間のはずが冒頭の10分で録音が終わっていて冷や汗」
中山はい。なので、ICレコーダーとiPhoneの2台体制でバックアップした方がいいですね。紙でメモしていたころは、書記役の人がいてくれると聞き役と書き役に分かれるのでやりやすかったです。人がいればですけど。
鈴木それはやったことがないですね。「いてくれたらいいな」と思うことはありますが。
中山でもこれも一長一短で、やりすぎると人数が増えて相手に威圧感を与えかねません。4対1とかになるとアンバランスですよね。できれば相手の方を入れてマックス3人かな。
鈴木「人が多すぎ」問題はあります。インタビュー現場が4、5人以上になると応接室みたいなところに入っちゃって。お互い堅くなっちゃいますよね。
緊張をほぐすアイスブレイクのコツ! 手土産は2,000円まで
中山堅くなるという話だと、どうやってアイスブレイク(緊張をほぐすこと)していますか? 僕は会議室に向かう道すがらとか、名刺交換をする前後に雑談をしながら1回笑っておいて、席に着いたらもう「じゃあ今日の話なんですが」ってすぐに移れるようにしています。
鈴木この間うまくいったなと思ったのは、とある芸能人にインタビューしたときです。事前にその人のブログやTwitterを見て、その人の服装やファッションに近いアイテムを身に着けてインタビューに臨みました。すると「あ、そのネクタイ!」と気付いてもらえて「あとで一緒にブログ用の写真撮りましょうよ!」となりました。その時点でアイスブレイク成功ですよね。「突っ込まれ要素」を見た目でちょっと準備しておくのはたまにやります。
中山それは服をたくさん持っていないといけないですね(笑)。
鈴木服じゃなくても、手土産を持っていくときとかもやっぱりその人に合わせて「○○の特産品なんですけど、お好きですよね?」みたいなアプローチをしたりとか。
「『突っ込まれ要素』を見た目でちょっと準備しておく」
中山鈴木さんは「手土産代は2,000円まで」ってポリシーがあるそうですが。それは、ほどほどでちょうどいい価格帯だからということですか?
鈴木実際には1,000円~1,500円ぐらいが一番多いんですが。あまり高すぎても相手が引いちゃうじゃないですか。企業の人にインタビューをするときは、その人の所属している部署の人数分配れそうな焼き菓子とかを選びます。
要は、インタビューが終わった後に、部署の人たちに配ってその人を人気者にしてあげるためのセレクトですね。「今、インタビュー受けてきてさ」って言いたいじゃないですか、その人も。
中山「かっこいいですね、部長!」みたいな感じで? それ、いただきます(笑)。ということは、本人が食べるわけじゃないから甘いものでもいいってことですよね。部署の女の子が盛り上がってくれるでしょうし。
鈴木東京駅、銀座周辺だと、全国のアンテナショップが多いんです。鹿児島の地酒とか、酒のおつまみ的なやつとかを持っていくと急にテンションが上がる人もいたりして。「事前に下調べしてくれているんだな」というのが伝わるので、手土産は大事ですね。
中山当日慌てて饅頭屋に行って、適当に「2,000円のこれ!」みたいなのは?
鈴木何もないよりかはマシですけど、コンビニのお菓子は駄目です、絶対。事前に準備していない感が伝わるので。逆に失礼ですよね。
「あなたに興味を持っています」ということを伝える
中山僕はなるべく相手のペースに飲み込まれたくないんです。たとえば美人広報が出てきたら、「てめえ絶対自分で美人だと思ってるだろう」くらいの気持ちで臨みます。
鈴木感じ悪くならないですか? それ(笑)。
中山心の中でですよ。きっと大抵の人は「うわあおきれいですね」みたいなことを言うんです。「いえいえそんなことないですぅ」みたいなやりとりに向こうも慣れているんです。美人は美人と言われ慣れているので、僕はそこで美人と言わない。絶対に。
鈴木私はファッションとか小物とか、最新のスマホとか目についたらほめますよ。中山さんのは、ただのあまのじゃくです(笑)。
中山そうですか? 逆にすごく強面の人が登場したら、「あー、はいどうも」みたいに平静を装います。きっと普通はビビるじゃないですか。「ははぁ~」みたいに。みんながかしこまるところを、僕はかしこまらない。
鈴木そんな人いますか?(笑)
中山要は「こいつはいつもの相手と違うぞ」って思ってもらいたいんです。言い方がいやらしくなりましたが、「相手の肩書きや容姿にいちいちリアクションしないぞ」という心構えですね。
鈴木自然体でいるのは大事ですよね。それは同意しますが、私はほめられるところはどんどんほめます。それで害はないですもん。
中山それは相手がほめられ慣れていても? うーん、僕がひねくれているだけなのかもしれないな……。
鈴木それが中山さんの自然体なら、いいんじゃないですか。私は2回目会ったときに髪型が変わっていたらそのことに触れたりとか、なるべく「あなたに興味を持っています」ということは表現しようとしています。
中山そうか……次から頑張ろう。
鈴木どうしても話題が見当たらないときは、「暖かくなりましたね」とか、「ここ(東京駅の某ビル)、シン・ゴジラでゴジラが劇中にブッ壊したビルなんですよ!」とか話題を探します。
中山それは都内では使えますね。今年いっぱいは使えそう。
- 企画が定まっていることが大前提
- 大事な質問は3つまで
- 「準備不足」「準備させ不足」「根回し不足」が失敗の原因
- アイスブレイクは相手のことを考える
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