マーケティングオートメーション(MA)の決裁を通しやすい企画・導入・運用3つのポイント
マーケティングオートメーション(MA)ツールを導入し運用しようという場合、代理店に任せきりにするのは、現時点ではお勧めではない
とSATORIの植山氏は言う。なぜなら、日本に入って2年半程度のMAの経験が豊富な代理店はないからだ。
代理店もユーザー企業も運用イメージを持たないMAで成功するためのポイントは、
- 目的を明確にすること
- 期間を長くとりすぎないこと
- 投資を適切に行うこと
の3つだ。
企画書や稟議書に、この3点を盛り込めば決裁は通りやすい。
「デジタルマーケターズサミット2017」では、植山氏が「代理店に頼らずに効果を出す!マーケティングオートメーション導入・運用のコツ」と題して、目的、期間、投資の3つ、それぞれを解説し、MAツールの選び方を紹介した。
ポイント1 目的を明確にすること
MAツールを選ぶ際に、どのような機能があるのかを調べることが多い。機能が多くて安ければ、それがいいツールだと思いがちだ。しかし、植山氏は次のように言う。
機能から考えるのは間違っている
マーケティング活動の目的は何か、あるいは半年後にどうなっていることを目指しているのかが明確であれば、それを可能にする機能がわかり、ツールの選択には困らない。逆に言えば、目的が漠然としていると、施策も漠然とするので、ツールをどう選べばいいかわからないということだ。
たとえば、「売上の増加」がマーケティングの目的という場合、最初に必要なのはそれをどのように実現するか因数分解することだ。具体的には、SATORIが自社の売り上げを増加させる場合を例にとると、次の図のようになる。
[A]売上増加 = [B1]新規顧客の増加 + [B2]既存顧客への深掘り
[B1]新規顧客の増加 = [C1]新規商談の増加 + [C2]新規勝率の改善
[C1]新規商談の増加 = [D1]リードの増加 + [D2]商談化率の改善
このように分解していくと、リードの増加にはイベント参加者の増加やWebからのリードの増加、アンノウンリードの増加が必要というところまで分解できる。これが施策であり、これを実現できる機能がツールに必要だということだ。この施策の中から、効果が高い、あるいは効果を出しやすい施策を選択し、優先的に実施する。これがマーケティングの目標設定だ。この作業は社内事情がわかっていなければできないので、代理店に任せることはできない。
ここではリードの増加に必要な3つの施策について、詳しく説明する。
- イベント参加者の増加
- Webからのリードの増加
- アポタイミングの改善
「①イベント参加者の増加」に必要な機能
先ほど例にあげたB2B企業の場合、展示会などに出展して名刺を集めることが多い。その数を増やすためのステップは3つある。
- クリエイティブ準備
販促品やノベルティグッズの類を作る。ポイントは、広告を入れず、手に取りやすいものにする。例えばSATORI株式会社の出展では、読み物風の冊子を5000部ほど作って展示会場に持って行く。
- リード獲得
一般的にはノベルティ等を配って、引き換えにアンケートと名刺をいただくことなどでリード(個人情報)を獲得するが、もたついたり、時間が掛かることもあり、なかなか量が取れない。効率的に情報を取得するために、バーコードリーダーで顧客の情報を読み取る。
体制としては、バーコードリーダーを準備し、自社の社員数名に加え、名刺やバーコードを獲得する専門スタッフを雇って、リード獲得部隊を編成する。また、名刺を獲得した場合には、即時にデータ化できるよう名刺リーダーを準備しておく。
- アフターフォロー
事前にMAツールにお礼メールを準備しておく。ここにメールアドレス等の取得情報をインポートすることで、すぐにメールを送ることができる。顧客からするといち早くメールが来た会社となる。ポイントは、名刺をもらった時に詳細な資料は渡さず、後ほどメールで資料を送るという設計にすることだ。そして、もらった名刺をスキャンして自動的に当日中にメールを送る。いち早く必要資料を送付することでメールの開封率・資料の閲覧率が上がり、顧客とコミュニケーションが生まれる。
MAが登場するのはアフターフォローの段階で、施策全体の中でMAツールの役割は小さい。必要な機能はメール配信だが、クリエイティブ、バーコードリーダー、名刺を取る体制、名刺スキャナー、当日メールを送信、という一連の流れがあって、はじめて効果が出る。
「②Webからのリード増加」に必要な機能
B2B企業では、市場にターゲットとなる担当者の数が非常に少なく、そもそものリスト数を大きくすることができず、マーケティング施策を行っても効果が見えづらい場合がある。こうした企業でWebを活用したマーケティング活動を成功させるには、次のようなステップで行う。
- ペルソナを緩める
すぐに購入してくれる「いますぐ客」ばかりを追い求めるとさらに数が少なくなってしまうので、半年後や1年後に買ってくれそうな「そのうち客」も集めると、データベースが大きくなる。「そのうち客」にコミュニケーションをとり、購買の瞬間を待つ。
MAツールベンダーにとっては、MAを検討している人が「いますぐ客」、マーケティング担当者やWeb担当者が「そのうち客」となる。
- クリエイティブ準備
それぞれのターゲットに合わせてクリエイティブの準備が必要だ。たとえば、「そのうち客」には製品資料を押し付けるのではなく、マーケティング担当者が読みたくなるような「マーケティング資料」などを用意して、ダウンロードの際に個人情報を入力してもらう。
- リード獲得
クリエイティブを露出する段階でMAツールを利用する。オウンドメディアでのポップアップ表示やリターゲティング広告等を利用したアプローチの際に、それぞれのターゲットごとにクリエイティブの出し分けが必要になる。また、外部サイトのデータが利用可能なMAツールもある。
- アフターフォロー
「そのうち客」を集めてもすぐに買ってもらえるわけではないので、アフターフォローが重要。すぐ買ってくれそうな「いますぐ客」は営業担当者がアプローチし、「そのうち客」はセミナー誘導を目的としたメールを送信したり、ステップメールで事例紹介コンテンツを送ったりして緩くコミュニケーションをとり、ニーズが顕在化したら営業担当者がアプローチする。
MAツールが登場するのは、訴求するためのウェブ上でのポップアップやリターゲティング広告、そしてステップメール活用の場面である。「そのうち客」の受け皿としてセミナーを用意するが、その際のセミナー受付フォームの作成やイベント管理機能としてもMAツールが利用できる。
「③アポタイミングの改善」に必要な機能
上の2つはリードの量を増やす場合だが、集めたリストから商談に至るまでのアポ取りのタイミングを改善する場合には、次のようなステップになる。
- キラーコンテンツを準備
イベントで集めた大量の名刺情報やウェブからのリードのうち、商談に至るのは誰かを判断するためのキラーコンテンツを用意する。MAツールを利用する場合、一般的にはスコアで判断するケースが多いが、スコアリングの設計自体に苦労することも多い。しかし、このコンテンツを見たらアポを取るタイミングだと分かるキラーコンテンツを用意することで、スコアを利用するよりシンプルに顧客の判別が可能になる。
キラーコンテンツは、企業によって違ってくる。B2Bでは、たとえば「他社との比較」コンテンツは、検討段階に入ってベンダーリストアップする時に見るので、このコンテンツを見ているユーザーはアポのタイミングであるケースが多い。その他、契約までのステップなど、最終段階で知りたいと思う情報が載っているコンテンツもキラーコンテンツになり得る。あるいは、商品比較サイトなど、外部にキラーコンテンツがあるケースもある。
- MAツールで該当顧客を検知
キラーコンテンツを用意したら、MAツールの出番だ。そのコンテンツを見たことを検知し、アポイントを取るタイミングの顧客を抽出する。
- 検知した顧客を担当へメールで通知
当該顧客を抽出したら、インサイドセールスへ自動的にメールで通知する。
- 商談アポイントを獲得
インサイドセールス担当から、電話やメールで商談アポイントを獲得する。
多くの人は、「名刺を渡したが、うるさく営業されるのは困る」と考えている。しかし、ある時、営業マンに来てほしいと思うときがくる。それを把握することで、「いいタイミングで電話してくれた」と思ってもらえる。これを実現するにはMAツールの役割が比較的大きい。
ポイント2運用までの準備期間を長くしないこと
MAでは、目的を明確にすることと同時に、「小さく始めるのがコツ」だと植山氏は言う。そのためには、実際の運用を開始するまでの準備期間を長くしないのがポイントだ。たとえば、あまりにも多くの社内調整が必要だったために運用まで1年かかってしまうと、企業を取り巻く市場環境は大きく変わってしまっている可能性がある。SATORIのユーザーに対しては、1か月で運用を開始し、1か月ごとに見直すことが推奨されている。
ポイント3投資を適切に行うこと
ポイント1で見たようにツールの役割は非常に限定的で、マーケティング活動全体でみると、実際にはツール以外の部分に多くのリソースを投入する必要がある。ここでは「リード獲得1人当たりいくらかけるかという単価」で判断する考え方が重要だ。
まずはツール以外の部分にかける金額を見積もってから、ツールにかける金額を決めるべきだ。全体像なしにツールの予算だけ取っても成功しない。
次の図では、イベントに出展する予算全体が460万円なら、ツールは50万円くらいということだ。
ツール選択の際の注意点
MAツールを選ぶ際にチェックするポイントとして、植山氏は次の点を挙げた。
- 目的への合致
機能が多ければいいツールだと思いがちだが、使わない機能があっても意味はない。機能の比較表ではなく、目的別の比較表を作ることがポイント。また、当然ながら使いやすさも重要だ。
- 拡張性(攻め)
マーケティング施策はどんどん変わるので、スモールスタートで徐々に取り組みを増やすことになる。このため、次にやりたいことに合致しているかの拡張性も選択のポイントになる。将来を考えると、他のツールとの連携やアップデート頻度も重要。
- 信頼性(守り)
サポートやツール自体のセキュリティ対策がしっかりしていて、信頼性が高いことも必要だ。また、ベンダーの信頼性としては、社歴や経営者の経歴などを見るといいだろう。
- マーケティングノウハウ
植山氏は、「ベンダー自体がどのようなマーケティング活動を行っているかも、ひとつのチェックポイントだ」と言う。将来的にベンダーが提供するのであろう機能やサービスが、おのずと見えてくる。
マーケティングオートメーションの導入・運用を成功させるためのポイント
マーケティングオートメーションの導入・運用を成功させるためのポイントは、次の3点だ。
- 目的……目的が明確か?
- 期間……期間が明確か?(運用までの準備期間が長すぎないか)
- 投資……投資が明確か?
企画書や稟議書にはこの3点を盛り込めば決裁は下りやすい。植山氏は次のように言い、シンプルな稟議書を推奨した。
この3点が明確であれば、稟議書はA4一枚で十分だ
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