“悪い”手数料をなくして収益を820億円伸ばしたチャールズシュワブの顧客ロイヤルティ経営
今日は、「顧客にどんな価値を提供して売上を得るか」の話題を。
あなたは「手数料」を払うのは好きですか?
米国の金融機関で、手数料を引き下げ、さらには妨害手数料を撤廃したことで、結果として取り扱い顧客口座を伸ばしたところがあるのです。
その名も「チャールズシュワブ」。2015年Q2には、メリルリンチを超える資産を顧客から預かるまで成長しました。
「悪しき売上」「悪しき利益」を撤廃し、顧客ロイヤルティを高めることで成長した企業が、実際にあるんです。
その「手数料」、良い売上? 悪い売上?
金融機関といえば「手数料」というイメージですよね。実際に、振込手数料や送金手数料だけでなく、投信の販売手数料や信託報酬、さらには信託財産留保額などなど、さまざまな「手数料」があります。
最近では、ゆうちょ銀行がATM送金手数料を10月から有料にするという話題もありました。
さらには、高齢者に対するサポートサービスに関して、その契約手法だけでなく、高額な解約料を請求していたとして炎上し、株価が急落したPCデポも、話題になりました。
さて、この「手数料」ですが、
- 良い売上
- 悪い売上
のどちらでしょうか?
多くの場合、「顧客に価値を提供する対価として得る売上」ではなく、「顧客に価値を提供しないのに得る売上」であることから、私はこれを「悪い売上」だと考えています。
もちろん、企業からみると対応に「手数」がかかるからこそ請求しているものではあります。
また、顧客からみて「この手数料でこれをやってもらえるなら、喜んで払う」というものならば、価値を提供している「良い売上」でしょう。
でも、顧客にとっては、そうではない手数料が多いのも事実ですよね。
また、サービス契約していることをわかりづらくしたり、サービスを解約しづらくしたりすることで、顧客をつなぎ留めようとするところもありますよね(ケータイ系サービスに多い)。
そうすることで得られるのも、これもまた「悪しき売上」「悪しき利益」ですよね。
だって、顧客に価値を提供するのではなく、ハッピーにしているわけでもないのですから。
とはいうものの、こういう話題を社内でして、「悪しき売上に頼るのはよろしくない、顧客に価値を提供し、その対価を得るべきだ」と言ったら、必ず次のような反論があるでしょう。
気持ちはわからんでもないが、実際にはそれらの売上が我が社を支えているので、なくすわけにはいかない。
君は、その手数料収入が減ることの責任をとれるのかい?
そういうときは、次に紹介する事例を教えてあげるのはいかがでしょうか。
「悪しき売上」を撤廃して伸びたチャールズシュワブ
これは、ビービットさんが2015年に開催したイベント「顧客価値戦略サミット」で、同社の遠藤氏が紹介していた事例です。
あまりにも興味深い内容だったので、許諾を得て紹介します(掲載している資料はビービットさんが調査して作成したものです)。
米国の金融機関チャールズシュワブは2006年、「悪しき売上」を撤廃しました。
その後、同社は取り扱い口座や預かり資産を伸ばし、10年後には預かり資産額がメリルリンチを超える318兆円となり、NPS(推奨度スコア)も68ポイント高めたのです。
同社の創設者であり当時のCEOだったチャールズシュワブ氏が顧客に向けて、次のような手紙を出したのは、2006年のことでした。
ここでは、次のようなことを行う(行った)と記載されています。
株、投信、債券投資などに関連した取引手数料を簡素化し、引き下げを実施
ブローカー口座のATM手数料、支店で小切手を受け取る際の手数料、請求書支払いに関連した手数料といった、「妨害手数料(不愉快な手数料)」を撤廃
さらに、次のようなことも記載されています。
年中無休・24時間の電話サービスの拡充により、対応をすばやくし、良い体験を提供
不正な取引で生じた損害の100%補償
同氏は、これらのことを行うのは、
顧客がチャールズシュワブを利用していることの価値を高めるため
であると記載しています。
そう。チャールズシュワブは、顧客にとってうれしくない「悪しき売上」「悪しき利益」を撤廃し、チャールズシュワブを利用していることで得られる価値を高めるために大きく動いたのです。
さて、これによってチャールズシュワブはどうなったでしょうか。
手数料を撤廃したことで、2006年の収益は120億円減少すると予想されていました。
しかし実際には、ネット入金額が10兆円増え、結果として資産管理手数料収入は325億円も増加。年間収益は前年よりも820億円も増加したのです。
さらに、2004年にはマイナスだったNPSも2006年だけで18ポイントも上昇しています。
同社はその後も順調に業績を伸ばし、2015年Q2には、預かり資産額がバンクオブアメリカ・メリルリンチを超えるまでになりました。
NPSの数値も伸び、対2004年で68ポイントも増えています。
その売上は、だれにどんな価値を提供して得ていますか?
チャールズシュワブは、目の前の、これまで得ていた(悪しき)利益に見切りを付け、顧客に価値を提供することにフォーカスしたことで、生まれ変わったのだと言えます。
この決断をチャールズシュワブ氏が下したのは、2006年でした。
それから10年たった今、顧客は、自分が納得できないことがあればネットで書き込みます。「何か変だな」と顧客が思っていることは、いずれ「やっぱりおかしいよね」になり、それが度を過ぎていれば炎上につながります。
当時よりもさらに、「顧客にとって価値があること」にフォーカスする意味が増えていると言えるでしょう。
また、日本や米国などの先進国で消費者が「無関心化」しており、特定の商品やサービスを選ぶことについてこだわることが減っているということが、アクセンチュアが2016年7月に発表した「グローバル消費者調査2015」で明らかになっています。
これも、他社との差別化をしきれていなければ、何かがきっかけで離れられてしまう状況にあるとも言えるでしょう。
チャールズシュワブの事例は、あまりにもうまくいった事例です。他の企業が同じようにしたからといって、同じ結果を生むとは限らないでしょう。
また、大切なのは「手数料の撤廃」などの表面的なアクションではなく、その根底にある「顧客に価値を提供し、顧客が望んで自社を選んでもらうようにする」という考え方だと、私は思います。
だとすると、チャールズシュワブのような大きなことでなくても、あなたが自分でコントロールできる範囲で「顧客に提供する価値」を増やせることはないでしょうか。
「CX」も「UX」も「ユーザビリティ」も、根底にあるのは、同じこういうことなんだと思います。
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