ユーザー調査アンケートは、設計が悪ければダメなデータしか集まらない ―― サーベイモンキー副社長インタビュー
マーケティングで大切なのは、顧客や潜在顧客をデータにもとづいて正しく理解することだ。そうしたマーケティングリサーチのためのツールの1つが「アンケート調査」である。
ただし、闇雲にアンケートを実施すればいいわけではない。「だめなアンケート」から得られるのは「だめなデータ」で、だめなデータを元に行動すると「だめな結果」になる。
If you ask bad question, then you get bad data.
ダメなアンケートからは、ダメなデータしか得られない――デイモン・クロンキー氏(SurveyMonkey副社長)
技術的なスキルもリサーチの経験もない人でも、気軽に、かつ、専門家の知見を取り入れた「良い設計」でアンケートを行えるようにするサービス「サーベイモンキー」の日本における本格展開を前に、同社の副社長デイモン・クロンキー氏に、アンケートとマーケティングリサーチについて聞いた。
企業活動に活用するアンケートとは
――日本では、デジタルマーケティング系の人は、アンケートよりもアクセス解析や効果測定やA/Bテストといったデータに重きを置いている印象がありますが、アンケートは、たとえばA/Bテストやソーシャルリスニングなどと、どう違うのでしょうか。
A/Bテストと比べると、アンケートのほうが、より自由度や柔軟性が高い。特にオンラインのアンケートでは、「設問1にYesと答えた人には、設問2としてはこちらを見せる」というように質問を分岐させたり、選択肢をランダムに表示させることで偏りをなくしたりできる。
また、A/Bテストでわかるのは「どのキャッチコピーがいいか」といったことだが、アンケートならばさらに「なぜそのキャッチコピーが良いのか」といったことまで知ることができるため、より具体的なアクションを起こしやすい。
しかし、アンケートとA/Bテストはどちらが優れているというものではない。たとえばアンケートによってA/Bテストのためのベースとなるユーザーインサイトを得るといったように、組み合わせて使うことで、さらに価値を発揮できる。
ソーシャルリスニングも、アンケートと組み合わせて使うと、より効果的だ。
世界的に「ビッグデータ」という言葉がトレンドになっているが、ビッグデータの多くはソーシャルメディアから生み出されている。
しかし企業は、ブランドや商品について、ソーシャルの行動から多くの情報を得たとしても、それをどう活用したらいいのかよくわかっていないのが実際だ。
だから、ソーシャル上の行動からシグナルを読み取って、その背景にある考えを調べるためのより明確な質問をアンケートで問うことで確認すればいい。
――サーベイモンキーはアンケート作成・分析のサービスですが、同様のことは、たとえばGoogleフォームでもできますし、似たサービスも多くあります。そうしたサービスとサーベイモンキーはどう違うのでしょうか。
サーベイモンキーの最大の特徴は、「良いアンケートを作る」→「アンケートを広め、回答を集める」→「回答を分析してインサイトを得る」という一連のことを、リサーチの専門家でなくても簡単にできることだ。
マーケティングや商品開発の現場の人が、専門家に頼まなくても、自分自身ですべてコントロールできる。また、それをうまくやることを助ける仕組みも提供しているし、マーケターが使い慣れたツールと連携させることができるプラットフォームとして開発を進めている。
サーベイモンキーは人々が情報を集めることを長くサポートしてきたが、たくさんの事例の中でもマーケティング利用は最もポピュラーだ。
非常にスピーディにアンケートを配布し、回答を収集できるため、新たなマーケティングメッセージやコンセプトを迅速にテストできる。また、得られた回答からユーザーをセグメント化して次の行動に進むこともできる。
我々はアンケートを「顧客やユーザーとの会話の機会」だと捉えている。アンケートによって、ユーザーに発言権を持たせることができるのだ。
日本でも、無印良品が商品開発にサーベイモンキーのアンケートを利用したという例がある。
だれでも「良いアンケート」を作れる「テンプレート」と「質問バンク」
――「簡単にできる」「専門家でなくてもうまくできる」とは、具体的にはどういうことでしょうか。
まず、簡単にできるということから。
簡単さという点ではGoogleフォームも同様だが、それだけではアンケートの価値を100%発揮できるとは言えない。さきほども述べたように、アンケートのメリットは、ある種のロジックやインテリジェンスを活用できることにあるからだ。
サーベイモンキーでは、たとえば、ある質問に対して「Yes」と答えた人と「No」と答えた人で、次の質問から別のものを提示するといった分岐のロジックを組み込める。
もちろん、そうしたロジックを使わなくても、アンケート作成自体を、わかりやすいインターフェイスで行えることは大きなメリットだ。
そのほかにも、アンケートの中に動画や画像を埋め込むことができるので、30秒のコマーシャル動画を埋め込んで、それについてアンケートをとるといったことも可能だ。
アンケートページに自社のロゴを使うなどのカスタマイズを簡単にできることも、企業利用では大切なポイントだろう。
――技術的な知識がなくても、複雑なことや企業として行いたいことを簡単に実現できるということですね。
さらに、リサーチの知識がない人でも、「良いアンケート」を作れる仕組みも提供している。「専門家が作成したアンケートテンプレート」や「よく使われる質問集(質問バンク)」だ。
「アンケートテンプレート」は、たとえば「顧客満足度調査ではこのような質問をするといい」という、専門家が作ったアンケートをテンプレートとして提供している。すべてのマーケターがマーケティングリサーチのトレーニングを受けているわけではないが、このテンプレートを使えば、だれでも質の高い質問ができる。
また、サーベイモンキーには、2000万人のユーザーが行ったアンケートという大量のデータがある。その中から人気があってよく質問されるものを抽出して、ベストプラクティスの質問を作っている。それが「質問バンク」で、日本でも1年ほど前から提供している。
具体的な例を挙げると、デモグラフィックデータのために性別を聞く質問でも、「gender」という単語を使うのがいいか「sex」という単語を使うのがいいか、または「male or female」と聞くのがいいのか、判断は難しい。
だから、どう質問をすればいいのか迷わないように、さまざまなユーザーが行ったアンケートのデータを元にリサーチチームが研究し、質問を標準化している。
アンケートというものは、悪い質問をすると、そこから得られるのは悪いデータになる。だから、よりよい意思決定をアンケートのデータをもとに行うためには、良い質問をしなければいけない。サーベイモンキーはそれをサポートする。
――米国ではNPS(ネットプロモータースコア)が使われるようになってきているようですが、サーベイモンキーではどうですか。
NPSを計測するための質問は、特に米国ではデモグラフィックデータを除けば最もよく使われている質問だ。サーベイモンキーにはNPSのための質問テンプレートが用意されていて、NPS値を自動計算してくれる。
NPSは質問の仕方で回答が大きく左右されるため、NPSを正確に計測するには、適切な質問をすることが重要だ。サーベイモンキーにはアンケートデザインのプロがいるので、NPSのための質問項目の標準化を進めている。
また、最近新しいNPS機能を追加し、時系列でNPSの変化を追うことができるようになった。複数回答や自由回答の設問を同時に問うことで、NPSが変化した原因を突き止める原因分析を行う。
- より簡単に!ネットプロモータースコアの分析(SurveyMonkey Japanブログ)
――アンケートフォームを作れるだけでなく、ベストプラクティスの質問を提案してくれるのは、すばらしい。日本のデジタルマーケターでリサーチのトレーニングを受けている人は少ないので、質問のテンプレートが提供されるのはとても助かります。
米国でも、リサーチの専門トレーニングを受けているマーケターは多くない。ただ、データに裏打ちされた意思決定が必要だという文化が、この10年ほどで根付いてきている。そのために、サーベイモンキーの利用が増えている。
米国では、特定の業界団体と共同で業界向けアンケートテンプレートも作っている。
必要な人に、いいタイミングでアンケートを自動的に送付できる機能
――アンケートを配布する方法ではどのような特長がありますか。
アンケートのリンクを生成できるので、メール(リストに一斉配信可能)、ウェブ(ページに埋め込む、ポップアップさせる)、モバイルアプリ、FacebookやTwitterなどさまざまな方法で配布できる。
また、ユーザーのアクションに応じてアンケートを自動的に開始するようにも設定できる。たとえば、次のようなものだ。
- サイト訪問が○回を超えたらサイト内でアンケートがポップアップ表示される
- ショッピングが完了したところで買い物体験についてのアンケートを表示する
- 購入せずにショッピングカートから離脱したときにその理由を問うアンケートを表示する
また、新しいエンタープライズ版では、セールスフォース・ドットコムのシステムと連携させて、自動でアンケートを配布できるようになった。
――エンタープライズ版は個人向けの有料プランとどこが違いますか。
日本語版は2014年12月3日に正式ローンチしたエンタープライズ版だが、個人向けとの違いの1つに、部署をまたがった複数アカウントの利用がある。複数のアカウントにわたって、「ブランドコントロール」「アクセスコントロール」「コラボレーション」などが可能になっているのだ。
たとえば、宣伝部門でブランドコントロールを行い、マーケティング部門がアンケートを実施し、その結果を商品開発部門が見て参考にするといったことや、顧客満足度調査を国別に行い、その結果を統合して分析するなどが可能になる。
セールスフォースとの連携で「適切な人に」「自動的に」をさらに実現
――セールスフォース・ドットコム(以下、「セールスフォース」)との連携とは、どういうものなのでしょうか。
アンケートの作成とどのようなアクションで配布するかという設定はサーベイモンキー側でしておく必要があるが、アンケートをテンプレートとして登録しておけば、アンケート実施から結果収集、分析、確認までをセールスフォース側で行えるというものだ。
たとえば次のような使い方で、新規顧客が登録されたら自動でアンケートを取り、その後、部署をまたいで時系列でその人の変化を把握できるようになる。
セールス部門 ―― 新規の見込み顧客が登録されたら、自動でアンケートを送付して見込みの確度を計る
マーケティング部門 ―― ユーザーセグメントごとに異なるアンケートを送る
サポート部門 ―― 電話サポートが終了した時点でアンケートを送付し、サポートの質をたずねる
セールスフォース利用ユーザーの50%以上がサーベイモンキーとの連携を望んでいたことから実現したもので、非常によく統合されている。
アンケートを取るのは、いつでもいいわけではなく、適切なタイミングがある。
サポートについてのアンケートなら、サポートが終了した時点で聞くのが最も良いタイミングだ。それを、サポート担当者の手をわずらわせることなく、サポート終了の記録をセールスフォースに残したら、自動的にアンケートメールが行くようにする。
もちろん、アンケートの回答はセールスフォースの顧客プロフィールデータに入れられるので、サポート担当者もセールスフォースから見ることができる。
また、セールスフォース側からサーベイモンキーのアンケートを活用できる。たとえば、セールスフォースのデータとアンケートのデータを組み合わせて新しいカスタマーセグメントを作ることや、セールスフォースの分析にアンケートのデータを含めることができるのだ。
セールスフォースを使って仕事をしている人は、それ以外のツールはなるべく使いたくないものだから、アンケートの配布や回答の利用はセールスフォース側からできるようになっている。
顧客インサイト調査だけでなく、社内スタッフの満足度調査など多様な利用が進んでいる
――サーベイモンキーにはどのような活用例がありますか。
利用例としては、顧客満足度調査が最も多い。アンケートはどこにでも埋め込むことができるので、さまざまなタッチポイントで顧客からフィードバックを得ることができる。
その他には、人事部門が利用するケースも多い。社員を対象にアンケートを実施して、「会社に対してどう思っているか」「会社のイベントに参加してどうだったか」「CEOのプレゼンはどうだったか」といったことを調べる使い方だ。日本の例で、新しい制服を導入する際にデザインや色のアンケートを取った例もある。
クイズ形式でトレーニングに使う、教育での利用もある。
――サーベイモンキーではできないこと、苦手なことはありますか。
サーベイモンキーでは、統計解析を使うようなハイエンドなリサーチは想定していない。
高度な統計解析が必要であれば、サーベイモンキーから情報をSPSSにインポートして使うことはできる。高度な分析ツールとの連携については、今後対応を考えている。
――大切なユーザー情報を扱うので、サービスでセキュリティをどのように確保しているかについて教えてください。
まず、アンケート結果データの所有権はサーベイモンキーではなくユーザーにあるというのが我々のポリシーだ。
セキュリティ規準については「TRUSTe」「HIPAA」による認証を受けているほか、Qualysによるマルウェアやぜい弱性のチェックも行っている。
アンケートデータのような貴重なデータを自社だけで守ろうとするより、2000万ユーザーの大量データを守るサーベイモンキーに任せてもらうほうが、セキュリティに投資できる額も大きいし、セキュアだろう。
SurveyMonkeyは1999年に設立、本社は米国シリコンバレーのパロアルト。現在190か国以上で使われ、登録ユーザー数は2000万以上。
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