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実店舗とECの垣根をなくす! 良品計画が取り組むオムニチャネル時代のデジタルマーケティング

オムニチャネル時代に店舗とネットに求められるマーケティングやCRM戦略とは? 良品計画が取り組む戦略をレポート

この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。

ネット通販と実店舗を往来する消費者が増えるオムニチャネル時代が到来し、EC実施企業は変わる消費行動にどう対応すればいいのか。この課題に立ち向かう企業として注目を集めているのが良品計画。Web事業部を率いる奥谷孝司web事業部部長は「私の考える“顧客時間”は、今のオムニチャネルやデジタルマーケティングに合っている」と話し、良品計画が取り組むCRM戦略などを披露した。「『お客様と時間を共有する』CRM & Digital Marketing戦略 『MUJI DIGITAL Marketingの展望』」と題した「ネットショップ担当者フォーラム in 大阪」で行われた奥谷氏の講演をレポート。

重要だったのは会員の6割がネットストアを利用しないという事実

講演した良品計画の奥谷孝司web事業部部長
奥谷孝司web事業部部長

2014年2月期のEC売上高は124億4600万円。webの売上高は、2006年に「無印良品有楽町」を抜いて最大店舗となり、2011年から3年連続2ケタ成長を続けている。連結売上高に対し、ネットストアの売上構成比は7%を占める。

奥谷氏がweb事業部へ配属になったのは2010年。それまでは商品部でモノ作りを担当していた。奥谷氏いわく「私はwebのプロフェッショナルではない」。無印良品最大店舗となっている「MUJINET」の成長の秘訣を探るため、異動後、会員動向を調べることから始めた。

わかったことは「現在の会員動向4:6の法則」。過去2年間で最低1回はネットストアを利用したことがある会員は38%。そのうち半年以内に買い物をしている人は16%しかいなかった。現在のネット会員は460万人超。奥谷氏は言う。「これもいまも変わっていない。私にとって重要だったのは『60%以上の会員がネットストアを利用しない』という事実だった」。

良品計画のweb事業部は組織上、オンライン販売を担うEC課、ソーシャルメディアを担当するコミュニティ課に分かれる。奥谷氏がEC課に伝えたのは「お客さまがネットに来ると思ってコミュニケーションをするのは間違いだ。明確なことは、アクティブユーザーを増やせば売り上げを伸ばすことができる」。一方で、イベント企画やホームページへの情報アップが主な仕事だったコミュニティ課には、「これからは6割のネットを利用しない人を動かすのが仕事だ」と伝えた。

お客さんは何か課題があって商品を検討し、購入、使用するという流れがある。小売業は店舗のPOSデータを見てしまいがち。何が売れたかのか購入データばかり見てしまう。しかし、今の時代、それだけやっていて勝てる企業は少ない。

奥谷氏が考えたのはネット上に蓄積されるたくさんの顧客の動きを活用すること。奥谷氏が何度も口にする“顧客時間”の蓄積を生かし、web事業部は商品部や販売部をサポートすることに全力を注いだ。「私たち(web事業部)が一番お客さんのことがわかっている。オンラインの売り上げに固執しないで、全体最適を考える。だから、お客さんの動きを見ている」と言う。

重要視している1つの指標「顧客時間」。購買に至るプロセス全体を意味する。お客が商品を買った後にどのような感想を抱いているのか、次はどのような商品を購入しようとしているのか、検証・分析することを重視。「購買結果だけ見てはダメ」とばっさり切る奥谷氏は、「顧客時間全体を見て、どう顧客とのエンゲージメントを深めていくかが重要だ」と指摘する。

「4:6の法則」に照らし合わせ、6割のネットを利用しない人に対してどのように店舗送客を行うか。これがweb事業部の大きな使命となった。

「顧客時間とはお店、ネット、お客さま個人の時間内でのブランド体験(時間軸)と捉えている」と奥谷氏。こうした「顧客時間」は、これからのオムニチャネル、デジタルマーケティングに重要な考え方になると説明する。

良品計画の奥谷部長②
奥谷氏が何度も強調した“顧客時間”の重要性

どうすればメッセージを受け取ってもらえるのか、というマーケティングを

「『情報過多』『モノ余り』『不況』のなかで生き残る方法は3つしかない」。奥谷氏はこうした厳しい競争にさらされる小売市場で、生き残れるのは「最高、最安、最愛」がある企業や商品だと強調。最高の品質、最安値価格……こうした商材を持たない企業はどうすればいいのか。「それはブランドを愛してもらうしかない」。

お客さまにわかってくださいとどう伝えるかではなく、どうすればメッセージを受け取ってもらえるか。マーケティングすることが重要だ。

そのために行ってきたweb事業部の取り組みを紹介したい。まず、web事業部の役割は次の3つ。

  1. 店舗送客機能
  2. ネットストアによるお客様の無印良品への購入アクセス
  3. くらしの良品研究所&SNSをベースとしたお客さまとのコミュニケーション

この役割を通して、顧客時間を活性化し、消費者との関係性を強化。そして、ネットで購入してもらったり、店舗に訪れてもらうといった消費行動を築いてきた。

良品計画は2009年から店舗で使えるクーポンを付けたりし、メールマガジンを使って店舗送客を実施。「実は店舗層客は古くて新しいもの」と考える奥谷氏は、何を買ったのか、クーポンは使われたのかといったあらゆるデータを取得し、デジタルマーケティングに活用した。

2011年に始めた店頭受け取りサービスは全受注の4%に広がり、年間4~5億円の売り上げになっているという。売り上げ計上は店舗になるものの、「カートを使うというプロセスを経るため、そこまでの行動データを取得することができる。ネットを利用していても、実は店舗派なんだということがわかる」と言う。

ソーシャルメディアによる情報発信を使ったある店舗送客キャンペーンでは、店舗全体の売上の3%に寄与した。2009年にツイッター、2010年にFacebook、2011年にmixiページ、2013年にはLINEを開設した。ソーシャルメディアの活用は、「『いいね!』をもらうだけではなく、自社メディア(HP、ECサイト、店舗)に来てもらえるかということ」を目的としている。

良品計画の奥谷部長③
ソーシャルメディアなどの登録者数(2014年8月末、出典はIR資料)

奥谷氏はこうEC事業者などに呼び掛ける。「ソーシャルIDを活用して、オウンドメディアを作り、自社メディアに訪問してもらうきっかけを作ることはできる。大切なことは企業が持ち得ない『購買データ』以外のデータ(行動データや非構造化データ)を持つソーシャルIDを活用し、自社メディアにきてもらうことだ

オムニチャネル時代に対応するには新しい経営数値と向き合うことから逃げてはいけない

「周りには広告があふれているが、お客さんは無視している。ソーシャルメディアを中心に情報を取得し、それをグーグルで探すといった動きも増えてきた。BtoC企業のメッセージは伝わりにくくなっている」。ソーシャルメディアの台頭などを踏まえ、いまは企業のメッセージが消費者に届きにくい市場環境だという。

こうした状況を打開する施策は「お客さん(生活者)の周りにコミュニケーションチャネルを配置すること」。チラシやテレビCMといった従来型のマス媒体はコストがかかるが、アプリやソーシャルメディアの活用はそう大きな費用は必要ない。そこで着手したのが、「MUJI passport」というアプリだ。

良品計画の奥谷部長④
出典はIR資料

これまでのメールマーケティング、外部企業とのコラボといった店舗送客施策は「どれもが局所的で部分的。全店頭をサポートする施策やツールではなかった」という反省を生かし、開発されたもの。全国の店舗やECサイトでのショッピング、店舗への来店時にチェックインすることで貯まる「MUJIマイル」、ほしい商品の店舗在庫を確認できる「ショッピングガイド機能」などを搭載している。

たとえばショッピング。「無印良品」全7500アイテムのなかから、ほしい商品を簡単に検索することが可能。在庫のある最寄り販売店舗をリアルタイムで表示する機能もある。店舗でもネットでも「スムーズにお買い物することができる」と言う。

アプリの目的はネット・リアルの区別なく無印良品のファンとコミュニケーションを図ること。持続的な来店客数の増加は売上増につながり、マーケティング施策効果が可視化される。

気になる「MUJI passport」の成果は……。「passport」提示率は店頭で約10%、全社売り上げに対する会員売り上げの割合は約20%。「会員あたり1回の購買を刺激できたとすると、156万回レジの通過増となり74億円の売上貢献になる」。

奥谷氏は「MUJI passport」を使った小売りを「エンゲージメントを高める商売。New E-Commerce、Engagement Commerceの始まり」と説明。ちなみに、「MUJI passport」では、顧客の「性別」「年代」「マイルステージ」「購入商品」「累計購入金額/頻度」「利用店舗」「EC」「MUJI passport」などたくさんの利用データを集めている。

オムニチャネルではIT投資とデータ分析が求められている。大切なことは、オムニチャネル時代における新しい経営数値(いわゆるビッグデータ=CRMデータ、ソーシャルメディアを介して得られるお客さんの行動データ)から逃げずにデータと向き合うことだ。

蓄積し分析した顧客データやPOSデータなどは、データ分析に基づいたマーケティング施策を行うためのDMPの構築に活用。たとえば、レコメンドツールを活用して店舗派の消費者にお勧め商品を紹介するマーケティング施策の実施などを行えるようにするためだ。奥谷氏は良品計画の取り組みを踏まえ、次のように講演を締めくくった。

マーケティングをしている人も物を売っている人も、ITを理解していくことが必要。そうしないとツール負けしてしまう。無印良品はITを通し、より顧客との関係性を強化、マーケティングを見える化して予測の精度を向上し、マーケティングを科学していきたい。

オリジナル記事はこちら:実店舗とECの垣根をなくす! 良品計画が取り組むオムニチャネル時代のデジタルマーケティング(2014/11/05)

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