マーケターが陥りやすい過ち――ROIを重視しすぎてこんなことになっていませんか?
今回は、多くのマーケターに見られる自殺行為だとも言える考え方や行動について解説する。
マーケティング担当者は、データや利益を優先させるアプローチを重視しすぎると、リターンの最大化を追求するあまり、相手が人間であることを忘れてしまい、顧客とのやりとりをすべて単なる取引として扱ってしまうことがある。
ロイヤルティを期待するのであれば、そうしたアプローチを変える必要がある。
長期的に成功するための、上述のような打算型モデルからの脱却に向けたマーケティングの価値について、詳しく解説する。
参考までに、今回のビデオで使用したホワイトボードの画像を下記に掲載しておく。
今回は、多くのマーケターに見られる自殺行為だとも言える行動について話したいと思う。「もうおしまいだ。仕事がまるでうまくいかない」みたいな状況に陥ったとき、その理由はいつも同じように思える。
これはマーケティングで最も失敗しやすいパターン、最もよくある例だとも言えるようだ。どういうことか説明しよう。
マーケター諸君、君は常に「打算」のメガネをかけていないか?
さて、ここにあるマーケターがいるとしよう。根はいい人なんだが、他人との付き合いでは、あらゆる機会を「打算」というレンズを通して見てしまう。
たとえば、パートナーシップを目にしても、事業開発の可能性しか見えない。
自分が貢献できるかもしれない業界の他のブログなどを目にしても、ゲスト投稿の機会やリンクを獲得するチャンスしか見えない。
よそのサイトのランディングページを目にし、そのサイトに顧客や潜在顧客がやって来るのを見ても、「人数は? このなかで最大何%の人を、すぐにクレジットカードの情報を登録して、何かを購入したり取引をしてもらったりする顧客に転換できるだろうか?」としか考えない。
こういう人たちはカンファレンスやイベントに対しても、「どういう風に話をしようか?」とか、「スポンサーになるべきか?」とか、「どうすればあのイベントから可能な限り多くの顧客を獲得できるか?」と考える。
報道機関やメディア、ブロガーに対しては「どう取り上げてもらえるか?」と考え、Webサイト上に広告枠があれば「この広告枠をどう費用対効果(ROI)につなげるか?」を考え、ソーシャルメディアを開けば「私がシェアするトピックに関心のある人々に、フォローしてもらい、顧客になってもらい、私のコンテンツを拡散してもらうにはどうすればいいか?」と考える。
こう言うと、君は「そんな性格の悪い人、いないよ」と思うかもしれない。しかし、こうした打算型モデルの考え方は、実際のところ、マーケティングの現場でよく見られる議論にとてもよく似ている。
この点では、僕も有罪だ。つい、こんなふうに聞いてしまうからね――「ソーシャルメディア上で仲間を探しているのなら、どうやってフォロワーになってもらう? どうやって拡散してもらう?」ってね。
これは重要なトピックだ。
ROIしか見ないのは、マーケティングにおける売春ではないか
マーケティングにおいてこのように考えるのは大切なことだが、すべての人々を金儲けの機会としか見ないこういう視点や考え方は、まるでマーケティングにおける売春のようなものだ。
ここで「売春」という言葉を出すと違和感を覚える人がいるかもしれないが、考えてみてほしい。「恋人とデートをすること」と「肉体関係のために金銭を支払うこと」には大きな違いがある。やっていることは同じでも、その中身はまったくかけ離れているんだ。前者は好ましくてロマンティックで長期的な関係だが、後者はひどく否定的な意味合いを持ち刹那的だ。
こういったことについて、さまざまな意見の倫理性にまで踏み込むつもりはないけれど、同じような考え方がマーケティングの世界にも当てはまる。
僕たちは皆、コンタクトされる立場になったことがある。つまり、僕たちは皆、こういう打算型の考えをするマーケターからリーチされる側になったことがあるということだ。
打算型マーケティングの結末は打算型の関係しかない
打算型マーケティングの結末は1つしかない。打算型の関係だ。
やりとりがもっぱら「あなたは私にとってどういう利益になるのか」という見方に終始する、よろしくない関係だ。
そういう目でだれかを見るのはひどく嫌なものだし、そういう目で見られるのも不愉快だ。僕たちは皆、だれか他の人からこんな見方をされた場合には、それを感じ取ることができる。
こういう考え方はどういうことかというと、人々を「顧客を引き付けてもらう」「または自ら顧客になってもらう」ためのソースだとしかとらえないということだ。
このモデルで考えると、短期的な成功が優先されることになるが、実はそれは、場合によっては、長期的な成功にとって危険なものでもある。
気がつくと、失うもののほうが多くなっている
このように、良かれと思って行ったことが結果として悪い結果を生み出すというのは、不思議に思われるかもしれない。しかし、実際にはそうなのだ。
「長期的な関係」や「関係の可能性」よりも「短期的なリターン」を常に重視している打算型モデルでは、君のブランドが顧客にとって最高の取引でなくなれば、君のブランドはすぐに見捨てられることになる。
というのも、以前から関係を構築しているわけではないので、彼らに君のブランドに対するロイヤルティ(忠誠心)はないからだ。君にも、君の会社にも、君の製品にも愛着はない。ただ、「お金を払ってるのだから、今、この場で何をしてくれる?」と考えているだけだ。
さらに、だれも君の成功を応援していない。そんな状況は何とも苛立たしいものだ。どうやってコミュニティを構築する? どうやってソーシャルメディアでフォロワーを増やす? だれも君の成功を応援していないのなら、どうやってオーディエンスを引き付ける?
君とこうした関係にあるユーザーたちは、立ち位置がどっち付かずで、場合によっては敵対的な立ち位置になることもある。
君もいくつかのブランドが頭に浮かんだはずだ。人々がこうしたことで不満を訴えるのは、公共サービスに関することが多い。
君を心から失望させたケーブルテレビのプロバイダーや航空会社との関係を考えてみてほしい。こういう典型的な打算型モデルが当てはまる。そこには、ブランドロイヤルティなんて存在しない。まったくないわけではないが、まれにあったとしたら、それはとても特殊で独特で珍しく奇妙なことだ。そういうのを見つけたら、僕たちは喜んでそれについて話したり、ブログに書いたり、ツイートしたり、共有したりするぐらいだ。
また、こうした関係の影響のなかでも最悪なのは、長期にわたる拡散がないことだ。
僕がいつも話していることだし、Mozでもよく話題にしていることなのだが、僕たちがあらゆる種類のチャネルへの投資で大きな成功を収めているのは、長期的な関係を重視して構築することで、基本的に短期的なリターンよりも長期的なリターンを得ることに注力しているからだ。つまり、長期にわたって、話題にして拡散し、ほめてくれて、その必要がないときでも僕たちを助けてくれる人がだんだん増えていく。ブランドとのそうした関係があるからだ。
その点を見落とすと、SEOやソーシャルメディアマーケティング、コンテンツマーケティングなどを使って勢いをつけるべき弾み車は、過剰な摩擦を生み出して勢いが弱まってしまう。
実際のところ、有料広告のような打算型モデルになるし、通常ならインバウンドチャネルから獲得できるはずの大きなメリットを失うことになる。
だから、こういう考え方でマーケティングを進めるのは、間違っているんだ。
では、どうすればいいのか?
そうした打算的な考え方の代わりに、君が構築するあらゆる種類の関係との共通点、単なる関係以外の共通点を見出すよう強く求めたい。
ただしそのためには、ビジネスや専門的なトピックから始めるのが最適であることも確かだ。君と交流のあるあらゆる種類のパートナーや、君がやっているあらゆる種類のアウトリーチ、君が遭遇するあらゆる種類の関係において共通点を見つけられたら、このモデルから純粋に取引的な部分が取り除かれることになる。
要は、本物でなければならないということだ。
紋切り型のやり方ではだめだ。「こんにちは、フレッド。はじめまして。僕はアメフトチームのシアトル・シーホークスのファンなんだけど、君もそう?」なんて、まともじゃない。見え透いている。
関係を構築する際には、打算型モデルに偏ったり、打算型モデルを優先したりすることなく、本物の関係を追求すると、すべてのやりとりでそれを感じることができる。人を手助けすることに力を尽くそう。手助けすることに力を尽くし、しかも求められる前に自ら行動することだ。
僕が楽しんでやっていることの1つは、すごいと思う人、すごいと思う製品、すごいと思う会社に出会ったら、それを共有することだ。僕にはソーシャルネットワークでそれなりのフォロワーがいるので、実際に広く拡散されることになるし、たいていの場合は相手もとても喜んでくれる。
逆に、だれかが僕の何かを共有してくれる場合、相手にTwitterのフォロワーが5人しかいなくて、Facebookでは存在感がなく、Pinterestには何かをピンしているけどフォロワーは4人しかいないような場合でも、問題はない。特に、何の交流もなく、また僕から何も頼まないのにそうしてくれると、僕のものを本当に気にかけてくれて大事に思ってくれることがわかるので、こちらも嬉しい。これは関係を始める、すばらしい方法だ。
だれかと関係を構築しようと思ったら、最後の1セントまで得ようと必死に交渉してはいけない。これも僕たちマーケターの悪い修正だが、マーケティングのプランニングにおいて、こんな発言を耳にすることがある。
この案件で、こちらが得られる最大のものは何だろう? 相手の得るリターンが最小限になって、こちらが最大限のリターンを得るところまで、彼らを追い詰めることにしよう。
こういった関係の築き方は本当にひどい。当然ながらこうした状況では、君が最高のサービスを提供しなかったり、あるいは彼らの取引相手として君がベストな選択肢でなくなったりすると、人々はすぐにそのブランドを見捨ててしまう。
そのため、これまで述べてきたことに従って、アウトリーチの仕方、ソーシャルメディアマーケティングの仕方、事業開発の仕方、広告の配置方法、売り込み方を変えることができれば、一般的に言って、リターンははるかに大きくなると思う。
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