成功する明日のためのWeb担当者の心得。切磋琢磨という秘策
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の弐百伍十八
月商3万円で生き残る
先日、老舗サクセス誌「ビッグトゥモロウ」の取材を受けました。本連載の「私がTwitterを止めた理由」を見て話を聞きたいということでしたが、話題は創業当時に脱線します。
創業当時の手持ち資金は30万円で、一時期は「月商3万円」となり、いつ沈んでも不思議ではない小舟ながらも、徹夜どころか残業も滅多にしないという仕事ぶりでした。そしていま、下請け仕事を一切せずに10年目となり、中古のボロ屋を購入できるぐらいは稼いでいる話を面白がってくれたのです。
最近では執筆による収入もだいぶ増えましたが、弊社のメインの収入源は中小企業の「Web担当者」からの受注にあります。企業サイト運営の実務全般です。そんな「Web担当者 ミヤワキ」が、新年度のはじまりにあたり「ミニトゥモロウ」をゲットした「現場の心得」を紹介します。
Web担当者とはなんぞや
まず、本稿においてWeb担当者をこう定義します。
ネット支店の店長、あるいはネット支社の支社長
サイトの運営について、ある程度の権限が委譲されているという意味です。私の経験則から、制作業務だけを委託される「下請け業者」という扱いでは結果を出すことは困難です。能動的に動ける前者に対して、後者は確認や指示待ちとなり、すべてが後手に回ってしまうからです。
社内のWeb担当者でも同じです。「支店長」の権限をあらかじめ確認し、「裁量の範囲内」でサイトを更新できるようにしておきます。サイト更新のたびに稟議書を作成し、上長の判子を受け所属長に周り、担当役員を経て、社長決裁を仰ぐようでは、時間の流れの速いネットの世界で戦うのは困難だと、本稿を見せて説明してください。
ミッションの確認
商売用のサイトには必ず開設した「目的」があります。通販サイトなら「販売」ですし、それ以外の企業なら「広報」や「告知」といった「媒体(メディア)」としての役割などですが、現代のWeb担当者は、より具体的な目的を確認しておく必要があります。ちなみに、企業がWeb上に「メディア」をもてるのは、ソーシャルメディアが普及する前の「ホームページ」時代からの常識で、ここでの「媒体(メディア)」とはソーシャルメディアに限定されません。
現在のWebで結果を残すには、いわゆる「ホームページ」だけでは難しく、各種メディアなどとの連動が必要となります。たとえば、「(大卒以上)新卒採用」が目的ならば「Facebook」の併用が定番ですが、「即戦力の技術系職員」なら「Linkedin」は見逃せず、不特定多数への「拡散」ならばTwitterに分があります。
つまり、それぞれのネットサービスを使い分けるために、より具体的な目標設定が不可欠なのです。反対にぼんやりとした目標のために、すべてのネットサービスに手を出せば、戦力は分散し、効果のでないまま残業時間だけが増えることでしょう。限られた戦力で成果を上げるため、戦い方を見極めることが必要です。
現状分析をする
サイトを引き継いだ場合、権限と目的の確認を同時に行う作業が「現状分析」です。前々回に紹介した「引き継ぎの作法」とは、引き渡す側の視点から見たものですが、引き継いだ側の最初にすべき仕事は、その時点でのサイトの実力を検証することです。
サイトの実力は「目的」により評価基準が異なりますが、基本は以下の5項目でしょうか。
- 訪問者
- PV
- 人気ページ
- キーワード
- 売上
訪問者数とPVはサイトの集客力の指標で、人気ページとキーワードは訪問者からの評価、そして売上は言わずもがなで、あなたが手を加える前の数値を把握しておきます。仮に引き継ぎ資料にこれらの数字があったとしても、かならず自分で確認するのは「Web担当者」にとって重要な資質です。提示された数字を鵜呑みにするようでは、Web業界の「風説(宣伝ともいう)」に踊らされてしまいます。
Webの黄金法則
サイト運営開始時にはノートを一冊用意します。そこに更新目的と日時、作業内容と、作業にかかった時間を書き込みます。そして一週間後、1ヶ月後といった一定の期間の後、更新による数字の変化を記しながら成果と反省を記入し、それらを踏まえたうえで、次の目的と作業内容を書き加えていきます。つまり「PDCAサイクル」で、更新しようとした目的と方法が「計画(Plan)」で、作業が「実行(Do)」、数字の変化が「評価(Check)」、それを踏まえた次回の目的と方法が「改善(Act)」です。
Webにおいて1つだけ存在する「黄金法則」が、
手を加えただけ正解に近づく
ということ。良い悪い、いずれかの結果が必ず出ますし、変化がなければそこに答えはなかったということです。記録を残すのは、記憶や感覚はいい加減で、結果にあわせて目的をすり替える……つまり言い訳に逃げることがあるからです。
再現性と自己研鑽
ノートではなくルーズリーフでも表計算ソフトやワープロでも結構です。私は、ルーズリーフに書いたものをファイリングして管理しています。そしてこれが月商3万円から生還した理由の1つで、記録することで「再現性」を高めることができます。
コンテンツやサイトを新設する際に、「成功例」を盛り込めば成功確率は高まり、「作業時間」がわかれば「損益分岐点」が計算しやすく、赤字仕事を避けることができます。これは社内Web担当者にも当てはまります。特にWebだけで商売が完結しない「非IT企業」では、Webと営業/業務/開発など、他部署との連動がなければ利益に結びつきません。こうした連動の際、「成功例」はプロジェクト自体に、「作業時間」は予算とスケジュールに大きな影響を与えることができるのです。
さらに、中小企業ではWeb担当者は1人であることが多く、ときに「独りよがり」に陥ってしまいます。クオリティにこだわり時間をかけ過ぎたり、情報収集にかまけて生産性が低下したりと、己を律し続けるのは口で言うほど簡単ではありません。そこで登場するのが「ノート」です。同種の成功例、作業時間という過去の自分と「切磋琢磨」できます。
その結果、ぼちぼち働きながらもマイホームを購入しました。ちなみに私がTwitterをやめた理由の1つも、記録した作業時間から明らかに生産性が低下していたことを、昔の自分に教えられたからです。
今回のポイント
権限、目的を確認し、現状分析からはじめる
記録を残すことの重要性はWebも政府も同じ
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