チャーシューメンで語る営業戦略。MAGIでも解けない計算式
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百伍十六
プロとは? への回答
知人の社長に「ミヤワキさんの尊敬する人は?」と訊ねられました。不惑を目の前に父親という模範解答は脇に置き、昨今ブームの「坂本龍馬」の名を挙げるのも小恥ずかしく、しばし考えてこう答えました。
出会いのすべてでしょうか
出会いのすべては学びで「反面教師」を含め、みな師匠と考える理由は最後に述べます。そんな師匠の1人「手品師」の言葉です。
難しいことを簡単にやる
観客が「カンタン」と高を括ってチャレンジしてくれれば、より凄さを体感できるという狙いです。その後、この教えを実践します。キャベツの千切り、パチンコ台のトラブル処理、パソコン設定など、難しい状況の時ほど簡単に解決してみせるようにします。すると周囲は「思うつぼ」にはまってくれます。そしてこれは「コンテンツ」に通じます。
余談ですが「龍馬」への関心は、父方の本家筋が高知市内にあることから土佐を「郷土」として教えられていたことに始まり、福山雅治とも武田鉄矢とも無関係です。
特化戦略を語るために
広告代理店時代、チラシの企画から印刷、そして配布までをセットにした「パック商品」を開発し、これを重点的に営業するように会議で提案しました。すると他の営業マンからは、ネット、メール、DMとさまざまな引き合いがある……と、かもしれないという可能性を盾に不満の声が上がります。可能性の議論はともかく、さまざまな分野に手を出せば戦力は分散し、1つひとつの力は弱くなります。「新興企業」がこれを避けるのはマーケティングの常識で、制作セクションは新規事業として立ち上がったばかりです。「パック商品」を推したのは戦力を集中させる「特化戦略」で、当時の吉野家の「単品経営」を倣ってのことです。
しかし、途中入社の私は当時、一番の新人でした。諸先輩に「講釈」を垂れるわけにもいきません。そこで「簡単な話」で理解を求める作戦に切り替えます。
マーケティングよりチャーシュー麺
チャーシュー麺専門店いきましょう
ある日、先輩営業マンと連れ立ってラーメン屋へ。餃子や天津飯は置かず「チャーシューメン」にこだわり提供する店のコンセプトと同じく、さまざまな「広告」のなかで自信を持ってオススメできるのがチラシの「パック商品」ということ。もっとも難色を示していた営業の師匠が「なるほど! チャーシュー麺だ!
」と声を上げ賛同し結論となりました。
吉野家は牛丼に特化することで、オペレーションを簡略化し、仕入れや品質管理の効率化を目指しました。万能ではありませんが、スタッフが不慣れな状況では特に効果的です。しかし、マーケティング知識のない人に理論をかざしても反感を買うだけで、これは以前にも書いた「説得より納得」と同じです。そこで「チャーシュー麺」で説明します。
コンテンツも同じです。専門知識をそのまま語って通じるのは専門家だけで多くの場合「客」は素人です。
他山の石に答えアリ
たとえばホームページの概略予算を尋ねられたとします。仕様もコンテンツも決まっていない状態です。古式ゆかしいHTMLか、ブログなどのCMSなのか、SEO/SEM、SNSはどうするか、はてさて無料のアメブロを利用するのか自社サーバーを設置するのかも決まっていない状態での見積もりは「MAGI(新世紀エヴァンゲリオンに登場するスーパーコンピュータの名前)」でも計測不能となるでしょう。しかし、答えによどむと客が疑いの目を向けます。「一般常識」からすれば「だいたい」の値段はでるもので、即答できないのは「ぼったくり」を目論んでいるからだと怪しむのです。
こんな時は「他業種」から引用して簡単な話にすり替えます。
テーラーメイド医療ってご存じですか?
患者の性格や体質、DNAの配列で効果が決定する「ワクチン治療」も踏まえて診療方針を決定する先進医療で、検査前に「料金」を割り出すのは難しく、それと同じだと説明します。そして保険適用外の薬を使う「自費治療」を挙げ、「懐具合」でやれることが変わるのはホームページも同じだと事実をジョーク混じりに伝えます。
ITエンタメのテクニック
経験則ですが、経営者は「健康」への興味が強く「医療」の例えは理解が早いようです。しかし、それをわからない人には「つかみ取りで掴んだ合計金額は、掴んでみないとわからない」と説明します。
冒頭の手品師の言葉には続きがあります。
簡単なことは難しく(演じる)
簡単な演目は「演じる余裕」があるので大仰にして観客を魅了するということです。業界人もこれをよくやります。随所に「LPO」や「モブズ(群集)」などの業界用語を並べて中身の薄い話しを濃く見せかけます。ハッタリが求められるプレゼンや「ネットコミュニティ」では有効ですが客向けの「コンテンツ」では不正解です。
知らない単語に対する客の反応は2つ。興味を失うか「ネットで検索」して他のコンテンツへ移動するかです。
カスタムかオーダーか
司馬遼太郎の「龍馬がゆく」によれば、龍馬は志士らしからぬ平易な言葉を使ったとのこと。これも人の心を掴んだ理由かも知れません。
難しいことを簡単に伝えるのがコンテンツの役割です。コンテンツは技術解説書ではありません。「出会いのすべて」を尊敬し、師匠とするのは、見たこともない景色を教えてくれるからです。特に非IT業界の「一般人」向けのコンテンツを作るのなら、「チャーシュー麺」や「テーラーメイド」、そして「MAGI」という景色を1つでも多く、頭の引き出しにしまっておくべきでしょう。ちなみにスーパーコンピュータの名称に「エヴァ」を用いたのはペルソナ(想定読者)からで、世代によっては「HAL」や「ビッグ・ブラザー」のほうが笑いを誘うかも知れませんし、もう少しシュールに攻めるなら「エニアック」や「算木」というアプローチもあります。
こうした「景色」は自分の興味がある「関心空間」を周遊する「ネット検索」では仕入れにくく「人との出会い」には勝てません。だから私の尊敬する人は出会う人すべて。道徳論ではなく現世的御利益として。
今回のポイント
「置き換える」ことで理解が容易に。
他人の言葉はすべて師匠の言葉。
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