コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の373
突然の電話に
行きつけのレストランのマスターから電話が入ったのは8月15日金曜日の午後。この日から日曜日までの3日間が弊社の「お盆休み」でした。
チケットを押さえてくれ。ミヤワキさんのスーパーコンピュータで
追い込まれた状況でも、冗談を挟む人柄が大好きですが、いつもギリギリに「お願い」をしてくるのが難点です。翌週の水曜日、北海道から東京までの飛行機のチケットをWebで取って欲しいという依頼です。往路は事前に予約していたが、旅程が未定だったため復路は押さえておらず、チケットが取れなければ翌日から店が開かない……と。
チケット確保ぐらいならと休日を中断し「スーパーコンピュータ」を起動します。そこで様々な「不便」に出会います。その解消はすべてのサイトに通じる「心得」と気がついたとき、お盆休みは終わっていました。
緊急時の心得
焦っていたマスターは日程を1か月間違えており、実際の予定は9月でしたが利用予定の空港は便数が少なく、「秋のゴールデンウィーク」と呼ばれる2週連続の連休に重なることから残席数はわずか。急を要する状況は8月とさして変わりませんでした。
そこで昼寝をしていた弊社専務(妻)をたたき起こしてWebでのチケット確保を手伝わせます。時間がないときは「複数の目」を導入することで確認を徹底します。これは重要な「現場の心得」。焦るあまり確認が疎かなまま納品し、その結果、「間違えました」では、苦労の末に不信を買うようなものだからです。
日頃の出張や旅行でのチケット確保、ルート確認などは彼女に任せており慣れています。時間のないときこそ、少しでも得意な人、適している人材を投入すべきというのも同じく「現場の心得」。期待通り、彼女はすぐに「最安値」のチケットを探しだしました。
常識と非常識
ところが「便名」は、私がすでに見つけていた便と異なります。仮に専務の見つけた便名を「ANA1234」とすると、私のほうは「ADO34」だったのです。便名は頭の3文字が航空会社を表し、前者が「全日空」で、後者は「エア・ドゥ」。国内では同じ時間に、同じ空港から、複数の飛行機は飛び立てないはず。
それぞれの航空会社のサイトにアクセスしても、これに対する説明はありません。「全日空」には便名の下に「ADO運航」と小さなアイコンがあり、クリックするとチェックインの方法などの説明があるだけです。
出発空港のサイトをくまなく探し「共同運航便」というキーワードを見つけ、それが「同じ飛行機」と確認できたのは30分後です。エア・ドゥが運航する飛行機の座席の一部を、全日空が自社便名で販売していたのです。彼らにとっては常識かもしれませんが、飛行機を利用するのは航空会社の社員ばかりではありません。
あえての屋上屋
生まれてから一度も飛行機に乗ったことのない人は多く、私の周辺調査に過ぎませんが、その内の3割ぐらいは「機内は土足厳禁。スリッパ持参だよ」と囁くと一瞬信じるほど無知です。
Webサイトの利点は、どれだけ説明を重ねても追加費用がほとんど発生せず、人件費を抑えて運用できること。スリッパ持参はともかく、「共同運行便」についての説明、つまり「初心者に向けたコンテンツは、屋上屋を架すほどであってもよい」とは、すべてのサイトに通じる心得でしょう。
さて、便名問題が解決したので最安値サイトでいざ発注。手続きが完了しましたが、今度は支払い手続きに進みません。小首をかしげながら、届いた申し込み確認メールを覗くと、ざっくりと次のように書かれています。
申し込みは完了しました。チケットはまだ確保できていません。後ほど成否をメールします
冷静にサイトを見ると、「申し込み」とはありますが「座席確保」とはどこにも記されていませんでした。
ユーザビリティの勝利
さらに、チケット1枚当たりに手数料が加算され、「最安値」でなくなることは後に気がつきます。先のメールには購入予定価格も、手数料も明記されていませんでした。申し込みを増やすために、不利な情報を「隠す」気持ちはわかりますが、それが「不信の火種」となります。お客に取って不利な情報を伝える努力を怠ってはなりません。
結局、エア・ドゥのオフィシャルサイトから申し込みをすることにしました。全日空ではなくエア・ドゥを選択したのは、サイトの使い勝手の良さが理由です。「ユーザビリティ」と大上段に構えはしませんが、使い勝手も購入理由になるのです。
全日空は1画面の情報量が多すぎました。獲得できるマイル数まで表示されても初心者は混乱するだけです。初心者も見る「予約フォーム」は、可能な限りスッキリと仕上げるべきでしょう。先の屋上屋と矛盾はしません。マイルなどの付随情報は、予約フォーム上ではなく、「別画面」や「フローティングウィンドウ」などに振り分けることで、両者の共存は可能ということです。
昭和世代向けコンテンツ
エア・ドゥにも不満がありました。チケットの手配は「予約番号」の発行で完結します。確認の電子メールもありません。手軽で便利ともいえますが、チケット手配後、予約を確認する画面を探しにくいのです。手元にチケットの届かない電子情報だけに、「確認」方法の明示は「お客の安心」という利便性を向上させることでしょう。
最後にすべてのサイトに通じる心得として、「年齢」の入力が必要なサイトでは、生年から満年齢を選択できるようにすると親切です。冒頭で登場したマスターに年齢を尋ねると、「昭和●●年生まれ」と答え、実年齢を把握していないのです。若い人にはピンと来ないかもしれませんが、年齢を重ねると、年齢そのものに興味がなくなる人も少なくないのです。特に昭和生まれは西暦ではなく元号で覚えている傾向が強く、ターゲットによってはこうした配慮は不可欠でしょう。
チケット手配において「純粋な利用者」の視点でサイトに接します。そして感じたいくつかの不満は、そのまま心得に通じると気がつきます。そして弊社で管理しているサイトを「純粋な利用者」の目で見たとき、予定していた休みを1日繰り上げてマイナーチェンジに着手した夏の終わりです。
今回のポイント
利用者目線で感じた不便が改善ポイント
利用に勝る検証なし
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