人手不足解消の切り札はフリーランス。プロを集めるコンテンツは共感
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の374
10億円の仕事を断るほど
人手不足です。「現場」の切迫感は「ヤバイ」レベルです。十数人規模の小所帯の建築会社が、10億円規模の案件を断念するのは「人手」が足りないからです。その社長は誇張を交えてこう言います。「人が集まるなら10万円でも20万円でも支払う」と。こうした事情もあって、求人サイトからの売り込みが絶えないそうですが、まずは自社サイトの充実が先決です。
それは「採用」を目指すより、「プロ」を求めるほうが合理的だからです。今回は建築・土木業界を中心に紹介しますが、Web業界やクリエイターの世界にも通じます。
ライバルはTSUTAYA
かつて、土木や建築といったブルーカラーに特化した就職情報誌『ガテン』がありました。その流れから、これらの職種は「ガテン系」と呼ばれます。しかし、ガテン系は一般的な求人サイトにおいて不利。「TSUTAYA」に勝てないからです。
東京近郊のガテン系、未経験者の日給相場は8,000円ほど。現場によって異なりますが、休憩が多く、8時過ぎから午後5時までの実働は6時間半から多くても7時間で、労働時給は千円を超えます。しかし、片道1時間かかる現場なら、8時から17時の9時間と移動時間を合わせて、1日の拘束時間は11時間となり、時給に換算すると727円と最低時給を割り込みます(東京都の最低時給は869円)。
一方都心の「TSUTAYA」は時給950円以上。8時間勤務での日給は7,600円でガテン系に軍配が上がりますが、汗とホコリにまみれることのない、エアコンが効いた快適空間での労働と、どちらを選ぶかは自明。求人サイトでガテン系が苦戦する理由です。専門サイトでは大手がライバル
ガテン系、それも職種に特化した求人サイトもあります。こうしたサイトでも採用活動は苦労します。職種を選んで採用活動している人の大半は経験者であり、名前の知られた大手に人が集まる傾向があるからです。
また、求職者を集めるための取り組みが不十分なサイトもあります。誇るアクセス数の大半が「採用側」によるものと疑われるサイトもありあります。
「年間契約」をすれば有利な場所に掲載される
求人サイトの売り込みを受け、実際に有利な場所に求人を掲載して採用活動をしていたのは友人のガテン系社長。しかし、そもそも訪問者が少なく、また訪問者を集めるための活動もしていないサイトに「無駄金」を支払っていたことに気づきます。彼からの相談を受け、見つけた打開策が「プロの確保」です。
採用コンテンツ+α
おざなりだった自社サイトの採用コンテンツに手を入れます。具体的には「採用コンテンツ」で紹介した手法で、そこに加えるのは「月給の明示」です。これは「価格の表示」と同じ理屈です。
実際には能力によって給与が変わるとしても「給与例」として提示します。引き抜きを怖れ、給与の公開を嫌う社長もいますが、心配することはありません。社員のほうが業界相場に詳しいものです。ガテン系は同じ現場の職人同士で情報交換していますし、トラックドライバーは荷下ろしの順番待ちや、今時なら「LINE」で情報を得ているものです。今の職場に不満を抱えている人は、情報収集に余念がないことはすべての業界に通じます。
プロを狙い撃ち
不満を抱えているのは「社員」だけではありません。出入り業者、いわゆる「下請け」も同じです。公共投資削減は十数年来のムーブメントで、極めつけは民主党政権が掲げた「コンクリートから人へ」。これによって建築・土木は壊滅的な打撃を受け、業界を離れたものが多く、東日本大震災以降の人手不足の一因となっています。
そして同時進行していたのが「デフレ」です。建築業界もご多分に漏れず、コストダウンの号令一下、下請けが虐められ続けてきたといっても過言ではありません。不況に喘ぐ出版業界おけるフリーライターに重なるのは気のせいでしょうか。
そして今、仕事が溢れています。ところが建築・土木は狭い業界で、受注の大半が「縁故関係」ということも珍しくありません。「一人親方」と呼ばれる、いわば「フリーランス」の職人の場合、営業活動と人間関係が同義のこともあり、多少の不満なら飲み込むことしか許されませんでした。また、多少不満があったとしても、従来からの取引先だという安心感と、見ず知らずの会社とつき合うリスクを天秤に掛ければ、前者が勝つのは多くの人間がもつ保守性です。
裏返せば、不安を解消すれば「一人親方(プロ)」を捕まえるチャンスがあるということです。
プロは共感を求める
そこで活躍するのが「コンテンツ」です。友人のガテン系社長も、起業当時は1人親方で、当時の苦労をよく知る私がコンテンツに仕上げました。不安解消と共感を与える狙いです。
人は自分と似たような境遇や環境にシンパシーを覚えるものです。そして1人親方を募るコンテンツを見た訪問者の大半が、この「体験談」を見ています。もちろん、一人親方への「報酬」も具体的な金額を提示しています。目論見は当たり、空振り続きの「採用」の穴を埋めつつあります。
1人親方をフリーランスに置き換えれば、多くの業種に通じます。Webや関連業界でも人手不足は深刻で、テレビ東京の経済ニュース「モーニングサテライト」はエンジニア不足を嘆いていました。みずほ銀行のシステム統合、マイナンバー制度など、大型のシステム開発案件が立て込むなかで、腕のある技術者が圧倒的に不足しているからです。
少子化という社会構造から、人手不足はしばらく続き、若者はTSUTAYAに流れます。一方で、腕があっても人脈を持たない職人=プロ(フリーランス)は多く、従来の取引先に不満を抱えていることも少なくありません。そもそも「人手」ではなく「戦力」と見れば、未経験の素人を雇うよりも効率的です。これは勝手な妄想ですが、
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と告げるコンテンツが、今年後半ぐらいからブームになるかもしれません。
今回のポイント
不安解消はキラーコンテンツ
人手不足解消は、フリーランスが狙い目
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