Web屋の新規顧客獲得法考察~序~
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の百六十七
同業者の深刻な相談
仕事の連絡は電子メールに届き、プライベートな用件は携帯電話が震えて教えてくれます。そして、当社の固定電話の受信履歴のうち9割が「売り込み」となったある日、受話器を取るとこう告げられました。
ホームページ作りませんか?
弊社社名を知っていたので電話番号の入手方法を尋ねると「iタウンページ」と答えます。業種と地域の入力で社名と電話番号が一覧表示されるのですが、ついでに「社名検索」もすれば同業者だとわかり、手間が省けただろうにという言葉は飲み込みます。
ホームページ制作業者からの「売り込み」は丁重にお断りしますが、ホームページ制作業者から寄せられる相談には答えています。私の所に「営業相談」をもちかける同業者は多く、もっとも多い相談はこれです。
ホームページから集客ができない
実はこれ、ネットに挑戦する企業がはまりやすい勘違いです。
創業期の営業方法
相談者は続けます。
ホームページを作っているのだからホームページで集客できなければならない
という訴えに、微苦笑を抑えながら私は自身の経験を語ります。
ホームページ屋に転業したのは独立して3年目、「ホームページは役立たず」と囁かれていたころです。ITバブルに煽られ巨費を投じた企業の失敗が、ホームページに対するコンセンサスとなっていたのです。しかし、金もコネも知名度もなかった私にとってホームページのメリットは大きく、ならば同じような環境の中小企業のビジネスチャンスも拡げることができると確信し、転業を決意します。停滞期間が新参者にとってのチャンスタイムであることはどの業種でも同じです。
ホームページ屋に転業したところで、集客方法を検討します。まず「飛び込み(営業)」。しかしアポ(訪問の約束)も取らずに押しかけて、「ホームページを作りませんか」とやっても相手にされる確率は低く却下。新参者が営業エリアを限定するのは定石で、地域限定で配布される「地域誌」は魅力的ですが、読者層は個人客で「BtoB」向きではありません。
レッドオーシャンに飛び込むか
チラシ折込広告のターゲットも個人客で却下。消去法で残った「ポスティング」にチャレンジします。自分で試すことは財産になると、地元企業のポストにチラシを投函してまわりました。しかし、100件配るのに1日がかりとなり、ポスティングの専門家を目指しているわけではないと気がつきダイレクトメール(DM)に切り替えます。そう、当初「ネット」は選択肢になかったのです。
ホームページ屋に転業するにあたり、自社の長所・短所、市場におけるポジション、優位・劣位を研究しました。ネットはすでに「激戦区」となっており、多くのプレイヤーが血を流し大地は真っ赤に染まっています。すでに大手と著名人が存在し、彼らを中心とした業界秩序も構築されつつあり、新参者には不利な条件が揃っています。また「本業」を立ち上げるエネルギーの他に、他社との競争に勝ち抜くエネルギーも必要で戦力の分散は避けられません。
ネットが一番大切ではない
商売の必勝法は「戦わずして勝つ」で、実現する最良策は「敵のいない市場」を見つけ出すことです。敵がいなければ本業だけにエネルギーを注ぐことができます。その市場が「リアルメールボックス(ポスト)」だったのです。毎朝、メーラーを起動してメールを送受信……しない企業をターゲットにします。メールチェックもしない企業なら、ホームページ制作を望んでも「ネットで検索」とはならず、「リアルメールボックス」の情報を優先するだろうという狙いです。
ブログの普及以前という時代背景も大きく、この方法がいまも使えるわけではありません。しかし、そもそもホームページ制作業者の集客はネットからでなければならない理由などありません。いや、ホームページは道具に過ぎず、1つの道具に固執するのは本末転倒です。
WordPressならネットへ
ここまで話して、相談者に問いかけます。
どちらのゲームに参加しているのですか?
ネットかビジネスか。ネット利用そのものが目的ならばネットからの集客に固執するのもありですし、激戦区に参加し、矢が尽き刀が折れるまで戦うのも美学です。しかし、後者ならば選択肢を限定するのは愚策です。ビジネスというゲームの勝利条件は「利益」の確保で、集客方法は勝利条件ではありません。
ネットを活用できていない企業をターゲットとするなら、「非ネット」の活用は当然のことで、ネットへの固執はひとりよがりと同義です。一方、SEOやLPO、またはCMSツール「WordPress」でのホームページ構築を望む客を欲するのであれば、ネットからの集客が最適でしょう。こうしたツールの選択はすべての商売に共通です。
誰が為にホームページはある
最後に相談者に尋ねます。
あなたの欲する客は誰ですか?
ツールは客に合わせて使うもので、ツールのために客がいるのではありません。ホームページもネットもツールです。ネットからの集客がベストなのか、リアルからアプローチすべき客なのか。客を考えるのに有効な思考法が「ペルソナ」です。「Web担当者Forum」にも掲載されています。ぜひ、ご一読を。
いま同業者からの相談は、ほぼネット経由ではいります。もちろん同業者以外も。しかし、いまでも「リアル」の窓口を閉ざすことはありません。私が取り組んでいるのはビジネス。客がやってくる入り口を、わざわざ閉ざす理由などありません。
ホームページを売りつける電話は決して嫌いではありませんし否定もしません。主な連絡手段が電話しかない中小企業はまだまだ多く、一定の営業効果は見込めることでしょう。ただ、残念なことにこうした「テレアポ業者」のホームページ制作の実力には疑問があるので、これからも発注することはないでしょう。暇な時に彼らの電話に付き合うのですが、SEOをこう説明します。
ヤフーに登録することです!
今回のポイント
道具ありきで考えるのは愚策。
誰が客かを考えれば、自ずと営業方法がみつかる。
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