企業ホームページ運営の心得

Noという交渉術アペンド。泥のような現場の話し

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の八十六

はてブ400件突破の謝意として

夏休みの宿題が終わらないと、磯野家では「カツオ」が、野比家では「のび太」が大騒ぎするのは晩夏の風物詩です。彼らには波平やドラえもんの助けがありましたが、我が家では「自己責任」で、その原則を歪める「支援」の要請は亡父の2時間は終わらない「説教タイム」の呼び水で宿題をする時間がなくなるという意味です。家族が宿題を手伝ってくれるなど完璧なフィクションと認識していました。ところが作文や工作などを手伝って貰ったという人は多く、「シンパシー」を感じるネタだったと知ったのは大人になってからです。

置かれた環境により世界の色は異なります。ビジネスにおいて取引先に恵まれるか否かは大きく、私は「ノー」と言えるようになるまで苦渋を味わっておりました。7月に寄稿した「Noという交渉術」がはてなブックマーク400を突破した感謝の「Noという交渉術アペンド(追加ディスク)」です。恵まれた環境にいる人はその幸せを謳歌してください。そうでない方は本稿が微力になることを祈って。

大映ドラマのワンシーンのような

コミックを原作にもつ「漫画のようなドラマ」が人気を博す昨今ですが、昭和には「大映ドラマ」という「クサい表現」を超越したドラマシリーズがありました。憎たらしい悪役がシリーズの魅力の1つです。

プログラマからフリーターとなり「営業マン」として社会復帰しました。主な仕事は飛び込み営業です。

ある日、飛び込んでいくと入り口に柔和な笑顔を浮かべた方が座っているので近づいて挨拶をしました。と、同時に名刺を差しだします。受けとった刹那、2つに折りたたみ足下にあったゴミ箱に捨てました。ニコニコしたまま私を見ます。目の奥が笑っていません。まるで大映ドラマの悪役です。

反面教師はそば屋のようなデザイナー

渡した名刺を見ている前でメモ用紙にされたこともあります。別の店では「シッシッシ」と手振りだけで追い払われました。飛び込み営業では人間扱いされないこともありますが、突然訪れる非礼を鑑みれば仕方がないのかも知れません。「独立」を応援してくれたクライアントとの出会いや、今では10年を超えるつきあいとなった企業との出会いも「飛び込み」でしたので恨み辛みはありません。しかし、追い払った営業マンが「将来の客」となる可能性を考えれば私にはできません。

新規事業を立ち上げた際に発注していたデザイナーは「そば屋の出前」でした。「午後イチに上がります」という答えは早くて午後3時を指し、「夕方には」なら当日中に上がるか否かです。これが正確ならば予定も立てられるのですが、催促をしなければ果てしなく遅れていきます。「約束を守る」は幼稚園の砂場で学んだことのはず。20か月を越えるこの連載で「締め切りを守る」のは彼が反面教師だからです。

ありがとうを選んで成功の扉が開く

大人の世界で約束は守られないことは日常で、人間扱いされないことも多々あります。誠意は汲まれず、常識が通じない企業もあります。

「Noという交渉術」で「ノー」と言った客と同じタイミングで取引が始まったクライアントがいました。こちらはことあるごとに「ありがとう」と感謝し、打ち合わせが終わると入り口まで見送ってくれます。恐縮するほどの丁寧な接し方にある日馬鹿馬鹿しくなりました。片方では粗末な扱いでただ働きを指示され、一方では敬意と感謝で迎えられます。

リスクをとって独立をしました。取引先を選べるのはリスクテイクの報酬です。そして「ノー」と言いました。私を大切にしてくれるクライアントのために。

ノーと断って「楽天市場がなくなる日」を上梓

「ノー」と言って断ることで浮いた時間を「ありがとう」に注ぎ込みました。ストレスの溜まる客との縁を切り、好きな客に愛情と情熱を注いだのです。結果、拙著「楽天市場がなくなる日」でも紹介できる成功事例となり、お客さんを運んでくれました。それが「ノー」であっても「前向きな決断」は善循環を生み出します。

ある縁で営業のコンサルティングをすることになりました。丁重にお断りしたのですが「ホームページを教えるついで」という形で押し切られました。電子メールでの相談は無制限で、電話と面会は月1回という約束です。ところが営業戦術を教えてほしい、DMを作ってくれと電話が鳴り、毎週のように「いますぐ相談したい」と押しかけられます。そこでやんわりと約束が違う旨を伝え、これが続くようでは契約継続は無理だと伝えると「途中で放り出すのか」と逆上され「金を返せ」と迫ります。速達の現金書留でお返ししました。

この直後、出版企画が持ち上がり執筆に入ります。あのまま付き合っていれば、電話が鳴り響き、執筆時間に押しかけられ締め切りに間に合わなかったことでしょう。

昭和の子供は知っている

何でも「ノー」と言えというものではありません。誠意は尽くすものです。しかし、誠意も日本語も常識も通じない人間もクライアントも世の中にいるのです。客は神様ではありません、人間です。

昭和のころ、酒屋でジュースを買い、袋に入れ渡してくれたおじちゃんに「ありがとう」とお礼を言いました。売ってくれてありがとう。客がいることで商売は成り立ち、商人により客はメリットを享受します。酒屋がなければジュースを遠くまで買いに行かなければなりません。だからお礼をいったのです。BtoBでも本質は変わらないと私は考えます。クライアントがいることでご飯が食べられますが、手伝うことでクライアントのビジネスが加速するのだと。

理解し合えるクライアントとの出会いは幸せです。大切にしてください。そうでない環境なら「反面教師」という学習のチャンスと捉えて、最善を尽くした上でダメなら「ノー」と言います。泥のような現場は修行の場になります。

♪今回のポイント

全員に好かれるなどあり得ない。

だから好きで、好いてくれる客に本気になる。

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