「やってみた」で生み出す共感。スマホで簡単に作れる実演コンテンツ
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の472
自社商品でやってみた
誰でも、どんな企業やお店でも、共感を与えるコンテンツを簡単に作り出せる方法が「デモ」。プラカードを掲げて街を練りあるくアレではなく、自社で販売・提供する商品やサービスを実演してみせる「デモンストレーション」です。
自社発信のオウンドメディアのコンテンツになりますし、オリジナルコンテンツだからか良い検索結果を得られやすく、そしてなによりお客の反応が良いのです。
デモをネット風に訳するなら「やってみた」。「やってみた」とはニコ動にかつてあったカテゴリで、「歌ってみた」「踊ってみた」といった実演系コンテンツの総称として、ネット界の一般用語として生き残っています。デモとはいわば「やってみた。自社商品編」です。
動画よりブログ
ニコ動発祥の「やってみた」というと、全編動画のコンテンツを連想しがちですが、文章と写真のいわゆる「ブログ」がオススメです。動きが要となる商品なら、必要部分だけを動画にすればいいでしょう。
Googleが「ユーチューバー」を煽り始めたころから、テロップやBGM、カットインといった「プロ並みの素人動画」が増えました。さらに「素人を装った動画作家」も多く、生半可な動画では見劣りすることが否めません。また、商品名や特徴的な言葉を網羅できるブログに、SEO的な優位性を感じています。
デモ(やってみた)のやり方は簡単。取扱商品が道具系ならば「使ってみた」、組み立て式の家具などなら「組み立ててみた」、サービスならば「遊んでみた」と、自社が提供する商品やサービスを実演し、その過程を写真に納め、文章で紹介するだけ。
実際の商品やサービスを使うだけなので追加コストはゼロ。写真はケータイの「写メ」でOKです。
狙いのひとつは疑似体験
どんな商売でも応用可能です。たとえば、「メガネ屋」ならば「つくってみた」。フレーム選び→視力測定→レンズ選択→オプション(色つけなど)といった工程ごとに撮影し、簡単な説明をつければ完成です。これを実践して掲載した、あるメガネ屋のサイトでは訪問者の3割が閲覧し、必然的に滞在時間が増加しました。
商品そのもので「やってみた」ができなくても、お客が経験することを「やってみる」、すなわち実演して見せればいいのです。飲食店なら「食べてみた」、理髪店なら「切ってみた」ということ。一種の疑似体験を提供するのが狙いのひとつ。「自作自演」でもちろんOKです。
かつて視力の良かった私は、メガネ屋からサイト構築の依頼を受けるまで、メガネの作り方を知りませんでした。そしておこがましくもこう考えます。「俺様が知らないことなら、知らない人も多いはず」。その態度はともかく、視点は間違いではなかったようで「初めてメガネを作る」というお客に喜ばれます。
「やってみた」の効果効能
「やってみた」のメリットは、他にもあります。お客の立場で利用してみると、お客が興味を持つところ、知りたいことに気づくことができるのです。
Web担当者にとっても大切な「気づき」を与えてくれます。コンテンツ制作のために用意された資料やパンフレットには、「売ろう」「売りたい」というバイアスがかかっており「お客目線」に欠けていることが多いからです。
さらに、誰でも知っているレベルの話でも「やってみる」とコンテンツになります。メガネの汚れは一般的に皮脂によるもので、専用のメガネ洗浄剤を使わなくても、洗面桶に水を溜め、家庭用の台所洗剤(中性洗剤)を数滴たらして混ぜた中にメガネを沈め、軽く揺すればキレイになります。
普通のメガネ屋なら知っている常識以前のトリビア。これをまとめた「洗ってみた」も人気コンテンツへ。
この「やってみた」的なコンテンツの作り方は、目新しいものではありません。いま大人気の朝ドラ「とと姉ちゃん」は雑誌『暮らしの手帖』の創業者 大橋鎭子(おおはし しずこ)をモチーフとします。
実際の商品を使用し、品質を吟味する雑誌の目玉企画「商品テスト」は実話。これはいわば「昭和版のやってみた」。コンテンツ作りの古典といっていいでしょう。
自転車で実演
こちらは弊社における「やってみた」の事例。といってもママチャリの話です。
ご近所のクライアントも多いことから、「社用車」でもある「ママチャリ」のタイヤ交換を「やってみた」ことをブログにまとめ公開しました。動画も含め、すでに多数の競合コンテンツがありましたが、漠然とながら勝算がありました。それは「シンパシー」です。
タイヤの交換方法を伝えるコンテンツは、自転車マニアからDIYオタク、プロらしき人物までひしめき合っている激戦区。みな専用工具の必要性を説き、タイヤの仕組みを解説して見せます。
しかし、専用工具を取り寄せ、知識を身につけてまでタイヤ交換をするぐらいなら、自転車屋に依頼するほうが「楽」で「得」。私の「やってみた」は、素人が専用工具をひとつも使わずにタイヤを交換するというもの。結果はアフィリエイト広告を貼ったAmazonから小銭がチャリンチャリン。
手際が良すぎるときの損得
小銭程度での勝利宣言は、我田引水に過ぎるでしょうが「自分でもできる(できそう)」というシンパシーをお客に与えやすいのが「やってみた」というコンテンツだということ。
ニコ動における「やってみた」が広く共有されたのも、玄人はだしの「歌ってみた」や「踊ってみた」だけではなく、素人へのシンパシー=共感があってのことです。
シンパシーの観点から見ると、あまり手際が良すぎる「やってみた」はデメリットになります。「やってみた」のプロといえば、実演販売の「マーフィー岡田」さんなどを思い出しますが、彼らの鮮やかすぎる手さばきは、軽快なトークと連携してお客を追い込む「芸」であって、それに感嘆し感動しても、シンパシーを得るお客はあまりいません。
むしろ「マーフィー岡田レベル」ならば、プロに発注してでも動画にまとめ、プロモーションビデオとしてYouTubeで公開すべきです。共感は得られませんが、称賛の嵐が吹き荒れるかもしれませんので。
今回のポイント
「やってみた」で疑似体験
素人っぽさがシンパシーにつながる
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