ロボット社会でWeb担当者の仕事はなくなるのか。AI脅威論への反論とWeb担の未来
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の473
人工知能は脅威となるか
Web担当者にとっても無関心でいられないであろう「AI(人工知能)」。
テスラモーターズやSpaceXの創業者であり、Web業界的にはPayPal社の発起人であるイーロン・マスク氏は、マサチューセッツ工科大学のイベントで「AIは悪魔を呼び出すようなもの」と語ります。
物理学者のスティーブン・ホーキング博士は、2年前から警戒を呼びかけ、今年はトークショー「ラリー・キングNOW」で、AIの発展が人類を脅かすとして安全装置の開発を呼びかけました。また、AIの軍事利用に警鐘を鳴らします。
AI脅威論を目にすることも増えました。週刊新潮(2016年8月25日号)は、人工知能の専門学者を集めた座談会、「天才以外はみんな失業する20年後の未来予想」で不安を煽ります。
AIは人間社会を脅かすのかはともかく、Web担当者の仕事を奪うのか否か。AIブームの昨今、話のタネになるトリビアとともにお届けします。
失われる仕事はコレだ!
週刊新潮の座談会では、未来に失われる職業として「士業」が挙がります。医者、弁護士、教師などであり、「膨大な知識を覚えておいて適宜対応するとか、人間の脳が苦手なことを頑張ってやる見返りに、高い給料を得ていたわけですが、逆にそれはコンピュータの得意分野(理化学研究所 高橋恒一氏)」と指摘します。
実際、医療分野でのAI活用は進んでおり、米IBMのAI「ワトソン」が、ある白血病患者が特殊なタイプであることを10分で診断したと8月5日の産経新聞が伝えています。
さらに、税理士に会計士、社内では経理部門の一般職員の削減は避けられないことでしょう。それは算盤から電卓、パソコンからクラウド会計へと向かう流れからの必然です。ただし、全滅することはありません。AIを指示する側にまわった税理士や経理の責任者は生き残るからです。ここがポイント。
AIの神髄とは
AI脅威論に真っ向から反論するのが、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター 所長の古田貴之博士。月刊「Hanada(2016年10月号『ロボット技術で未来は明るい』)」にて、AIを「パラメータによる決定」と総括します。
突きつめて言えば、スイッチを入れたらシンバルを叩く「猿のおもちゃ」と同じ条件反射にすぎず、その条件(パラメータ次第)であり、自発的に動く人間にはなれないというのです。
また、AIブームは今回が3回目で、火付け役となった人間の学習メカニズムに近いとされる「ディープラーニング」にしても、90年代の第2期ブームのニューラルネットワークの延長に過ぎず、コンピュータの処理能力の増大により実現できたことに過ぎないと喝破します。
私もこの見解に賛同します。そして「脅威論」もまた、古田説を補強します。
戦争の道具にするのは人間
軍事評論家の古是三春氏が「月刊正論(2016年10月号)」に寄稿した「世界はすでにAI戦争の時代」では、背筋が凍る「AI搭載兵器」が紹介されています。兵器に搭載されるAIに「善悪」はなく、「命令」という「パラメータ」により作動するという点で、先の古田説を補強します。
結局のところは、AI兵器を開発し、その命令(パラメータ)を与える人間が一番怖いというのが「脅威論」の正体。マイクロソフトのチャットロボット「Tay」が、不適切な発言をしたのも、それを教え込んだ人、すなわちパラメータを与えた人間の仕業です。
Web担はどうなるか
AIが発展、普及したときWeb担当者はどうなるか。まず、実務レベルの負担が軽減することは間違いありません。安易な礼賛論ではなく、すでにAIの恩恵をうけていることからの必然です。日本語入力における予測変換や、アマゾンのレコメンド、検索エンジンにも組み込まれています。これからも作業を軽減するAIが組み込まれ続けていくことでしょう。
自在にWebサイトを作るAIが登場するかもしれません。そのとき、パラメータを与えるのはWeb担当者の仕事となるのは歴史から導かれる必然です。ブログが登場したとき、専門知識がなくても情報発信できると喧伝されました。Facebookでも同じですし、オーサリングソフト「ホームページビルダー」の普及期にも言われていました。
実際には見栄えを良くする工夫や、お客を呼び込む内容を書くのに一定の技術や経験が必要です。Webサイトを自動作成するAIが開発されたなら、そのAIに目的や方向性といったパラメータを与えることがWeb担当者の仕事となります。
AIブームの終焉
さらに、人と接する仕事の重要性がより高まることはAIの専門家も認めるところ。上司やクライアントの微妙なニュアンスを形にするWeb担当者の重要度は増し、自社に最適なAIを精査し、導入するのもまたWeb担当者の仕事となることでしょう。つまり、Web担当者の職務内容は変化しても、その職種はなくなりません。
最後に雑談のネタとして使える残念な予言もしておきます。新しい技術の活用にもっとも積極的なのは「悪(ワル)」です。サイト改竄、フィッシング詐欺、スパムメールにアカウントの乗っ取り。これへのAIの「活用」です。SNSやチャットを舞台とした「サイバー結婚詐欺」なども想定の範囲内。
AIは物理空間における限界を抱えていますが、サイバー空間においてAIは無敵です。悪のパラメータを与えられたAIは、良心の呵責なく、文字通り機械的に犯行を重ねます。繰り返しになりますが、やっぱり一番怖いのは人間ということです。
今回のポイント
AIはこれからの技術ではなく、すでになくてはならない存在
条件(パラメータ)を与える職種は不滅
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