Web物理法則 完全解説 ― 2015年度新人Web担向けファイナル
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
企業ホームページ運営の心得が電子書籍になりました。8年以上続く連載から「営業・マーケティング編」と「コンテンツ制作・ツール編」に分けて25編ずつ収録。昔も今も「現場」でWeb制作を続けている宮脇さんが、変化しているようでしてない、Web業界を生き抜くためのノウハウを詰め込んでいます。
心得其の405
Web世界の物理法則
Web担当者を続けていると「これからは○○だ」という予言を何度も目にすることでしょう。その大半は希望的観測か、自らの立場を有利にするための「ポジショントーク」と呼ばれるものです。新人心得として紹介したように、Web業界の本当の変化はそれほど頻繁に起こるものではなく、予言には眉に唾を塗って接するのが正解です。
喧伝されるほどの変化が起こらないのは、熟したリンゴが地面にぽとりと落ちるような、揺るぎない物理法則が存在することの証明でもあり、その1つが、
情報は引力
ということ。ベテランWeb担当者なら直感的に知っていることを完全解説。以前に予告した通り、「2015年度新人Web担向けファイナル」です。
ヤフーに列なした時代
物理法則とまで断言するのは、「Webの特性」「日本社会の現実」「マーケティング」の視点から説明できるからです。
宇宙空間において「引力」は質量に比例し、大きいほどその力は強まります。Web空間で質量に当たるのが「情報」で、情報が多ければ多いほど、ユーザーを引き寄せるだけでなく、他の情報も引き寄せるようになります。
20世紀の終わり、ヤフーはポータルサイト(玄関サイト)として、芸能ニュースから株価情報まで提供したことで圧倒的人気を集めました。その人気から、当時のWeb担当者はヤフーへの「ディレクトリ登録」を実現するために、わざわざ情報を持ちより行列をつくったものです。いま「グーグル」にクロール申請するのと同じです。
Webの特性とは「Winner-take-all(勝者総取り)」であって、勝利の側に立つことができれば、人も情報も集中します。
トップページへのリソース
Webサイトを「作る側」に立つと、日本では「トップページ」と呼ばれる「ホームページ」を中心に考えてしまいがちです(以下、日本の現状から「トップページ」で統一)。
多くの作り手にとっては、トップページがWebサイトの入口です。コンセプトの軸にもなり、全体の構成を図表にした「樹形図」の起点となるので当然ですが、必ずしもユーザーにとってトップページは重要ではなく、Webの物理法則から見れば、過剰にリソースを割く場所ではありません。極論すれば一編の金言よりも、1万本の雑談の方が強い「引力」を生み出すからです。
紙の書籍を例に取れば、面積やページ数には限界があり、必然的に掲載する内容も絞られ、雑談よりも金言が重視されます。対してWeb空間は理論上、無限に近い領域を持つことができ、絞り込む必要がありません。雑談と金言を並べて掲載することもできます。
どこでもドアの誕生
かつてのヤフーは、人手によってWebサイトをカテゴリごとに分類する「ディレクトリ(階層)登録」のポータルサイトでした。グーグル登場以前の「検索」は、ヤフーの祖業にあたる「リンク集」や、ディレクトリ型の検索エンジンの影響下にあり、ユーザーは「トップページ」からの訪問を余儀なくされていました。
しかし、グーグルの「検索」はコンテンツ(Webページ)単位で評価し、ユーザーは探し求めるサイト内のコンテンツに直接たどり着けるようになりました。そしてコンテンツは「どこでもドア」となったのです。グーグルの登場により、1万本の雑談が強い時代の幕があがります。
ヤフーが覇権を握っていた時代も情報は引力を持っていましたが、人手による分類のため、力の強さは人間によってコントロールされていました。グーグルは人力を極力排除することで、情報がもつ引力の解放に成功します。そして、一編の金言より1万本の雑談が力を持ったのです。近い将来「Web史」というカリキュラムが生まれれば、間違いなくテストにでるところです。
人間の真実とは
さらに、人間社会の真実が「情報=引力」という物理法則を裏打ちします。
思想信条と表現の自由が認められている我が国では、他人を傷つけない限り発言は許されます。十人十色という言葉があるように、人の好みはそれぞれで、どんな雑談にもシンパシーを感じる人が一定数は存在します。
そして小さな島国ながらも1億人を超える人口がひしめき合い、仮に支持率が1%弱もあれば理論上の実数は100万人を数えることから、どんな「トンチキ(珍妙)」な発言であっても、ある程度の「厚み」がある支持を期待できるのです。
また、日本のWeb社会に顕著な匿名の気楽さが、首をひねるようなタワゴトにまで無責任な「いいね!」を与えます。やはりこちらにも「厚み」が期待され、それを見て一定の意味、評価があると錯覚する人が生まれるのです。
引力は物理法則で、引力そのものには正邪も真贋もありません。だから雑談どころか、誤報でも虚報でも同じ効力を発揮することが「炎上商法」が成立する背景です。
ロングテールの実相
最後の「マーケティング」視点では、「ロングテール」が法則を裏付けます。ロングテールとは、一部の人気商品が売上の大半を稼ぐ「パレートの法則」に対して、わずかな需要しかないアイテムでも、巨大な恐竜の尻尾のような長さを誇るほどの「商品群」があれば対抗できるというマーケティング理論です。
リアルビジネスにおいては、「アマゾン」や「グーグル」といった一部の企業しか適用できない特殊な方法論とする意見が多数を占めますが、Webにおける集客方法として健在なのは「情報は引力」という物理法則があるからです。
1万本の雑談それぞれに1日1人の訪問しかなくても、総数では毎日1万アクセス以上、年間では365万アクセスを記録します。つまり立派な引力となるのです。ロングテールを最適な日本語に訳するなら、「塵も積もれば山となる」です。
いつのころからか使われているWeb格言に、「ブログは100円貯金」があります。ブログを書いたからといってすぐに効果は期待できませんが、続けることで実力や影響力を得ることができるという意味です。それはWebの物理法則「情報は引力」に適い、「けもの道」をすすめた理由でもあります。
今回のポイント
「どこでもドア」を意識する
微力も集まれば大きな力
- 電子書籍『マンガでわかる! 「Web担当者」の基本 Web担当者・三ノ宮純二』
- 企業ホームページ運営の心得の電子書籍
「営業・マーケティング編」「コンテンツ制作・ツール編」発売中! - 『完全! ネット選挙マニュアル』
現場の心得コラムの宮脇氏が執筆した電子書籍がキンドルで2013年6月12日発売! - 『食べログ化する政治』ネット選挙が盛り上がらなかった理由はここにある(2013年8月1日発売)
コメント
マーケティング用語を勘違いされてます?
今回の変な点
具体的にその①です。
1項目のニュースにつき、1アクセス/日 では、年365アクセスです。 1万件のニュースが集まって初めて365万アクセスです。これはグーグル・ヤフー型の巨大入り口を持っている場合のことで、筆者が言う特殊な一部が出来うることです。ですので、筆者の文脈では、誰に向かってこの内容を発信されているのか不明確ですね。巨大サイト(サーバーが用意出来る人)を立ち上げようとしておられる方向けですか? 小規模経営者で、1万件ものニュースを更新し続けるというのは事実上不可能です。まとめサイト運営を推奨されておられるのでしょうか?そして、その個別ニュース全てに自社商品宣伝バナーを貼れと(笑
その②です。
マーケティングで言うロングテール商材とは、初期投資を回収した後で、宣伝などもあまりせずに定期購買行為を行ってくれる顧客集団の存在がある商品のことを言います。つまり投資回収から利益商材に変化した状態のことを言います。そしてその顧客集団とは、その商品を販売する運営維持費用を上回る支出を行ってくれる人達が絶対条件ですので、集団化させるためにいかに情報を早く広げるか、または影響力のある人や組織に宣伝をしていただくことが重要となります。継続するのも大事ですが、誰かが気がついてくれるまで、または、拾ってくれるまで我慢することと説くのはマーケティングとしては失格の部類ですね。それを推奨させると、大半の店または企業はロングテールをもたないまま消えることになります。もしかして、元々の原資が裕福な方々(ロングテール状態になるまでずっと待てるか、投資回収を行わなくとも良いと考えている方々。つまりはお金持ち向け?)へのマーケテイング提案だったのでしょうか?
主張されている前半は、巨大な入り口を持つ話だったのが、後半はそれを適応出来そうもない方々へ、巨大入り口を持てると錯覚させようとする変な話になってますね。
ニュースの再現性について。
ニュースは人の記憶に関する項目です。正確に再現など出来ませんね。よってこれを物理法則に例えて、可能とするのはそもそもが間違ってます。
もう一つありました。
先の貴殿のブログにて、ソーシャルメデイアは微力とか書かれている内容と、今回の内容では矛盾をきたしております。ニュースが引力とするのなら、そのニュースが価値を持つのは広がること(ダンバー数の増加)を意味しております。密かなニュースでは、価値は薄れてしまいます。貴殿は今回、1万件のニュースを引力と例え、大きくなればその効果はより多くなると説いてます。しかしながら、貴殿が微力と否定した案件の推測ダンバー数は300万オーバーです。1万件の300倍以上を微力としておきながら、1万件では効果がある(微力ではない)と論じています。あきらかな矛盾ですね。